55話 勇気を出そう!
各自洋子の誕生日プレゼントを購入した三人は満足していた。そして、空はこういう店で買うのもいいものだな、とカンナの方を一瞥する。まだ彼女の誕生日は来ていない。今回のを参考にして買おうと決めていたが――。
「あっ、そー言えば」
なんてカンナが大地の方を見た。
「センパイ、さっきのセンセーに『また何をしているんだ』って言われてませんでしたっけ?」
「オマエ、あんな状況でも覚えてるワケ?」
そういうことができる人物なの、と空に言いたげである。だが、それは事実であるため、大きく頷いた。
「やり過ごしたと思っても、忘れた頃に突いてきますから。誤魔化そうとしてもムダです」
「よくコイツの幼馴染を続けられるよな」
「そーゆーセンパイこそ、児玉センパイがいるじゃないですか。他人の幸せを許そうとしない」
お互い様ということで、カンナから逃げられない大地は仕方なしに今日の出来事について話さざるを得なくなってしまう。
「くろちゃんに今日怒られた回数は三回でハゲは一回」
「ハゲって、教頭センセーでしたっけ?」
「そーそー。ただ、スリッパオニをしてただけなのに」
なんだ、そのスリッパオニとやらは。聞いたことのない遊びである。空は片眉を上げながら「何ですか、ソレ」と訊く。
「どんな遊びスか?」
「普通のオニごっこにルールを追加しただけだ。ほら、ガッコーのスリッパあるだろ? あれでオニも逃げる人も持つんだ」
「便所スリッパですか?」
「誰がそんな汚ねーモンで遊ぶかよ。校内で履く指定のヤツだよ」
カンナめ、わかっていながら訊いたな、と空は小さく鼻でため息をつく。大地は説明を続けた。
「アレでさ、オニがタッチするときにスリッパで叩くんだ。それで、オニ交替。でも、逃げる人はそれを阻止するのに自分のスリッパでオニを叩く。叩かれたオニは五秒だけ止まっとかなきゃならん。そーゆー遊びだ」
そんな遊びをしていて教頭に怒られてしまった、と言う大地に二人はただ呆れるしかない。高校生がこんな遊びをしているのか。楽しそうで、ちょっとばからしいと思う反面――。
「小学生みたい」
カンナの言葉に珍しく同意をする空。まさかの彼の同意ありに大地は少しだけ寂しそうにしていた。いつもならば、小声で咎めたりとかしているのに。
「そんで、くろちゃんセンセにはなんて怒られたんですか?」
「えっとな、クラスでの文化祭の話し合いに参加していなかったら怒られた」
「えぇ……」
「ンで、ウチのクラスはオバケヤシキにしたんだよ。よかったら、二人とも来いよ。サイコーにサイキョーのオバケヤシキだからな」
もう、二人の呆れには慣れたのか、大地はへこたれず、そう言いのける。ある意味精神が強い人物だな、とは思っていると――「そんで」そう、話を変えてきた。
「二人の情報で冬野の誕生日がわかったケド。コレ、オレが渡すの?」
「そっスよ」
カンナの答えに大地はまた顔を真っ赤にした。どうやらとても恥ずかしいらしい。二日前の遊園地の出来事を思い出すだけでもここから逃げ去りたい気持ちになるのに。なんたる極悪非道 (ではない)。
「な、夏斐……」
自分で買った誕生日プレゼントを空に渡そうとするが、それを彼は断固として拒否する。
「それはセンパイが直接渡さないと」
「渡さないとって……おまっ!? 今のオレと冬野は気まずいんだぞ!?」
「いーじゃないスか。ソレ、渡せば気まずさはなくなりますって」
「そーですよ。冬野センパイのコト、好きなんでしょ?」
にやり、と意地悪な笑みを浮かべてくるカンナに大地は歯噛みをする。いや、彼女が言っていることは正論ではある。だとしても、もうちょっと、こう――。
「大丈夫ですって、冬野センパイ絶対喜ばれますよ」
空のフォローに根負けしてしまったのか、大地は盛大にため息をつきながら帰路に着くのだった。
◆
その日の夜、大地のスマートフォンに一件のメッセージが入った。相手は三ヵ月ほど前に別れた美奈からである。彼女とはもうあまりぎくしゃくとした関係ではなくなった。普通に校内で会ったときは話したりもしている。そんな彼女が何だろうか、と画面を見た。
『大地君って意外と奥手だったんだね。
でも大丈夫だよ。冬野さんは喜んでくれるからガンバって。』
空かカンナが回してくれたのか。そうだとしても、誰かに勇気づけられるのは悪いことではない。とても嬉しいと思えた。
画面を見てにやにやと頬を綻ばせていると、自身の姉から「キモチワルイ」と怪訝そうな目で見られてしまった。そして、そこから発展する姉弟げんか。いつものことだな、と秋島家の者たちは傍観しながら放置していた。
結果的に大地の姉がスリーパーホールドによる絞め技で負けてしまったのだが。
スリーパーホールド・・・相手の頸動脈を絞める裸絞めのことである。また、気管の方を絞める技をチョークと言う。
多くのプロレス団体において「チョーク=気管を圧迫する行為は反則 (ただし、反則カウントが5カウント入るまでに技を解けば反則負けにはならない)」とされており、反則裁定なしなどの特別ルールでない限り決め技となることは少ない。スリーパーホールドは脳への血流を止め相手の意識を奪うことを目的とした技であり反則にはならず、バリエーションも含め多くのプロレスラーによって使用されている。




