17話 忘れてはならない重要なこと
気にしたら負けだ、として空もカンナも何も見なかったことにしていた。だが、チアの格好が気に入ったのか、洋子は「すごいですね」と競技で暴れ回って点数稼ぎをしている大地に感心する。
「赤チームさんの方の点数が一番ですよ。秋島さんって、運動が得意なんですね」
「得意ってゆーか、なんてゆーか……」
「てか、あのセンパイ一つだけなんとかなる方法があるって言っていたケド、どうなったんだろ?」
「や、アレは何もならないでしょ」
鼻白むカンナではあるが、彼女はあのショッピングモールでの出来事は知らないはずだ。空は一つだけ仮説を立てた。ここに大地の姉を連れてくる、ということ。彼は自身の姉にあまり頭が上がらないようだったはずだ。
「つーか、流石に他校生が暴れ回ってるのも問題あるでしょーに……」
そう言うと、カンナは席を立った。そうだ、もうすぐ最後の競技が始まるのだ。最後の競技はチーム対抗リレー。彼女はその役を買っているのだ。
「三春さん、頑張ってください。秋島さんとの対決でしょうか」
「や、わたしは最初に走るからそれはナイですよ。どうせ、アンカーでしょ。あのヒトは」
それについて否定はしない。ありえないわけではないのだから。大地だけで赤チームの独壇場なのだから。
「だとしても、その方法とやらを早くやって欲しいモノだけども」
もっともな話だ、と苦笑いする空たちをよそにカンナは入場門へとやって来た。そこには喜色満面の大地が待ち構える。
「よー、三春。セーシュン楽しんでるか?」
「自分が楽しめないからって、他校で暴れないでくださいよ」
眉根を寄せて、そう言うカンナに大地は得意げに答えてきた。
「いーじゃねーか。オレはセーシュンを大いに楽しみたいんだよ」
「とか言って……八姫農業高校には文化祭があるじゃないスか。いーなぁ、こっちは歌うだけのヤツですよ」
「残念だったな。オレは文化よりも体育系なんだよ。帰宅部だケド」
この答えにカンナは何も言えず、『方法』はまだかと思いを馳せるしかなかった。
本当に今年の体育祭は大丈夫なのだろうか。心配そうに競技内を見ていた空はテントの後ろの方で声がしていたことに気付いて、振り返った。そこにいたのは上級生とおそらく他校の生徒。玲も明も、浩子も気付いたようでそちらの方を見ている。洋子に至っては気にしないのか、カンナと大地を応援していた。
上級生たちが気になった空たちはこっそりと盗み聞きを立てる。
「悪いな、児玉」
「や、オレは別に構わんが……」
上級生たちから児玉と呼ばれた青年は競技場を見た。
「アイツはバカなの? ハチマキと応援団の衣装か? あれ着とけば周りに溶け込めるとかでも思ってるバカなの?」
「どうも一般が参加できるというウワサを嗅ぎつけてきたらしい」
違う。そうではない。空とカンナが誘ったまでで、まさかここまで荒らされるとは思わなかったのだ。これには申し訳なさそうに表情を引きつらせた。
「ふぅん。まー、バカのハチマキの色と得点板を見る限り、そーとー暴れ回ったなぁ」
「オレたちもどうにか頑張っているが、秋島の身体能力には敵わなくて」
「や、敵うと思ったら大間違いだ。なんでかってゆーと、アイツはバカだから。あのバカが迷惑かけて悪かったな」
そう言う青年は上級生たちに頭を下げた。
「とりあえず、オレはバカを止めればいーの?」
「う、うん。アンカーだけど、よろしく頼む」
上級生からハチマキを受け取ると、青年は大地の方へと向かった。
こちらの方にやって来た自分と同じくらいの高身長の青年を見て、大地はにやりと不敵な笑みを浮かべる。
「よー」
「オマエ、暴れるなよ。見ろよ、あの得点板。バランスが崩れるわ」
あからさまに不均等な得点板へと指差して、大きくため息をついた。これに大地は「そーだな」と肯定する。否定はしないらしい。
「いーじゃねーか。体育祭に見に来た一般人なんて、目立ってナンボのモンだろ。見ろ、あのお母さんを。我が子のために旗まで作っているぞ。見ろ、あのお父さんを。女子生徒をナンパしているぞ」
「ソレ、大地はあのヒトらと同列ですと言っているんだが?」
「はっはっはっ。バランスが狂っているからこそ、誠一も出てきたんだろ? 誰かさんに助けて、って言われたんだろ?」
勝負しようぜ、と話を持ちかけてきた。
「どーせ、アンカーだろ? 買った方が明日の昼飯奢りな」
「へえ? その昼飯はケチじゃないだろーな?」
「もちろん」
その勝負に二人は悪童がごとく、黒い笑みを浮かべた。
アンカーの一つ前を走っている生徒が同時に大地と誠一にバトンが渡った。それと同時に本部テントからアナウンスが鳴る。
《全校生徒のみなさん、先生方、保護者の方にお知らせです。これは紅花高校の体育祭です。決して、町内の運動会ではありません。もう一度繰り返します。これは紅花高校の体育祭です》
会場中にそんな放送が入った。席に座っている空も走り終えて競技を眺めているカンナも我に返るようにして思い出す。
「そーだよなぁ」
紅花高校体育祭史上初の一般参加者アンカーである大地と誠一は互角に走っていた。いや、若干大地の方が速い。徐々にではあるが、彼らの差が開きつつある。
「……くっ!」
「どーしたぁ! オワリか!?」
大地は余裕の笑みを見せて、誠一を煽る。そんな彼ははゴール直前である物を目にする。
「秋島さん、頑張ってくださーい」
洋子のチアガールの姿。そこからは一陣の風が吹いて――。
「きゃっ!?」
慌ててスカートを手で押さえた洋子に鼻の下を伸ばしていると――「ゴール!」そう、聞こえた。
そう、大地が油断している隙に誠一が追い越して一着でゴールしたのだ。つまりは負け。遅れてゴールラインを越えた彼に「よろしくな」とにやける。
「明日の昼飯金が足りないとかゆーなよ」
「ちくしょぉおおおお!」
その場で一人嘆いているのではあるが、正直な話どうでもいいと空は思っていた。一般人アンカーなんて盛り上がるわけでもないし、何より本部テントの方で競技を見ている教師陣たちも真顔だからだ。
これを機に、紅花高校体育祭は一般人参加を禁止したと言わざるを得なくなってしまったという。




