Lost in space. archⅡ遺跡の攻防 2
「有るわけないでしょ。如月少尉はここを何処だと思っているのです ? 弱小海賊団のアジトですよ。国家の軍事基地でもなければ、戦艦の中でもない。予備の人形兵器等…。例えあったとしても何処ぞの誰かさんの為に貴重な兵器を貸せますか。」
スパスパと紫煙を燻らせ乍花蓮が言った。僕は口を突き出し花蓮を見やる。
「そんな顔しても無い物は貸せません。」
凛とした表情で僕を見やる。何とも優しさの欠片もない返答だ。僕は煙草を咥えコングコックパンドーラ…。否、ソフィアを見やり花蓮に視線を戻す。
「あの…。」
「何 ?」
「パンドーラって最後に出てくるのは希望じゃなかったですか ?」
「はん。希望も、絶望も同じでしょ。」
「え、いや…。僕は違うと…。」
「最後に残った希望が、今の私達を宇宙に追いやったのよ。…分かる。希望は一瞬。絶望は永遠。結局最後に勝ったのは希望じゃなくて絶望なの。だから、初めに出てこようと、最後に出ようと一緒。希望は絶望には勝てない。」
花蓮はキッパリと言い放つ。
「そ、そうですか…。」
僕はガックリ項垂れる。花蓮はライターに火を点け、僕が咥える煙草の前に差し出した。チロリと花蓮を見やり火に煙草を近ずける。僕は其のまま煙草に火が点くのを待つ。が、いつ迄たっても火は点かない。じれったくなったのか”吸わないと点かないわよ。”と、語尾を強め花蓮が言った。
言われるがまま僕は豪快に吸う。
そして、
力一杯噎せた。
其れを見やり乍花蓮がプッと吹き出すと其のまま大声で笑い始めた。屈託のない笑顔を浮かべ膝をパンパンと叩く。
ゲラゲラ、
ゲラゲラと声を上げ乍花蓮が笑う。
「ほんと、君ヘタレね。姫様がヘタレだけど見込みは有るって言ってたけど、あははは…。此処までヘタレなんて…。ちょっとほんとに君兵士なの ?」
お腹を抱えて花蓮が笑う。
ゲラゲラ、
ゲラゲラ…。
失礼なほど程良く笑う。
ゲラゲラ、ゲラゲラ。
ゲラゲラ、ゲラゲラと笑い続けた。
「ちょ、ちょっと何なんですか…。」
「あははは…。ごめん、ごめん。姫様が少し脅しておいてねって言うからちょっと脅したらさぁ。ビビリまくちゃってさぁ…。」
「え、え、え…。お、脅しだったんですか ?」
何だろうか…。僕は非常に気分が悪い。
「あ、でも。9割は本当よ。でも、1度や2度乗った所で脳細胞が破壊されるなんて事はないわ。」
「そ、そうなんですか。」
ひょっとして僕は揶揄われていたのだろうか ? 悔しいから噎せながらも必死に花蓮の煙草を吸ってやった。
「当たり前でしょ。そんな人類破壊兵器を作るわけないじゃない。でも、精神に異常をきたす可能性はあるけど。」
「精神に ?」
「そう。今迄に乗った海賊団パイロットは3人。運用テストに携わったパイロットは35人。全員現在も医療カプセルの中で治療中。」
そう言い乍花蓮はお腹をさする。笑いすぎてお腹が痛くなったのだろう。
「やっぱり最悪じゃないですか。」
「あ、でも君は大丈夫よ。」
さらりと花蓮が言った。
「どうしてですか ?」
「ヘタレだから…。」
と、僕を見やりプゥゥっと口を膨らませる。
「ば、ばかに…。」
「そうじゃなくて…。」
僕の言葉を花蓮が遮る。
「人と兵器を完全融合させる為に不必要なものが1つ。何か分かる ?」
突然真顔を浮かべ言った。
「不必要なもの ?」
「そう…。それは人が持つ理性。その理性がある限り人は絶対に兵器と融合出来ない。だから、このシステムは人と兵器を完全融合させる為に、人の持つ理性を完全に遮る様に作られているの。勿論無くした理性はプログラムであらかじめ作られている理性で代用するのだけどね。そうすることで人の本能の一つである。闘争本能に直接更に闘争本能を高めるためのプログラムを送る事が出来る様になる。」
「はぁ…。」
「そうする事で、パイロットは勇敢な宇宙の戦士に成る事が出来るのだけど、そのシステムが人の脳に甚大な障害を残すのよね。私達は其れをシステムパラドックスって言ってんだけどね。脳に送り込まれたシステムが融合が解けても抜けないのよ。だから元々勇敢で強い精神を持っている人には不向きなの。何せとっても凶悪で我が強くなりすぎて、自分が人か兵器か分からなくなっちゃってるのよね。」
「ねって…。他人事みたいですね。」
「他人事でしょ。自分事じゃないんだから。」
「そ、そうですね…。でも、それとヘタレがどう関係あるんですか。」
「フフフ…。よくぞ聞いたヘタレ戦士。君の様にとことんヘタレだと、私達が作り上げた”トコトン行っちゃえシステム”の影響も君の持つ”トコトン逃げろ”精神で相殺されるだろうと読む。」
ビシッと人差し指を僕に向ける。
「読む ? つまり可能性ですか ? じゃぁ、そうならない可能性も…。」
「なきにしろあらずね。」
「思いっきり他人事じゃないですか。」
「まぁ、安心ござれぇ。海賊団の戦士諸君は”脳が破壊される”と脅しても、俺の脳はそんなヤワじゃねぇって言って乗ってった精神力の持ち主ばかりだから。」
「ヤワじゃねぇって…。脳みそって鍛えられるんですか。」
「むぅぅ…。赤身じゃないから無理ね。」
「ですよね…。」
「それで、乗る ? 乗らない ? 私はどっちでも良いけど。」
ヒョイっと顔を近づけ花蓮が言った。僕は花蓮を見やり”あ、あの…。”と言いかけた所に”無いわよ”と、花蓮が追い打ちをかけるように言う。
「本当に覚悟の決まらない子ね。」
「決まるわけないでしょ…。幾ら何でも…。」
「まったく…。粋がってそんな派手なバトルスーツ着ちゃってさ。其れで言う事は半人前以下ですか。ヘタレ少尉さんは、何処まで言ってもヘタレ少尉さんね。乗らないのらさっさと出て行ってくれるかしら。」
何とも面白くない表情を浮かべ、吐き捨てる様に花蓮が言った。
僕だって、普通の兵器なら覚悟を決めて乗ったさ。
そうだ…。
これが普通の兵器なら…。
僕だって…。覚悟を決められた。
僕はジロリと忌々しい兵器を睨めつける。
「僕だって…。」
「僕だって…。僕だって…。って情けない子。一回ぐらいだったら大丈夫だって言ってるのに。情けない。情けない。情けない。あぁぁ、もぅいいから早く出て行ってくれます。」
プイッと踵を返し花蓮は扉の方に歩き始める。僕は煙草を床に投げ捨て花蓮を睨めつけた。
「な、何だよさっきから人を馬鹿にして。」
「してないわよ…。馬鹿を馬鹿にする必要性なんてないんだから。馬鹿は私が言わなくても馬鹿なのよ。だから一々私が”あなたは馬鹿なのよ”何て事言う必要がないの。良いから早く行きなさい。」
と、花蓮はボタンを押しドアを開けた。
「僕は馬鹿じゃない。馬鹿じゃないから迷うんだ。」
「はん。馬鹿じゃない。だから今の状況を全然わかってない。戦って死ぬか。グダグダ言って死ぬかなのよ。迷う ? そんな余裕何処にある。此処ぞと言う時に形振り構ってる君はただの偽善者よ。カッコイイこと言ってるだけのチンケな人間。私…。そう言う人大嫌いなの。」
と、花蓮はクイっと顎を捻る。僕は何も言えないまま拳を握り締める。
そして又、体が吹っ飛んだ。
キャットウォークの柵に力一杯体を打ち付ける。
グラグラとarchⅡが揺れる。
そうだった。今は戦闘中だったんだ…。
僕は床に這いつくばり乍花蓮を見やる。花蓮も衝撃で床に倒れていた。僕は体を起こし花蓮の所に向かう。
又グラグラとarchⅡが揺れた。
「花蓮さん…。大丈夫ですか ?」
花蓮を抱きかかえ言った。
「大丈夫なわけないでしょ。君みたいにバトルスーツを着てるわけじゃないんだから。」
そう言われて僕はアッと思う。確かに全然痛みを感じなかった。幾らバトルスーツを着ていると言っても痛みは感じるものだ。しかし、このスーツは全くその痛みを感じない。
「ビーム兵器対応型の最新式のスーツよ。それだとビーム兵器を使用しても、コクピットをゲロまみれにする事はないわ。」
「え…。」
「せめて、私のコングビッチを潰した責任ぐらいは取って欲しいわね。」
そう言うと花蓮はポケットから煙草を取り出し一服点ける。そして、抱きかかえる僕の腕に容赦なく凭れかかる花蓮は心なしか物凄く重い。
「言っとくけど、逃げ場なんてないのよ。何てたって此処は宇宙だから。」
花蓮は紫煙をくゆらせる。
確かに逃げ場所なんて何処にもない。此処は宇宙だし、僕はCUEに敵対する国の兵士だ。死ねばそれ迄。捕まれば想像を絶する拷問にあうだろう。何より目先の事にビビり肝心なことを忘れていた。
…助けられたから、僕は生きていたのだという事実。
…僕を助けたからCUEに攻め込まれているという事実。
受けた恩は必ず返す。僕はマギーナに言った。だからマギーナはこれを僕に貸そうとしているのだ。
僕は又…。
つくづく情けない。
”どんなに困難な事があろうと、どんなに辛い事があろうと。前を見据え強く、逞しく生き続ける事だ。”オビーの言葉が脳裏を過る。
沙也の笑顔を思い出す。
強くならなきゃな…。
強く。
強く。
「本当に必要な時に、全力で立ち向かっていく強さか…。」
ボソリと呟く。
「何か言った ?」
「別に…。何も。」
「そう…。」
「あの…。ソフィア借ります。」
「あら、乗る気になったの ?」
「はい。」
「専用のヘルメットはコクピットに備え付けてあるわ。」
そう言うと花蓮はスッと煙草を取り出し僕にくれた。
「あ…。どうも。」
僕は其れをもらい咥えた。そのまま花蓮が火を点けてくれる。
「景気づけよ。」
「有難う御座います。」
そして、僕はスッと立ち上がる。同時にゴンと響きの良い音が格納庫に響いた。僕が腕を離したので花蓮がそのまま床に頭を打ち付けたのだ。僕は慌てて起こそうとしたが、花蓮が手で早く行けと合図を送る。
僕はぺこりと頭を下げソフィアのコクピットに向かった。花蓮はノッソリト立ち上がり格納庫専用管制室に向かう。
慣れない煙草をスパスパト吸い床に投げ捨てる。そして、ソフィアの頭部ハッチを開けコクピットに入る。中の様子はコングビッチとよく似ているが何処となく簡素な感じがした。僕は自分の生体認証カードをリーダーに翳し、兵器に自分が主だと認証させる。此れをしなければどの兵器も起動しないからだ。兵器が認証して初めてシステムが起動する。
システムが起動するとソフィアのフレームが金色に光り輝いた。勿論僕は見る事が出来ないが、神々しい光を放ち周囲を照らす。
一度溶かすと透明になる特殊金属BandG。熱を入れる前の沸点は非常に低いが、一度溶けたBandGの沸点は高温のプラズマ兵器を使用しても変形したり融解する事が無くなるほど高くなる。そのBandGを全てのフレームに使用したソフィアは、フレームに流れる大量の電気の光を煌々と放つ。
ヘルメットは花蓮の言った通りシート上部に備え付けてあった。僕はヘルメットを掴み少し躊躇う。
1回なら大丈夫。
1回なら大丈夫。
「僕は強い。僕は強い。」
自分を必死に奮い立たせ、僕はヘルメットを被った。
そして…。
目の前が暗闇に包まれた。
其の間は1秒か2秒か…。
やがて目前に景色が浮かび上がる。
「正常に起動したみたいね…。」
窮屈な格納庫に花蓮の姿が表示される。格納庫が窮屈に感じるのは僕がソフィアになったからか…。僕は両手を目の前で広げてみる。
僕の目に映るのは僕の手ではなくソフィアの手。其れなのにまるで自分の手のように動かすことが出来た。
「融合も正常に行われているようね。シンクロ率も良いわよ。」
「あ、はい。」
「心配しなくても大丈夫よ。必要な情報は君が見ている世界に全て表示されるわ。情報が知りたければそう思うだけでいい。後はシステムが全て処理してくれる。そして、精神が低下し始めり、不安定になったらアドレナリンと5つの成分融合用がヘルメット内部に散布される様になってるから。しかも、アドレナリンが散布されている時は目の色が変わるのよ。」
「目の色がですか !!」
と、少し僕のテンションが上がった。
「そうよ。通常は黄色なんだけど、散布されると赤に変わるの。」
「それ、めっちゃかっこいいですね。」
「でしょ。だから何も恐れず戦ってらっしゃい。」
「はい !!」
「それじゃぁ、ハッチ開けるわよ。」
花蓮がそう言うと目前のハッチが開く。そしてその先のハッチが、そしてその先の…。って、一体ハッチは幾つあるんだ ? と、僕が思うと宇宙にハッチの数が表示される。
ハッチ10
成る程これは便利だ…。
そして主要武装は…。
キャノンライフル 2
アトミックソード 4
ギガントシールド 2
キングスパイラル 2
と、此れは何れもビーム主体の武装だ。だが、前回の様に戸惑う事は無い。ビーム兵器の威力は前回の戦闘で証明済みだからだ。
そして、両腕と背中に計4つのアームが内蔵されている。背中の2つのアームがシールドを保持し、両腕のアームはキャノンライフルを保持しているのか…。
「何だ…。こんなに一杯付いていたら余裕じゃないか。」
「あ、背中のアームはオートにしておくと便利よ。自動で防御してくれるから。」
そう言って花蓮が両目を閉じた。多分、ウィンクのつもりなのだろう。
「了解。それじゃ。如月悠那行ってきます。」
そう言うと僕は力一杯背中と両足のバーニアを噴かした。同時にソフィアの目が赤く光る。花蓮が驚きの目でそれを見やる。
「えぇぇぇ…。早くない。」
と、言った花蓮の言葉は最早僕の耳には聞こえない。カタパルトを全力で突き進み、左右の腰からアトミックソードの柄を抜く。
実に楽しい。
実に愉快。
これ程までに自分が兵器になれるなど考えもしなかった。
自分の体を動かすように兵器が動く。バーニアの強弱も思いのままに働き、両腕のアームも第三第四の手の様に動く。これが全てコンピューターで制御されている何て考えられない。そう、これは元々自分自身が持っていたもの…。そんな感じだ。
ソフィアは一気にカタパルトを抜けると、漆黒の宇宙に躍り出る。archⅡの中では光り輝いていたフレームの輝きは、宇宙の闇に食われさほど光が伸びきらない。傍目から見れば金色のフレームを持つ兵器にしか見えないだろう。宇宙に出るとソフィアは直ぐさま、目前の宇宙に情報を表示させ最適な状況を僕に伝えてくる。
archⅡから送られてくる砲撃軌道。そしてarchⅡ前方の状況が鮮明に示され、雪崩のように突っ込んでくる敵フェネック。その勢いは激しく瞬く間に最終防衛ラインにいるキャノン部隊を飲み込んで行った。不運な事にarchⅡからの砲撃はキャノン部隊が邪魔で砲撃出来ない。ならばと、僕はそれを迎え撃つ為に全速力で最終防衛ラインに向かう。
然れど、間に合わない。キャノン部隊が次々に破壊されフェネックがこちらに押し寄せる。移動し乍キャノンライフルで牽制し敵を分散させる。
まっすぐに伸びる光の筋。
その光に貫かれ3機のフェネックが撃墜される。そして、その攻撃に敵部隊の動きに動揺が走り、次の瞬間一斉にソフィアに対しての攻撃が始まった。
無数に表示される弾道軌道。然れどその攻撃は背中のアームが自動で防御してくれる。だからと言って完全に守れるわけでもない。だからソフィアは体をグイグイと動かし回避行動をとる。回避行動を取り乍もソフィアは間合いを詰める。それに合わせフェネックも動くがいかんせん動きが鈍い。
パイロットが持つ戸惑いや迷い…。それらが全て兵器の動きに現れる。今迄ならそんな事には全く気づかなかった事だ。それが今は手に取るように分かる。ソフィアは一気に敵フェネックの懐に入りアトミックソードの柄からビームの剣を形成すると1機2機とフェネックを切り倒していく。アトミックソードで切り壊し、足に装備されているキングスパイラルで腹に穴を開ける。
ビーム兵器であるキングスパイラルの攻撃も又、貫くと同時に強い力で周囲が弾き飛んでいく。そして、これだけビーム兵器を多用しているにも関わらず僕にくる負担は全くと言って良いほど無かった。何より相手の動きが鈍臭く面白いほど攻撃が当たる事に僕は楽しさを覚え始めていた。
そして、表示される半破した海賊団の兵器…。
宇宙を漂うようにarchⅡに向かって飛来している。ソフィアは其の兵器の情報を僕に送る。誰かは分からない。が、情報を送ってくると言う事は、まだ生きている可能性が高いと言う事だ。頭部であるコクピットはまだ破壊されていないからだ。
その兵器がピクリと動く。
真逆…。と、ソフィアは半壊した兵器の元に急ぐ。ソフィアの行動に敵部隊はソフィアを追撃せず進路をarchⅡに戻す。
”まったく、動かなければ誰も相手にせずこちらに向かってくるものを…。”と、半壊した兵器が敵フェネックめがけて攻撃を繰り出した。然れど、その動きは遅くいとも簡単に右腕を切り落とされる。そして、右腕を切り落とした敵フェネックは其のままこちらに突っ込んでくる。其れをソフィアが切り裂き先に進む。が、別の敵フェネックが半壊した兵器を左肩から腹にかけて斬りおろす。特殊合金で出来たザックリと切断される。その背後から続けて敵フェネックが姿を表す。半壊した兵器の頭部を狙い剣を大きく振り上げる。
敵フェネックまでの距離は後少し…。
届くかーー?
ソフィアが右腕をグイッと伸ばす。敵フェネックが剣を振り下ろす。其の光景がソフィアの宇宙に映る。
振り下ろす剣が、突き出す腕が…。
少し早かった。
ソフィアの突き出す腕。その先に持つアトミックソードの切先が敵フェネックの頭部を破壊した。ビームの剣で突き刺されたフェネックの頭部はその衝撃で弾け飛ぶ。間に合った。否、間に合わせたのだ。
そうだ…。
これ以上はやらせない。
何故なら…。
大和の男は…。
「大和の男は絶対に受けた恩は返すんだ。」
そう言って僕は敵を睨めつける。
そして、其のままソフィアは横にいるフェネックの頭部をも弾き飛ばすとくるりと直ぐさま踵を返す。archⅡに向かった敵フェネック総数18。その映像がソフィアの宇宙に表示される。
archⅡからの攻撃を掻い潜り乍総勢18f機のフェネックがarchⅡに攻撃をかけている。
「其のまま其処で待機。動かなければ誰も攻撃を仕掛けない。」
ソフィアが破壊された兵器に通信を送った。
「え、あ…。き、君は誰 ?」
ギルフィッテが言った。然れど、宇宙にノイズが走り此方に映像が送られてこない。かろうじて声だけが聞こえる状況だ。
「其の声…。ギルフィッテさん。」
「あ…。ま、真逆。悠那少尉 ? どうして…。」
「話は後。先に抜けた兵器を追撃します。」
そう言うとソフィアはarchⅡに向かって飛んでいった。
ーー「ふぅ…。遅いんだから。」
金色に輝くソフィアを見やりマギーナが言った。
「全くです。ウダウダ悩んでいたんでしょうね。」
ロイスが答える。
「何にしても、これで形勢逆転ね。」
「そんなに上手く行きますか ?」
「行くわよ…。伊達に融合兵器として完成されてる訳じゃないもの。良い。兵器って言うのはコンピューターが認識したものを人が理解できるレベルにまで処理したものを脳に送るの。それを今度は人の脳が分析解析して、更に操縦桿などを動かす行動に移る。その指令を今度はコンピューターが解析して初めて兵器は行動するのよ。でもソフィアは違う。コンピューターが認識したものを人が理解できるレベルにまで処理して脳に送るのは同じ。それを脳が処理してダイレクトに人形が動く。まぁ、正確に言うとパイロットは、無意識の内に操縦桿とかを操作してるんだけど、そのタイムラグが非常に少ないと言う事ね。」
「其れは花蓮が言ってましたね。しかし、其れだけで変わる物ですか ?」
「変わるわよ。きっと悠那の目には、敵が物凄く鈍臭い動きをしているように見えるでしょうね。」
「成る程…。」
と、ロイスはソフィアを見やる。
「姫様…。ギュネル艦長が主砲が撃てないと困っていますが…。」
オペレーターが言った。
「主砲は良いわ。その代わりボーンバルドルの発進準備を急がせて。」
そう言うとマギーナも又ソフィアを見やった。
ソフィアは両方の手に持つ柄からビームの剣を形成し敵に襲いかかる。archⅡまでの距離は大凡3km。この3kmがこれ程間近に思えることも珍しい。手を伸ばせば届く様な錯覚を覚えてしまう程だ。
archⅡ前方3km。最終防衛ラインを抜けた敵部隊がarchⅡから放たれるレーザー砲をグイグイと掻い潜り乍攻め込んでいく。が、後方から迫ってくるソフィアに敵部隊はarchⅡから再び攻撃目標をソフィアに変更した。
迫り来るソフィア1機。対する敵部隊は18機。
僕は思わずクスッと笑った。
出撃してまだ僅かな時間。恐らくまだ3分も経っていない。その3分足らずの間に僕は10機のフェネックを撃墜したのだ。
自分でも想像すらしていなかった数。恐らく歴代のエースパイロットでも3分で10機ってのは荷が重すぎる。それを僕はいとも簡単にやってのけたのだ。
笑いが止まらない。
この状況で残り18機…。
余裕だよ。
と、ジロリ…。
向かってくる15機のフェネック。宇宙に表示される敵が放つ弾道軌道と敵の予想進撃経路。其れに合わせる様にソフィアが動く。
相変わらず敵の動きは鈍い。
戸惑い困惑しているのかやたらと無駄が多いように感じる。然れど、手は抜かない。敵の予測進路に合わせキャノンライフルを打ちたい所だが正面にarchⅡがある。取り敢えずはギリギリまで引き付ける。否、敵は一定のラインからは近寄ってこない。
こちらが打てないのを知っているからだ。そして、アトミックソードを異様なまでに警戒している。当然警戒する。ビーム兵器を知らぬ兵士でもこの威力を目の当たりにすれば腰が竦んで当然。ビーム兵器を使用した事のある兵士なら尚更だ。
だったらとソフィアが間合いを詰める。放たれる銃弾を掻い潜り1機、続けて2機とアトミックソードで斬り潰す。その攻撃に敵が散開した。四方に散らばる敵。ソフィアは敵フェネックに囲まれるが、お陰でarchⅡが正面でなくなった。僕は腕のアームをオートに設定し敵部隊に突っ込んでいく。これで防御と攻撃が自動で行われる事になる。
無数に表示される弾道軌道。然れど敵に近ずけば近づく程その数も減っていく。当然敵フェネックに突っ込んでいくソフィアを狙えば味方に当たる可能性も大きくなって行く。其れでも前方の敵フェネックの攻撃が止む事はない。それに応戦するようにキャノンライフルを撃つ。ソフィアになっても僕の目には光の筋が現れるだけの様に映る。
その光に敵フェネックが貫かれ弾き飛ばされる。ソフィアは敵フェネックを1機、2機と撃墜して行く…。その攻撃に散開した敵フェネックが剣を抜き襲いかかる。然れどarchⅡからの援護射撃で行く手を阻まれる。其れをソフィアがキャノンライフルで打ち抜いていく。放たれる光のラインが幾重にも重なる様に輝き宇宙を彩る。その光景は正に神の力を手に入れた英雄。その脅威は悪魔の如く敵を破壊する。
その光景は敵通信兵器から敵本隊にも送信される。海賊団の大将を見つけたムラームはオビーと対峙しながら度肝を抜かれる事となった。
「な、何なんだ…。ビーム兵器までもか。」
ムラームは思わず声を荒げた。
「何でもあるさ。何たって俺たちは海賊だからな。」
そう言ってオビーがムラームのフェネックの腹に蹴りを入れる。フェネックが勢いよく後方に飛ばされる。コクピットに衝撃が走る。衝撃が体を打ちのめすがそんな事はどうでも良かった。
体の痛みよりも精神的な痛みの方が辛い。次々に破壊されていくフェネックを瞳に映しムラームはソフィアを睨めつける。
悔しい…。
悔しい…。
たかだか海賊風情に此処までしてやられるなんて…。
レーザー機銃にWOMにビーム兵器までも…。しかも異様なまでの動きのキレ。尋常じゃないのはパッと見で分かる程だった。ソフィアは自軍のフェネックを追い詰めアトミックソードで斬る、斬る、斬る、ぶった斬る。シールドで防ごうとシールドごとぶった斬る。その攻撃は歯痒いほど良く当たり見る見るうちに自軍の数が減少していった。
少なからずこちらがビーム兵器を携帯していたなら話も違ったのだろうが、真逆海賊相手にと思っていた緩さからそれを怠った。其れにビーム兵器を使用すれば必要以上の燃料の消費にも繋がる。燃料を奪う作戦で必要以上の燃料を使用するわけにもいかぬ。
初めからその全てが誤りだったのだ。
「ぬぬぬぬ…。後退だ。」
湧き上がる怒りを抑えつけ乍ムラームが言った。
「何だ。逃げるのか ?」
そう言うもののオビー達も又ボロボロだった。多勢に無勢。勝てる見込みなどない戦い。ソフィアのお陰でなんとかなった様なものだ。其れでも弱みは見せられない。引けば攻められる。だからオビーは何があっても引かない。
「態勢を立て直すだけだ。」
「そうかい…。」
「そうだよ。ーー笨、民引くぞ。」
「引く ? りょ、了解。」
笨が答えた。民も同じく答え撤退命令を出す。しかしarchⅡに辿り着いた部隊は既にソフィアに撃墜されていた。
金色のフレームを持つ兵器を見やりながらムラームは唇を噛み締めていた。胸の内から込み上がる悔しさが止まらない。
まさかの敗退。
まさかの屈辱。
其れでもこれ以上無駄に兵器を損失させるわけにはいかない。ムラームは兵を率い鳳に撤退していった。
それをじっと見やりながらオビー達はホッと肩を撫で下ろす。何とか命拾いをした。そう思う。そう思いながらもオビーの目はジロリとソフィを見遣っている。
「オビー大尉。あれに乗っているのは誰でしょう ?」
ヒムエンコから通信が入った。
「如月悠那少尉か…。」
「え、悠那少尉ですか ? 真逆。彼はSuAg軍の少尉ですよ。」
「そうだな。だが、間違いなくあれに乗っているのは如月悠那少尉だ。」
そう言ってオビーはぐるりと周りを見やる。夥しい兵器の残骸とボロボロに朽ち果てた兵器が無重力の中で漂っている。その光景を目に映し”よく生きて入られたものだ”とオビーは神に感謝した。
「何にしてもだ。我々の英雄を褒め称えてやろう。」
ヒムエンコにそう言うとオビーはソフィアの元に向かって行った。
宇宙にプカプカと浮かぶ兵器。フレームをピカピカと光らせ乍、いつしか目の色は黄色に変わっていた。戦闘が終わりアドレナリンの散布が止まったのだ。それと同時に僕の意識も又暗闇に覆われていた。




