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青春と都市伝説  作者: 池田 ヒロ
◇春の事変
13/89

10話 スリル満点、オーマイガー!

 とある休日。花町の六姫(むつひめ)地区にある大通りのバス停前にて。カンナが欠伸を掻きながらやって来ていると「よー」そう、大地が声をかけてきた。


「秋島センパイ、早いっスね。もしかして、センパイも楽しみ過ぎて夜は寝られなかったんですか?」


「ンなワケねーだろ。あれ、アイツは? 夏斐」


「あとから来るんでは? チコクはしないはずですし」


 それもそうだろうな、と大地はスマートフォンを取り出して弄り出した。それを見たカンナは「今日は大丈夫ですか?」と訊いてくる。


「空に聞いたケド、先週お姉さんに怒られたって」


「……や、問題ねーよ。嫌味ったらしく、しつこくアネキに『予定があるから』って言ってるから」


「そーですか。あっ、そーいえば冬野センパイはどーなんでしょ?」


「んー、冬野もチコクはしないだろ?」


 大地がそう言うと、ちょうど空がバス停へとやって来た。彼は眠たそうに目を擦っている。


「おはよーございます」


「眠いか?」


 その質問に小さく頷いた。どうやら本人曰く低血圧らしいとのこと。


「なら、空の目を覚まさせてあげよーじゃん」


 カンナはそう断言すると、自分が持ってきていたバッグの中から緑色の何かを空の口の中へと放り込んだ。それはよく見れば、蛍光色が強かった。その何かに「なんだ、コレ」と口を動かした瞬間に大きく目を見開いた。すぐに口元を押さえ込み、その場にしゃがみ込む。


 この様子を見ていた大地は「何食わせたんだ?」と鼻白む。


「大丈夫か、コレ?」


「これは……」


 カンナは空に食べさせた物を見せた。そこにはゴーヤの絵が描かれて『GUM』と言う文字が入っている。全体的に緑色をしていた。


「ゴーヤガム?」


「ですです。イタズラ目的にしか使いません」


「自分は食べない?」


「ゴーヤ苦手なんで」


 なんて言うカンナに涙目で空は睨みつけてきた。


「オレもゴーヤがキライだってコト知ってやったんだろうが! どうせ!」


「今更、わかってんじゃん?」


 その悪い笑みに大地が「最低なヤツだ」と呟いたとき、ちょうど洋子が黒い自動車に乗って来た。車から降りてくると笑顔を見せてくる。


「おはようございます。って、夏斐さん泣いていますけど……」


「あー、このバカがゴーヤガムを食べさせたコトが原因だよ。ゴーヤ苦手なんだって」


 大地の説明に洋子は羨ましそうに空を見てきた。


「ゴーヤガムですか?」


 どうも、そのゴーヤガムを食べたいらしい。そして、カンナから一つもらい、頬張ると――。


「ん――!?」


 空と同じような反応を見せるかと思えば「美味しいです!」と高評する。これに三人はたじろぎを隠せなかった。


     ◆


 アドベンチャーワールド。俗に言う、遊園地のことである。四人が住んでいる隣町にあるどこにでもあるような遊園地なのだ。ただ、強いて言うのであれば、ここのジェットコースターはかなりのスリルが味わえるアトラクションらしい。


 そんなアトラクションを前にして、四人は揉めていた。


「いーから! オレらは行かないから! オマエらだけで行けって!」


「そうだ! ココは遊園地だし、キョーセイして乗る必要性ない!」


 空と大地はカンナと洋子に服を引っ張られていた。彼女たちはジェットコースタに乗りたいらしいようであるが、彼らはあまり――と言うよりも普通に好きではない。必死になってそれに乗るまいとしていた。


「きっと楽しいですよ? 乗りましょうよ」


「二人とも男でしょ。びしっとカッコいーとこを見せよーよ」


「カッコ悪くてもいい! 今日くらいカッコ悪くていーからその手、離せ!」


 などと、抵抗していたのだが――結局は強引に乗せられてしまう。稼働中はずっと叫び続けることしかできなかった。


「すっごく楽しいですね!」


 しかし、カンナたちはこのジェットコースターの虜にでもなったのか、今度は空たちを放置して、もう一度乗りに行ってしまった。残された彼らは顔色を悪くして近くのベンチに座り込む。


「オレ、カノジョできたらゼッテー遊園地に行かね」


「……オレも。なんで、あの二人はジェットコースターが好きなんですか?」


「スゴいからだろ?」


「意味がわからないっス」


 すると、空たちに見知らぬ少女たち二人が近付いてきた。


「こんちはぁ。もしかしてぇ、二人ダケです?」


 そんな二人に気付いた空は同年代だろうか、と少しばかり疑う。化粧が濃いからということもあって、年上なのではとも思ってしまった。


「ははっ、どー思うかな?」


 突如として、大地は今まで見たことがない爽やか笑顔で反問してくる。そんな彼を見てドン引きする。明らかにカンナや洋子とは違った態度だから。


「……あー、センパイコーハイですかぁ?」


 少女たちは周りを見渡しながら、そう答えると大地を見た。なるほど、と空は納得する。二人は彼を狙っているようだ。無理もないだろう。カンナも言っていたように、彼はイケメンなのだから。それに、本当に黙って爽やか感のある青年を演じていれば、女性は寄ってくることは間違いないだろう。だとしても、当の本人の中身は女性に対してがめついのであるが。


「うん、そんなとこだ。な、夏斐」


「そうっスね」


 気のせいだろうか。空が呼びかけられたとき、大地の目から尋常ではないほどのプレッシャーを感じ取ったのは。あの二人の名前を出すな、とでも言うような視線である。本気でこの少女たちと仲良くなろうとしているようだ。


「ところでぇ、そっちは夏斐クンってわかったけど――」


 二人は大地の方を見た。


「ん? オレ、大地」


「大地クンかぁ。ねねっ、一緒に遊ぼーよ」


「いーぜ」


 そう答えながら、空に同意を求めてきた。だが、彼が返事をする前に、着信が入った。


「あっ、スミマセン」


 誰だろう、とスマートフォンを取り出して、画面を見た。その着信相手を見て硬直する。そこにはカンナの名前が表示されていたから。


 空はベンチから立ち上がり「もしもし?」と電話に出ながらその場から離れようとする。多分、おそらくではあるが、カンナの声が聞こえたらアウトになるかもしれないからだ。


《あ、空? 今どこ? どこにいるかわからん》


 できたら、今の自分たちのこの状況をカンナに見せたくなかった。なんだったら、洋子にでもある。なんとか居場所を聞いて大地を連れていこうと試みるが――。


《や、多分わたしらが行くほーが早い》


 居場所を教えてくれない。


「ちょっ、それ――」


「夏斐クン、誰と話してんのぉ?」


 カンナは空の電話越しから知らない同性の声が耳に入ってきたのか《誰といるの?》と不振がっている。


《知らないヒトの声が聞こえた》


「……や、誰って……」


 どう説明したらば、いいのか困惑する空の後ろから「居た」とカンナに声をかけられてしまった。しまった、見つかった!


「もー、何? さっきのとこにいるんだったら、そこにいるって言えばそっちに来るの――誰?」


 そうカンナと洋子が怪訝そうに空の隣にいる少女に視線を移した。


「アンタらこそ誰? 何? 夏斐クンの知り合いなの?」


 そう質問するのをよそに洋子はベンチに座ってもう一人の少女と話をしている大地を見た。


「秋島さん、彼女たちをお誘いになられたんですか?」


 洋子の存在に気付いた大地は「あっ」とどこか気まずそうな顔を見せる。その顔が決定的な証拠とでも言うのか、少女たち二人は怪訝そうにしていた。どうやら墓穴を掘った感じが拭えない。


「だ、大地クンたちって二人で来たんだよね?」


「秋島さん、私たち四人で遊びに来たんじゃ……」


 もう言い逃れなんてできない。さて、この局面どうしようかとない頭を回転させていたが――。


 この場に二つの痛々しい音が響く。そして、少女たち二人はそこから立ち去ってしまった。


「いやぁ、現実で女にビンタされる男を初めて見た」


「ンだよ、人数を二人間違えただけじゃねーか」


 絶対そういう問題ではない、と空は頬を赤く腫らしながら口を尖らせているのだった。

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