Lost in space. 偶々偶然 Or 縁それとも運命 ? 1
CUE西宇宙域反羣誕宇宙要塞司令官1等級大佐劉玄韻の息子劉渓瑛。因みに彼の爺さんはその基地の最高司令官大将だ。曾祖父さんも、一曾祖父さんもその前の…。
要するに彼の家系は皆軍人という事だ。母親も、婆さんも曾婆さんも一曾婆さんも…。だから渓瑛は軍人のサラブレットって事。
そして、俺の唯一の親友だ。
「安心しろ。此処に彼奴等はいない。」
そう言って渓瑛がタバコを差し出した。俺は其れを貰い咥える。そして、渓瑛が火をつけてくれた。肺一杯に煙を流し込みゆっくりと吐き出す。
フワリと目の前が歪んだ…。
秘密の部屋に入って2週間。常に煙草は体に悪いと言っていたバネンサが、敢えてリュックに煙草を入れてなかったのだ。勿論、秘密の部屋に置き煙草はない。だから、煙草を吸うのは2週間ぶりになる。
壁にもたれ倒れるのを防ぐ。
「どうして、此処に ?」
歪みが消えるのを待ちながら問うた。
「バネンサが教えてくれたのさ。」
「バネンサが ?」
「あぁ、今日この日にお前が此処に来るってよ。」
其れから少し渓瑛は経緯を話してくれた。
話は東亜電光銀行が破綻してから3日後の事だと言う。深夜近くバネンサが渓瑛の寮に訪れ事の次第を話したのだそうだ。会社が倒産するだろう事、その後の金の算段が失敗に終わるだろう事、母が俺を見捨てるだろう事等、バネンサは当時俺が知らない事を良く知っていた。
どうしてバネンサがそう言った事を詳しく知っていたのかは、今となっては分からない。が、バネンサのお陰で俺が助かった事は事実だった。
「そっか…。」
「で、バネンサ達は回収されたのか ?」
渓瑛の問いに俺は口を噤んだ。
「どうしたんだよ ? 回収されて悲しんでるのか ? まぁ、良い奴隷だったけどな。」
と、言った渓瑛も昔バネンサに世話になった事がある。
「だな…。」
「元気出せよ。」
渓瑛がギュッと俺を抱きしめる。
先に言っておく。
俺達はその…。
あれじゃない。
だけどとても心地よかった。生きているそんな実感があったんだ。
「バ、バネンサは死んだよ…。」
「え ?」
「俺を守る為に舌を噛んで…。」
「そっか…。良い奴隷だったな。」
渓瑛が言った。
そう、この程度なのだ…。
奴隷が死んでもこの程度なんだ。誰も心から悲しまない。奴隷が主人を庇い代わりに死ぬのは当たり前の事。
奴隷は物であって者ではない。
人は飼い犬や飼い猫が死ねば悲しむ。だが奴隷が死んでも悲しまない。だから奴隷に人権はない。俺は今その奴隷に成り下がろうとしている。者から物へ…。物になれば、確実一生物である。
否、可能性がないわけではない。だが、者から物へはたやすく落ちる。しかし物から者への成り上がりは極めて難しい。理由は奴隷が黙認される様になってから、今までの間で奴隷から成り上がった者は唯一只1人。宇宙の最終定理を解き明かしたリンダ-アイマスだけだ。彼女は其れを利用して全く新しいOSを作り上げた。其れがアリスOSである。表記はAoSとなっている。彼女がアリス…。否、其れは良い。兎に角起死回生の一打がない限り者への成り上がりは叶わないのだ。
リンダは類まれな天才数学者としての才能があった。其れは努力どうこうで何とかなるレベルではない。持って生まれた才というやつだ。
で、俺はどうだ ?
俺に何の才能がある ?
否、才能だけでどうにかなる問題でもない。其れを見出せる人間との出会いが必要になる。まさに運命というやつだ。だが、99%の奴隷がそう言った運命と出会えずに死んでいく。其れが奴隷なのだ。何よりも奴隷として売られるのならまだしも人体売買業者にパーツとして売られれば最悪である。そうなれば運命も何もあったものではない。
人体売買業者は奴隷を人体のパーツとして保有している業者である。生きた奴隷から臓器や目玉、腕などを切り取り売るのだ。必要なら骨も売るし爪も売る。
勿論生きていくのに必要な臓器を売られた奴隷は、死なない様に保存液の中に入れられる。そして最終最後心臓を売られるまで生き続けなければならない。
人体再生手術をすれば良いのだが、宗教上の問題で拒む人がいる。そう言った人達の為に始まった商売だそうだが、今の状況を考えると傍迷惑な商売だ。
「で、お前…。この先の予定は ?」
腕を離し渓瑛が問う。当然あるはずなどない俺は首を横に振った。
「だろうな。生体認証カードも使えないんじゃ、どう仕様もない。ーーだろ。」
俺は首を縦に振る。
「安心しろよ。親父に話をつけてもらった。このまま軌道エレベーターに乗って宇宙に行く。」
「宇宙に ?」
「あぁ、兎に角今は隠れる事が先決だ。地球じゃ、どうにもならない。」
「確かに…。地球に逃げ場はないよな。」
「だろ。だから、軌道エレベーターで宇宙に戻って、港から戦艦で反羣誕基地に行く。其処から巡洋戦艦に乗ってスイート-ペッパーへ向かう。」
「スイートペッパーに ?」
スイート-ペッパーは第35ライフカプセルの事だ。
「そうだ。其処に俺のひいひいひい爺さんがいるんだ。」
「お前の…。」
「あぁぁ、前に言わなかったか ? 。で、其処に今から1年間過ごす。其処なら絶対にバレる事はない。」
「絶対 ?」
「あぁぁ。俺のひいひいひい爺さんは変わり者でよ。3層目と4層目の間に家を建てたんだ。」
「3層目と4層目の間 ?」
俺は自分の耳を疑った。
3層目と4層目の間とは、3層目では地面、4層目では天井となっている部分だ。故にそのプレートの中には水道管やガス管、様々な機械がひしめき合っている。勿論入った事はないので実際に見た事はないが、学校の授業で習う内容だ。
「まぁ、其れは冗談だけど。スイート-ペッパーは誰彼構わず入港出来ないからな。」
渓瑛に言われて俺は”そうだった”と、思い出した。
「そうか…。確か…。」
「そう。国から将軍か騎士、伯爵、男爵の称号を貰った者だけが住める場所さ。まぁ、其れはあくまでも3層目までだけどな。4層目からは一般人も住んでる。」
と、渓瑛はそう言ったが厳密には1層目〜3層目にも一般人はいる。その層で働いている人間だ。只その場所に住む事はおろか、買い物や娯楽施設で遊ぶ事も許されていないので、仕事が終われば4層目に戻る事になる。買い物や、遊びは⒋層目以下でしなければいけないのだ。
なんとも厳しい決まりだが、国に貢献した人間が安心して暮らせる様に配慮した結果だという事だ。だから入層も厳しくカバンの中身から服の中まで全てチェックされる。そして、何より人身売買業者等の闇の部分を受け持つ人間は入層出来ないのだ。
まぁ、だから何だと言われればそれだけの事だ。挙足だと言われればそうだ。別に意味はない。
「そっか。でもよ…。」
「ひいひいひい爺さんの許可は貰ってる。」
渓瑛が言葉を被せた。
「いいのか ?」
「あぁぁ、俺が無事お前を宇宙に戻せたのなら大歓迎だと言われたよ。」
「渓瑛…。有難う。」
「バッカ、礼にはまだ早い。此処から軌道エレベーターまでは120キロも有るんだぜ。」
確かに…。
中学2年の俺達に120キロという距離は余りにも長すぎる距離だ。
「まぁ、此処で立ち話もナンダ。飯でも食おう。」
そう言って渓瑛が指を指した。
俺は洞窟から出ると渓瑛が指す方向を見やった。湖のほとりでバーベキューをしている姿が目に映る。
「あれは ?」
「真逆、何もなしで此処に来るわけにはいかないだろ。俺が単独で行動すれば怪しまれる。だからバーベキューを名目にみんなを引き連れてきた。と言ってもお前と同じ様に回収されたやつも多くてさ…。人集めには苦労したよ。」
「なる程な…。」
と、答え乍”俺はまだ回収されてないけどな”と続けた。
其れを聞いて渓瑛が笑った。
俺もつられて笑った。
ほんと、久しぶりに笑った気がした。そうだ、恐怖に支配されていた2週間。絶望の淵にいた洞窟の中。当てもなく。不安で怖くてどうしようもなくて…。その絶望の中に渓瑛が光をもたらしてくれた。
僅かどころじゃなく、コレは大いなる光。
俺を救う希望。
何よりも渓瑛が横にいる。渓瑛がいるだけで無敵になった気持ちになる。否、実際そうだった。俺達はこの地区では無敵だった。傅山、小論…。この二つの地区を仕切っていたんだ。
俺は負けない…。そうだ、俺は神の子なんだ。光は常に俺と共にある。
俺はタバコを地面に捨てもみ消した。渓瑛はタバコを咥えたまま俺の肩に腕を回し”早く、行こうぜ”と言った。
渓瑛と暫し歩き俺は気がついた。食欲を誘う匂いだ。秘密の部屋に隠れて2週間、まともな飯を食っていない。
「ワニ肉はあるのか ?」
渓瑛に聞いた。
「兎ワニの肉ならな。」
「兎ワニ !! マジかよ。ワニ肉の中でもあれは絶品だ。よく手に入ったな。」
「だろ。感謝しろよよな。」
そう言った渓瑛の表情はとても楽しそうだった。勿論俺も自分の置かれた立場を忘れて楽しんだ。否、自分の置かれた立場ならちゃんと理解していた。何もかもが上手くいく。渓瑛と俺なら不可能も可能にできる。そんな自信と勇気が俺にはあった。勿論渓瑛にもその自信があった。だから、仲間達と大いに飯をくらい楽しく笑いあったのだ。
そして、この日が渓瑛と会った最後の日となった…。
私が心から笑った最後の日でもある。
あれから、11年。
鶸大佐から君が人形兵器の部隊長として腐っていると聞いた。まぁ、確かに腐る。CUEの兵士は訓練もマトモにこなさないし、海賊の討伐と言う目的の宇宙旅行を楽しんでいるクズばかり。
実際の討伐は元残り6カ国の軍隊か企業軍隊が行ってくれる。正直訓練をする必要がない。これでは腐っても致し方がないのかもしれない。
だが、私は知っている。
グロスピンクに乗った兵士のように君が勇敢であると言う事を…。
そう、君は勇敢だった。
「はい、君達ご苦労様です。」
帆蓮湖のほとりでバーベキューを楽しんでいる俺達に声をかける男の声。だが、その声に気づく者はいない。仲間達は肉を焼き、食い、酒を飲みタバコを吸っって、窮屈な世界からの解放を堪能していたからだ。
只、俺と渓瑛は酒を飲んでいなかった。二人とも下戸と言う訳ではない。渓瑛は俺を120キロ先の軌道エレベーター迄送り届ける責任があったし、俺は逃げ切るという目的があったからだ。勿論仲間達も俺を守る役目を持っていたが、渓瑛程の責任感はない。
だからいつもの様に、面白おかしくその時を楽しんでいた。そして、肉を焼く音と仲間達の声が五月蝿く男の存在を気付かせなかったのだ。
「君達…。」
もう一度、男が声を掛ける。
「社長、もう少し大きな声の方がよろしいのでは ?」
コロニコフが言った。
「まったく…。君達 !!」
社長と呼ばれた男…。あの出っ歯である。が、普段あまり声を荒げないのかその声はあまり大きくなかった。
「あぁぁ、成る程…。社長もう少し近づきませんか ?」
双眼鏡で俺達を見やり乍コロニコフが言った。
「もう少し ? コロニコフ君。これ以上近づけば、彼等は飛散してしまいますよ。」
「はぁ、しかし此処からでは、彼等は豆粒程度にしか見えませんし声も届かないかと…。」
「ふむ…。まぁ、其れも一理ありますね。では、後500メートル程進みますか。」
「いや…。いっそうの事、目の前まで行った方が良いかと思います。」
「そんな事をすればその前に逃げられるではありませんか。」
「その為の配備でしょう。其れに、飛散される方がありがたいですから。」
そう言うとニヤリ。コロニコフは笑みを浮かべた。
帆蓮湖の周囲長は24キロ。最大水深は112メートル。岩山と砂に囲まれた場所にあるこの湖は、砂漠のオアシスと呼ばれ多くの人が此処でバカンスを楽しんでいる。
普段は平日でも誰かしらが此処で泳いだり、岩山を登ったり、俺達の様にバーベキューを楽しんでいる姿があるのだが、東亜電光銀行の破綻以降はめっきりと減った。今日に至っては俺達以外誰もいない。
だから本来なら気づけたのだ。
出っ歯達が此処に来ている事を誰かが気づいただろう。だが、仲間達は酒を喰らい、俺も渓瑛もこの時ばかりは気をぬいていた。
大丈夫…。
なんとかなる。そう思っていたんだ。だから気づいた時、出っ歯達は俺達の目前にまで詰め寄っていた。
「君達、ご苦労様です…。」
不敵な笑みを浮かべ出っ歯が言った。
「劉渓瑛君と可愛い舎弟諸君。元寸君を見つけてくれて有難う。」
彼の顔を見た瞬間、ゾクリと悪寒が走った。俺は一瞬にして現実に戻されたのだ。
「誰だよ ?」
渓瑛が問う。
仲間達がジロリと彼等を見やる。
「君に元寸君を見つけてくれと依頼した債権回収業者の坂上拓ですよ。お忘れですか ?」
しゃあしゃあと出っ歯が答えた。
「依頼 ? バッカ。中学生に依頼するバカはいねーよ。」
そう言って渓瑛が兎ワニの肉を投げつけた。兎ワニの肉が坂上の顔に当る。仲間達が坂上に罵声を浴びせ始めた。
「だから…。社長。この作戦はダメだと言ったんです。」
坂上の顔を拭きながら、耳元でコロニコフがぼそりと言った。
「では、作戦変更ですね。では、おとなしく元寸君を渡さなければ全員奴隷として売り飛ばしますよ。」
「ふーん。男爵の称号を持つ劉家の子供を売ろうってのかよおっさん。国を相手に喧嘩を売るつもりか ?」
渓瑛の返答に、坂上はジロリとコロニコフを見やる。
「な、何ですか ? 私の案じゃないですよ。」
「ふん。」
坂上が口を尖らかす。
「そんな、拗ねられてもねぇ。だからいつも言ってるでしょう。作戦は常に2つは考えておかないとダメだって。どうしていつも出たとこ勝負に掛けるんです ?」
「失礼な…。いつもではありません。今日は子供相手だったので手を抜いただけです。」
と、坂上がスッと手を上げた。
ピクリと体が緊張する。俺達はとっさに身構えた。
坂上が勝ち誇った表情で俺達を見やる。
俺と渓瑛は目で合図を送る。
そして…。
コロニコフの生体認証カードが鳴った。
「どうした ?」
コロニコフが電話に出た。
”すみません、コロニコフ主任…。6号車が脱輪してしまいまして…。”
「あん…。脱輪 ?」
”そうなんですよ。今引き上げてるんですが、もう少し掛かりそうなんで。”
「おいおい…。脱輪て、其いつはギャリッツオ-ハイマーの最高級SUVだぞ。全く、傷つけてないだろうなぁ ?」
”いや、其れが言いにくいんですが左の側面に傷と、ヘコミが…。本当にすみません。”
「おいおい、勘弁しろよぉ…。まぁいい。で、他の連中は ?」
”ですから、今全員で引き上げてるんですよ。”
「全員でか !!」
”はい。”
「はいじゃないだろ。ーーお前どうすんだよ。この状況…。」
と、コロニコフはチロリト坂上を見やる。
坂上は手を上げたまま”どうしました ?”と、問うた。
「いや、あの…。とても言いにくいのですが。」
通話を切りコロニコフが答える。
「だから、どうしたんです。」
小声で坂上が問う。
「まだ、みたいです。」
「だから、何がです ?」
「だから、部下の到着がですよ。」
「部下の…。」
と、坂上はチロリと周りを見やる。
見晴らしの良い景色がとても気持ちよく爽快に映る。何より目の前の兎ワニの肉がとても美味そうだった。が、其れよりも何よりもコロニコフ以外の部下の姿が一切見当たらない。
成る程…。
成る程…。と、坂上はゆっくりと手を下ろす。
「ふぅ、まぁ良いでしょう。少々手荒ですが…。」
と、坂上が懐に手を入れた瞬間。渓瑛が坂上目掛けて飛びついた。
「作戦決行だ !!」
渓瑛が叫ぶ。
渓瑛の号令と共に仲間達が一斉にコロニコフと坂上に襲い掛かった。
中学生と大人…。体格はおろか、力でもサシじゃあ勝てない。然れど其れを上回る人数でかかれば押さえつける事は容易である。仲間達が二人を押さえつけ渓瑛が坂上の懐から拳銃を奪った。
「元寸行こう…。」
拳銃を俺に渡し渓瑛が言った。
「だな…。」
俺が答えると渓瑛は自分の自転車の所に向かう。
「チャリで行くのか ?」
「そうだよ。」
「チャリで120キロ走破か。」
俺は少し不安になった。
「途中で単車でもパクるつもりだけど…。」
「先にパクっとくもんだろ。」
「ばっか、先にパクったら警察に追われるだろ。リスクは最小限だ。」
と、渓瑛は言ったがチャリで逃げる方がリスクは高い様に思えた。
「良いから早く乗れよ。」
渓瑛が急かす。
「自転車で逃走ですか…。舐められたものですね。」
坂上が言った。
「ばっか、こいつは早いんだよ。」
渓瑛が答える。
「早い ? 冗談ママチャリでしょ。それ…。」
「最近のママチャリは早いんだよ。」
「そうですか…。まぁ、頑張って下さい。軌道エレベーターに乗れれば君達の勝ちですから。」
そう言って坂上が又不敵な笑みを浮かべた。
軌道エレベーター ? ゾクリと又悪寒が走る。彼はどこまで知っているのだろうか ? あの時も彼は直ぐにバネンサが何か知っていると確信した。
そして、今も…。
「何だよお前…。何で。」
恐怖だった…。
全てを見透かしている。まるで神の様な男。俺は彼の事が怖かった。
「何で ? 変わった問いですね。元寸君。」
「すかすなよ。」
「すかしてなんかいませんよ。まぁ、強いて言えばそれが仕事だからです。君を捕まえ売り飛ばす。簡単でしょ。ーーでもね、人はそう簡単じゃない。勿論奴隷になんかなりたくない。だから逃げる。私達はそれを追い詰め捕まえる。だから、分かるんですよ。ちょっとした言動や仕草、逃走者の考えうるパターン。…長年の経験からくる勘ってやつです。取り分け君達の様な子供の考える事は分かり易い。ーーさぁ、早く逃げないとチャンスタイムが減って行きますよ。」
「お前…。」
「元寸構うな。早く後ろに乗れ。」
渓瑛が言う。俺は坂上を睨みながらチャリの後ろに乗った。
直ぐさま渓瑛がチャリを漕ぎ始める。キコキコとチャリの音が帆蓮湖に響く。
キコキコ、キコキコ
キコキコ、キコキコ
チャリが進む。
其の早さは恐らく陸亀が歩くよりも相当遅いスピードだろう。
砂漠の砂に埋もれる車輪は相当以上に負荷がかかる。渓瑛はサドルを必死に漕ぐが、余りにも重く思う様に漕げない。坂上達の姿は未だ目前にある。その姿を見やりコロニコフが笑っている。「おいおい、早く行かないと仲間が来るぞ。」
笑いながらコロニコフが言った。
「う、五月蝿い !! これでも必死なんだ。」
汗をブリブリとかきながら渓瑛が喚く。
「け、渓瑛…。岩場に着くまで走るよ。」
其れを見かねた俺が言う。
「そ、そうか…。すまん。」
渓瑛が答える。俺はチャリから降りて岩場まで走り出す。渓瑛も自転車から降りて、自転車を押し乍走り出した。その速度は恐らく陸ガメが砂漠を歩くよりも遥かに早いように思えた。
坂本とコロニコフの姿見る見る内に小さくなっていく。俺と渓瑛は必死に走り砂漠を越えていった…。
ーー全く…。今、思えば滑稽な話だな。
学は思わずプッと吹き出しそうになった。其れでも当時の学達にとっては大冒険だった事は確かだ。其れはまるで自分達がアクション映画のスターになった様なそんな気分…。
”懐かしい想い出か…。”
と、呟き学はマルチファンクショングラスの映像を変える…。別の角度から撮影した残骸回収作業の様子が映し出された。
学はその映像を見やり乍、昔を懐かしむ自分に違和感を覚えた。今の今まで学は昔の想い出など思い出す事など無かったからだ…。否、只単に思い出したく無かっただけなのかもしれない。
学の良き想い出とは、まさに嫌な想い出と表裏一体…。
だから、
だからなのか…。
それは学にも分からない。分からないが今、昔を思い出した理由なら分かる。それは矢張り金色の兵器に乗る彼と渓瑛の行動が被っているからだ。
学はジッと映像を見やる。
だが、渓瑛と彼には大きな違いがある。
それは腐っていないという事だ…。
今の渓瑛は目標や目的が見出せないのか、それとも現実を目の当たりにして落胆したのか…。理由は色々とある。それでもそれが腐る理由になるとは思えない。
”渓瑛…。あの時の君は確かに英雄だった。”
学は胸中で呟く…。
”否、それは今でも変わらない。例え鶸大佐が腐っていると言ってもだ…。”
だから、
”だから、ずっと君だと思っていた…。だが、この映像を見やれば、彼なのかも知れないと思わさせられる…。”
偶々偶然なのか…。
それとも縁ってやつなのか…。
と、学は映像を静止させた。回収作業を行う近衛艦隊の人形兵器…。その人形兵器が持っているシルバーメタルの残骸…。
真逆…。と、学は映像を拡大させジッと映像を凝視する。
どうやらその真逆の様だ。
”縁ってやつか…。否、違うな此れは最早運命だ…。”
ボソリト呟き学は映像を消した。




