46話 スマホベンショー②
カンナの父親がにこにことリビングの方へとやって来ると、それに少しばかりビビったようにして土生は軽く会釈をした。
「な、夏斐のお父さんですか?」
「どうも。空がお世話になっています」
洋子はそっと空に耳打ちで「三春さんのお父さんですよね?」と小声で訊ねてくる。
「私、見たことがあったので」
「そーです。おじさんが一役を買ってくれたみたいで……カンナも察しがついたよーですね。顔がにやにやしています」
「どーゆーこった?」
話が聞こえていた大地は片眉を上げた。
「秋島センパイって、カンナに口ゲンカはあまり勝てませんよね? そんなアイツに勝てる唯一の人物こそがおじさんなんです」
空のその物言いに大地は苦笑いをする。こればかり、はと経験しているのか「負けたか」と呟く。それもそのはず。昼休みのやり取りでも結構してやっていたのだから。
さて、目の前にいる中年男性がカンナの父親であることに気付くことのない土生は彼の相手をする。
「そうなんですね。ところで、センセ。どうも空のスマホを休み時間に取り上げた挙句壊したとか。勝手にイタズラメールを送ったとか」
「スマホに関しては没収をしただけです。壊したり、イタズラなどしていませんよ。夏斐が嘘をついたからでしょう。それにお宅の息子さん、結構目立った行動をしてくれるんですけどね」
「目立った?」
「はい。人が通ろうとする道を妨害はするわ、すれ違っただけで睨みつけてくるわ……そんなことをしているようでは信用を失いかねませんよ」
そんなことしてねぇよ、と空は一人心の中でツッコむ。
「困りましたねぇ。空はそのような子ではないんですがね。それに、一番の問題としてはどうしてスマホを没収したんですか? 確か……空、生徒手帳見せてくれる?」
「う、うん」
空は生徒手帳を取り出して、カンナの父親に渡した。彼は素早くとあるページまで捲ると、土生にそのページを見せた。
「先生、ここ見てください。『授業中の使用が禁止』ですよね? 空が言うには休み時間に取られたんですよね? これ、矛盾してませんか? なぜ取り上げたんですか?」
「い、いえ。しかし、学生にそれは必要ですか? 必要ないでしょ? だって、ほとんどがご友人とのメールやら電話でしょうし。現に友人や先輩たちからの――」
「なぜ、空のスマホの中身をセンセーが知っているんですかぁ?」
ここでカンナが意地悪そうに横入りしてくる。思わず、土生は手で口を塞ぐ。もちろん、彼女の父親も逃そうとしない。
「なんで先生が知っていらっしゃるんですか? 中を見なければわからない内容のハズなのにですよ? やはり、イタズラをしたんですね? それは一教師としてどうでしょうか。アナタの先ほど言っていた信用を失いかねない、アナタがした言行こそが生徒や保護者にも信用を失いかねませんよ」
「……はい」
「では、空のスマホの弁償をしてくださいますね?」
「……します。しますので、他の方には黙っていただけますか?」
カンナの父親は悪い笑顔を絶やさずしている。これを見た空たちは彼女にそっくりだな、と鼻白む。一方で土生は今にも泣きそうである。
これにて懲りたか、と「まー」そう生徒手帳を空に返す。
「僕は『カンナみたい』にして人をこれ以上貶めることなんてしませんし、いいでしょう」
その言葉に土生は驚いたようにして、顔を上げて三春父子を交互に見る。
「は? え?」
「ははっ。改めて、初めまして。僕はカンナの父です」
「なっ!? み、三春のお父さん!? 夏斐のお父さんじゃないのか!?」
「……違います。正真正銘、コイツの父親ですよ」
流石に騙した空も悪かった、と言わんばかりに気の毒に思う。なぜって? 何度も言うが、この人物は『カンナの父親』であるのだ。
「先生、言っておきますけど、今更空のスマホを弁償しないだなんて言いませんよね? まー、録音しているから言い逃れできませんケド」
なんてカンナの父親は懐から自身のスマートフォンを取り出した。その画面上には録音完了の文字が書かれていた。そして、再生ボタンを押す。
《では、空のスマホの弁償をしてくださいますね?》
《……します。しますので、他の方には黙っていただけますか?》
「何ぃいい!?」
その後、空が出したお茶を一杯飲んで死んだような目をしながら土生は帰路に着いた。彼のスマートフォンを弁償したのは後日の話である。また、大地と洋子も家へと帰ってしまい、夏斐家に残ったのはカンナと彼女の父親だけだった。
「おじさん、ホントにありがと!」
「いいってことだよ。またなんかあったら僕を頼ってね」
「うん、そーするよ」
カンナの父親はお茶を啜りながら「ところで」と空を見た。
「なんで没収されたの?」
「ああ、実はセンセーの動画を撮った分を見せようとしたらね……」
「それはそれで。次からは気をつけなよ? まあ、録音しておいて正解だったみたいだケド」
今度はジュースを飲んでいるカンナの方を見た。
「どうせ、カンナも録音していたんだろ?」
「いーや? 今回のコトは撮ってないよ」
このようなことを率先してやりそうなカンナであるはずが、していないと言う。
「まー、こっちの動画なら実は撮っていたんだけれども」
その代わりとでも言うようにして、一つの動画を再生させた。その画面上に映っているのは後ろ姿の土生。更にその奥にはスマートフォンを手にしている二人の担任である幹生だった。彼はどこかに連絡をしている様子。
《あっ、もしもし? 今日は早く帰れそうだし、リコと一緒に食事にでも行かないか? うん、うん》
《けっ、その内離婚するクセに。なーにが食事だ。金がかかるだけじゃねーか》
《へえ、そうなの? ははっ、楽しみだよ》
《ガキだって、金かかるのによ。作りやがって。オレより年下のクセに生意気な……》
そこで動画は終わっていた。実はこれを空は知っているのだ。なぜならば、その動画を自分も撮っていたのだから。ここに証拠は残されたり、として彼は土生に同情する。
「流石は三春家。世界一、こーゆーコトで相手にしたくないよ」




