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青春と都市伝説  作者: 池田 ヒロ
◇秋の事変
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56話 今が好き

「冬野センパイお誕生日おめでとーございますっ!」


 今日は洋子の誕生日であり、彼女が招待した友人たちと共に空やカンナ、大地も来ていた。ほとんどここにいる人物は彼らにとって知らない人物ではあるが、変な目で見られるようなことはない。洋子の友達として招待された。そういう認識のようである。


「ありがとうございます」


「おめでとう」と言われたことが嬉しいのか、洋子は頬を緩めた様子で返事をした。


「コレ、オレたちからです」


「わあ、開けてもいいですか?」


「どーぞ」


 わくわくとした様子で洋子がラッピングされた袋を開けると、空が差し出した物にはタオルケーキが。カンナが渡した物は可愛らしいマグカップだった。


「可愛いですね、お二人方ありがとうございます」


「いえいえ。でも、わたしらだけでオワリじゃないですよ。ねっ」


 そう言ってカンナはこの場から逃げ出したそうにしている大地の腕を引っ張ってきた。空は「ほら」と急かしている様子。彼がそこに来た途端に洋子は顔を真っ赤にした。いや、大地も同様である。


「あっと、私の誕生日パーティーに来ていただいて、ありがとうございます」


「や……。冬野こそオレらを招待してくれてありがとな」


 それと、と大地は空たちと共に雑貨店で買ったプレゼントを渡した。それを受け取ると――「開けてもいいですか?」そう訊いてくる。その言葉に「おう」と答えた。


「気に入ってくれるかわかんねーケド」


 がさがさと音を立てて開けて姿を見せたのはバースデーベア。そして、それと共に入っていたのは可愛らしい犬のブローチである。


「わあっ……」


 洋子のその緩んだ表情の反応を見て、空とカンナはハイタッチをした。なかなかの好感触のようだ。


「いーねぇ」


「だな。あとは観覧車での続きか?」


 さあ、洋子は大地に対してどう言うのか。


「えっと、あの、秋島さん。とても嬉しいです。ありがとうございます」


 そう言う洋子は柔らかい笑みを浮かべた。にこにこと嬉しそうである。そんな顔を見て、大地は口元を手で押さえて恥ずかしそうである。


「ふ、冬野が気に入ったなら、よかったよ」


 一度、周りを見た。ここにいるほとんどが椛花学園の女子生徒である。知り合いと言うならば、空とカンナぐらい。二人は自分と洋子の間柄を知っているから――。


「……冬野」


 大地は洋子に声をかける。それに彼女は顔を上げてこちらを見た。彼は耳まで真っ赤にして、まさに茹でタコのようだ。


「は、はい」


「この前の遊園地でのコトだケド……」


 これはまさか、と空とカンナは顔を見合わせる。周りも少しばかりざわついている。彼らの周りはとても羨ましいと思うほどの甘酸っぱさが漂っていた。


「結局、フワフワとしてでしかなかったから……もう一度、言わせてくれないか?」


 洋子は小さく頷いた。


「オレも冬野のコトが好きだ。オレと付き合ってくれないか?」


 空たちを含め、招待された洋子の友人たちは歓声を上げていた。どこか羨ましそうな声も聞こえているが、「おめでとう」と言う声も聞こえていた。素直に彼女の祝福を祝っているらしい。


 肝心の洋子はというと、もう一度の確信的な答えが聞けたことが嬉しかったらしい。その場で泣き出してしまった。思わずプレゼントを抱えたまま大地に抱き着く。


「いっ!? ふ、ゆの……!?」


「嬉しいですっ! 私、これ以上までにない嬉しさです!」


 目に涙を浮かべて洋子は満面の笑みを見せてくれた。その笑顔を見れたことが幸福だと思っているのか、このまま大地は彼女の背中に手を回して抱き返す。


「オレのほーが嬉しいさ」


 高鳴る鼓動。今は別に誰に出さえ聞かれてもよかった。


 晴れてこのときから恋人同士となった二人を見て、空は羨ましいと思った。ちらり、と隣にいたカンナを見た。彼女もどこか羨ましそうに見ているようである。ああ、どうせならば、この場所を借りて告白をしたい。その思いとは裏腹にできそうになかった。大地がすごいと思う。周りに人がいるとしても、告白をするなんて。


 その同等の発言力が欲しい。いつになったならば、カンナに自分の思いを伝えることができるだろうか。


 自意識過剰かもしれないが、カンナはおそらく自分のことが好きなのは知っている。でなければ、こうして隣にいてくれないだろうから。だが、その憶測がただの思い過ごしだったならば、となると――怖くて確認ができなかった。


 傷付くのが怖いと思っているらしい。ああ、自分に勇気があれば。


「空」


 ぼんやりと考え事をしていた空の目の前にカンナが顔を覗かせるようにして見てきた。その唐突さにびっくりして肩を強張らせてしまう。


「あっ、な、何?」


「や、しけた顔してるから。この場に似合わない顔しちゃって、どーしちゃった?」


「ううん、何でもない。気にしないで」


 正直言うと、今はこの状況が好きだと言える。崩れなさそうな日常だから。これ以上壊れて欲しくないから。


「夏斐さん、三春さん。ケーキを食べましょ!」


 洋子に声をかけられて、カンナは自分の手を取って「はーい」と彼らの方へと行く。


 そう、カンナのことが好きだからこそ、この幼馴染という間柄を壊したくない。だから、今を楽しもう。


「行こーよ」


「うん」

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