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青春と都市伝説  作者: 池田 ヒロ
◇夏の事変
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39話 好奇心

 人一人が這いずりでようやく通れる通気口路で先を急ぐ三人。先頭を大地、しんがりを空にしていた。大地は自身のスマートフォンの光で先を照らしながら進むも、前は見えそうにない。暗い。何か異臭がしていた。


「今、どこを行ってるんだろ?」


「工場の方角であるのは確かですよね?」


「でも、わたしらって、一時間以内に車の中に戻ってなきゃダメっスよね」


 カンナの言う通りである。洋子と次郎が見学をしていると言っても長時間工場内にいるわけにもいかない。彼らが引き留めている時間には限度があるのだ。その時間がどんなに長くても一時間である、ということ。


「だな。何事においても急ぎ足であるコトには変わりあるめー」


 なんて言う大地の視界の先に下の方から漏れる光を見つけた。そのことを後方にいる二人に伝えると、彼女が「それじゃあ」と言う。


「どこであるかを確認しますよ。手鏡を持ってるから」


 カンナは帯の下に隠していた手鏡を取り出した。だが、そのために大地が通気口の蓋を開けようにもネジで締められているからか、開けられない仕様になっているようだった。


「ココからじゃ、見えないよな?」


「コレ、使います?」


 そう言って空が取り出したのはドライバーである。彼は事務所にあった工具箱の中からドライバーを拝借していたのである。そして、何より通気口路へと侵入する際にも使用した物でもあった。


 それを借りて通気口の蓋を開けた。そこへとほんの少しだけ鏡を傾けるようにして、カンナは下の確認をする。


「空、ちょっとスマホ貸して」


「落とさないよーにな」


 空のスマートフォンを借り、見取り図を見た。


「おまっ、やっぱりココの監視カメラの場所を覚えてんじゃねーか」


「逆に覚えなくてどーするつもりですか」


「センパイ。カンナが本気を出せば、別に紅花高校アカコーでなくとももっと上の学校に進学できるんスよ」


「それこそ、テレビで出るような有名なガッコーとか?」


 その通り、と空が頷くと「マジで何?」と大地は鼻白んだ。


「自分はホンキ出していません、ってか」


「センパイが言いたいコトはあとで聞きますよ。まずはそれよりも地下に行かないと」


 ここで下りるのは危険だとして、カンナは空にスマートフォンを返した。その間、大地は通気口を塞ぐ。そうして、先へと進んだ。


     ◆


 見学許可をもらった洋子は次郎と共に事務員と工場内を徘徊していた。ここはどういうところで、どういう場所かの説明を聞いていると、とある小さな扉を見つける。


「あの、アレは?」


 素直に気になった洋子が訊ねた。


「ああ、それは倉庫ですよ。階段下にあるから小さいんですけどもね」


「そうですか。あっ、工場内の写真を撮ってもよろしいですか?」


「構いませんよ」


 洋子は小さな扉が入るようにして、写真に収めた。それを空たちにメッセージ付きで送る。


『場所はB5区画というところです。左下に小さな扉があります。これは階段下にあるから小さいらしいです』


     ◆


 洋子からの写真付きのメッセージを見て、僅かな確信を得た感覚に浸った。こちらの可能性は高い。これを見たカンナは「センパイ」と先を行こうとする大地に呼びかける。


「もしも、分かれ道を見つけたら右に行ってください」


「そこがB5区画の可能性があるって?」


「見取り図と冬野センパイの情報によればです。そして、運がいいのか悪いのかわかりませんけど……いや、ツゴーがいーのかな? 送ってもらった写真と監視カメラで一致するトコはなかったです」


 つまりはあの小さな扉前に監視カメラは存在しないことになる。その記憶力にドン引きをする大地は「わかった」と返事をした。


「右方向に行けばいーんだな?」


「はい」


     ◆


 三人はとある通気口を前にいた。その真下にはあの小さな扉があるが――いかんせん、この場所においての床との高さはかなりある。大地や空はいいとして、カンナは少し手厳しいだろう。


「どーしましょうか?」


「……しゃーない。夏斐、オマエが行け」


 この判断に空は驚きを隠せなかった。この先を自分独りで行くのは不安要素が大きいのである。いや、ここは独りで行かざるを得ないだろう。カンナを残しておけないのだから。それならば、まだ機動性がある空が行くべきである。


 大地に行け、と言われ頷くと、ドライバーを手にして通気口から床の方へと下りた。下りたことを確認すると、カンナは「空」と声をかける。


「ガンバってね。戻ってきたら、帯のヒモ……足りるかな?」


「ありがと。でも、なんか近く荷物があるみたいだからそれで登ってくる」


 流石にカンナの浴衣の帯の紐を利用して上がる気にはなれない。というか、勇気があるな、と空は苦笑いをする半面、冷房の効いていないこの場所は暑かった。汗が彼の勇み足を邪魔している気がする。


 異様な空気の小さな扉。それ以前にこれは開くのか甚だあやしいと思えた。ドアノブに手をかけて回すと、普通に開いた。これに空は背中の汗がすごいな、という妙な冷静判断をする。


「…………」


 扉を開けるが、当然明かりがないため――何も見えない。スマートフォンの明かりで周りを照らす。この中には色んな荷物が乱雑に置かれていた。


「どこか、下に行ける――」


 あった。足下。


 空は床に設置されている床下の扉を開いた。下へと下りられるようにして、はしごが存在していた。ここを下りればいいのだろうか。だとしても、単独での行動は危険かもしれない。大地に連絡を取る。すぐに出てくれた。


「明らかに地下へとつながる場所を見つけました」


《わかった。が、夏斐はどうする? そのまま行くのは危ないからオレはおススメしないが……》


 できることならば、一度退却をした方がいいのではないか、という大地。だが、リミットまで五十分ほどはある。通気口路を通るのにおおよそ十分を要していたようだ。そして、もっともな話として自分たちがここにいるのは自分たちの一生物と言っていいほどの青春を楽しく謳歌するために、起こしている行動なのだ。


「……サイアク、オレを捨ててもらっても構いません」


 何を言っているのだろうか。まるで正義のヒーロー気取りみたいだ、と空は心の中で失笑をする。いや、ただの虚言でもなければ、虚勢でもない。自身の心内だと信じたい。


 都市伝説と自分たちを狙う理由の真相を知りたかった。人が恐怖心の中に隠された好奇心に負けた瞬間でもある。


「少しばかり、下に行ってみます」


 そう言う空は梯子に手をかけるのだった。

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