16話 嵐注意報
競技が失格なるほど暴れ回った空とカンナは頭にたんこぶを作りながら、体育館の入り口にある外階段に座り込んで弁当を食べていた。現在はお昼休み中でどの生徒たちも美味しそうな弁当を頬張っていた。
カンナは自身の弁当の中を突きながら空の弁当の中を覗き込んでくる。
「ねーねー。リンゴちょーだい」
「いーけど、オレにも何か寄越せ」
「タマゴ焼きでいい?」
カンナは答えを聞く前にして、箸で卵焼きを摘むと、それを空の弁当の中へと入れた。そして、勝手ながらリンゴを取る。彼女のその行動に、少し顔を赤らめながら困惑していた。
「あのな……」
箸の反対側で摘むのであれば、わからなくもない。だが、通常使う方で摘んだことに関して、空は気恥ずかしさを感じ取っていた。これでは間接キスではないか。一方でカンナはというと、何も思っていないのか、取ったリンゴを口の中に入れていた。
「何? リンゴは食べたもんね」
「やっぱ、何でもない」
なんとも思っていない様子で、カンナはしゃくしゃくとリンゴを食べる。ならば、自分もこの卵焼きを食べなければならないとして早速食べようとしたときにどこからか舌打ちが聞こえてきた。それにびっくりした空は地面に落としてしまい、やるせない表情をする。
その音の方を見ると、そこには怪訝そうな面持ちでこちらを見ている大地と笑顔で手を振っている洋子がいた。その少し一歩後ろには運転手も。
「オマエら、やっぱ付き合ってんだろ」
大地が二人のもとへと近付いてくるや否や、そう嫌味ったらしく言ってくる。それに空は満更でもなさそうな表情を浮かべながら恥ずかしそうに俯いた。カンナは平然とした態度である。
「こんちは。紅花高校へよーこそ。今は昼休みっスよ」
「見ればわかる。プログラム持ってる?」
そう言われたため、空は自分が持っていたプログラムを渡した。それを一緒に眺める大地と洋子。
「午後一で女子はチア、男子は応援団か。二人とも出るか?」
「もちろんですとも」
カンナはそう答えながら二人にチアガールで使うポンポンを見せびらかしてきた。
「なるほど。ンで、この一般でも参加できるのは星印がついているヤツだけか」
そう言う大地の視線の先はプログラムに書かれている競技名の傍らに小さくついた星印があった。
「そうっスね。なんだったら、これからの競技に参加しませんか?」
「だな。冬野も参加するだろ?」
「そうですね。私はチアというものに興味がありますね」
洋子が指差した箇所には星印があった。これも一般参加ができるらしい。
「ンじゃ、オレは応援団かな」
ひとまず参加する競技を決めた二人はプログラムを返して、一般参加申し込み受付のテントまで行ってしまった。これに伴い、空たちもお昼ご飯を食べ終えて、午後の準備に取りかかるのだった。
◆
「夏斐さん、三春さん!」
空とカンナが自分たちのクラスのテント内でおしゃべりしていると、チアガールの格好をした洋子が嬉しそうにやって来た。
「チアって可愛いですね! 私、こういうの着たことがなかったから新鮮ですよ」
そう言う洋子と同じ格好をしているカンナは「チアやっていなければそーだろうな」と心の中で呟いた。事実、彼女も初めて着たのだ。
「でも、やっぱりフリルが欲しいですね。後尾さんもそう思いません?」
「そーですね。私としてはもう少しリボンでしょうか」
「や、それがないからこそ、チアの服は成り立っていると思うんですケド」
なんてガールズトークを始めたカンナたちを見て、黒の学ランを着ている玲は「知り合い?」と空に訊ねてきた。
「スゲー、カワイイ人だな」
「冬野センパイっていう椛花学園のヒトだよ。ちょっとワケありで知り合った」
「何、その羨ましいの」
別に羨ましい物でも何でもないんだけれどもな。あの誘拐のことや顔のない人物のことを触れられないため、ふわふわとしか話せなかった。それでも玲は質問してくる、してくる。そんなに洋子が気になるならば、話しかけりゃあいいのに。空がそう思っていると――。
テントから少し離れたところで上級生たちが困り果てたような顔持ちでいることに気付いた。
「どーしたんだろ」
それは何も二人だけではない。明もだ。
「気になるな。訊いてみよーぜ」
「だな」
深刻そうな顔をする上級生たちが気になる三人は訊ねてみた。すると――。
「今年のウチのチームは優勝できないかもしれない」
もはや、諦めきったその表情。どういう意味だろうか、と思っていると、一人の上級生が赤チームの方を指差した。その先にいたのは大地である。彼は大声を張り上げて、チームを結束させようとしていた。
「いいかぁっ! オレたち、赤チームが優勝するんだ!!」
「おおっ!」
大地は一般人であるのに、そのチームの団旗を手にし、赤チームの指揮を挙げようとしていた。この状況を見て、上級生たちは悔しそうにし、空たちは困惑していた。
どこにどうツッコめばいいのやら。
「一般の人ってあそこまでできるっけ?」
ようやく玲が声に出す。その独り言のような問いに一人の上級生は答えてくれた。
「秋島ならできる」
「チームの旗って、リーダーが持つんでしたよね?」
「秋島ならやりかねん」
またしても、悔しそうな顔を見せてくるが、三人はおかしいだろとしか思えない。
「や、オカシイでしょ。なんであの人が普通に、周りに溶け込んでいるんスか。みんな、あの人と初対面でしょ」
「違和感ないのがスゲー」
困惑から呆れたを通り越して、もう感心するしかない三人をよそに「それが秋島だ」と断言してくる。
「アイツは一般参加のモノすべてに参戦して、赤チームを独壇させるつもりだ。それに敵うヤツなんていると思うか?」
「…………」
「そして、アイツはムダに身体能力とカリスマ性がある」
それは見てわかる。
「だが、一つだけ回避方法があるから、ちょっとオレは抜けるぞ」
上級生はそう言うと、その場を立ち去ってしまった。彼の言う身体能力とカリスマ性。これがあるおかげで、今年の紅花高校の体育祭は大荒れをするらしい。しかし、勝ち負け以前にどうでもいいと思っている三人は見なかったことにしてカンナたちの輪の中へと逃げ込むのだった。




