8話 唐突さは困るものである
「おっ、冬野センパイから連絡」
カンナの一言で空自身にも連絡が来ていることに気付いた。校内の自販機で買った紙パックのジュースを飲みながら確認する。
『今度、みなさんで遊園地に行きませんか? ご予定をお尋ねしてもよろしいですか?』
「しっかし、センパイって年下のオレらにでも敬語なんだな」
連絡内容を確認した空の第一感想がそれだった。それにはカンナも同意せざるを得ないだろう。
「あのセンパイ、マジモンのお嬢様でしょ? なんか、秋島センパイとはセーハンタイだよね」
「だな」
「そんで、空は行く? 多分遊園地って隣町だろーケド」
「かな。せっかく誘ってもら――」
空が洋子に返信をしようとした時とき、教室のドアが勢いよく開けられた。そこへと入ってきたのは隣のクラスの担任である。そうだった、次の時間は英語だった。
「ほら、チャイムが鳴るからさっさと席に着け!」
まだチャイムが鳴るまで五分もあるのに、早くないだろうか。その発言に戸惑いながらも、クラスメイトたちは渋々と自席へと着く。なんとも理不尽だ、と思いながらも空がスマートフォンを弄っていると――。
「夏斐! 授業始まるから電源を切れ! カバンの中に入れろ! ジュースをさっさと飲めっ!」
だからまだ五分もあるじゃないか。不服そうに電源を切ってリュックサックに仕舞い込み、残り少なくなったジュースを飲みきってごみ箱へと捨てた。それでも、自分はまだ何も言われていないとでも言うように、カンナは弄っている。更に、教壇から彼女の行動は丸見えのようだ。おーい、見られているぞ。
「三春! 仕舞え!」
「はーい」
明らかに不快そうにしているようだ。話は聞いているが、実行しようとしない。この教師にとっては問題児として捉えられてしまうのではないだろうか。
言うことをなかなか聞き入れなかったカンナに「授業を始める!」と勝手に時間を進めた。教室に戻ってきていない生徒だっているのに。そして、本当に授業を開始してきたため、彼女は怪訝そうに電源を切って鞄の中へと仕舞い込んだ。
もちろん、時間を前倒しして授業を始めてしまったため、遅れてやって来たクラスメイトたちは理不尽に叱責されてしまうのだった。
◆
英語の授業を終えて空が大きくため息をついていると、二つの影ができた。そちらの方を見ると、同じクラスの男子生徒が二人いた。
「ハゲの授業は忘れてゴハン食べよーぜ」
「そーだな」
コンビニの袋を手に提げた男子生徒は適当な席から椅子を借りて座った。ちなみにカンナは別の席で友人と昼食を採っているようである。
「ホント、さっきの忘れるべきだよ」
「高崎君、トイレ行ってただけのにね」
弁当箱を持った男子生徒も同様に適当に椅子を借りて座る。彼から高崎と呼ばれた生徒――玲は「美野島も大概だろ」と苦笑いする。
「美野島って、言うほど字がヘタじゃないだろ。なのに、キレイに書けって……」
玲にそう言われ、美野島と言われた生徒――明も苦笑いするしかない。
「アレには困ったなぁ。夏斐君も授業がまだ始まっていないのにスマホ弄るなって怒られちゃったしね」
「ホントだよ」
空もリュックサックから弁当箱を取り出して昼食を採り始める。
「まー、授業が始まった原因はカンナだけどな」
その事実を聞いて、授業に遅刻した玲はどういうことだ、とでも言うようにしてサンドウィッチで咽てしまった。焦ったようにしてミネラルウォータを飲む。
「三春さん何して?」
「俺と同じくスマホ弄っていて、センセのゆーコトを聞かなかった」
「納得したくないな。でもさ、三春さんも三春さんでスゴいな。あんま、あのハゲに歯向かっていると点数引かれそうだからオレはしないけど」
「それはカンナにしかできない芸当だと思うケドな」
そう言う空は別の席で友人と楽しく昼食を食べているカンナを瞥見した。彼のその発言に二人は苦笑いをするしかない。それ以外の表情を作ることができないのである。
「やっぱ、三春さんはスゴいわ」
もう一口ミネラルウォータを飲む玲のもとに一件のメッセージが届いた。それを確認する彼をよそに空と明は別の話題で弁当を食べている。
「――いいよね。ボクもやったよ」
「結構オモシロいよな。なー、高崎は……」
そう空が話を振ったとき、玲は手の平を見せて静止させる。思わず言葉が詰まってしまった。
「二人とも今週末は空いているか?」
「今週末?」
そう言われて二人は予定を確認する。空はスマートフォンの電源を入れると、カンナからメッセージが入っていることに気付く。どうやら大地と洋子にも全体グループに送っているようである。
『来週末なら問題ありませんよ』
自分たちが今週に遊園地に行かないとなるならば、一応空には予定は空いていることになる。
「オレ空いてるぞ」
「ボクも」
もしかして、遊びのお誘いかとも思ったが――。
「じゃー、今週末合コンするぞ」
思わず口に含んでいた物を吹き出しそうになってしまう。
「何言ってんの」
「だから合コンするぞって」
「聞こえなかったワケじゃねーよ。なんで合コンなんだって訊いてんだ」
「や、姉ちゃんが合コンをするからそっちで四人ほど集めてこいって言うモンでね。というコトで、二人に一人イケメンの知り合いいない?」
「そんな、唐突に言われても」
いるわけがない。そう答えようとした空ではあるが、とある人物が頭に思いつく。いや、確かにその人物はイケメンではあるが、その誘いに乗ってくれるかすらも甚だあやしい。
――昨日会ったばっかだし、断るかもしれないけど……。
【カノジョいない歴と年齢が同じのヒト】
カンナの言葉を思い出して、駄目元で大地にメッセージを送ってみた。流石に断ってくるかなとも思っていたのだが――。
『いく。くわしく』
三十秒も経たずして返信がくる。まさか短時間で食いついてくるとは思わなかったようで、ミートボールを喉に詰まらせかけてしまうのだった。




