20話 デジャヴ
白衣の男と顔がない人物たちに気をつけるようにして過ごしていた。そんなとある日の紅花高校の一年三組の教室で、昼食を採っていた空と明の前に玲が意気揚々とスマートフォンを手にして仁王立ちをしていた。そんな彼の表情に嫌な予感しかしない。
空は購買で購入したコロッケパンを頬張りながら「なんだよ」と訊いてはみる。
「合コンならもーお断りだ」
それに明も同調してくるように大きく頷いた。だが、玲はそんな彼らをどこか小ばかにしたように肩を竦める。
「そーじゃねーよ。二人とも、三十一日って空いてる?」
玲にそう訊ねられて、二人は顔を見合わせた。
「いちおーは」
「オレも」
この返答を聞くと「決まり」そう、勝手に何かを決められてしまう。何が決定なのかすらもわからずにどこかへと行こうとする玲を捕まえた。
「詳細を話せ。トラップで合コンなんてヤだからな」
「だから、合コンじゃないって。つーか、今から三春さんたちも誘う予定だし」
「だから、なんだって訊いてるんだケド」
「海だよ。海。みんなで遊びに行こーよ」
海、と聞いて明は「楽しそーだね」と言ってはいるものの、素直に空は喜べなかった。確かに級友とは遊びに行ったりして楽しみたいのだが、都市伝説の件もあるのだ。下手に動いて、見つかれば元も子もないだろう。そして、何より大地も洋子も好ましいとは思わないはず。
空が断りを入れようとしたとき「いーねぇ」とカンナの声が聞こえる。
「みんなで海に遊びに行くってのも悪くはないよね」
いつの間にか玲に誘われているカンナと浩子。それでいいとわけではない。空は彼女を呼びつけた。
「アイツらに追われたら遊びどころじゃねーんだぞ」
「まー、そーだろうケドさ。センパイたちも誘えばいーんじゃないの? あのヒト、海とか行きたがりそ」
「許してくれるか? つーか、高崎たちも許してくれるかどーかだよ」
大丈夫か、と不安になる空をよそにカンナは「訊いてみてよ」と自身のスマートフォンを取り出しながら言う。
「高崎クンたちに人数増えてもいいか訊いてよ」
「……うん」
許してくれるかどうか気にはなったものの、玲たちは渋ることもなく、承諾してくれた。
「いーよ。つーか、あの椛花学園の人も誘ってくれるの!?」
「う、うん」
「なら構わねーよ。とゆーよりも、大勢の方が盛り上がらない?」
「それじゃあ、いーかもね」
許可をもらい、カンナは大地と洋子に誘いのメッセージを送った。
◆
場所代わって八姫農業高校の職員室にて、大地は自分のクラスの担任に呼び出されていた。その理由はわからない。花瓶の件か、それとも窓ガラスの件だろうか。色々あり過ぎて心当たりはなかった。
「しつれーしまーす」
間延びした声で入室すると、担任の教師に手招きされた。
「おう、こっち。こっち」
「なんスか? オレ、なんかしましたっけ? 花瓶も窓ガラスも終わってますよね?」
「……いや、そっちじゃない。秋島って今日日直だろ? これ、教室までよろしく。少し遅れてくるから」
机の上に置いてある十数冊分のノートの束に手を置いて、大地にそう促した。
「さっき農業機械の先生から返されたから」
「や、オレ今日の日直じゃないです。明日が日直です……って、それより農業機械を選択してないんスけど」
「どっちでもいーけど、来てくれたなら、持って帰ってくれ」
「えー」
大地はあまり納得しない様子で渋々と授業ノートを持ち抱えて自分の教室へと向かうのだった。職員室前で彼を待っていた誠一は「用件はソレ?」と指差してくる。
「説教じゃねーの?」
「うん。はい、誠一のノートな」
そう答えると、誠一の分のノートを上にして全部渡した。これに顔をしかめるのは当然である。
「おい。つーか、オレだけじゃなくて他の人もあるじゃねーかよ」
「や、オレ農業機械じゃないしぃ?」
誠一は自分の分のノートを別にして、残りを突き返そうとする。だが、それを受け取る気はない大地は手を後ろに回して逃げようとする。
「オマエがセンセーに頼まれたんだろ? 持っていけよ」
「はっはぁー! 最後に触ったヒトが片付けるんですぅ」
「小学生かよ」
挑発したつもりが、逆に挑発されてしまって何か言おうとした大地の下に一件のメッセージが入ってきた。何事かと思えば、カンナからである。
『31日に友達に海に行こうと誘われたんですけど、一緒に行きませんか?』
どこかへと遊びに行く、となって都市伝説の件もあるから止めさせようとも思ったが、全員で遊びに行くのだ。こうして、洋子にも誘いは来ている。彼女は行きたいとでも思ったのか、すぐにグループ内返信で『行きます』と答えているではないか。
大地が迷っていると、追加でメッセージが来た。
『あと他のお友達も誘えますけど、どうします?』
『私の友人は用事があるみたいです』
『じゃあ、秋島先輩は?』
四人、か。誰を誘おうかと大地が考えていると――「おい」そう、誠一がまだ押しつけられたノートを返そうとしてきている。彼はそれを受け取るまいとして手を引っ込める。
「いー加減にしろよ」
「……よっし、誠一。取引しよーぜ」
「は?」
「三十一日に海に誘ってやるから、それを教室まで運んでくれや」
この取引条件に片眉を上げた。大地は何を企んでいるのか。
「メンバーは詳しく決まっていないが、紅花高校と椛花学園の女のコが来るのは確実だ」
「え、オマエに椛花学園のコと知り合うなんて……!」
とんでもないことが起きるんじゃないか。そう冗談で笑う誠一であるが、大地は笑えそうにない。だって、その事実があるんだもの。
「まー、行くケドよ」
「じゃー、それヨロシク。オレは美野島たちにでも訊いてみよーっと」
「他誰誘うんだよ。オマエのねーちゃんは?」
「そーしたら、もう一人ついてくるだろ? カレシが。ってか、高校生のお遊びに交じらないとか言ってきそーなんだケド」
なんて半笑いしながらスマートフォンをスラックスに入れようとしたとき、誰かとぶつかりそれを床に落としてしまった。カシャンとする音。地味に画面にひびが入ってしまっているではないか。
「あ」
双方が声を上げる。
「悪い」
こればかりは弁償の話になるだろうか、とそのぶつかった相手である男子生徒はスマートフォンを拾い上げた。
「あちゃー……、ひび入ってるなぁ。ホント、ゴメンな」
「や、いーよ。オレよそ見していたから」
「そーだ。大地が悪い」
「うっせーよ、バーカ」
大地は誠一の一言に歯を立てながらもそれを受け取ると、ぶつかった男子生徒を茫然と見る。これに気付いた彼は怪訝そうに片眉を上げた。
「えっと?」
「……あ、うん。や、別に。何でもない。それよりもありがと。えっと、二組だよな?」
男子生徒の履いている校内スリッパを見る限りは自分たちと同じ学年だとわかるし、何より隣のクラスで見覚えがあるのだった。
「うん。オレ、桜。確か、秋島と……児玉だろ? この前、田んぼに突っ込んだヤツ」
そう言う桜と言う男子生徒はケラケラと二人に対して笑った。なんだか、二人セットで田んぼに突っ込んだと思われたのが嫌だったのか、誠一は「コイツだけだ」と訂正させる。
「独りで田んぼにダイブして、独りで勝手に汚れたバカだ」
「事実なのに、反論したいイラ立ちがあるぜ」
誠一の正論に口を尖らせる大地は、そんなことよりもとしてもう一度桜を見た。誰かに似ているような気がするが、そこまで思い出せそうにはない。だとしても、そのようなことを口に出すのもおかしいから「それじゃあ」と別れを告げると、誠一と共に教室へと戻るのだった。




