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青春と都市伝説  作者: 池田 ヒロ
◇春の事変
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8.5話 あぜ道にご注意 

0.5話系の話に空は全く登場しません。

 八姫農業高校の休み時間での出来事である。


 学内では三年一組の男子生徒四人が鬼ごっこをしていた。その鬼ごっこのルールは制限時間三十分で最後の鬼になった物が参加者に売店で何かを奢るというものだった。この学校の敷地内は割と広いのであるが、その敷地内すべてを使用するらしい。


 その鬼ごっこの参加者の一人である大地は、校舎の三階の廊下で項垂れていた。今の彼は鬼の役であり、他の参加者を探しているのだが、範囲が思った以上に広範囲のようで逃げた参加者を見つけきれなくて困っているようである。


「範囲を狭めりゃ、よかった」


 なんて嘆いても、このゲームのルールを作ったのは大地自身である。何より、最初に鬼役を担ったのも当の本人だった。


「どこに隠れているんだ? これ、かくれんぼじゃねーよ」


 そうため息をつくと、廊下の窓から身を乗り出す勢いで鬼ごっこの参加者を探す。見落とさないように、見逃さないように。そうやって探していると、中庭に一人いた。どこに大地が潜んでいるのかを気にしているのか、挙動不審な様子で周りを見ているようである。


 見つけたことが嬉しくて、つい大声で「見つけたぁ!」と叫んだ。この大声に気付いた男子生徒は当然三階にいる大地の姿に気付くと、すぐさま踵を返した逃げ出してしまう。


「待ちやがれ、美野島ぁ!」


 逃がすものかとそこから身を乗り出して、渡り廊下の屋根の上に飛び乗り、更には中庭の方へと飛び降りた。なんとも危険な行為。中庭中に彼の着地音が響く。それを一切省みらず、美野島と呼んだ男子生徒――(つばさ)を追いかけ始めた。一方で翼は校舎外へと逃げていく。


     ◆


 鬼ごっこの参加者の残りの二人の男子生徒たちは校内にある農業実習場付近で辺りを頻りに見渡していた。


「秋島のヤツどこにいるんだろ? 出会い頭だったら逃げきれる自信がないけど」


「アイツ、ムダに足が速いしな」


「その運動シンケーのよさ、野球部の助っ人にでも雇いたかったぐらいだぞ。秋島とかがいれば大会はいートコまでイケたんだけどなぁ」


 大地は一年からどこの運動部にも所属しておらず、いくら勧誘したとしても入部する気はないと言っていたのだ。帰宅部のくせにして無駄に運動神経がよくていろんな運動部からは勧誘もあったはずなのに。


「なんで入りたがらないんだろ」


「あー、それは――」


 何やら事情を知っていそうな一人の男子生徒が理由を語ろうとした瞬間、「待ちやがれ!」そう、昇降口の方から大地の荒げた声が聞こえてきた。鬼が来た!


「逃げろ!」


 このような場所でのんびりとしていれば、間違いなく捕まってしまう。何より、大地の気迫が恐ろしいほどビシビシと伝わってくるのだ。これは逃げざるを得ない。そこまでして、奢りたくないのか。


 二人は実習場の奥の方へと逃げ込む。そのまま真っ直ぐへと走っていくと、細いあぜ道へと出てしまった。それは翼もやってくる。どうやら、自分たちも巻き込むために来ているようだ。


 それに加えて大地の本気走りは三人の予想以上のもの。走りにくいはずなのに、あぜ道を平然と走っていることが衝撃を受ける。校内用のスリッパを履いているのにだ。


 これに誰もが逃げ込んだ場所に後悔する。なぜならば、後ろから追いかけてくる大地はもちろんのこと、この時期のあぜ道の両脇にある田んぼには水が張られているからである。まだ野菜の苗を植えた畑の方へと逃げればよかったと思っても、もう遅い。


「ひっ!?」


 追ってくる大地の様子を見るために後ろを見た翼は悲鳴を上げた。いつの間にか距離は縮まっているのである。後少しの勢いで捕まりそうだ。


 そうしいて、翼の制服を捕らえとしたときだった。勢いよく足を滑らせてしまい、大地は水の入った田んぼの中へと落ちてしまう。大きな水しぶきが高く上がった。


「だ、大地?」


 まさか、ここで落ちるとは思わなかったのか、一人の男子生徒が声をかけるが――すぐに復活した。泥なんて関係ないとでも言うようにして、再び三人を追い回し始めるのだ。


     ◆


 制限時間である三十分が過ぎたところで四人がしていた鬼ごっこは終了する。結果としては使用する範囲が広過ぎたことにより大地の独り負けとなり、三人に売店で菓子パンとジュースを奢る羽目となった。


「クソッ!」


 悔しそうにしていると、スマートフォンに一件のメッセージが届いた。送り主は空である。


『今週末、おれの友だちが合コンすると言っていますが、参加しますか?』


 合コン、という単語を見てすぐさま返信をする。反射神経のごとく。行くに決まっているではないか。生まれてこの方、女子と会話や遊んだことはあっても付き合うことまではなかったのだから。


 これでも恋人が欲しいお年頃。参加は当たり前。そうだとしても――。


――夏斐って、合コンとかするタイプには見えないのにな。


 参加したいという気持ちとは裏腹に、空からの誘いに驚きは隠せないようである。


 そうして、スマートフォンの画面を見ていると――「秋島」そう、通りかかったクラスの担任に声をかけられた。


「なんで、ドロだらけなんだ」


「フツーに田んぼに落ちただけっスよ」


「そーか。いや、別に落ちたとかはどーでもいいけど、後ろ」


 担任は後ろを指差した。そこにあるのは泥の足跡だらけ。怪訝そうにする彼に大地は「誰もいませんよ」と真顔で答える。


「後ろですよね? 後ろはゲタ箱でしょ」


「下だ、下。廊下がどうなっている?」


「……足跡のキセキ!」


 この返答に担任は大地の頭を教科書で軽く叩いた。乾いた音がその場に響き、菓子パンを頬張っていた三人は肩で笑う。


「ウマくないから掃除しとけ。次の授業の先生には言っとく……前に秋島は先生たち専用のシャワー室で自分自身の掃除な」


「はいはーい」


 大地は面倒そうに返事をした。


「というか、何をして田んぼに落ちたんだ?」


「オニごっこしていたらっスよ。あぜ道って走りにくいっスね」


 そう笑いで誤魔化そうとするが、それが効くわけでもなかった。


「そんなトコで鬼ごっこするな。実習場で暴れるなよ。これ、生活指導の先生方にも言っておくからな」


「うへぇ……またハンセー文っスかぁ?」


 大地は嫌そうに顔についている乾いた泥を擦るようにして落とす。


「反省文もこの前みたいなのは書くなよ」


 そうして大地はクラスの担任に連行されてしまうのだった。

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