15話 二人の考えは一緒である
空とカンナが所属するチームは緑チームであり、現在四チーム中二位という結果が出ていた。彼らは現在あっている綱引きを眺めている。彼女はまだ先ほどのアンパンを引きずっているようである。ずっと隣で「アンパン」と不貞腐れていた。
「マジ騙された」
「オマエ、頭いーのにそーゆーとこはキッチリ引っかかるのな」
「でも、信じたいじゃん? この青春の中で美味しーアンパンがあったって」
「まーまー。でもさ、三春さんスゴいよ。食べて、パン屋のアンパンじゃないってわかったの」
少しばかり、アンパンのことで絡まれている空が可哀想だとでも思ったのか、玲が感心し出してきた。事実そうである。口に含んで五秒足らずで判別できたのだから。
玲がそう言うと「そりゃーね」そう、当然だと言わんばかりの得意げな表情を見せた。
「アンパンはカツ丼の次に好きな食べ物だもん。多分、花町のアンパンは食べ尽くしているはず」
この発言に話を聞いていた玲は苦笑いした。つられるようにして、近くに座っていた明と浩子も肩を震わせて笑う。
「てか、次の出番って何?」
「玉入れじゃなかった?」
「じゃあ、ウソついたセンパイに向かって投げよ」
それができないならば、いつしか仕返しを決行してやる。そう言うカンナは空の膝にある絆創膏に気付いた。
「あっ、ケガ大丈夫?」
「いちおーは」
「じゃあ、ツバつけとけばスグ治るね」
カンナがそう言うと、玲と明は吹き出してしまう。だが、空はなんとも思っていないのか「手当てしてもらってるから」と言う。
「そんなコトするより確実だし」
「女々しい。男は黙ってツバかサケでしょ」
更に吹き出して鼻水まで出そうになる二人。明はそっと玲に「三春さんスゴいコト言うね」と耳打ちする。
「こーいうヒト初めて見た」
「安心しろ。オレもだ」
そんな二人をよそに空は「あのな」と片眉を上げる。
「キチンと消毒しておかないとダメだろ。つーか、最近は『目から酒を流すシリーズ』を見ているんだっけ?」
「うん、ブルーレイボックス買ってもらった。ね、後尾ちゃん」
「ねー」
どうやら、浩子もその『目から酒を流すシリーズ』を見ているらしい。しかし、それを知らない男子二名は顔を見合わせる。
「えっ、待って。その、目からなんとかって何? 聞いたコトないケド」
明の言葉に女子二名は衝撃を受けた顔を見せてきた。えっ、何? とても有名なの? 知らないよ、そんな物なんて。
彼女たちの反応に困っていると、空が「知らなくて当たり前だよ」と教えてくれた。
「それ任侠モノだし、オレらの年頃が見るモノでも何でもないから、知らなくても何もオカシくはない」
「はぁ!? あの松谷小嵜カントクの作品知らないの!?」
誰だ、それは。
「マッタンのコト知らないなんて変わってるね」
「いや、変わっているのは二人の方だから。というか、自分たちがジョシコーセーだってのを忘れるなよ……」
◆
そうこうしている内に自分たちの出番である玉入れがやって来た。それぞれの位置について、玉を持つ。それに伴い、空はカンナの方を見てひやひやしていた。なぜならば、先ほど【ウソついたセンパイに向かって投げよ】などと言っていたからだ。
カンナは有言実行するタイプである。それが怖い。
「カンナ、人に投げるなよ」
「えー、聞こえませーん」
本気で投げつけるようで、競技開始の合図と共にアンパンホラ吹き先輩――百メートル走で空たちに本気出せと言っていた上級生に向かって投げた。それは吸い込まれるようにして、ぶつかる。
「お、おいっ!」
本当に止めろ、と言う前にして自分の頭にも何かが当たって来た。何か、と思って地面の方を見ると――。
そこに転がっていたのは競技相手である赤チームの玉。何もそれは一つだけではない。いくつものそれがこちらに向かって当たってくる。犯人は百メートル走で空を転ばせた生徒である。彼はこちらを見てにやにやとしていた。
「……カンナ」
「何? わたしは怒られようともゼッタイやるから」
「ちげーよ。前言撤回」
空は地面に落ちているいくつもの赤色の玉を拾い上げた。
「ガチでムカつくヤツには投げたって、誰にもモンクは言わせねぇ!!」
それらを転ばせてきた生徒に向かって投げつけた。意外とコントロールはいいのか、その生徒の頭から始まるようにして口の中へと勢いよく突っ込まれる。的確に人体の急所に当たっていく。
「お、おい!? 夏斐!?」
流石にそのようなことをしないと思っていたのか、玲はびっくりしたようにして空を見た。慌てて、審判の方を見る。このままでは自分たちのチームが失格になってしまう可能性だってあるのだ。
「美野島ぁ! 手伝え!」
「や、三春さんのほー止めているからムリ!」
そう言う明は浩子と共に上級生に向けて投げつけようとするカンナを止めていた。
「いっ! マジかよって、夏斐もそっちもヤメろって!」
「いやっ! オレはアイツがあんなコトをしなければ、転ばせたコトを忘れるつもりだったが……誰が忘れるかっ!」
静止を聞かずして空は投げつける。すべての玉は相手に外れず、体中に吸い込まれているようであるのだ。
「つーか、これそーいうのじゃねーから! って、オマエはムダにコントロールいーな!?」
競技とは全く関係のないことをしていた三人は結局主審の目に留まり、彼らが所属する二チームはどちらも玉入れの競技が失格となってしまうのだった。




