57話 今なら言える世界一怖いお化け屋敷
カンナと洋子は美味しそうにして焼き鳥を頬張っていた。そんな彼女たちを見るのは空であり、苦笑いをしている。
「これ、意外に美味しいですね」
「祭りは祭りでオツなモノです。ねっ、空」
「や、二人ともどんだけ食べんの?」
二人が食べたであろう串の本数を見た。相当な本数であることは間違いない。模擬店で焼き鳥をしている八姫農業高校の生徒は怪訝そうな目でこちらを見ていた。
そう、三人は大地が通う八姫農業高校の文化祭にやって来ているのだ。それで、現在は外にで屋台を構えているところにいる。いい加減、中に入って彼と合流したいところなのだが。
「あの、そろそろ行きません? お店メチャクチャ怒りますよ」
夏祭りなどで稼ぐような営業はしない。というか、出来ない。ここはただの高校だからだ。故にもうすぐすれば、在庫は尽きるだろう。それほどまでにカンナたちはバクバクと焼き鳥を頬張っているのである。
「えぇ」
ここは早めに撤収した方がいい。そう判断をした空は強引に二人を引っ張るような形で校舎内へと入った。中へと入り、まずは大地に連絡を入れようとしたところで彼の友人である誠一と浩介が「よっ」と声をかけてくる。
「遊びに来たんだ。大地だったら今の時間帯はオバケヤシキでオバケ役してるよ」
「秋島さんのお化け姿ですか」
突如として少しばかり悩ましそうな顔を見せる洋子だったが、すぐに穏やかな表情を見せた。何を考えているのか。
「ふふっ、秋島さんって恥ずかしがって『恨めしやー』とでも言っていそうですよね」
そのようなことを考えていたらしい。洋子が着ている服には先日大地からもらったバースデープレゼントの犬のブローチが光っていた。
「なんか、わかるカモです」
カンナもまた大地がお化け役の姿を想像して小さく笑っていた。だが、そうは思わないのが空。いや、彼だけではない。誠一と浩介合わせて三人が互いに顔を見合わせる。彼らの視線の言葉を言わせると――。
意外にハマっている役かもしれないということ。
「実際、どーなんですか?」
気になる空は二人に訪ねてみた。その質問に浩介はあごに手を当てて「うーん」と片眉を上げる。
「なんとも言えないケド、一度ぐらいは迫真の演技をしてきそーだ」
「あー、わかる。夏斐たちだ、怖がらせよう。からのガチ驚かせっ的な?」
「スゴくわかりやすいっス。流石は秋島センパイをよく知っていらっしゃる」
大地の行動を把握するかのごとく、淡々と答え上げた二人の予想に思わず拍手を送ってしまいそうなほどだった。だが、彼らもよくはわからないらしい。結果としては憶測にしか過ぎないらしい。
「試しに二階の南校舎に行ってみたら? 三年一組がオレらのクラスだし」
「わかりました。ありがとございます」
空たちはお礼を言うと、早速お化け屋敷をやっているであろう二階の南校舎の方へと足を向けた。そちらの方へとやって来ると、いの一番に彼らを待ち受けるのは赤い文字ででかでかと書かれた『オバケヤシキ』である。なるほど、あえてカタカナで書くことで恐怖心を増させるのか。
しかも筆記用具が筆を使用しておらず、人の手で書かれていることも手作りお化け屋敷ならではの醍醐味だろう。
「狙ってやった感は満載カナ」
そう言うカンナに洋子は「でも」と言葉を続ける。
「秋島さん、前に遊園地のお化け屋敷より怖いお化け屋敷を作ってやると仰っていましたよ。なので、きっと期待できるのではないでしょうか」
さあ、早速中へ入りましょうと洋子が促すが、空は――。
「待って」
なんて二人に眉根を寄せた顔を見せた。
「どーしたの? 空ってオバケ屋敷ヘーキでしょ?」
「ヘーキも何も二人って、オバケ屋敷はニガテでしょ?」
そこは忘れたとは言わせない。地味に首が絞まるような思いはもうしたくない。空が愁眉を見せていると、カンナたちは「ならば」と彼の両腕に腕を絡ませてきた。
「コレならいーよね」
「ゴメン、コレならの『コレ』って何?」
「見てわかんない?」
いや、それはわかる。正直な話、空はこれはこれで嬉しいのだ。まさに両手に花状態。だとしても――。
「あの、冬野センパイ。この姿だと、オレが秋島センパイに殺されます」
百歩譲って以前にカンナとお化け屋敷に入ったとき、首を絞められるほど服を引っ張られたような状況であるならば、まだいい。しかし、大地と洋子は先日で恋人同士になったのだ。こんな状態を彼が見たら卒倒どころか、空を抹殺にかかってくるだろう。それが見えるからこそ、離れて欲しいのだ。
「でも、お化け屋敷は苦手ですけど、秋島さんが作ったお化け屋敷を見たいんです」
――だったら、センパイが休憩中に一緒に入ればいーじゃないか。
渋る空であったが、二人に急かされて仕方なしに中へと入る。真っ暗闇に複数の人の気配。脅かし役の人たちだろうか。事実、そのとおりであり――三人 (特にカンナと洋子)は脅かされる度に彼の腕を強く握りしめていた。
普通であるならば、女の子に助けを求められている、ウレシーで済む話。だが、カンナたちの場合は違う。最初から握りしめられているため、脅かされる度にこれ以上の力を加えてくるのだ。羨ましいと思った男子諸君、現実はこんな物じゃない。意外と痛いのだ。服の上からでも爪が僅かながら食い込んでくるから。キャー、怖い助けて。ははっ、守ってあげるよ。なんてのはまさしく理想。諦めろ。どうしても体験をしたいと言うならば、自分の彼女にしてもらうように。
なんとか痛いのを堪えて空たちは最後の仕掛けへとやって来た。そこへとやって来るとぼんやりとした光に照らされた血糊塗れの男子生徒が姿を現す。これに少しは驚く三人。この人物が誰であるのかは見えていた。大地だから。
大地だと知り、洋子が声をかけようとするが――。
「なつかぁあああああいぃいいいい!!」
予想的中。空に形相の睨みを利かせてくる。どの脅かし役のお化けよりもずっと怖い怒声。思わずこの場で涙目になって逃げ出したくなるほど。今ならば言える世界一怖いお化け屋敷である。
「ち、違うんですっ! あのっ――」
大地に必死の弁解を試みようとするも、聞く耳を持たない。
「テメェッ! 何、人のカノジョを盗ろうとしてんだぁ!?」
「と、盗るだなんてっ! するワケないじゃないですか!」
ここでの怒号は勘弁して欲しい。薄暗い光で見える大地の顔は般若がごときであり、血糊で塗られているのだ。ある意味本気で怖い。
「するワケない!? するワケないだって!? じゃあ、テメーの左腕にあるのはなんだってんだ!?」
「え、え、えっと、そ、その……」
「右腕は三春! じゃあ、左腕は!? そうっ! オレのカノジョだろーが!!」
是が非でも懲らしめてやると言わんばかりに空へと掴みかかろうとするが、彼だってそんなのお断りだ。逃げるに決まっている。
「待ちやがれ!!」
西校舎内を疾走する二人。そんな彼らの姿を偶然見た誠一と浩介は呆れ返っていた。
「なーにやってんだか」
「アレ、くろちゃんとかハゲに見つかったら秋島メッチャ怒られるんだろうな」




