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Lost in space. archⅡ遺跡の攻防 3

 ふと気がつくと僕は又医療カプセルの中にいた。”又気を失っていたのか”と、自分に問いかける。だけど戦闘中のこと以外は何も思い出せなかった。脳裏に残る戦闘の記憶。今になって思えば夢のような出来事の連続だった。

 否、夢なのだろう。自分にそんな事が出来るはずもない。僕は自分に言い聞かせる様にブツブツと言っている。

 然れど、

 然れど…。

 ソフィアの感覚が今も手に残っている。否、全身に残っていると言うべきか。鮮烈な記憶と何とも言えない様な感覚。花蓮は脳にシステムの影響が残ると言っていた。

 これがそうなのだろうか ?

 ソフィアの手を動かす様に自分の手を動かす。手は違和感なく動く。そして僕は体を震わせた。唐突に敵フェネックの残像が目の前に現れたのだ。腕が勝手に反応し医療カプゼルの蓋を叩いた。 

 な、何だ…?

 冷や汗が全身の毛穴から噴き出してくる。

 これも…。

 

 コンコン…。


 葛藤する中医療カプセルを叩く音がした。僕は音の方を見やる。そして直ぐ様医療カプセルの蓋が開いた。

「おはよう英雄君。気分はどうかしら ?」

 ヒョッコリと顔を覗かせマギーナが言った。これは出会った時と同じ状況だ。違うのは僕がマギーナを知っていると言う事。

「う、うん。悪くない。」

「そう。良かった。」

 そう言うとマギーナは僕の体を起こしてくれた。グラリト視界が歪む。僕は少し額を抑え目を閉じる。

「アドレナリンの取り過ぎよ。」

 別の声が聞こえた。声の主は恐らく花蓮だろう。

「確かに…。致死量超えてたものね。」

「ほんと。良く生きてたわ。」

 何とも嬉しくない会話だ。僕はゆっくりと目を開けマギーナとカレンを見やる。花蓮もマギーナも髪をアップにし綺麗に化粧を施していた。始めに会った時は…。否、マギーナは軽く化粧をしているだけだったが花蓮はしっかりと化粧をしていた。花蓮の印象が違うのは化粧の仕方を変えているからか。マギーナはガッツリと決めている感じだ。

「花蓮さん…。」

「おかえり少尉。」

「た、ただいま。」

「全く。あなたには驚かされるわ。」

「す、すみません。」

「良いのよ。良い意味でだから。あれだけコングコックパンドーラを操れたのは君が初めてよ。所で何も問題は無い ? 」

 花蓮が問う。僕は言葉を飲み込む。

「どうしたの ? 問題があるなら素直に言ってよね。まぁ、後で脳波の検査とかはするけど。」

「え、あ…。はい。別に何も。」

 僕は嘘を吐いた。本当の事を言えば二度とソフィアに乗れない様な気がしたからだ。

「だったら良いけど…。」

 花蓮はそう言うと僕の目をジッと見やった。花蓮の顔とフェネックの顔が交わる。目前にフェネックの顔がグイッと迫る。ギョッと目を見開き視線を逸らす。全身の毛穴から冷や汗が滴り落ちる。

 ブルッと手が震えた。

「悠那…。真逆。」

 その仕草を見やり花蓮が言う。

「システムパラドックス…。」

 マギーナがボソリト言葉を濁す。僕はチラリとマギーナを見やり花蓮を見やった。”な、何もないよ”僕は無理やり笑みを浮かべ答える。

「それよりCUEは ?」

 僕は問うた。

「悠那のお陰で静かなものよ。」

 マギーナが答えた。

「そっか。良かった。」

「残念ながらそうでもない。」

 花蓮が言う。

「花蓮…。悠那に要らない事を言っちゃダメ。」

 マギーナは肘で花蓮を突く。花蓮は口を押さえた。

「じゃ、じゃあまだ。」

「悠那は心配しないの。後はオビーがなんとかしてくれるわ。其れにこれ以上出し惜しみする事もないしね。其れよりお腹空いてない ?」

 笑みを浮かべ乍マギーナが言った。僕はお腹を抑え”余り…。”と答える。其処に賑やかな声が耳を刺した。外から聞こえるその声は部屋の扉の前で止まった。僕は自ずと扉の方を見やる。

「ギルフィッテとバニッテが来たのね。」

 扉を見やりマギーナが言った。

「相変わらず五月蝿い夫婦ね。」

 花蓮が言う。そして扉を開けてギルフィッテとバニッテが部屋に入ってきた。

「おぉぉぉぉ。君が我が妻と息子を救ってくれた英雄如月悠那少尉か。」

 入ってくるなりバニッテが大声で言った。声の大きさと迫力はオビー大尉に引けを取らないような感じがした。声の迫力に気圧され僕は目を背けた。

「全く。相変わらずデリカシーの配慮に欠けた男ね。」

 ジッとバニッテを見やり花蓮が言う。バニッテはバツの悪い表情を浮かべ、悠那を見やるとニット白い歯を見せた。バニッテは余り気にしていないようだ。どちらかと言うと花蓮の言葉に気を悪くしたのはギルフィッテだ。

「何この生意気なクソビッチは。」

 ジロリとギルフィッテは花蓮を睨めつける。

「誰がクソビッチよ。クソビッチはマギーナでしょうが。大体あんたの旦那にデリカシーが無いから教えてあげてるのよ。」

「あぁぁぁ、そうですか。それはありがとうございました。で、今まで兵士の見舞いに来なかった花蓮お嬢様がどう言った風の吹き回しで。」

「何 ? 嫌な言い方するのね。私はパイロットの状態をチェックしに来ただけよ。」

「状態を ! へぇぇ、裸で寝てる兵士の状態をねぇ。兵器相手に股座弄るのは飽きたって事かしら。」

 そう言うとギルフィッテはチラリと僕の股座を見やった。

「全く…。卑猥な子ね。そんな事にしか興味がないなんて低俗極まりない。」

 と、花蓮がチラリと僕の股座を見やる。

「ねぇ、どうでも良いんだけどさ。花蓮までクソビッチってなによ。」

 マギーナが言う。

「今更…。マギーナはクソビッチでしょ。」

 そして、ギャアギャアと…。

 ギャアギャアと五月蝿い声が部屋中に響く。

「いやぁ、参ったな。この三人が集まるといつもこうだ。」

 そう言ってバニッテが僕の前にやって来た。僕は適当に笑みを浮かべる。

「あぁぁ、そうだ。自己紹介がまだだったね。僕はギルフィッテの夫のバニッテ-ピコネンチだ。改めて、僕の妻と息子を守ってくれて有難う。」

 そう言うとバニッテは右手を差し出した。

 その手が兵器の手と重なり合う。ゴツゴツとした大きな手。その手がヌウット僕の首元まで伸びてくる。ゾクリと背筋に悪寒が走り思わず体を仰け反らせる。

 ガタガタと体が震えた。

「システムパラドックスか…。」

 バニッテが言った。僕はギュッと体を抱きしめ、震える体を押さえつける。

「僕の手と兵器の手が重なり合ったのかな。」

 僕を見やりバニッテが問う。僕は軽く首を縦に振った。”そうか…。今はどうだい ?”続けてバニッテが問うた。僕は首を横に振る。

「なら良い。その現象はすぐに治るよ。」

 優しく笑みを浮かべるバニッテは僕の肩にポンと手を触れた。

「もしよければ食堂に行かないか。オビー大尉達が君を待っているんだ。」

「僕を…。」

「あぁぁ。君は僕達の英雄だからね。」

「英雄 ? 僕が ?」

「ちょっ、ちょっと何勝手に誘ってんのよ。」

 ヌッと顔を覗かせマギーナが言った。

「そうよ。悠那は此れから検査なの。」

「検査 ? 何、ナニの検査でもするつもり。」

「はぁぁぁ ! 何言ってんのよあんたは。」

 ギャアギャアとギャアギャアと僕はこの光景にポロリと涙を流す。

 何せよもう一度この光景を見やる事が出来た。僕が英雄かどうかなんて事はどうでも良い。もう一度この光景を見れたことに僕は喜びを感じた。

「本当に五月蝿いだろ。でも、これも君のお陰だよ。ありがとう。僕達は心から君に感謝しているんだ。さぁ、行こう。」

 優しいバニッテの言葉が僕の心を癒してくれる。こんな僕でも感謝される事があるのだと初めて知った。涙がボロボロ、ボロボロと流れ落ちる。僕は首を縦に振りゆっくりと医療カプセルから出る。

 そして女子の視線が僕の股座に集まる。

「きゃぁぁぁぁぁ ! 可愛い。」

 三人の言葉が重なった。

 勿論この可愛いは僕の顔ではなく、僕のオティンティンを見ての言葉だ。何ともはや…。カッコのつかない英雄である。お陰で僕は違う意味での涙を流す事になった。


 ーー「で、今回の戦闘を踏まえて君の感想を聞きたい。」

 ブリーフィングルームの中央に設置されているテーブルの上に中型戦艦ボーンバルドルを投影し巡洋戦艦鳳艦長漠瓶紋ばくびんもんがムラームに問うた。

 戦闘が終わり巡洋戦艦鳳に帰還したムラームは休む間なくブリーフィングルームに召集された。今回の作戦に対しての対策を練る為だ。ボロボロに朽ち果てた体に鞭打ち乍、ムラームはブリーフィングルームに向かう事となった。

 真逆の大敗…。

 上層部が緊急招集をかけるのも無理はない。全く、これほど悔しい事は無い。簡単な作戦だったはず。それは誰もが思っていた事だ。

 それがどうだ…。

 レーザー機銃に、ウォーム。そして謎のビーム兵器対応型人形兵器までも。誤算に輪をかけた誤算。失った兵器も兵士も計算外の数だった。

 ブリーフィングルームに向う途中、民と笨が話しかけてきたがどちらの言葉も耳に届いては来なかった。何を言っていたのかも覚えてはいない。

 覚えているのは悔しさと歯がゆさだけだ。拳を握りしめ歯を食いしばりブリーフィングルームまで歩いて行く。

 イライラ、

 イライラと苛立ちだけがムラームを支配していく。脳裏に浮かぶ学の顔が微笑んでいる。忌々しい。

 忌々しい。

 本当に忌々しい。

 イライラと、

 イライラと更に苛立ちが肥大して行く。


 学元寸…。


 何よりも忌々しい男だ。

 誰よりも優れた力を持つ男…。悔しいがその言葉がピタリと当てはまる奴だった。それは初めて士官学校で出会った時から感じていた。

 出会った当初は憧れの眼差しで見ていた事を思い出す。だが、それも最初だけだった。何故なら奴は名門レフィン家の人間でありそうでないからだ。

 其れでも、懸命にその名に’恥じぬ生き方を貫こうとしている彼の努力は賞賛に値したのかもしれない。だが、矢張りそれだけだ。奴は生粋の名門レフィン家の人間ではない。だから品格も糞も有ったものじゃなかった。

 何よりも彼奴は母様の弁当を馬鹿にした。

 母様が丹精込めて作ってくれたカレー弁当を馬鹿にしたのだ。

「よう、何か酸っぱい匂いがしないか ?」

 事の始まりは学のこの言葉だった。

 士官学校時代、昼食時間は何よりも楽しみな時間の一つだった。

 それは誰もが楽しみにしている至福の時。ムラームも又楽しみにしていた。否、その日はムラームにとって特別だった。何故なら母様が弁当を作ってくれたからだ。

 知っての通り子供達は7歳になると地球に強制疎開させられる。其れは父や母との長き別れにもなる。その中で僅かな時間を割いて会いに来てくれる母様は時折弁当を作ってくれた。ほとんど味わえぬ母の味。それはムラームにとって特別なものである。

 そうだ…。今でもはっきりと覚えている。

 学は酸っぱい匂いがすると言ってそこら中の弁当を匂ぎまくっていたのだ。そしてあろう事か学はムラームの所にもやってきた。

「おぉぉぉ! これだ。これだよ。酸っぱい匂いがするのは。」

 これ見よがしに彼奴は大声で言った。その声に周囲の奴らが集まって来る。そして面白おかしくムラームの弁当を匂ぎ始めた。

「オォォォォ…。本当だ酸っぱい匂いがするぜ。」

「マジかよぉ。」

「おいおい。酸っぱいカレーがマグイ家のカレーか ?」

 散々に揶揄からかわれた。

 俺が何をした ?

 楽しみにしていた母様の弁当を…。

 腹が立った。

 許せないと思った。

 許せる訳がない。

 ムラームは怒りのまま学を殴り飛ばした。そして学が殴りかかってくる。派手な喧嘩の末母様のカレーは無残にも床に落ちグチャグチャになった。

 それ以来ムラームは学のことが大嫌いになった。

 だから今でも学のことは大嫌いだ。

 まったく忌々しい。

 本当に忌々しい。

 思い出すだけで怒りがこみ上げてくる。ムラームは立ち止まり壁を力一杯殴りつけた。

”ムラーム…。”

「ムラーム。」

 背後から誰かが呼びかける。ムラームは眉間にしわを寄せたまま振り返る。

「なんて顔だよ。」

 笨が言った。

「笨…。」

「いい加減忘れろよ。」

「何がだよ。」

「どうせ又学のことを思い出してたんだろ。」

「誰があんな奴の事なんか…。」

「分かるさ。お前がそう言う顔をしてる時はいつだってそうだ。学を嫌いなのは分かる。負けたく無いのも分かる。だけどよ…。」

「だけど。何だ。」

「ーー。今だから言うけどさ。確かに酸っぱい匂いがしたのも。暑さで腐ってたのも本当の事じゃないか。確かに大声で言う必要はなかったと思うけどさ。」

「な、な…。笨。お前まで母様を馬鹿にする気か。いくらお前でも…。」

「だから…。大人になれって。誰もお前のおばちゃんを馬鹿になんかしてないんだよ。地球とライフカプセルの環境の違いなだけだったんだよ。それだけの事だろ。それに床に落ちたカレーもどのみち腐ってたんだから食べれなかったんだしさ。」

「う、五月蝿い。お前に、お前に俺の気持ちが分かるものか。」

「だったらお前に学の気持ちが分かるのか ? 別に学の肩を持つわけじゃないけどさ。彼奴は…。」

「言うな…。」

 そう言ってムラームは又歩き出した。

 ムラームは知っている。学の母と妹が奴隷として売られた事実を。そして学が奴隷として売られた事も…。

 だから余計に許せなかったのだ。

 元奴隷が名門レフィン家に引き取られ、自分と同じ士官学校に入学した事が気に入らないのだ。マグイ家もレフィン家に劣れど名門である。ムラームはその血を引く名家の人間。されど学は名門レフィン家に引き取られた奴隷である。その奴隷が母様を侮辱した。それが許せないのだ。

 例え名家に引き取られ様と奴隷は奴隷である。何故なら名家の血は一滴も流れてはいない。

 だから…。

 だから…。

「ムラーム。お前は英雄になれる男だ。少なくとも俺はそう思っている。だから、いつまでもそんな小さな事で立ち止まっていて欲しくないんだ。」

 ムラームの背中を見やり乍笨が言った。

「英雄 ? この俺がか…。」

 肩越しに振り返りムラームが言った。

「あぁぁ、そうだよ。」

「笨…。いつもありがとうな。あの時も一人俺を庇ってくれたしな。」

 ムラームの顔から険しい表情が消えた。

「カレー事件の時か。」

「あぁぁ…。」

「だったな。」

「あぁぁ。ーー。ふぅ。俺もそろそろ大人にならなけりゃなぁ。不本意だが学に許してやると言っておいてくれ。」

「あぁぁ、それなら大丈夫だ。彼奴はどうしてムラームに嫌われているのか、まったく理解していないからな。」

「ふっ。冗談だろ。」

「本当だ。」

「まったく…。とことん気に入らない奴だな。」

 そう言うとムラームは大きな声で笑った。笑うといじいじと考えていた事が何だか馬鹿馬鹿しくなった。状況が状況だけに笑顔を浮かべる事は無かったが、気持ちは幾分軽くなったような感じがした。

「海賊をブッチめて学をアッと言わせてやろうぜ。」

 ムラームが言った。

「あぁぁ。アッと言わせてやろう。」

 笨が答える。そしてムラームは又ブリーフィングルームに向かって歩き始めた。

 負傷者23名。

 死者15名。

 失った人形兵器38機。内25機はビーム兵器対応型人形兵器に破壊された。この事からも作戦遂行は極めて困難な事はムラーム自身が痛感していた。其れでもムラームは作戦遂行を望んでいる。学を越える為に。愛するリミリッタの為に…。何よりこの作戦で死んだ兵士の名誉の為に。

 だから漠艦長の逃げ腰染みた発言が気に入らなかった。否、ブリーフィングルームに集まっている佐官連中は皆逃げ腰だった。航海長も戦術科長も兵器科長も技術科長も皆逃げ腰だ。其れは鳳の佐官連中だけじゃない。ブリーフィングルームに投影されている巡洋艦の佐官連中も皆同じだった。

 ムラームは暫し口を閉ざしていたが、ジロリとボーンバルドルを睨めつけ”このまま帰れるわけないでしょう”と答えた。

「それはそうだ。我々としてもこのまま本体と合流と言う訳にはいかぬ。しかしだ。この映像を見てもわかると思うが、彼らは過去の遺跡であるarchⅡ遺跡を中型戦艦に改造していた。しかもどこから手に入れたのかウォームも携帯している。そして謎のビーム兵器対応型の人形兵器だ。この機動性は常識を逸している事は誰の目から見ても明らか。今回出てきたのは1機だけだが、仮にこの兵器が幾つも存在するのなら我々に勝機はない。」

 そう言って漠は映像をソフィアに変えた。ムラームはソフィアを見やり佐官連中を睨めつける。

「海賊がビーム兵器を持っているのなら、我々も使用すれば良い。」

 ムラームが言った。

「簡単に言うが、本作戦の目的は核燃料であるrx3000の確保だ。核燃料の消費が激しいビーム兵器を使用しての確保では本末転倒になる可能性が高い。」

 兵器科長が答えた。

「其れに海賊が使用するビーム兵器対応型人形兵器だが…。あれは通常の兵器とは異なるものの様に見える。」

 戦術科長が言う。

「其れはその通りだと思います。」

 ムラームが答える。

「出撃して3分足らずで10機もの人形兵器を破壊するなど常識では考えられん事だ。」

 漠艦長が言う。

「確かに…。異様でした。まるで人が戦っている様な。そんな感じでした。」

「人が…。そうか。」

 技術科長が言った。

「何か思い当たる事が有るのか ?」

 漠艦長が問う。

「ジェネシスシステム…。」

 技術科長が答える。

「ジェネネスシステム ?」

 漠艦長が言う。

「ジェネシスです。」

「ジェネシス ?」

 ムラームが問う。

「恐らく…。兵器と人とを完全に一つにする禁断のシステムです。」

「冗談…。」

 ソフィアを見やり乍ムラームが言う。

「冗談であればと思うが、そう考えるとあの動きも納得出来る。然しそのシステムには大きな弊害がある。恐らくどの企業も未だその弊害を克服できていないはずなのだが。」

「弊害とは ?」

 漠艦長が問う。

「パイロットを廃人にしてしまうのです。」

「諸刃の剣ってヤツですか。」

 ムラームが言う。

「そうだ。システムが強すぎて人間の脳に異常をもたらせてしまう。」

「人類破壊兵器だな…。」

 チャイをズズッと飲みムラームが言った。

「あぁぁぁ。だから実用段階には至っていない。間違いなく其れはどの企業も同じだ。」

「だったら、どうしてそれが戦場に出てきているんだ ?」

 戦術科長が問う。

「恐らくテスト運用を兼ねての納品だと。」

「テスト運用ねぇ。其れにしては動きが良い様に見えるが。」

 漠艦長が問う。

「恐らく搭乗しているパイロットがシステムと適合しているのでしょう。もしくは搭乗経験が極めて少ないか…。です。」

「経験 ?」

 ムラームが問う。

「あぁぁ…。あの兵器は人を選ぶんだよ。君の様にの強い人間や、強い精神力の持ち主には不向きな兵器だ。其れが、強ければ強いほどシステムの影響が後々まで色濃く残ってしまうからだ。要するに極端なヘタレや人に流されやすい人間には、逆にうってつけの兵器となる。」

「最高だな…。ヘタレが英雄になるのか。」

 吐き捨てるようにムラームが答える。

「そうだ。だが勿論リスクもある。初めに言った通りあれはパイロットを廃人にする。パアイロットが初めはヘタレでも長期にわたり運用する事で屈強な戦士に変貌を遂げる。システムが与える影響が脳に蓄積されて行くからだ。そうなればムラーム、君と同じになる。分かるだろ英雄だ。」

「成る程…。廃人になってしまうってやつだな。」

「あぁぁ。しかもアレには中毒性があってね。一度あれの恩恵を受けてしまえば、離れることが出来なくなってしまうんだよ。」

「絶大な恩恵は絶大な破壊をもたらすと言う事か。」

 漠艦長が言った。

「はい。ただ其れも1回や2回の戦闘に使用するぐらいなら然程の影響もありませんが、それ以上となると…。」

「ふ〜ん。って事は余裕だな。」

 ムラームが言った。

「余裕とは ?」

 兵器科長が問う。

「あれが出てくる可能性は50%。仮に出てきてもシステムに食われちまう可能性が50%。何よりあれを動かすことが出来るパイロットは数少ない。否、いても一人か二人程度だ。なら、恐るるに足らずだ。」

「だとしても彼等にはウォームがある。」

「あっても5個じゃどうしようもない。5個程度じゃぁ中型戦艦を包む事は無理だからな。仮に有ったとしても…。」

 と、ムラームは言葉を飲み込む。

「そうだ。仮に有ったとすればお手上げだ。巡洋戦艦、巡洋艦には時空間転移砲がないからな。」 

 漠艦長が言う。

「確かに…。しかし兵器転用のウォームには弱点もあります。」

 技術科長が言った。

「弱点 ?」

 兵器科長が問う。

「ええ。爆風でプラズマが乱れるんです。」

「爆風で ?」

「そうです。ウォームの原理を簡単に説明すれば、プラズマで形成された壁だということ。ライフカプセルを守るために作られたウォームは強力なエネルギーで力強く大きな壁を作っているのですが、兵器転用のウォームは核燃料の問題上強さは通常の3分の1程度に抑えられています。其れは強力なエネルギーは核となるリアクターで決まるからです。ライフカプセルには1000万人以上の人間を収容するための巨大なリアクターが存在しますが、それを戦艦に搭載するには流石に無理があります。ですから兵器転用のウォームは無敵のバリアでは無いと言う事です。」

「成る程…。薄い壁は破壊出来ると言う事か。」

 漠艦長が言う。

「破壊…。ではありませんが。乱れるプラズマを海賊の中型戦艦に当てることは可能です。そしてほんの数秒ですが乱れたプラズマの間を縫って剥き出しになったウォームを狙う事も出来ます。」

「て、事はウォームの一点にミサイルを集中砲火で浴びせれば、その分剥き出しになる時間が延びると言う事か ?」

 と、ムラームは自分の意見に首を傾げた。些か自身のない発言である事が分かる。

「まぁ、極論で言えばそうだ。だが、早々此方の思い通りには行かないだろうな。」

 クスッと笑みを浮かべ技術科長が答えた。

「否、其れは何とか成るかもしれん。幸いな事に此方は3隻、向かう海賊は幾ら中型戦艦と言えど1隻だ。」

 漠艦長が言う。

「確かにー。然し其れは飽くまでも戦うだけであれば。の話です。元々海賊を殲滅するだけであるなら我々が敗退することも無かったわけですから。」

「ふむ、君の言う通りだ。集中砲火を浴びせ戦艦を破壊してしまっては元もこもないからな。」

 漠艦長が自分の意見を改める。

「と、言う事は飽くまでも兵器での攻撃が主体になるのか。」

 兵器科長が言う。

「其れはそうです。」

「だとしても此方の攻撃で中型戦艦を破壊出来るとは到底考えられませんね。中型艦の大きさは周知の通り。こと、最近の中型戦艦の大きさは大型艦に迫る勢いです。この戦艦も映像では其れなりですが実際の目で見れば意外と大きな代物です、そう容易く破壊出来る代物ではありません。」

 突っかかる様にムラームが意見を述べる。

「確かにー。だが、万が一という事もある。」

「だったら…。」

「そう、焦るなムラーム。先にも述べたが、やるのなら乱れた隙間を狙って撃つ事だ。良いか今作戦は物資の捕獲が目的だ。だから其れを成功させる為の行動が基本軸になる。何でもかんでもやれば良いってもんじゃないんだよ。」

 技術科長が正した。

「わ、分かってますよ。私はただ…。」

「ムラーム、君の気持ちは理解している。其れは私だけじゃない。此処にいる皆が君の気持ちを理解している。何故なら皆が同じ気持ちだからだ。然し私達は個人の気持ちで戦闘をしているわけではない。飽くまでも作戦遂行の為だ。其れが可能なのかどうか ? 其れを見極め次の行動に移る義務があるのだよ。海賊を撲滅しても作戦が失敗に終われば死んでいった兵は犬死になる。」

 被せるように漠艦長が言った。

「だから…。だからこそやり遂げなければいけないんです。其処に僅かな可能性がある限り。」

「僅かな可能性 ? ムラーム、君は僅かな可能性で更に多くの兵を殺すのか ? ムラーム其れは君の怠慢だよ。」

 戦術科長が言う。

「怠慢 ? 私は…。」

「だから、理解している。焦るな。心配しなくとも作戦は続行だよ。如何に海賊がウォームを携帯していようと、最強の兵器を持っていようとも我々の有利に違いはないからな。其れに戦果を上げてリミリッタ艦長に報告しないといけないのだろう。な、ムラーム。」

 兵器科長が言った。ムラームは顔を真っ赤に染め上げ、お、俺はー。と言って口を噤んだ。一同に会する者たちがこぞってムラームを見やりニヤリと笑みを浮かべる。

 結局逃げ腰に思えたのはムラームの早とちりだった。今回の状況を見やり慎重な作戦を練っているに過ぎなかったのだ。

 そして、其れから3時間程の時間を使い海賊物資略奪作戦についての話し合いが行われた。

長い戦闘直後の会議はムラームの精神をズタボロにする。会議が終わる頃には疲れ果て最後らへんの内容は余り覚えてはいなかった。

 覚えていなくとも作戦内容は生体認証カードに送られて来るので然程の問題はない。其れよりもムラームは体の疲れを癒したかった。ベッドに横たわりリミリッタの事を思いたかった。例え一方通行の想いであっても想えば気持ちが安らいだ。

 はっきりと言えば好きのだ。

 出会った時から想いを寄せていた。

 然れどリミリッタはムラームよりも13歳も年上だ。階級も大尉と大佐ではかけ離れ過ぎている。分かっている。自分とは釣り合わないのだ。其れでも思う気持ちに歯止めが効かぬ。

 学に総部隊長の座を譲ったのも自分の懐の深さを見せたかった。まぁ、学に対しての嫌がらせの意味合いも有ったがー。それは全体の7割程度だ。残りの3割は矢張りリミリッタに対しての良いカッコがしたかったからだ。

 そして今回の大敗だ。

 見せる顔がない。

 何より殉職した兵士が15名もいる。

 海賊がビーム兵器を使用して来なければとも思うが其れを考えたところで意味はない。何故なら殉職する確率の低い人形兵器での戦闘で15名もの死者を出したのだ。何を言えども言い訳だ。

 正に大失態だった。

 疲れが体を蝕んでいく。

 嫌な事ばかりが頭の中でグルグルと駆け回る。

 作戦の続行は喜ばしい事だが、恐ろしい程の不安が押し寄せてくる。これ以上の死者を出せば…。又失敗したら…。

 そんな事を考えながらムラームは自室に向かってフラフラと歩く。

 大丈夫だと言って欲しかった。

 頑張れと言って欲しかった。

 勇気を与えて欲しいと思った。

 然れどムラームは男だ。そんな弱音を吐く訳にはいかない。平然とした顔で生意気な事を言うのだ。

 だから泣きたい時は部屋で声を殺して泣く。

 悔しい思いを噛み締め泣くのだ。

”ジュレット、園、ハング、ヨン、ヒックス、ヒューマン、グエンヒュン、デデム、カリューン、ジャネット、袁、金、拍、ハン、アラーニンーー。皆んな良い奴だった。自分が死ぬなんて考えもしていなかっただろう。”

 高々物資の略奪。

 高々この程度の作戦で…。

 クソッタレ…。ボソリと呟き部屋の前で立ち止まる。

 ”まったく、全くよう。全く誰だよこんなしょうもない作戦を立案した奴は。”

 ギュッと拳を握りしめムラームは俯いた。

”あぁぁ、お俺かーー。だったらざまぁ、ないな。学に嫌がらせする為に多くの仲間を殺しちまった。俺はーー。俺はどうしたら良いんだよ。”

 そしてそのまま崩れ落ちるようにしゃがみこむとムラームはボロボロと涙を流し泣いた。悔しくて、悲しくて、情けなくてーー。何より申し訳ない気持ちで一杯だった。

「ムラーム…。」

 そんなムラームに声を掛けたのは矢張り笨だった。

「何だよ…。」

 俯いたままムラームが答える。

「作戦はどうなった ?」

「続行だよ。」

「そうか…。此れで彼奴らも報われるな。」

「あぁぁ。」

「ムラーム、お前は良い隊長だよ。少なくとも俺はそう思ってる。いや、皆んなお前を信頼してるんだよ。死んで行った奴らも同じ気持ちだったろうぜ。」

「ふ、馬鹿野郎慰めてくれる人が違うんだよ。」

 ムラームは腰を立たせ笨を見やる。

「な、何だよ。俺は…。」

「否、有難う。少し楽になったよ。」

「そっか…。あぁぁ、そうだリミリッタ艦長が連絡する様にって通信が入ってたぞ。」

「リミリッタ艦長が ! それを早く言えよ。」

 そう言うとムラームは大慌てで部屋に入って行った。

 部屋に入るなりムラームは大慌てで生体認証カードを取り出しリミリッタに連絡を入れた。3回目のコールでリミリッタが応答した。

 生体認証カードの表面にリミリッタの姿がホログラムで現れる。

「リミ…。」

 と、言ってムラームは言葉を飲み込んだ。嬉しさの余りに我を忘れていたが良く良く考えればどの面下げてと言う奴である。

 ムラームはスッと顔を背けた。

「ムラーム。先ずはお疲れ様です。」

 そんなムラームを見やり、リミリッタは無表情で言った。

「は、はい。すみませんでした。私の所為で…。」

「何を謝るのです ? 戦闘の映像を見ましたが、見事な引き際でした。貴方の潔さがさらなる兵の死を救ったのです。」

「リミリッタ艦長…。身に余るお言葉です。」

「其れに今回の敗退は貴方だけの責任では有りません。敵の戦力を侮っていた私達全員の責任です。其れに…。」

「其れに ?」

「ううん…。何でもありません。ムラーム。ーー死んで行った兵の為にも必ず戦果を上げて来なさい。分かりましたね。」

「はい。必ずや。」

「宜しい。其れでは良い報告を待っていますよ。」

 そう言ってリミリッタは通信を切った。ユラユラとカートの後部座席に座り乍、暫し生体認証カードを見やり”戦果を上げて、今度こそ告白しに来なさい”と胸中で呟いた。

「本当、大嫌い…。」

 リミリッタはチラッと学を見やり当てつけるように言った。学はチラリとリミリッタを見やり素知らぬ顔で目を閉じた。

 リミリッタは艦長室から自室に戻る途中で学と会った。別に意味は無かったが何となく学を呼び止めカートに乗せたのだ。艦長室から自室までの距離は歩いて大凡15分。リミリッタの歩く速さは軍人だけ有って並の人よりも早い。その早いリミリッタでさえ15分も掛かる。中型戦艦と言えどその大きさと広さが伺える。

 だからリミリッタは戦艦に備え付けの自動カートを頻繁に利用している。特別佐官専用や艦長専用と言ったカートは存在していないので、リミリッタが勝手に自分専用に使用しているに過ぎない。

 そんな自分専用のカートに学を招き乗せた直後の電話だった。学に”自分も嫌いだ”と言った言葉に悪ぶれるでもなくリミリッタは深刻そうな面持ちを浮かべていた。

 この前の事と今回の表情を見やれば嫌でもわかる。

 リミリッタはムラームの告白を待っているのだ。

 然れどリミリッタは40手前の大佐。対してムラームは学と同い年の25歳。階級も学と同じ1等級大尉である。逆ならまだしも…。まぁ、叶いにくい恋である事に間違いはない。が、学にとってそんな事はどうでも良い。人の恋路に興味など無いからだ。

 只一つ憂鬱な事があるとすれば、仮にこの恋が成就したとすればムラームとも親戚付き合いをしなくてはならなくなると言う事だ。

 そうなれば…。

”全く厄介だ。”

 学は胸中でボソリト呟いた。


ーー柄にもなく僕は声を張り上げた。フツフツと自分でも分からない感情が湧き上がってきたからだ。

 否、理由が分からないのじゃなく。どうしてこんなにもイライラして腹が立ったのかと言う事が不思議だった…。声を張り上げ、相手を否定するような暴言を吐いた自分が言うのもなんだがとても不思議だった。

 普段の僕なら声を張り上げたりしない。誰かのしている事に真っ向から否定などしない。否、これは否定する勇気がないだけだ。

 理由がどうあれ僕が否定したり責めたり何て事…。

 しかも自分よりも目上の人に対して…。

 例えそれが海賊であろうとだ。


 だけど…。

 僕の脳裏に浮かび上がる沙也の笑顔。

 日比野大尉と那奈さんの笑い合う顔が…。

 僕の、

 僕の中から消えないのだ。


 生まれて初めて知る戦争の恐怖。痛み、辛さ、悲しさが僕を苦しめる。それでも強くあろうと必死にもがき、助けられた恩を返そうと意を決して出撃した。

 そして何とか撃退できたものの勝利したわけではない。CUEは必ず反撃してくる。そして今度は本気で来るだろう。


 彼らの本気…。


 僕は知っている。

 ビーム兵器の強さと、恐ろしさを。ビーム兵器を持つ兵器に、ビーム兵器を持たぬ兵器は太刀打ちできない事を僕は重々に思い知らされている。

 だからこそ褌を締め直して覚悟を決めなければいけない。

 なのに…。

 なのに…。

 どうしてこの人達は食堂で大宴会を行っているのだろうか…。

 マギーナ達と食堂に来て僕は驚いた。ガヤガヤと大量の酒を飲み飯を喰らい。まるで勝利したかの様なたち振る舞いで楽しそうに賑やかに…。

 僕はその光景が許せなかった。

 そうだ、僕は許せないのだ。

 もう二度と。

 もう二度と…。

 僕は失いたくないと思ったから…。

「あんた達は何してんだよ !!! まだ、戦闘中だろうが !!」

 自分の言葉であって自分の言葉で無い様な言い方で言っていた。

 臆病で、史上最強のヘタレである僕が…。一介の英雄が言う様なセリフを言っていた。その言動に食堂から賑やかさが消えた。マギーナ、花蓮、ギルフィッテさん達から笑顔が消えた。

 皆の視線が僕に集まる。

 僕の、

 僕の怒りはそれでも治らない。

 僕は、

 僕は…。

「I’m sorry Yuna.」

 そう言ってマギーナがソット背後から僕を抱きしめた。暖かい肌のぬくもりが僕を包む。僕はギュッと拳を握り締める。

「悠那…。頑張って。壊れたらダメよ。」

 耳元でマギーナが言う。

 僕は、

 僕は、

 プルプルと体を震わしポロポロと涙を流していた。

 

 

 Lost in space Amazing Grace 1 に続く。


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