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青春と都市伝説  作者: 池田 ヒロ
◇秋の事変
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51話 後悔をしたくない

 空たちと合流して、次はどこへ行こうかという話になった。行くならば、絶叫系でもなければ、ホラー系でもない軽いアトラクションしかない。パンフレットを眺めていると、洋子はカンナの服の裾を引っ張った。どうやら、何か話があるらしい。彼女たちは彼らに適当にいて、と言うと洋子を連れて少し離れた場所へとやって来た。


「どーされました?」


 洋子の不安そうな表情はカンナでさえも不安になってしまいそうなほどである。彼女は申し訳なさそうにして「申し訳ありません」と小さく頭を下げた。


「こうして、三春さんや夏斐さんが私のためにしてくださっているのに……」


「いやいや。でも、ウマくイかないときだってありますよ。まだまだ時間はありますし、ガンバって秋島センパイのココロを射止めちゃいましょ」


「いえ、そうではなくて……」


 今、こうしてここにいることがつらい、と申し立てる。つまりは帰りたい。


「おそらくではありますけど……秋島さんは私のことを嫌いではないかって」


「そんなコトないですよ」


 それはカンナも承知である。本当に洋子のことが嫌いであるならば、こうして遊園地に遊びに行こうとは思わないだろうし――何より、彼は本気で彼女のことを心配しているのである。などと、説明をするが――。


 洋子は首を横に振って否定する。自分のことを好きだなんて思っていない。嫌っている、と。


「お二人にはこれ以上、迷惑をかけたくありません」


 だから、帰りたい。


 こればかりは強制的に言えやしない。カンナはわかりました、と少しだけ物惜しそうに頷くしかなかった。


     ◆


 カンナたちが戻ってくるまで、空と大地は次はどこへ行こうかとパンフレットを見ていた。


「意外にも遊園地って絶叫とホラー以外の物ってあんまりないよな? メリーゴーランドでも行くか?」


「近くにはコーヒーカップもありますよ」


「おおっ、いーじゃん。あの二人なら喜んで高速回転をしそうだよな」


 なんて頬を綻ばせながら、大地がそう言うと――急に怪訝そうな表情を見せた。それが少しだけ怖い、と空は思う。どうしたのだろうかと思っていたら「あのよ」と声をかけてくる。


「冬野ってさ――」


 洋子のことについて何かを言おうとしたとき、彼女たちは戻ってきた。そのせいで、何を言いたかったのか聞けず仕舞いになってしまう。大地は何を言いたかったのだろうか。


 気にはなるな、と大地の方を瞥見しつつ「お帰り」と二人に言う。彼女たちが話していた内容も地味に気になるのは嘘でもない。


 何だったんだろうか、と二人の方を見ていると――洋子が「すみません」と申し訳なさそうに頭を下げてきた。これに空も大地も顔を見合わせて少しばかり驚く。


「私の気分が優れなくて……」


「えっ、大丈夫なのか?」


「大丈夫ではありますが……今日のところは帰らせていただいてもよろしいでしょうか?」


 帰りたい、と申し立てる洋子に空はカンナの方を見た。彼女は首を横に振っている。眉根を寄せている、ということからして彼女が言いたいのは『限界』か。


 何となく察した空は大地の方を見た。彼はしばらくの間じっと洋子の方を見ていたが、「そーだな」と小さく鼻でため息をついた。


「こればかりは仕方ないしな」


 大地はすんなりとその要望に応えた。まだまだ遊び足りなさそうな面持ちではあるにしろ、洋子の体調の面が大事だと思っている様子。


「雪野さん呼んで帰るか」


 そうして、帰ることが決まった四人は次郎と合流するために出口付近へと移動をする。先を歩く大地たちの後ろを空とカンナは残念そうに歩いていた。


「なんか冬野センパイは秋島センパイに嫌われているって思ってるっぽい」


「あのヒト、別に嫌っちゃいないだろ?」


「本人がそう思っているみたいよ。植物園でなんかあったな?」


 もはや、それしか考えられない。大地の言動が洋子の心を傷付けてしまったか。だとしたならば、どのような言葉を? 思いつきそうで、なかなか思いつかないのが現状である。


――このまま、帰えらせてもいいものだろうか。


 気になる空はそっと、洋子に「いーんですか?」と訊ねる。まだ敷地内を出たわけではない。それを止める権利はいくらでもあるのだから。


「もういいんです」


 洋子は諦めるらしい。表情がやるせなさを感じ取れているのだ。自分のことではないのに、心にぽっかりと穴が空いた気がする。


 何かを言おうとするが、それはカンナに止められた。彼女も同じ気持ちだったらしい。だが、洋子の気持ちを組むならば、何もしないが得策。


「わたしだって、二人の仲を応援したいよ」


 ぼそり、とカンナが言った時だった。もうすぐで出口のゲートに足を踏み入れようとしていた大地が立ち止って洋子の方を振り向く。そんな彼の行動に思わず肩を強張らせた。


「冬野」


「は、はい」


「オマエは本当に帰りたいのか?」


 遠くから他の客の楽しそうな声が聞こえてくる。しばらくの静寂の後、洋子は小さく頷く。それを見て大地は「本当か?」とどこか怪訝そうではある。


「あとでまだ遊び足りなかったって後悔しても知らないぞ」


 その気持ちはどちらかと言うならば、大地なのではないだろうか、と空は思ってしまう。そう思っている彼をよそに洋子は無言で頷いた。帰っても問題はないらしい。


 この反応を見て、大地は「そうか」とどこか残念そうな声音で言うと、出口の方へと向き直った。彼の声を聞いて思わず洋子は顔を上げる。


 まだ物惜しい。その気持ちが空とカンナにも伝わったのか、二人はそっと背中を押した。洋子は大地の服の後ろを掴む。


――本音を言ってみて。


「あ、あのっ!」


 顔を真っ赤にする洋子。彼女の行動に気付いて再び振り向いた大地。


「観覧車……観覧車だけ。乗りたいです」


 洋子の本音を聞けたことが嬉しかったのか、大地は「うん」と優しく微笑んだ。


「じゃ、最後だけ乗りに行こっか」

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