37話 己の青春を守るために
もうすぐ花火が打ち上がるということで、見やすくも人気がある場所へとやって来た四人。人気がない場所よりはマシだろうという判断だった。
「なんか、こういうところで花火を見るのも新鮮ですね」
洋子曰く、花火は家の窓から見ていたと言うらしい。
「音はケッコーうるさいケドな。これもオツなモノか」
「でも、うるさくなければ、花火とは言えないですもんね」
「あっ、だったらわたしは花火セットを買ってみんなでワイワイ楽しみたいですよ」
そう言うのもいいな、と談笑をしていると――大きな音がそこら中に轟く。夜空を見上げれば、色とりどりの花が咲き誇っていた。それに誰もが見惚れる。
「おおっ」
綺麗だな、と見上げていればすっと空の手を誰かが掴んできた。それに少しびっくりするが、その手の先を見ると、握っていたのはカンナだった。彼女はしらっと上を見ているようだ。それが彼にとって恥ずかしくもあり、嬉しかった。誰も自分たちの手なんて見るはずはない。そちらよりも上に輝く花を見ていたいのだから。
花火が打ち上がる瞬間を見計らって、空は小声で「好きだよ」と告白する。もちろん、その言葉はカンナに届くことはない。なぜならば、大きな音と光が邪魔をしてくるから。
聞こえないはずなのに、とてつもない羞恥心が襲ってきていた。今すぐにここから逃げ出したい。穴があったら入りたい。
何ばかなことをしているんだろうか、と一人ため息をついているのを横目に洋子がいないことに気付いた。先ほどまで大地とカンナの横にいたのに。
顔が熱かったのが、一気に冷めていく感覚に捉われる。まさか、とは思いたい。それに握っていたカンナの手を離した。少し心残りがあるが、そちらよりも洋子が優先だ。
「センパイ! 冬野センパイが……!」
「あ?」
空の声でようやく気付くカンナと大地。彼らも血の気が引くような感覚に捉われた。
連れ攫われてしまった。急いで次郎を探す。彼をすぐにカンナが見つけた。独りどこかへと走っていこうとする姿。その後を三人は追いかける。
「オレが先行ってくるから、オマエらはゼッテー一緒にいろ。いーな? ゼッタイだかんな」
大地が念押しで二人にそう言うと、次郎に追い着いた。彼は浴衣姿が仇となったのか、走りづらそうにしている。
「雪野さん! 冬野はどっちに!?」
「あ、あの先を行っている……!」
指の先、そこには一人は知っている誰か。それを見た大地はスピードを上げた。
次郎は体力的にも限界だったのか、その場で立ち止まって呼吸を整えていると、空たちが遅れてやって来た。
「大丈夫ですか?」
「みなさんが気付かれたおかげもあります。秋島様が今――」
道の先を見ると、洋子を連れ去ろうとする誰かに向かって大地がジャンピング・ニー・バットを繰り出して、彼女の奪還に成功していた。謎の人物は慌てたようにして、彼らのもとを逃げていく。
そんな二人のもとに三人が駆け寄る。
「あ、秋島様! 申し訳ありません……!」
「や、隣にいたってのに気付かなかったオレが悪かったです。それと、夏斐。気付いてくれてありがとよ」
「い、いえ……」
これは自分の手柄ではない。もし、カンナが手を握ってきてくれなければ気付かなかっただろう。だから、ある種での貢献者は彼女にある。
大地に助けてもたった洋子は、怖かったのか彼の服の裾を強く握りしめていた。
「み、みなさん。申し訳ありませんでした……。私がお祭りに行こうだなんて言わなければ……」
「いいや、冬野が悪いワケじゃねーよ。これはあの男が絡んでいるはずだ」
大地は何を思ったのか、洋子をお姫様抱っこすると次郎に「車まで案内お願いします」と言う。
「もー、祭りは楽しめねーだろーし」
それが一番賢明だろう。また、狙われてしまえば元も子もないのだから。何も狙われているのは洋子だけではない。空もカンナもである。下手すれば、恐ろしい顛末が待っているのだ。
次郎に案内されて、車に乗ったカンナと洋子。彼女たちを乗せた大地は空の方を見る。
「……都市伝説、場所は三姫コーギョー団地の地下だったか?」
その言葉には嫌な予感しかない。何を考えているのか。空は冷や汗を垂らしながら縦に首を振った。周りの熱気と夏の夜の気温で暑いはずなのに、嫌に背筋が寒い。
「まさか、そこに侵入?」
工業団地に地下が存在するのかに確信は持っていない。これはあくまでも噂なのだ。白衣の男と顔のない人物を見たせいで、その噂の信憑性が高いだけ。
「当たり前だ。これ以上、ビクビクしながら閉じこもるのもヤだろ。オレたちの青春をふいにするヤツを叩きのめしてやるんだよ」
なんて断言する大地には怒りの闘志が見えていた。
「こんな理不尽なコトがあっていーワケじゃない。高校生だからってナメきってやがるんだぜ? 夏斐はそれに耳と目を塞いでなかったコトにしたいか?」
ーーそんなの決まっている。
空は拳を握った。
「オマエに許さない心があるならば、オレと一緒に今からコーギョー団地の地下に行くぞ」
大地のその言葉に空は彼の目を見据えて口を開いた。
「行きましょう」
許されない。自分だけならず、カンナも洋子も。その内したら、自分たちを捕らえるがために身近な者たちにでさえも手を出してきそうな気がしたから。
警察に頼られない、証拠がない。これらの事実を物とするために行動をしなければ、不可能から可能というものでさえ覆すことはできやしないのだ。
ならば、立て。口だけならず、行動を起こせ。
己の青春を守るために。




