heroine is back. 記憶 2
学は収監房の中をじっと見やっている。マッケンは学を見やり”どうかしたか ?”と、問いかけた。
「みんな金髪ですよ…。」
「ん…。そうだな。あ、あの一番きらきらしてる子だ。」
マッケンが言った。きらきらねぇ…。と、学は首を傾げながら女子たちを見やる。いまいちどれがきらきらかが分からない。
「どの子です ?」
「あの子だよ。」
と、マッケンは指を指すが、離れているのでそれもやはり今一わからない。仕方なく学は収監房の門兵に視線を向けた。門兵は小声でおデコに湿布を貼っている子ですと学に告げた。
「湿布 ?」
学は聞き返す。
「はい。」
「デコを打ったのか ?」
「いえ…。記憶がないらしいのです。」
「記憶が ? で、おデコに湿布か ?」
これも今一分からない。
「ええ。何でも新発売の記憶取り戻すシートって言う商品らしいですよ。」
「何だそ…。」
と、言いかけて学は言葉を止めた。ちょい前に其の商品のCMを見た事を思い出したからだ。学はそのCMをなんとも胡散臭いと思いながら見ていた。真逆実際に目にするとは思いもよらなかったので少し驚いた。いや、違う。驚くべきは其処ではない。彼女に記憶がない事に驚くべきだった。「記憶がないってどういう事です ?」
と、学はマッケンを見やる。
「そのままだ。記憶がないんだよ。」
「え…。って事はオレが来た意味なしって事ですか。」
「なしって事はないだろ。鶸大佐に一撃食らわした奴の顔が拝めるんだ。十分意味はある。学大尉も顔が見たいと言っていたじゃないか。」
「え、ええ…。確かにそう言いましたけど…。」
と、学はおデコに湿布を貼っている少女を見やる。見るからに若い其の少女は十代後半から二十代前半と兵士の中でも極めて若い分類だ。
「階級は伍長…。名前は冴木沙也だったか…。」
マッケンが言った。
「冴木…。沙也。」
確かにあの時、沙也という名前が入ってきていた。おそらく彼女で間違いは無いようだ。
「ああ…。と言ってもあの子は自分が誰かも分かっちゃいない。階級も名前も生体認証カードで確認したんだ。まぁ、本来なら医療カプセルの中で記憶を徐々に戻してやるってのが筋なんだろうが、現場は今でもてんてこ舞いだ。記憶を取り戻すまであの子を医療カプセルの中に入れておく事が出来なくてな。」
と、マッケンは当時の事を振り返った。
当時…。其れは極めて切羽詰まったものだったとマッケンは認識している。其れは大凡トーマスの考えている状況とは大きくかけ離れたものだ。残骸を釣り上げるだけでも命がけと言える作業であり、其れこそ下手をすれば如何に鋼鉄の人形兵器と言えど一瞬で粉々になってしまう。
何故なら核の爆風で吹き飛ばされてくる残骸は、ゆうに1万キロを超えるスピードで飛来してくるからだ。其れを拾うなど正気の沙汰ではない。其れをやれというのだから当然命がけの作業となる。だからオペレーターとのやり取りが重要になってくるのだが、然しながら、オペレーターとのやり取りが如何に重要になるのかが分かるのは現場で動く兵士と其れを目の当たりにするオペレーターだけである。だから、トーマスにしろブリドリッヒにしろ例外なく他人事として其の業務を見やっていた。
其の作業の中でマッケンの部下である小隊長のチャウ-ロン2等級中尉の部隊がシルバーメタリックの兵器を釣り上げた。
「ロン隊長…。妙なものが引っかかりましたよ。」
そう言ったのはチャウの部下であるグリンドス-木村1等級少尉だった。
「妙なもの ?」
そういってチャウはグリンドスが搭乗するフェネックを見やる。フェネックはシルバーメタルで塗装された兵器頭部を持っていた。
「初めて見る顔です。」
そう言ってグリンドスが搭乗するフェネックがチャウのフェネックに其の頭部を手渡した。ボロボロに朽ち果てた其の頭部は大凡頭部とは判別しづらい代物だった。チャウは其の頭部をじっと見やり、”確かに見た事のない顔だ”と言った。
「新型ですかね…。」
「かもな…。リストの照合は ?」
「やりましたがヒットしませんでした。」
「まぁ、仮にリストにあっても此処まで潰れていたらヒットもクソもないか。」
「確かに…。」
「で、中のパイロットは ?」
「あ、イヤ…。まだ確認していません。」
「たく…。確認が先だ。」
そう言うとチャウは頭部をくるくると回しコクピットを探した。外装の大半は吹き飛ばされ頭部フレームはグニャリト歪んでいる。此れは死んでいるな。チャウだけでなくこの頭部を見やった誰もが思う感想だっただろう。だから、グリンドスも生存確認をしなかったのだ。
だが、パイロットは生きていた。コクピトハッチは吹き飛ばされ周囲を覆うパネルがパイロットに突き刺さってはいたが辛うじてパイロットには脈があった。だが、其れは極めて深刻なものでパイロットに突き刺さっていたパネルは数カ所に及び一つは腹部に、一つは太ももに、一つは背中から胸にかけて突き抜けていた。此れはチャウが人形兵器内から確認できた部分だけで、実際には腕やら何やらにも破片が突き刺さっていた。
「奇跡だな…。」
其の状況を見やりチャウが言った。
「奇跡 ? 真逆…。」
「あぁぁ…。まだ生きてる。」
そう言うとチャウは直ぐさまコクピットハッチを開けると、シルバーメタルの兵器に向かって移動した。瀕死のパイロットに”頑張って持ち堪える為のアドレナリンと13の栄養”を射つ為だ。
が、ひしゃげたコクピットハッチは人が容易に入ることを拒むようにすんなりと入ることは出来ない。チャウは体を横に、斜めに傾けながら中に入る。
「奇跡に感謝しな。」
そういってチャウは頑張って持ち堪える為のアドレナリンと13の栄養を射った。”これでもう少し持ち堪えられるか…。”ボソリト呟きコクピットから出ようとして瀕死のパイロットを見やった。スーツの形状から其れが女性である事が分かる。フェイスガードの所為で顔は分からない。
無駄に顔を見たいと言う衝動が沸き起こった。
女性だからか…。
否、男であっても奇跡の生還をしようとする者の顔は拝みたいものだ。
だが、そんな余裕はなかった。事は一刻を争うのだ。と、チャウはコクピットから出やるとフェネックに移動した。
「グリンドス…。」
自身のフェネックに戻る途中でグリンドスに通信を送った。
「はい…。」
「兎に角事は急を要する。S対応で医療班に渡せ。」
「了解…。」
そう言うとグリンドスはチャウの’フェネックが持っている頭部を取りドックに向かっていった。「マッケン大尉…。」
コクピットに戻りチャウはマッケンに通信を送る。
「チャウか。どうした ?」
「妙な兵器を回収しましたのでその報告を…。」
「妙な兵器 ?」
「はい。リストにないシルバーメタリックの兵器です。」
「シルバーメタリック…。リストの照合はしたのか ?」
「え…。」
「だからリストの照合はしたのかと聞いてるんだ。」
「リストにないと言いましたが…。」
「そうか…。で、其れはどんな奴だ ?」
「頭部のみですので詳しくは分かりませんが。敵の新型か何かでしょう。」
「新型か…。頭部以外の形状は分かるか ?」
「分かるわけないでしょ。」
チャウはかなりイラッとした口調で答える。
「で、色は何色だ ?」
「だから、シルバーメタリックです。」
「うむ、おそらく其れは敵の新型か何かだな。」
「だから、そう言ったでしょ。」
「まぁ、兎に角だ。ブリドリッヒ艦長とトーマス司令官に伝えておくか…。」
「お願いします。」
そう言うとチャウは通信を切った。マッケンは直ぐに旗艦であるラファエル中型戦艦に通信を送った。
「管制です。何が有りました ?」
「ブリドリッヒ艦長かトーマス司令官につないでくれ。」
「ブリドリッヒ艦長はこちらにはおられません。トーマス司令官に繋ぎます。」
そう言うと管制オペレーターがトーマスを呼んだ。
そして、一連の会話を交わした後マッケンは仕切りを部下に任せ自身もドックに向かった。本来マッケンがドックに向かう意味は無かったのだが、この救助作業が嫌で仕方が無かった。だから良い口実が出来たと喜んでマッケンはドックに向かった。
ドックに戻ると既にシルバーメタリックの頭部からはパイロットが救助されていた。敵の人命などに興味のないマッケンにとって其れはどうでも良い事で、どちらかと言えばシルバーメタリックの兵器の方に興味があった。が、担架に乗せられ運ばれる少女を見やりマッケンの考えが変わった。その少女がマッケンの好みだったからだ。
と言っても辺りは激甚たる様で大量に吹き出したのだろうと思われる大量の血があちらこちらに付着していた。恐る恐るコクピット内を見やるとその中はほぼ全身の血が出尽くしたのではないかと思えるほどの血がコクピット内を覆っていた。
その事にマッケンは違和感を感じた…。
今まさに担架で運ばれようとしている少女が生きている事にとてつもない違和感を感じた。
「妖怪だ…。」
ボソリト呟きその少女をマッケンは見やっている。コクピット近くには少女の物と思われるヘルメットとバトルスーツが転げている。ヘルメットにもバトルスーツにも大量の血が付着している。一体どんな状況だったのだろうか…。マッケンは想像してみる。
想像するだけでブルッと体が震えた。
恐る恐るもう一度コクピット内部を見やる。その中は大凡マッケンの知る内部とは大きく異なっていた。最早何が何やら分からない。激甚たるその中は大量の破片とひしゃげたパネル。少女に突き刺さったのであろう突起物が生々しくドロドロとした状態で放置してあった。
「何なんだ…。どうして生きてる。」
ぼそり思わず口から言葉が溢れた。
金髪に髪を染めた少女は酸素マスクを付けられ大量の血を輸血されている。首から下にはシーツが被されているので体がどうなっているのかは分からない。が、激甚たる状況である事は確かだろう。ピクリとも動かないその少女はそのまま医療室に運ばれていった。
マッケンは暫し其れを見やりながら大きなため息をついた。何故なら周囲にはそう言った人間が大量に運ばれていたからだ。
「戦争か…。」
マッケンにとって其れは生まれて初めての経験だった。兵士であっても戦争と言う行いの経験はない。海賊の討伐程度なら経験はあるが、其れもその殆どが企業軍隊や残り6カ国の後ろで見ている事が殆どだった。
この激甚たる様相…。
この先今の様な状況が普通になるのかと考えると溜め息しか出なかった。
「マッケン大尉…。」
感傷に浸るマッケンを看護科の兵士が呼んだ。
「ん…。」
「医療科のリヘイム-ワットス軍曹です。」
そう言ったのはまだ若い女性兵士だ。
「どうかしたか…。」
「流石ですね。」
「何が ?」
「今運ばれていった兵士の応急処置です。」
「ん…。あ、あぁぁ…。」
「あれが無ければ彼女は死んでいました。流石はマッケン大尉の部隊です。」
そう言ってリヘイムは笑顔を浮かべた。
その笑顔はとてつもなく歪だった。その歪な理由はマッケンにも直ぐに分かった。彼女は笑顔を浮かべならも涙を流していたのだ。
彼女は泣いていたのだ…。
敵兵士の為に。
リヘイムは泣いていたのだ。
「あいつが生きていた事…。そんなに悔しいか ?」
マッケンが問うた。
「真逆…。生きていて良かったと…。」
「良かった ? 彼奴は敵だ。良いか。俺逹が助けたからと言って彼奴が俺達を殺しに来ないと思うか。生きていれば必ず俺達を殺しに来るぞ。」
「そうですよね…。私なんで泣いてるんだろ。」
そう言ったリヘイムに”人間だからだ…。”と、ボソリとマッケンが言った。
「え ?」
「何でもない…。」
そう言ってマッケンはタバコに火を点けた。
人間だから…か。
マッケンは胸中で呟く。我ながら似合わないセリフだと思った。敵の命などどうで良い…。マッケンは自分に言い聞かす。されど周りを見やりそのセリフが嘘になる。今までの自分が強がりだったのだと思い知らされる。
”良かった…。生きていてくれて良かった。”
心底そう思った…。
だが、彼等は敵である。
敵に情けを掛ければ自分が殺される。
其れは分かっている。
分かっている。
分かっているのだ。
戦争とは人を殺す為に行う行為。だから人を殺さぬ戦争など此の世には存在しない。女であろうと子供であろうと容赦なく殺す。其れが戦争なのだ。
だから…。
だから…。
今日だけは自分に素直でいようと思った。人を殺す戦争ではなく人を救う戦争があっても良いのだと…。
だが、其れは決して口には出さない。悟られる事も許されない。何故ならマッケンは034大隊の総部隊長だからだ。
総部隊長である以上敵に情けは掛けられない。自分が情を持てば部隊が総崩れになってしまう。だから、マッケンは非情な男の振りをする。
非情な男を貫くのだ…。
其れから程なくしてブリドリッヒとヴェリーガやって来た。そしてトーマスが到着しマッケンは自分の持ち場に戻って行った。救助作業は其れからも暫く続いたがマッケンは余計な事を考えないようにしていた。
其れから長い時間が経過し救助作業が終わりに近づく頃、マッケンの中で不意に少女の事が気になりだした。
”彼奴は助かったのか ?”
不安が胸中を支配する。
「マッケン大尉。」
そんなマッケンを呼んだのはチャウだった。
「ロン…。どうした ?」
「終了の合図が出ました…。」
チャウが言った。戦艦の方を見やると終了の信号弾が打たれていた。
「皆んなお疲れさん。救助作業は終了だ。」
マッケンがそう言うと各部隊は戦艦に戻って行った。
「どうしたんです ?」
チャウが問うた。
「何が ?」
「ずっと管制から通信が入っていたでしょう。」
「管制から ?」
そう言ってマッケンは自身の宇宙を見やった。目前に”通信あり”と文字が浮かんでいる。
「お疲れですか ?」
「あ、あぁぁ…。これはこれで結構堪えるもんだな。」
「ええ。今日はゆっくり休みましょう。」
そう言ってチャウは戦艦に戻って行った。マッケンは真っ暗な宇宙をボーッと見つめユラユラと揺れていた。
救助作業から1日が過ぎた。
マッケンとチャウは少女の事が気になって医療室に足を運んでいた。もちろん示し合わせたわけではない。だから医療室の入り口でチャウとばったり出くわしたマッケンはバツが悪そうに”捕虜の顔を見に来てやっただけだ。”と、言って部屋に戻って行ったのだった。チャウは首を傾げながら過ぎ行くマッケンを見やり医療室に入って行った。
医療室に入ると看護兵が医療カプセルの状況や順番待ちの患者の手当に追われていた。言わずもなが医療カプセルの使用は重度の患者を最優先に行っているため軽度の患者は未だ医療カプセルには入れられていない。軽症といっても擦り傷程度なんて代物ではない。今回に限っての軽症は、暫くほっておいても死なないだろう。だが、ほったらかしておくと確実に死ぬ。と言う具合が軽症だ。だから重度というのはよほどの状況と言う事になる。
チャウは医務室に入ると少女が入れられている医療カプセルの方に歩いていく。チャウが少女が入れられている医療カプセルの場所を知っているのは、救助作業が終了してすぐ少女の容態を見に行ったからだ。
奇跡の少女の顔が見たかった。
唯それだけの理由だったが、その少女を見やりその理由が別の理由に変わろうとしていた。が、相手は共和国の兵士。自分の感情を持っていく事が出来ない相手である。
願わくは寝返ってくれればと思う。
チャウは医療カプセルの前で足を止め中を覗き込んだ。
昨日見やった時は助かるのだろうかと不安になる程蒼白だった顔が1日で顔の血色がだいぶ戻っていた。だが生々しい傷口は未だ塞がっていない。少女の胸を貫いたコクピットパネル。その状況が鮮明に蘇る。よく生き延びたものだ…。正直そう思った。
ほっと肩を撫で下ろしチャウは少女の顔を見やる。その可愛らしい表情にうっとりと笑みがこぼれた。
「ロン中尉…。お見舞いですか ? 其れともその子の裸を見に来てます ?」
後ろから看護兵が言った。看護兵の言う通り、医療カプセルに入れる時人は裸で入れられる。だからこの少女のお尻の大きさも太ももの太さも隠しようがない。
「冗談…。あの状況で生き延びた奴の顔を見に来ただけだ。」
「へー。顔をねぇ。」
「なんだよ。」
「昨日も見に来てませんでした。」
「バッ…。何言ってる。昨日は生きてても今日死んでるかもしれないだろ。確認だよ。」
「確認ですか…。」
そう言うと看護兵はクスッと笑いチャウから離れていった。チャウは過ぎ去っていく看護兵を睨めつけフンッと鼻で息を吹いた。
が、確かにバツが悪いとチャウは早々に医療室から出て行った。其れをこっそりと見やっていたマッケンはロンが医療室から離れていくのを見計らいこっそりと医療室に入って行く。医療室に入ると脇目も振らずに少女の元に向かった。
「あら、マッケン大尉。」
その途中でリヘイム軍曹が声を掛けて来た。
「ん…。おぉぉぉリヘイム軍曹。」
「マッケン大尉も彼女を見に来たんですか ?」
「彼女 ?」
「例の彼女ですよ。」
「例の…。あ、あぁぁそうだ。どうなったのかと思ってな。」
「症状は安定しています。この分だと明日、明後日には出られるかと思います。」
「明日、明後日か…。」
「どうしました ?」
「いや…。明後日には鬼神丸追撃部隊と合流するためにここを離れる事になっているのでな。」
「そうですか。いよいよ戦争開始って事ですね。」
「あぁぁ…。まぁ、その前に彼女達は鬼神丸に返還される事になるがな。」
「自軍に戻って死ぬわけですね。」
「そう言う事だ…。」
「そっか…。でも、なんか変な気分ですね。助けて殺すなんて。」
「そうだな。」
「これも人間だからですか ?」
「ーー。そうだ。人間だからだ。」
「そっか…。なんだろ、人って天使にも悪魔にもなれるんですね。」
「あぁぁぁ…。だからこそ出来るんだ。」
「出来る ?」
「あぁぁ…。遥か先の人類のために。」
「遥か先の人類 ?」
「遥か先の人類が平和に暮らせるように…。貧富の差もなく。争いもなく。悲しむ事もない世界…。否、悲しむ事はあるだろう。だが、無慈悲な悲しみのない…。」
「な、何を言っているんですか…。」
「何って…。要するに、死んで極楽などには行けないって事さ…。」
「死んでも地獄って事ですか。」
「否、人は此の世界を極楽にする為に存在しているって事だ。」
「此の世界を…。」
「あぁぁ…。その為には天使にも悪魔にもなる。」
「何ですかそれ…。何か神話のお話みたいですね。」
「神話 ? 違う。李陛下の言葉だ。」
と、マッケンはまるで李の’言葉を理解しているかのように言ったが、マッケンが此の言葉を理解したのは昨日の事である。昨日の惨状を肌で体験して初めてマッケンは李の言葉の真意を知ったのだ。
「陛下の ?」
「そうだ。だから俺達は戦うんだ。遥か先の人類の為に…。」
そう言ってマッケンは医療カプセルの中を覗き込んだ。昨日は死ぬ寸前だった少女に精気が戻っている。
なんとも不思議な事だ…。
これが3、400年も昔だったなら少女は間違いなく死んでいた。それが今ではたったの2日で元に戻る。損傷した神経も傷口も何もなかったかのようにだ。
「彼女…。皆んなに心配されてる。」
そう言って、リヘイムも医療カプセルを覗き込んだ。
「皆んなに ?」
「はい。奇跡の生還者だって。」
「奇跡か…。」
「はい。」
「ん…。いや、待て。どうして皆んな知っているんだ ?」
「どうしてって。誰かが救助作業の様子を生体認証カードに録画していたんですよ。それが出回って…。」
と、リヘイムは困った表情を浮かべた。
「なる程な。って事は誰かがその様子を録画してたって事か…。」
「そう言いましたよ。」
「で、録画した張本人は誰なんだ ?」
「それが分からないんですよね。」
「そうか…。じゃぁ、それをばらまいた奴が誰かは分かっているのか ?」
「多分録画した人だと…。」
「録画した奴か…。で、誰なんだその録画した奴ってのは ?」
「え ?」
と、リヘイムは眉を顰めた。
「どうした ?」
「あの…。からかってます ?」
そう言ってリヘイムはマッケンを睨めつけた。
それから又1日が過ぎた。
慌ただしい医務室の中には少女を見に来る兵士の数が増えていた。兵士達は彼女を応援するために訪れているのだが、裸で医療カプセルに入れられている少女にとっては晒されているようなものだった。が、未だ眠り続けている少女には当然何が起こっているのかは分からない。
そんな状況の中で看護兵長のマルチファンクションレンズに医療カプセルから治療終了のサインが送られた。看護兵長の目前に”医療カプセル015治療終了”の文字が浮かび上がる。と、同時に医療カプセル上部のランプが赤から緑に変わった。
「誰か、015に行ける ?」
看護兵長が言った。
「あ、私行けます。」
リヘイムが答えた。リヘイムは医務室の端に用意されている囚人服を取り015に向かう。が、 医療カプセル015の周りには関係のない兵士たちで雑多している。
「あの、治療が終了しましたのでどいて下さい。」
そう言ってリヘイムは兵士たちを掻き分け015に近づこうとするがどうもうまく進めない。
「あの、すみません。すみません。通して下さい。」
声を張り上げリヘイムが言う。が、どうも兵士達には聞こえていないようだった。否、敢えて聞こえていないふりをしていたのだろう。彼等は微動だにしなかった。
「あの、すみません。通して下さい。」
更に声を張り上げリヘイムが言う。それを見やった看護兵長が足早にリヘイムのもとに駆けつけ兵士達をど突きあげるがそれでも兵士達は動こうとしない。
「ちょっとあんた達じゃまなのよ。」
と、リヘイムと看護兵長は必死に兵士をのかそうとするがそれでも少女を見ていたいと彼等はその場所を譲らない。
そんな折医務室を揺るがすような怒鳴り声が医務室に響き渡った。声の主はマッケンだった。マッケンは顔を真っ赤にして兵士達を睨めつけている。それを見やった兵士達はぞろぞろと医務室から出て行った。
「有難うございます。マッケン大尉。助かりました。」
看護兵長が言った。
「良いって事よ。」
「それよりマッケン大尉はどうしてここに ?」
看護兵長が問う。
「え ? いや、なに…。俺は…。リ、リヘイムの顔を見に。」
と、咄嗟にどうでも良い嘘をついた。その言葉にリヘイムの頬がポッと赤らんだ。
「リヘイム軍曹を ?」
「そ、そうだ。」
と、言ってリヘイムを見やる。リヘイムは満面の笑みでマッケンを見やっている。その笑みを見やりマッケンは言ってはいけない事を言ったと後悔した。
「そうですか…。まぁ、あの…。助けていただいて何ですけど。そう言うのは仕事が終わってからにして頂けませんか ?」
「そ、そうだな。ま、まぁ、俺は外で馬鹿が入ってこないように監視してるよ。」
そう言うと、マッケンは早々に医務室から出て行った。
「ま、なんにしても助かったわね。じゃぁ、後は頼んだわよ。」
と、看護兵長がリヘイムを見やり顔をしかめた。リヘイムは顔を真っ赤にして医務室の扉を見やっている。
「あんた…。なに顔を真っ赤にしているのよ。」
「え ? いや、何でもありません。」
と、リヘイムは更に頬を赤らめた。
「有りませんって。ひょっとしてあんた…。」
「な、何でもないですよ。」
「そう…。ま、念の為に言っておくけど馬鹿はやめときなよ。苦労するのはあんたなんだからね。」
「ば、馬鹿って…。」
「馬鹿よ。」
「ち、違います。ちょっと天然なだけです。」
「天然…。ま、なんでも良いけど。とにかくその子頼んだわよ。」
「あ、はい。」
そう言うとリヘイムは医療カプセルを覗き込んだ。中の少女は大きな瞳を開けている。リヘイムはゆくりと医療カプセルの蓋を開けると少女を見やり”奇跡の生還おめでとう”と言った。勿論この少女には何の事かさっぱりと意味の分からない事である。
「あ、無理に動かないで。」
そう言うとリヘイムは少女の体の下に腕を入れ”ゆっくりと起こすわよ”と、言いながら少女の上半身を起き上がらせた。
「目眩とかは大丈夫 ?」
リヘイムが問う。
「は、はい。」
「気分は。」
「大丈夫です。」
「これ何本に見える。」
そう言って指を二本突き立てる。
「二本…。」
「名前は ?」
「名前 ?」
「そう、あなたの名前。」
「私…。」
「そうあなたの。」
「私…。」
「うん。」
「分からない…。」
そう言って少女は首を傾げた。
「え ?」
「分からない。名前…。なんだっけ。」
「分かった。じゃぁ、所属部隊は ?」
「舞台 ? 私踊りはしてなかったと思います。」
「踊り ? まぁいいわ。出身は ?」
「さぁ…。」
「分かった。何を覚えてる ? 家族の事とか学校の事とか何でもいいの覚えてる事ある ?」
「家族…。うーん。学校 ? さぁ…。」
「うん。分かった。ちょっと待ってて。あ、いや、先にこれを着といてくれる。」
そう言ってリヘイムは囚人服を少女に手渡した。
「あ、あの看護兵長。」
リヘイムはマルチファンクションレンズから看護兵長を呼んだ。
「どうしたの ?」
「amnです。」
「amn ? どこまで覚えているの ?」
「おそらく何も…。」
「何も ?」
「はい。名前も所属部隊も…。」
「家族構成は ?」
「ダメでした。」
「マジかぁ…。」
「はい。どうします。医療カプセルで記憶を戻しますか ?」
「そんな余裕ないでしょ。記憶は戻ってから戻してもらいましょ。取り敢えず試供品の記憶取り戻すシートをおデコに貼っておいて。」
「わ、分かりました。」
そう言うとリヘイムは通信を切り記憶取り戻すシートを取りに行った。少女は囚人服を着やりリヘイムが戻ってくるのを待つ。
リヘイムは記憶取り戻すシートを持って帰ってくるとそれを少女のおでこに貼った。少女は”これなんですか”と、問うとリヘイムは”これで記憶が戻るのよ。多分…。”と答える。
其れからゆっくりと少女を医療カプセルから降ろすと、そのまま医務室の出入り口に向かって歩き始めた。
「ごめんね。ゆっくりしてあげられなくて。」
と、リヘイムが言った。少女は医務室を見渡し乍らただ事ではないのだと言う事だけは理解できた。
「あの…。何があったんですか ?」
少女が問う。リヘイムは”色々ね…。”と、だけ言って詳しくは話さなかった。記憶のない少女に現実を話す事が酷だと思ったからだ。否、率直に自分達の行いを知られたくなかっただけなのかもしれない。何れにせよリヘイムはそれ以上の事は語らなかった。
医務室の出入り口に着くとリヘイムがドアを開け表に出る。外にはマッケンが怖い顔で立っていた。
「マッケン大尉…。ずっと此処に ?」
ポット頬を赤らめリヘイムが言った。その表情を見やり何とも申し訳ない気分になる。
「馬鹿が多くてな…。」
困った表情を浮かべマッケンが答えた。
「ありがとうございます。」
「あぁぁ、其れよりその子を保護室に連れて行くのか ? 」
少女を見やりマッケンが問う。
「はい。」
「ーーデコを打ったのか ?」
少女の記憶取り戻すシートを見やり問う。
「真逆…。この子記憶がないんです。」
「記憶が…。そうか。」
そう言ってマッケンは少女をまじまじと見やり”どうして記憶がないんだ。”と、少女に問うた。「さ、さぁ…。」
少女が困った顔で答えた。当然、記憶のない少女に其れを問うた所で気の利いた返答など返ってくるはずなどない。
「あ…。あの、大尉…。」
看護長が言った”馬鹿”の文字がリヘイムの頭の上でくるくると回る。
「どうした ? 」
「いえ別に…。」
さすがに馬鹿とは言えない。
「そうか。あぁぁ、こんな時になんだが今夜焼肉でも食いに行かないか。」
リヘイムを睨めつけマッケンが言った。睨めつけている理由はわからないが、リヘイムを誘うタイミングが最悪なのと、彼なりに気を使った事は分かった。
「え、焼肉ですか ? あ、でも私焼肉はそんなに食べれないんです。」
其れでも思いもよらない誘いにリヘイムの顔は満面の笑みだったが、女子として男性に誘われたら一度は断る。此れは彼女達の間で流行っているやり取りの一つで、要するに勿体つけて値打ちを付けるという事だ。が、嬉しすぎて上手く断り切れていない事にリヘイムは気づいていない。
「なんだ嫌いか ?」
更にリヘイムを睨めつける。
「いえ、嫌いじゃありません。ただ胸焼けが…。脂っこいのは苦手で。」
「そうか…。じゃぁ、リヘイム軍曹は赤身ばかり食べるんだな。」
「え ?」
リヘイムは眉をしかめマッケンを見やる。
「ん ?」
「あの、私の話聞いてくれてました ? 焼肉が苦手なんです。」
「だから赤身派なんだろ。」
「いや、あの…。赤身は肉じゃないんですか ?」
「ん、ま、まぁ…。」
「だから焼肉以外が良いです。」
「だから赤身を食べれば良いじゃないか…。」
「はぁ ? あのからかって…。」
と、言うリヘイムの言葉を遮るように少女がリヘイムの袖を引っ張った。
「あ、ご、ごめん。」
思わずリヘイムが少女を見やり言った。
「そうじゃなくて、多分赤身はさっぱりなのよ。この人の言う肉はカルビであって、赤身はサラダみたいな感じなんじゃない。」
「さ、サラダ ? え、じゃぁなに…。カルビを食べて口直しに赤身を食べるって事 ?」
「そうなんじゃない。ね、おじさん。」
と、少女がマッケンを見やった。
「まぁ、何だ…。イタリアンにするか。」
と、マッケンは少女から目を反らす。
「え…。はい。」
リヘイムは即答した。彼女なりに一度は断ったので問題はない。と言うよりも嬉しくて仕様がなかった。
看護長や同僚がマッケンを馬鹿の英雄と揶揄していようとリヘイムの眼には疑いようのない英雄として映っている。
実の所、リヘイムが軍に入隊したのもマッケンを追いかけての事なのだ。ただ運良くマッケンと同じ部隊になったから良かったものの全く別の部隊になっていたらどうしていたのか…。そう言った所では彼女も又天然なのだ。
「それじゃぁ、今晩迎えに行くよ。」
そう言ってマッケンは歩き始めた。
「あの…。マッケン大尉。」
それをリヘイムが引き止めた。
「どうした ?」
「この子を収監房に連れて行ってもらえませんか ?」
「収監房に ? 保護室じゃないのか ? って言うか其れは兵長が受け持っているはずだろ。」
と、マッケンはそう言ったが、別段兵長クラスの兵士限定で受け持っているわけではない。
「そうなんですけど。野次馬が多くて。其れにこの子は将校ではないので収監房に収容するんです。」
と、言ったリヘイムの言葉にマッケンは首をかしげる。
「何だ。態々将校と一般兵を別にしているのか ? 別に差別する必要はないだろ。」
「そう言う訳にはいきませんよ。其れに差別じゃなく区別です。」
「全く…。こんな時に将校もクソも無いだろうに。」
「こんな時だろうと、どんな時だろうと将校は将校です。一般兵とは違うんですよ。兎に角、保護室は将校の人で一杯なんです。だから収監房も使っているんです。」
「ふーん…。まぁ、兎に角俺はこの後作戦会議があるんで無理だ。」
と、マッケンはそう言ったが其れは嘘だった。否、全くの嘘という訳ではなかったが、記憶の無い敵兵少女を収監房に案内するという事は、その道中無駄に気を使わなければいけなくなる。マッケンはそう言う事が苦手で嫌いだったのだ。
「そうですか。会議なら仕方ないですね。他の人に頼みます。」
そう言ってリヘイムは微笑みを浮かべた。
「あぁぁ、そうして…。あ、一寸待て。チャウに頼んでみるか。」
「チャウ ? チャウって、チャウ-ロン中尉の事ですか ? 」
「そうだ。チャウもその子の事を気にかけていたし、何よりその子の命の恩人だからな。ちょうど良いんじゃないか。」
「そうですね。其れは良いかもしれません。」
「だろ…。ちょっとチャウに連絡を取ってみるか。」
そう言うとマッケンは生体認証カードを取り出しチャウに通信を送った。程なくしてチャウが応答に出た。
「チャウ-ロンです。」
「チャウか…。悪いんだが今すぐ医務室にまで来てくれないか。」
「今すぐにですか ? ですが今は訓練中です。」
「訓練中かぁ…。よし、こうしよう緊急の用事だ。」
「緊急 ? 訓練が終わってからではダメですか。」
「ダメなんだよ。じゃぁ、これなら良いだろ。これは命令だ。今すぐ医務室に来い。」
「え…。は、はぁ。命令なら仕様がないですね。」
「うむ。頼む。」
そう言うとマッケンは通信を切り”チャウが直ぐに来てくれるそうだ”とリヘイムに告げた。
「なんか無理やりっぽかったですね。」
「良いんだよ。彼奴にも息抜きが必要だ。違うか ? 」
「息抜きですか…。」
「あぁぁ…。ま、チャウが来るまでその子を頼む。」
「分かりました。」
「じゃ…。今晩。」
そう言うとマッケンは医務室を離れていった。リヘイムは少女と医務室に戻る。其れを後ろ手に確認するとマッケンは大きな溜息をついた。
”参った…。”
ボソリト呟き頭を掻く。
今年で45歳になるマッケンには美しい妻と3人の子供がいる。勿論戦艦に同乗している訳ではないが気が引けた。
リヘイムは好みの女性ではあるし、看護科という男心をくすぐる科でもある。鼻筋も高く胸も大きいし年齢も26歳とまだまだ若い。だが、だからと言って付き合える訳ではない。国にはマッケンの帰りを待つ妻と子供達がいる。其れに本来ならこの作戦が終了すれば基地に戻り三日ほどの休暇が与えられるはずだった。
そう、国には妻と子供がいる…。
然れど、会えるのだろうか…。胸中に不安がよぎった。何故ならこの後マッケン達は鬼神丸の追撃に駆り出されるからだ。自分達は間違いなく生きて戻れるという保証など何処にもない。戦争である以上誰も手を抜かないし、海賊討伐のように後ろで見ていると言う事も出来ない。常に自分達が最前線で戦闘する事を余儀なくされる。
死ぬか…。
ボソリト呟く。
否、誰も死なさせるものか。
確証のない言葉を吐き捨てる。
と、マッケンはドックの入り口で足を止めた。ちらりとドックの中を覗く。激甚たる様相は昨日と何も変わってはいない。瀕死の敵兵が今にも死にそうに横たわっている。其れを懸命に介護する看護兵と一般兵の姿が垣間見える。
「明日は我が身…か。」
マッケンはタバコに火をつけ紫煙をくぐらせた。
激甚たるドック内を見やり”もう、会えないかもしれない。”素直にそう感じた。そして、最悪の状況が脳裏をよぎる。
運良く生き延びられるか…。
そうすれば又妻と子供達に会う事ができる。
果たして其れは叶うのか。
そんな事を考えているとポロリと涙が零れ落ちてきた。マッケンは生まれて初めて絶望と恐怖を感じた…。其れを払拭するようにマッケンは首を左右に振る。
「俺は何を考えている…。余計な事は考えるな。今を、今を生きろ。そうすれば悔いなど…。悔いなど…。」
残る…。
其れは確実に残る。
どんなに頑張っても妻も子供達も遠く離れた場所にいる。結局この場にいる以上何もしてやる事などできないのだ。だから悔いは残る…。悔いたまま死んでいくのだ…。
「悔いたままか…。」
と、肺いっぱいに紫煙を吸い込み力一杯吐き出した。
「全く、人殺しの言うセリフじゃぁないな。」
ドック内を見渡しマッケンは吐き捨てるように言った。そうだ、何も悔いて死んでいくのはマッケンだけじゃない。其れは兵士である以上皆同じなのだ。寧ろ兵士でない犠牲者の方が悲惨だ。既に今回のニューセイルの襲撃で一般人からも多数の死傷者を出した。
そうだ既に戦争は始まっている。
ならせめて…。
「答えてやるか…。」
そう言ってマッケンはタバコを吸い殻入れに捨てた。
その夜マッケンはリヘイムの部屋を訪れた。否、リヘイムのと言うと語弊が生じる。リヘイムは将校ではない。だから自分専用の部屋を与えられてはいないのだ。曹長から伍長クラスの兵は5人部屋を与えられ部屋を共有する事になっているのだ。
マッケンは着なれないスーツを着込み部屋の呼び鈴を押した。程なくしてリヘイムの声が聞こえた。
「部屋から出てきたリヘイムはとても美しく…。」
と、マッケンの話は少女の話からリヘイムとの馴れ初め話に変わっていく。
「あの、すみませんマッケン大尉…。そろそろいいですか。」
その話を遮るように学が言った。
「ん…。なんだ、これからが良いとこなんだぞ。」
「いや、話の趣旨がかなりそれているように思うのですが。」
「そうか ?」
「ええ…。兎に角、奇跡の少女の意味と記憶がない理由は分かりました。」
「そうか…。で、どうする ? このまま帰るか ? それとも酒でも飲みに行くか ?」
ん…。と、チョイスの内容が間違っているように思えたが学はそれには突っ込まず”少し話をしても良いですか ?”と、問うた。
「あぁぁ、別に構わないが。どうにもならんと思うぜ。」
「でしょうね。ま、別にそれはそれで構いませんよ。」
「そうなのか ?」
「ええ。渡したいものがあるだけですから。」
「そうか…。で、その後で焼肉でもどうだ ?」
「焼肉ですか ? 別に構いませんが肉はそんなに食べれませんよ。」
「なんだ嫌いなのか ?」
「いや、そう言う訳ではないのですが、しつこいものはどうも苦手で。肉って脂っこいでしょ。」
「脂っこい ? なんだ学大尉も赤身派か。」
「え ?」
「どうした ?」
「いや、赤身は肉でしょ。」
と、学は眉を顰めマッケンを見やった。




