47話 氷菓子塔と憶測
「今回も悪いな」
そう原付バイクを運転する大地の後ろには空がいた。彼は大地のアルバイトの仕事を手伝っているのである。
「いいっスよ。オレ、今日はヒマでしたし」
「今日の配達先があそこじゃなければなぁ。これ終わったら、アイスでも奢るよ」
「ありがとございます」
バイクはとある場所に停まり、そこで空は配達品を届けに行く。彼が受領書を持って戻ってきたところで大地は本当に感謝でもしているのか、手を合わせて「ありがとな」と苦笑いをした。
「ココの受付のおばさんがいけ好かなくてさぁ」
「そーですか? オレ的には香水がキツイ人っていうカンジでしたケド」
「ニオイもだが、しゃべり方もダメだ。『あらー、大地クン。今日もカッコイーわねぇ』って、なんか粘着質じゃね?」
なんて、先ほどの配達先の受付の女性の物真似をする。何度も顔を合わせていないため、空は反応に困りながらも「そーですか」と適当に相槌を打っておいた。
配達自体はここで終わりなため、二人は商店街内で車の屋台を展開しているアイス屋でも食べに行くか、とそちらの方へと走らせた。早速注文をする大地は――。
「デリシャスタワー、トリプルで」
まさに漫画で見るような、積に積み重ねられたアイスクリーム。大地は重たそうにコーンで支えていた。それを空は面白光景として新しく買ったスマートフォンで写真を撮る。
「おっ、新しいの買ったか」
「ですね。センセからはイヤミったらしくお金をいただきましたケド」
「それで思ったんだけどさぁ」
大地は気になるとでも言うようにして、アイスのタワーを食べづらそうにしながら空に「オマエと三春な」と言う。
「あのハゲのとき、三春の親父さんが出てきたケド。家が隣同士だからって、助けてもらえるものなのか?」
「……うーん、そーですね」
空はどこか言いづらそうにしながらも、アイスクリームを購入する。正直な話、あまり話さない方がいいかとも思ったが――呉羽の母親の件もあるのだ。
少しばかり、場所を移動して二人はバイクを停めている花壇の縁に座った。
「あんまこのハナシはするべきじゃないんですケド、オレには父親が……カンナには母親がいないんスよ」
「…………」
「それで、よくオレはカンナのおじさんに助けてもらったりしてます。休みの日は遊園地とかにも連れていってもらったりしてましたね」
「そっか」
訊くべきじゃなかったか。だとしても、訊こうとしていた自分がいる。ここは最後まで知るべきか。アイスのタワーを食べようにも、なんだか食べるような雰囲気じゃない。いや、そもそもがあのようなことを訊くならば、これを注文するべきじゃないのである。
ゆっくりと溶けていくアイスクリームを眺めながら空の言葉を待つ。
「桜センパイ」
空もまた、アイスクリームを食べすして、大地の方を見た。
「あのヒトの家に行ったとき、おばさん……カンナに似ていましたよね?」
「ああ」
思い出すは呉羽とのやり取りをしていたカンナによく似た女性。
台所の方からの視線。あれはおそらくではあるが――【三春カンナっていう人、知っています?】
自分たちの質問に反応していたんだと思う。そうでなければ、ああいう風にして自分たちを睨んでこないはず。
「確信はないんですケド、あのヒトってカンナの母親だと思うんですよね」
秋口とは言え、まだまだ暑い。溶けたアイスクリームが自身の手に垂れてくる。それに焦ってしまい、大地は大半のアイスの塊を地面に落としてしまった。
これにより、神妙な面持ちをしていた空もびっくりしたようにして小さく変な声を上げた。
「なんか、すんません」
「もったいねぇ」
ここで嘆いても仕方ない、として大地はまだ落ちていないアイスクリームを急いで食べた。
「はあ、アイスってのは美味しいけど、溶けるのがイタイな」
「溶けなかったら、溶けなかったで食べるに食べられないっスよ」
「もっともなコトで」
大地は近くの水道水で手を洗い、ハンカチがないのか濡れた手を服で拭っていた。
先ほどの空の言葉を思い返す。もしも、呉羽の母親がカンナの母親であるならば、彼らは兄妹ということになる。だが、兄であるはずの呉羽はカンナの存在を知らなかった。そして、海に遊びに行ったときや夏祭り、八姫農業高校に来たときの反応は全くと言っていいほどの薄さがある。
「夏斐、今日オマエに聞いたコトはいちおー忘れとく。妙なつながりが頭に残っていると、マジモンのときにそれが邪魔してきそうな気がするから」
「はい」
「それと、オレはもう一度デリシャスタワーに挑戦してくる。夏斐もするか?」
「オレっスか?」
それは流石にできそうにないな、と断りを入れる。大地は再び、アイス屋へと赴くと――「デリシャスタワー、トリプルで!」そう、注文をしていた。
その日の夜、アイスクリームのタワーを食べた大地は腹痛に悩まされることになるのだった。




