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青春と都市伝説  作者: 池田 ヒロ
◇秋の事変
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58話 賭け、再び

 ガチギレモード状態の大地から逃げきった空は今の自分の状況に気付いた。彼は今独りである。カンナや洋子たちと合流をしたいのだが――。


「センパイ、一緒にいるよな?」


 もうそうとしか考えられない。だが、独りでいるのは危険である。ここが紅花高校ではないにしろ、可能性はあるのだ。怖いと思っていても、妥協しないと。自分の命が惜しいのならば。空は渋々ながらもカンナに電話をかけた。


《もっしもーし》


 すぐに出てくれた。


「あっ、カンナ? オレだケド……」


《うん、秋島センパイと代わろーか?》


「ヤメて。マジで怖いから。じゃなくて、今ドコ? そっちに行きたくないケド、行くから」


《えっとね、パンフ持ってたっけ? だったら、空がいる向かいの校舎のほーに来ればいーよ》


 その言葉に向かい側の校舎の方を見ていると、窓からカンナたちの姿が見えた。どうも同じ階層にはいるようである。空は「わかった」といい、そちらの方へと足を動かそうとするが――。


「…………」


 妙な気配を感じた。後ろからか、と振り返っても誰もいない。この感じは顔のない人物の物ではないのは確かである。どこかで感じた覚えのある物。思い出そうにも思い出せなかった。


「早く合流しよ」


 それが一番だとして空は急ぎ足で三人のもとへと行くと――。


 どうやらお取込み中。大地と呉羽が。すでに血糊を取った大地に至っては呉羽に対して火花を散らしているようだし、洋子はあまりいい顔をしていない様子。何があったのか、とこちらもまた怪訝そうな面持ちのカンナに「どうしたの」と訊いた。


「もしかしてじゃなくても、一悶着?」


「そ。今がしたこのセンパイが来て、冬野センパイをくれだなんてゆーもん。秋島センパイがカレシだとわかっててね」


「祭りの続きってワケじゃ……ねーよな?」


 まさか、とは思いながらも空がそう呟くと、この声に気付いたのか呉羽が「ご名答」と言ってくる。


「この前のは冬野お嬢サマが商品全部を取ったからな。それだから、秋島。下の模擬店でフライドポテトを売っているクラスがある。それを奢ってやるから――」


「だからって冬野は賭けねぇぞっ!!」


 是が非でも渡すものか、と大地は洋子の前に出る。だが、呉羽は意地が悪いのか「別に問題ないだろ」と鼻で笑う。


「だって、二人ともコイビト同士なのに、猿渡さんみたいにして下の名前で呼んでないじゃん」


「…………」


 呉羽の発言に反論できないのか、大地は歯噛みをしている。確かに、二人は付き合うようにはなったが、まだまだ恥ずかしいのか、それともくせとなっているのか――互いを下の名前で呼んでいないのだ。


「いーだろ、賭けても。所詮はそれほどの仲だってコト」


 言いくるめてしまって――何も反発ができない大地は眉間に深いしわを刻みながら「構わねぇよ」と睨みつけた。


「その代わり、オレが勝ったら二度と口を利くな、オレらに近付くな」


「オー、怖っ。でも、いーねぇ。面白い」


 どこが面白いのかさっぱりだ、とでも言うようにして空たちも大地同様に睨みを利かせていると、呉羽が履いていた校内用のスリッパと靴下を脱いで裸足になった。


「じゃあ、だったら勝負方法は普段の秋島がやっているスリッパオニでもしよーぜ。チーム戦でな!」


「チーム戦だ? 別にオレ独りでもいーケド?」


 そもそも、このようなところでやっていると、騒ぎを聞きつけてきた教師に怒られるからしたくない気持ちが大きい。それに、チーム戦となると更に騒ぎは大きくなってくる。だから、誰もいないようなところで、二人だけで戦おうとしていたのだが――。


「そんなのツマラナイ。ココは八姫農業高校ヤノー生と一般客が二人で一緒にやる裏参加体験でいこうじゃないか」


 呉羽はこれ以上に驚きを隠せないような発言をしてきた。パンフレットに参加体験のものはあっても、こんな学校行事でやらないような、小学生お遊びをこの学校の文化祭で今やろうとしているのだ。しかも、一般客を巻き込んでまで。


「オマエ、アタマがイカレたか?」


「イカレてんのはスリッパオニだのと、くだらないアソビを考案している秋島の方だろ」


 どこがだ、と四人は思う。くだらないお遊びを考える頭がイカレているならば、とっくの昔に世の中すべてがイカレてように。いや、待てよ。自分たちがオカシイならば、呉羽がイカレた考えを持つのも当然であるのか。


「腹立つな」


「世の中にか?」


「規模がデケーだろ。ンなコト考えてるヒマがあるなら、今度のデートの場所を考えるさ」


 なんて格好をつける大地。こればかりは、と空とカンナは眉根を寄せていた。これはない。うん、ない。彼らの視線がそれを物語っている。


 ややあって、とうとうカンナが「ナイわー」と口に出してくる。


「それはナイ。うん、ナイですよ。秋島センパイ、自分のコトわかってます? そーんなギザなセリフ言ったとこでカッコつくと思ったら大間違いですよ」


「うっせーなっ!? オメーはどっちの味方だよ!?」


「センパイが余計なコト言わなければ、味方ではあったんですがね」


 なんだよ、と大地は後ろ頭を掻き、空の方を見る。その視線に気付いた彼はまさか、と少しだけ目を見開いた。


「え、えっと……?」


「とりあえず、夏斐だ」


 間違いない。大地は――。


「おー、夏斐。オマエ、スリッパオニやれ」

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