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青春と都市伝説  作者: 池田 ヒロ
◇秋の事変
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48話 ジレンマ

 まだまだ暑いね、と手を団扇代わりにして仰ぐのはカンナである。そんな彼女を見て、空は「そーだな」と自販機の中で冷えたジュースを差し出した。彼らは下校途中である。


「もー秋になったら、すぐにひんやりとして欲しーのに」


「だからって、カンナは冬になれば朝起きるの遅いじゃん」


「寒いから仕方ないよね」


 仕方ないで済ませようとするカンナに苦笑いをしていると、視線の先に見慣れた二人を見つけた。自分たちから少し離れたところには大地と洋子だけでいるようである。


 じっと二人を見ていた空に気付いたカンナも少しは驚いた様子で見ていたが――。


「面白そーだし、着けよーよ」


「バレたら怒られそーなんだケド」


「大丈夫。空置いて逃げるから」


 なんてひどいことを言ってのける幼馴染。そればかりは絶対に逃すものか、として「道連れだ」とカンナの首根っこを掴んだ。


「ゼッテー逃がすもんか」


「あははっ、目が怖い」


 置いて逃げないよ、と苦笑いしながらも二人は早速物陰に隠れながら大地たちのあとを着いていく。周りを見る限り、次郎はいない様子。ということはデートか。


「珍しい、ってゆーほど珍しい組み合わせじゃないんだケド。やっぱ、新鮮な感じだよね」


「あれだっけ? 冬野センパイって秋島センパイのコトが好きなんだよな?」


「あっ、知ってたの?」


 そう言うカンナこそ、と彼女はそのことを知っていたようだ。


「いやぁ、ホントはね、夏祭りに告るってゆーモンだから。結局できなかったみたいだケド」


「あの状況じゃー……告るにも告れなかったしな」


 なんとも洋子が不憫だな、と空は同情をした。そのついでにカンナが自分の手を握ってきたことも思い出す。花火の音に光のせいで当然のようにして聞こえなかった、自分の告白。


【好きだよ】


 本当は本人に聞こえるようにして、きちんと言いたかった。目と目を合わせて。別にフられてもいい。それでも、カンナに本音を伝えたいのだ。


「…………」


 空が一人恥ずかしそうに悶絶していると、カンナが肩を叩いてくる。そのせいで肩を強張らせ、壁に肘を強く打ってしまう。少し泣きそうになってしまうが、弱気なところは見せられない。


「なっ、なな、何?」


「や、二人ともあっちの方に行ったから」


「えっ、うん。行こうか……」


 どうも自分が挙動不審なのが気になる様子。こちらを怪訝そうに見ていた。自身の心内を覚られないようにして (覚られたくない)、大地たちの動向を探っていく。


「んー。なーんか、じれったくない?」


「あー、そーかもな。ビミョーな距離感あるし」


 そう、大地と洋子は互いの間がくっつかず、離れ過ぎずというなんとも微妙な距離感を保ったまま歩を進めている。いや、若干彼の歩幅が大きいため、彼女が少し遅れる形のようである。


 絶妙な距離感のせいで、二人は手をつなぎたいとでも思っているのか、手を集中している様子。ややあって、大地の方から手をつなごうと、手が軽く当たるも――。


 恥ずかしそうにしてつなぎたいはずの手を引っ込めてしまう。それを見てカンナは歯軋りをする。


「もー、見てるこっちがハラハラするよぉ」


 気になり過ぎているのか、空のリュックサックを引っ張るようにして「あーもー」と頬を膨らまかせる。


「何をしてるの、何を。なーんで、秋島センパイこーいうときだけ奥手? カノジョが欲しくてたまらないんじゃなかったのぉ?」


「珍しいっちゃ、珍しいよな」


 ここで空は一緒に遊園地に行ったときを思い出す。逆ナンパをしてきた女の子たちに対しては結構な積極性があったのに。これはまさかと思う。大地自身も洋子のことが好きであるという可能性だ。


 その可能性を見出した二人は顔を見合わせる。


「とりあえず、あとを追うよ」


「そーだな。二人の行く末が気になり過ぎて……」


 大地たちは手をつなぎたそうにする感じを出しながら、商店街にある車屋台のアイス屋へとやって来た。ここで彼らはそれぞれアイスを注文しているが――彼が手にしている物を見て空は「あれ」と声を上げる。


「センパイ、前はデリシャスタワーのトリプルイッてたのに」


「何? あんなモノ……えっ、トリプル頼んだの?」


「うん、一回タワーを落としちゃって再チャレンジしていたみたいだケド」


「お腹が冷えそうだ」


 試してみたい気持ちはあるが、流石のお腹を壊してまでチャレンジはしたくはないと思うカンナであった。


「ていうか、あの二人アーンするのかな?」


「あー、言っていたね。猿渡センパイにアーンしてもらいたかったって」


「それが叶わないから、冬野センパイにしてもらうと? 何たるゼータク」


「ゼータク、ね」


 思わず苦笑いをする。そんな二人はまだまだ大地たちの尾行を続ける。自分たちの姿が見つからないようにして、花壇の陰に隠れて様子を窺っていた。


 どうも洋子は大地にアイスクリームを食べさせたがったいるようだ。とてつもない気持ちが、胸にキュンキュンくる。こっ恥ずかしさもあるが、好きな人にやってもらいたいという思いは誰にでもあるのではないだろうか。もちろん、空も例外ではない。カンナにアーンしてもらいたい、恋人のようにして楽しく過ごしたい。だが、自分はチキンである。勇気がない。


 内心羨ましさを感じつつも「エンリョしているのかな?」と片眉を上げる。


「秋島センパイって、誰彼構わず一口ちょうだいとか言ってきそーなのに」


「わかる、わかる。早く……つーか、もう勝手に取っちゃえばいいのに」


「何をだよ」


 背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。空とカンナはそちらを見ると、後ろには大地と洋子がいた。なぜに彼らがここに、という衝撃的事実に驚き過ぎて、空だけが花壇の向こう側によろめいてこけてしまう。


 その物音に気付いた大地と洋子らしき人物がこちらを見てくる。


「えっ? な、何?」


 二人の顔を見て、ようやく気付いた。全くの別人だった。空たちが追いかけていたこの二人は大地たちではなかったのだ。別人である彼らは四人を不審そうに見ながらもどこかへと行ってしまった。


「つーか、オマエら。何知らない人のあとを着けてんだよ。どんだけヒマなんだ?」


「いやぁ、まさか尾行していたつもりが尾行されていたとは。とんだ災難だね、空」


 苦笑いで空に振ってくるカンナ。独りだけ転んだことに不服があるのか「俺だけじゃん」と嘆くのだった。

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