45話 スマホベンショー①
完全に気絶した土生を空の自宅へと運び入れた五人は大きくため息をつく。彼はリビングのソファに伸びるようにして目を回していた。
「ところで、二人ってどんな内容のメッセージをもらったんですか?」
自分のスマートフォンで送信履歴を確認したいところだが、壊れているために確認ができなかった。大地と洋子に見せてもらったやり取りを見て空とカンナは眉根をひそめる。
「私はこの前の夏祭りの写真を夏斐さんに送ったんですが……」
『洋子ちゃん、かわいいね』
この文が返信として来たらしい。そして、大地に至っては――。
「オレはジョーダンのつもりで日曜にナンパの誘いを送ったんだがな」
『もちろん行くよ!』
「いやぁ、まさか夏斐が行くと返してくるとは思わなかったからさぁ」
だが、これが空が返信していないと知ると平常運転だ、と安心したらしい。乗り気だったのが気持ち悪かった、とこちらを見て言う大地。
「なんでオレを見るんスか。とゆー以前に、二人にメッセージとか送るときって敬語なんですケド……」
「ですよね。夏斐さんのメッセージのワリにはちょっとオカシな感じでしたし」
「ちょっとどころか。オレ、こんなモノなんて送りませんよ。つーか、誰にも送ったコトも、打ったコトもありませんし」
なんて空が言ったとき、土生が目を覚まして「どこだ?」と体を起こした。会話をしていた一同の方を見ると驚いたようにして目を見開く。
「お、オマエたちっ! オレに何を……夏斐、三春! これはどういうことか説明をしろ!」
「なんで高慢な態度取ってくんの? ココまで誰が運んできたんだか」
「カンナじゃなくて、雪野さんだ。つーか、車だな」
それよりも話を脱線するべきではない、として空は自分の壊れたスマートフォンを土生の目の前に差し出した。
「コレは?」
「とぼけないでください。オレのスマホを取った上にこちらの二人にイタズラの文章を送ったでしょ」
「は? 夏斐は何を言っているんだ?」
鼻で笑う。空とカンナはスマートフォンが壊れているし、証拠もないから平気でそう言った態度を取れるのだろうとわかりきっていたのだが、融通が利かない者がもう一人いた。大地だ。自身の黒色のスマートフォンを操作しながら「証拠あるぞ」と言ってくる。
「ウソつくなよ。勝手に乗っ取ってオレらに妙なモンを送って来たでしょ。それに、ジョシコーセーに口説いたりしてな」
「そ、そうです! おかげで夏斐さんの頭がオカシくなってしまったのかと心配したんですから!」
「そーゆーコトです。認めたらどうスか?」
大地がそう言うと、土生は「なんだ!」とまだ白を切るつもりのようだ。
「勝手なコトばかり言って、八姫農業高校の先生方に言うぞ!」
「言うなら言えばいい。それこそ勝手にな。慣れてるし」
「センパイ、四バカですしね」
カンナが横から茶々を入れてくるが、それは空が咎める。余計だ、として軽く頭を叩いた。
「とにかく、センセはオレのスマホも壊したんだ。ベンショーしてもらわないと」
「なんで弁償をしなくてはいけないんだ!」
スマートフォンの弁償をという言葉に強く反発する土生。どうやら是が非でも弁償なんてする気はない様子だ。それでも空は食い下がろうとしない。没収まではよかった。だが、人の物を勝手に弄って壊したとなると――こればかりは仕方ないで済まされない。自分は厄介な者たちに狙われているということもあるのだから。
「第一、子どもがそんなモノを持っていても意味ないだろうが!」
「必要ですって」
元より、空の場合は都市伝説だけが問題ではない。親との連絡のやり取りにも必要だったりするのだ。そして、このご時世に公衆電話をそうそう見掛けないのも現実。
「そんで、センセーは空のスマホをベンショーするんですか?」
いつの間にかカンナは夏斐家のお菓子の袋を開けて食べていた。その中身を洋子にも分け与えている。それに空は「お菓子食ってんじゃねーよ」とツッコミを入れた。
「いーじゃん、いつものコト。で、どうするんですか?」
「あ? するワケないだろ。夏斐、余計なモノを持ってくるからこうなるんだぞ。それに、いいか? 学生の本分は何かわかるか? 勉強だけだ。だから、今度からこうならないように持ち込まないことだな」
「えー、センセー。部活は?」
今度は冷蔵庫から勝手にジュースを取り出して飲み始めた。少しは緊張感を持て、と空は「状況を考えてくれ」とため息をついた。
「今、そーしてる場合じゃないだろ」
「いーじゃん、別にさ。あはは」
「笑うなっ!!」
カンナが笑ったことによって、土生が怒声を上げた。相当音が響いたようで、近所迷惑になっていないだろうか、と不安が募る。
「三春! オマエは大人をバカにし過ぎだ!」
そう彼声を張り上げていたら、インターホンが鳴る。ああ、近所の人がうるさいと注意しに来たのかな、と空は玄関の方へと向かった。
玄関のドアを開けると、そこにはカンナの父親がスーツ姿で立っていた。
「あっ、おじさん。どうかしたの? 仕事帰り?」
「うん。でも、空の家から聞いたコトのない男の人の声が聞こえたからさ……大丈夫?」
「今、ガッコーのセンセーが来ているんだよ」
「夏斐さん、まだ仕事だよね? 車ないし。なにかあった? 僕が相手しようか?」
カンナの父親に空はこれまでの経緯について話すと、にやりと彼女にそっくりの悪い笑みを見せた。
「じゃあ、僕がハナシをつけてあげる。こういうときは大人に頼りなさい」
「は、はい……」




