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青春と都市伝説  作者: 池田 ヒロ
◇夏の事変
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35話 MATSURI

 なぜにあんな炎天下の中で大騒ぎしていたんだろうな、とカンナは思う。彼女はアイスクリームを食べながら洋子と共に近くの公園の屋根付きのベンチに腰をかけていた。


「コレ美味しいですよ」


「そうですか」


 いくら声をかけても、洋子は生返事をするばかり。どうしたのだろうか、と心配そうにしていると――。


「あの、三春さん……」


 もじもじと何かしら言いたいことはあるようであっても、恥ずかしいのか言うに言えない様子であった。だが、ここで言わなければ、どこで言うのだとして、彼女は勇気を出す。


「二週間後、夏祭りがあるじゃないですか」


「あー、ありますねぇ。あっ、もしかしてそれに行きたいとか?」


 だがしかし、自分たちは行けるのかあやしい。都市伝説の件があるから。そして、屋台や花火が上がるとされる時間帯は夜である。いつ、どこに白衣の男や顔のない人物が現れるのかわからないのだ。


「だとするなら、護衛が必要ですねぇ」


 その護衛とはお察し通り大地のことであろう。


「行きたいのは行きたいんですが……」


 夏祭りに行きたい、ということだけは言えたのだが――もう一つあるのだ。公然の場で言いたいくないのか、洋子はカンナに耳打ちをした。その話を聞いて、目を大きく開く。


「えっ!?」


     ◆


 八月某日。空は自室で時間を確認していた。時刻は夕方の六時半。夏だから当然と言わんばかりに外はまだ明るい。そろそろ行くか、とスマートフォンと財布を手にして部屋を出ようとドアを開けたときだった。


「や」


 部屋の前に浴衣姿のカンナがいた。気配すらもなかったため、あまりの驚きに変な声を出してしまう。その変な声に肩で笑われてしまった。


「あははっ、何。その『ひへぁっ』って」


「突然現れるからだろ? 階段登る音も聞こえてなかったしよ」


「いやぁ、ユカタで抜き足は難しい」


「やらなくていーよ。ホント、心臓に悪いから」


 そう、空の心臓が本当に止まってしまいそうなほど、びっくりしたのだ。だとしても、カンナはそのようなことはお構いなしとして、手を引っ張ってくる。


「生きてるからいーじゃん。ねえ、早く行こーよ。ワタガシ、タコヤキ、リンゴアメたちがわたしを待ってるんだよ?」


「知らねーよ、そんなの」


「あのね、空。こう……待たせるってゆー行為が失礼だと思わない?」


「人、だったらな。それら、食べモノだろ」


 それに、そんなすぐに売りきれないから、と宥めてみるものに、カンナは急かしてくる。仕方あるまい。


 ばたばたと、階段を駆け下りて「行ってきます」とリビングの方にいる自身の母親にあいさつをする。そうしていると、「行ってらっしゃい」と微笑ましい声が聞こえてきた。


 家を出て、集合場所へと向かう。周りを見渡しながらあやしい人物や変な気配はないかどうかの確認もする。うむ、特に問題はないようである。


「今日みたいなイベントはフツーに楽しみたいよね」


 カンナの言うことはもっともである。今日ぐらいは普通に楽しみたい。普通に青春として楽しみたいのだ。そして、何より彼女や洋子は浴衣を着ているはず。そうそう簡単に動けるはずもないのである。


「でも、花火終わったらすぐに帰るからな」


「わかってる。空や秋島センパイにたっぷり奢ってもらうつもりだもんね」


「……自分のサイフは?」


「あるケド、その可能性を信じたいな、と」


「…………」


 なんとも言えない空、それにカンナは集合場所である祭りの会場へとやって来た。大地と洋子はすでに来ていたようで、二人を待ち構えていたようである。


「よー。三春もユカタか」


「またあれが起こらないよーに祈りつつのこのカッコーですよ」


「そーいや、祈るときの和装だっけ? って、どーゆーのだっけ?」


「ミコショーゾクでしたっけ? 神社? お寺どっちでしたっけ?」


「そーゆーのって冬野が似合いそう」


 そう言う大地。確かにそうだな、と空は思った。洋子はストレートの長い黒髪で、おとしやか。普通に似合いそう。一方で、カンナは――あまり似合わなさそうだと思う。元より、地毛が茶色だから。というか、よくカジュアル系の服を着ているからそちらの方のイメージが強いのだ。


「三春は……うん、早く行こーぜ。フライドポテトがオレを待っているから」


「ちょっと待って。なんか、失礼なコトを考えられて?」


「してねーから大丈夫。三春の場合は単純に似合わないと言おうとしたが、カワイソーだと思ったから言わなかっただけだ」


 それは言っていることと変わりないよな、とツッコミを入れたいがそれ以上関わっていると、ややこしくなりそうだ。なんて考えながら歩きながらカンナは「そーですか」と小さくため息をつく。


「なら、タコヤキ奢ってくださいな」


 近くにあったたこ焼きの屋台を指差しながらそう言う。その謎の接続的な言葉に鼻白んだ。


「ならって、どーゆー意味だよ。みんなで分け合うなら買ってやるケド?」


「やったぁ! おじさん、あげタコ四パックちょーだい」


 許可を得ずして、すぐさまカンナは注文をした。それに応えるようにしてたこ焼き屋の店主は「あいよ!」と手を動かしていく。


「あげタコ四つね!」


「おじさん、待って。せめて二パックだけだよ」


 袋に詰められる前に、大地が制した。


「どっちなんだよ。早く決めてくれよ」


 店主はすでにパックに詰めたたこ焼きを二パックだけ袋に詰めて、残りの二パックを手に持って答えを待った。もちろん、カンナは四本の指を立ててじっと見てくる。大地はそれを譲らないとして指は二本である。


 と、ここで空が割って入ってきた。


「二パックでいいです。コイツのゆーコトは聞かなくてもいーですよ」


 空の言葉が決め手らしい。店主は「二つで八百八十円ね」と値段を言う。それを聞いて、自分も出します、と大地と共に割り勘で支払った。


「カンナが厚かましくてスミマセン」


「や、おごがましいのはアイツらしいケド……やっぱ、腹立つな」


 お金を払ったのは自分たちなのに、いつの間にかカンナたちは袋から一パック取り出して食べていた。


「つーか、冬野も大概か」


「二人とも、お腹空いてるんですか?」


「祭りだし。夕飯は屋台だけってのもあるし」


 こういうのも悪くない、として大地は残りのパックを取ると、空にも半分分け与えて食べる。そうしていると、もう食べ終えたカンナたちが「他にも食べたい」と言い出してきた。


「タコヤキだけじゃあ、祭りとは言いませんぜ」


「じゃー、テキトーに行って買って食えよ。雪野さん……あら? あのヒト見掛けなくね?」


「雪野さんならば、物陰に隠れて見守っていただいていますよ」


 なんて洋子が指差した先の電信柱の陰には浴衣姿の次郎が。彼は小さくこちらに手を振っている。


「別に一緒にいても構わないのですが、どうも遠慮しているみたいで」


 それもそうだろう。仮にも自分たちは高校生。逆に次郎は五十代の男性である。一緒にいづらい気持ちはわからなくもない。


「とゆーワケで、早く食べて行きましょ」


 カンナたちは二人の腕を掴んで、屋台が立ち並んでいるようなところへと行こうとする。だが、お祭りはそう簡単に終わらない。まだまだこれからなのだ。

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