9.5話 趣味は人それぞれ
カンナは商品の値段とにらめっこをして悩んでいた。
現在手にしているのは薄いピンク色をして、なおかつフリルやリボンが装飾されたショートパンツである。ここはショッピングモール内にある『シュガーエンジェル』という服の専門店である。彼女は少し離れた場所にいる二人の人物を見た。一人は洋子であるが、もう一人はカンナの友人である後尾浩子であった。
三人がここにいるのは、先日浩子から一緒に遊ぼうという誘いを受けたから。そこでカンナはどうせならば、洋子も呼んだのだ。もしかしたならば、この二人が意気投合するかもしれないとして。事実そうであった。彼女たちは楽しそうにして服を選んでいる。
カンナは再びショートパンツの値段に目を移す。
『\9,680』
「……キミ、九千円以上もするの?」
苦笑いする以外何もできない。自分はアルバイトをしていないし、何より所持金もギリギリだ。一応毎月父親からお小遣いをもらってはいるが、このような物を買うならば、すぐに底を尽きるだろう。
流石にこれは買えないな、として元あった場所へと戻すと「なんかゴメンね」と浩子が申し訳なさそうに言ってきた。
「私たちの買い物に付き合ってもらって」
「や、いーよ。ただ単に、お金が足りそーにないだけだし」
店内を改めて見渡す。白やピンクと言った淡い色のプリンセス系統の服しか並べられていないようである。実のところ、カンナの趣味ではない。続け様に浩子が手にしているロングスカートを見た。このような物を自分が着用したあかつきには空に「大丈夫?」となぜか心配されるだろう。
なんて思っていると、浩子はそれを充てがってきた。
「んー、春ちゃんってこーゆーの似合いそーだけど、どーかな?」
「え」
「三春さん似合いますよ。きっと」
洋子も気付いたのか、自身が欲しいと思っているであろう商品片手に褒めてくる。だが、要らないとはっきり言えないカンナは言いたい気持ちを抑え込んで「あー」と値札を瞥見する。
『\12,840』
「所持金足りないからアウト」
「そっかー、それはそれで仕方ないね。じゃ、これは私が買っちゃおーかな?」
浩子はどこか残念そうに手に持っていたロングスカートを洋子と共にレジカウンターへと持って行ってしまう。二人が行ってしまい、カンナは今一度、九千円以上もするショートパンツを手に取った。
「悪いコじゃないんだよなぁ」
そう一人呟いた。そして、向かい側にあるカジュアル服専門店を見る。店名は『キャンディポップ』。
「後尾ちゃんたちって、あっちのほーは好みじゃないのかな……?」
向かいの店を眺めていると、清算を終えた二人が戻ってきた。カンナが向けている視線に浩子は気付く。
「……もしかして、あっちのお店に行きたい?」
「へ?」
そう言われて、肩を強張らせた。
「あっちのお店に行って――みますか? センパイ。もしかしたら春ちゃんの好みそうな服とかもあるかもですし、私たちも気に入りそうな物もあるんじゃないですかね?」
どうですかね、と浩子は洋子を誘う。それに彼女は「そうですね」と乗り気のようである。
「あちらのような服を着用したことがないから、新しい発見があるかもしれませんね」
「ですね。じゃー、行ってみましょーか。行こ、春ちゃん」
浩子はカンナの手を引いてシュガーエンジェルを出て、キャンディポップへと入店する。店内はいかにも今時の女子学生が好みそうなカジュアル系統の服が置かれていた。
それにカンナは早速手近にあった商品を手に取って吟味していく。そんな彼女を見てやはり、こちらの店で服を選びたかったんだな、と察する浩子と洋子。自分たちとの好みが違っているから少しばかり残念だと思う。
「ここのお店は初めてだから、とても不思議な感じですね」
「そもそも、お二人ってあっちの店しか入らないんですか?」
カンナは今の二人の服装を見た。彼女たちはまさにお嬢様が着用しているフリルやリボンが付いた物のため、そのような考えしか思いつかないのだ。
洋子がそういう服を着るのはわからなくもない。彼女が本物のお嬢様だと知っているから。だが、浩子の場合は予想がつかなかったのだ。
「こっちもだけど、隣町にある『プリンセス×プリンセス』っていうお店が利用頻度が高いかな?」
「冬野センパイは?」
「私ですか?」
興味津々とでも言うように、適当に商品を手に取っていた洋子は「そうですね」と言う。
「私はそもそもが既製品を購入することは滅多にないので」
「えっ、お、オーダーメイドですか?」
「はい」
なんて羨ましいんだ、と自身の耳を疑うしかできない。だが、それは事実である。
「あっ、もしよろしかったら、三春さんと後尾さんの分もお作り致しましょうか?」
「……一着どれほどですか?」
無料ではないことは十分に承知している。それでも、カンナは値段を聞いてオーダーメイドしてみようかなと思っていると――。
「\×××からですね」
その高額に思わず二人は鼻水を吹き出しそうなほど驚愕した。流石の浩子も表情が引きつっているようだ。
「どうですか?」
「そんなコトしたら、今月の三春家の食事は水道水だけになりますよ」
「わ、私も……お小遣いも貯金も……」
気持ちは嬉しいのだが、作れそうにはない。故に断りを入れる二人に洋子は少しばかり残念そうにしていた。それが正直心にくる。
「それよりも、わたしたちが遊ぶにあたって今後からショッピングは控えましょーよ……」
それが一番賢明だ、と浩子は頷いた。しかし、洋子はあまりわかっていないのか、首を傾げていたという。




