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Lost in space. archⅡ遺跡の攻防 1

「第一外壁損傷。一部吹き飛ばされました。」

 管制指令室のオペレターが告げた。

「archⅡ損傷率3%ダウン。更に前方ミサイル5。来ます。」

「姫様。CICルームが迎撃の許可を求めています。」

「カイル機被弾…。ニッチマインズ機大破、ケイト機が収容作業に入りました。」

「マインズ隊が出撃の許可を求めています。」

 各オペレーターが次々に状況を告げ、マギーナの目前に表示されている宇宙に弾道軌道が表示される。マギーナは下唇を噛みながらロイス指令室長をチロリと見やる。ロイスは軽く頷き”仕方ありません。許可しましょう。”ボソリと答える。

「両方許可します。」

 CUEの艦隊を睨めつけ乍マギーナが答える。

「CICルームに報告。姫様の許可がおりました。迎撃お願いします。」

「マインズ隊出撃許可が下りました。出撃お願いします。」

 次々にオペレーターが告げる。

「了解した。」

 そう答えるとマインズは部隊を率いてarchⅡから出撃して行く。CIC司令官を務めるマリオ-ヒェップマンは許可が下りると同時に”上面第1ダミー外装パージ。パージ後レザー機銃5門〜8門展開。展開後速やかに迎撃行動に移れ。”と直ぐに迎撃行動に移る。

「思ったより本気ですね。」

 ニコライチが言う。

「本国に戻る暇がないんだろう。御苦労なこった。」

 ロイスが答える。

「簡単に落とせると思ってるのよ。」

「まぁ、過去の遺跡ですから。」

 と、ロイスは弾道軌道を見やり、その軌道上を飛んでくるミサイルをレーザー機銃がロックしたのを確認する。展開したレーザー機銃が後続のミサイルを打ち落とす。が、又しても爆風がarchⅡを襲う。展開と反撃が少し遅かった。

 其れでも初めの攻撃に比べれば大した事はない。軽い衝撃が襲ってきたぐらいで外壁に損傷は無かった。然れど、この攻撃で敵の動きが変わる事は容易に想像できる。

 当然CUEの部隊はarchⅡに防衛設備があるとは思っていないだろうからだ。しかし、この攻撃を見やり当然作戦の変更を余儀なくされる。

 ゴリ押しの作戦ではこのarchⅡは落とせないと言う事だ。

 展開したレーザー機銃がarchⅡに近づく敵を攻撃する。この攻撃により敵の動きが鈍る。焦った民が一旦部隊を後退させ体制を立て直そうとする。

 其処をヒムエンコの部隊が一気に追撃を掛ける。

 防衛に回っていたマインズの部隊がキャノン砲で援護を掛け更に追い込んでいく。マインズの部隊の参戦で勢力は五分と五分。ここは弱気になった方が確実に負ける。レーザー機銃に翻弄され民の部隊は一気にたたみ掛けられる事になった。

「ムラーム…。何だアレは ?」

 archⅡのレーザー機銃を自身の宇宙に映し笨が問いかける。

「レーザー機銃だ。」

「そんなモンんは見れば分かる。どうしてarchⅡにあんな物があるのかって聞いてるんだ。」

「知るか…。そんな事より民だ。焦って死にかけてる。」

「あ、あぁぁ…。」

「さっさと出るぞ。」

 そう言うとムラームはサッサと鳳から出て行った。それを見やり笨が部隊に指令を出す。鳳のカタパルトデッキから20機の人形兵器が続々と出て行く。そして巡洋艦から計20機の人形兵器が出てきた。各小隊は手際よく笨を先頭に所定の位置につく。ムラームは笨の部隊を背後に号令を掛ける。

「良いか…。これは最早物資の略奪でも、海賊討伐戦でもない。戦争だ。archⅡは破壊しても構わん。徹底的にやれ !」

 そう言うとムラームは人形兵器の腕を高らかと揚げ垂直に下ろした。40機の人形兵器が一気に戦場に赴いていく。

「後方キャノン部隊はarchⅡに攻撃を集中させろ。通信兵は民と合流後、出来るだけarchⅡ内部のスキャンが出来る場所にまで移動。護衛は民の部隊にさせれば良い。笨の本隊は民の援護と現状回復を優先。俺は敵の大将を討つ。」

 指令を出すとムラームは敵の総隊長を探す。自身の宇宙に情報を集中させ、其れを目で追い乍フェネックを駆る。

 戦場の総部隊長は、各部隊の大隊隊長に指令を出すとは別に総大将同士の決着の役目も持つ。総隊長が不在の場合は部隊長がその任を受け持つ。

 拠点攻略作戦であろうと、艦隊戦であろうと宇宙戦の要は人形兵器である。だから宇宙での戦闘はどれだけ屈強な人形兵器の部隊を持っているかで大きく左右される。

 然れど、幾ら強靭な部隊でも司令塔がやられれば一気に崩れて行く。その為、部隊を引き連れる部隊長は何が有っても一般機に破壊されてはいけないと言う厳格なルールがある。この場合その任はムラームが受け持つ。そして海賊団はオビーがその任を受け持っている事になる。

 勿論決闘と言っても戦場で輪を作り戦う様な事はしない。入り乱れる中で激突するのだ。当然邪魔も入るし流れ弾に当たる事もある。だから部隊長同士の決闘は、基本戦局の中盤か後半に行われる事が多い。其れまでは後方や中方で指令を出すのが基本である。

 然れど、ムラームはフェネックを駆り敵の総大将を探す。焦っていると言えばそうであるし、焦っていないと言えば嘘になる。

 後方部隊にarchⅡの攻撃は許可したが、自軍の戦艦はarchⅡに攻撃を仕掛けないだろうと読む。仮に攻撃をしたとしてもラーゲーテンミサイルの様な威嚇用のミサイルしか打たない。否、撃てないのだ。戦艦に搭載されている兵器はその全てが強大な兵器類で埋め尽くされている。一度撃てばarchⅡの様な過去の遺跡は跡形もなく吹っ飛んでしまう。

 其れでも人形兵器が出撃する前なら側面をビーム砲で撃てたものを…。と、しつこくムラームは悔やむ。何故なら今は敵味方の兵器が邪魔でピンポイントでビーム砲を撃てないからだ。

 後方に弾道軌道が表示される。

 味方の兵器がarchⅡに向かって攻撃を開始した証拠である。総部隊長の破壊が先か、archⅡの陥落が先か…。

 一気に放たれる砲弾は地上に降り注ぐ雨。

 正に雨の如く降り注ぐ。

「姫様…。弾道軌道多数。ロックされました。」

「マジで…。」

「来ます。」

 その瞬間無数の砲弾がarchⅡを襲う…。

「全面外壁破損。archⅡ損傷率20%%ダウン。」

「更に弾道軌道多数。ロックされてます。」

 そして更に砲弾がarchⅡを襲う。

「姫様…。敵の攻撃がやみません。更にロックされました。」

「ちょっと何でこうも簡単にロックされるのよ !!」

「姫様、CICルームがウォームの使用を求めています。」

「さっさと使いなさいよ。堕ちるでしょう。」

「姫様…。」

「今度は何 ?」

「Bブロックに侵入者です。」

「侵入者 ?」

「姫様、ギュネル艦長が主砲の許可を求めてます。」

「主砲 ? ロイス !!」

「ギュネル艦長には我慢する様に。先ずはウォームで相手の出方を見ます。」

 ロイスがボソリト言う。

「主砲は未だよ。でも備えなさい。」

 マギーナがオペレーターに返答する。

「で、Bブロックの侵入者って何 ?」

「映像送ります。」

 オペレーターがBブロックの映像をマギーナに送った。マギーナはその映像を見やり、プッと笑いそうになったのを堪えた。

「な、何これ。」

 その映像には、扉に向かって必死に問いかけている悠那の姿があった。必死に扉を開けようと頑張っている悠那。合言葉を投げかけている悠那。優しく扉を撫でている悠那。そのどれもが側から見れば滑稽で笑いをさす物である事は間違い無いだろう。然れど、悠那は必死にやっていた。「分かりません…。笑いそうになりました。」

「私は笑ったわよ。」

「しかし、この少年はどうしてこんな所に ?」

 ニコライチが言った。

「さぁ…。トイレじゃない。」

 マギーナはしらっとした顔で答える。

「どうしますか ?」

 オペレーターが問う。

「開けてあげれば。」

「開ける ? あそこは兵器格納庫ですよ。」

 ロイスが言った。

「良いじゃない別に。」

 マギーナが口を膨らます。

「別にって ? ーー真逆、姫様…。」

 マギーナの表情を見やり、ロイスはマギーナが故意で悠那を導いたのだと悟った。

「こちらが不利な戦局で、共和国の兵士が海賊の兵器を奪って逃げる。それだけ。」

「それだけって。アレは我々の秘密兵器ですよ。」

 溜息交じりにロイスが答える。

「まぁ、そうだけど。でも、使えない秘密兵器はただのゴミでしょ。」

「確かにそうですが、あの少年には荷が重すぎるのでは ?。これでは無駄に殺す様なもの。」

「無理かどうかは、やらせれば分かるわよ。」

「まったく、分かっているのですか ? あの兵器は我々海賊団の中でも、取り分け屈強な戦士に搭乗させても3分と持たなかった代物です。…其れにその後の後遺症の事もーー。」

「だから !!。自分で決めれば良いじゃない。乗るも乗らないも悠那が決めれば良い。」

 たたみ掛けるようにマギーナが言った。その眼差しは強くジッとロイスを見やる。

「まったく、聞かん姫様だ…。開けてやれ。」

 ロイスがオペレーターに許可を出した。

「良いんですか ?」

 オペレーターが聞き直す。

「まぁ、有っても使い道はないしな。其れに決めるのは本人だ。本人が其れでも良いと言うのなら好きにすればいい。」

「分かりました。」

 そ言うと扉のロックが解除された。

 その音で僕はハッと扉を開ける。

「開いた !!」

 思わず声に出して言ってしまった。恐らく合言葉の”真夜中”が合っていたのだろう。しかし、中から”月”と言う返答は返って来なかった。中に入ると直ぐに真新しい兵器が僕の眼に映る。キャットウォークを進みマジマジとそれを見やる。僕のいる位置が丁度コクピットがあるだろう頭部の部分なので体を見るには下を覗くしかない。

 キャットウォークから少し体を乗り出し体を見やる。顔も含め見たこともない兵器だ。それは新型なのか ? 海賊がカスタムした兵器なのか…。否、その割には綺麗な兵器だ。

「如月悠那少尉ですね。」

 不意に声を掛けられた。体を震わせ僕は落ちそうになる。

「あ、貴女は ?」

 肩越しに振り返る。 

「日野本工業エンジニアの佐々木花蓮と言います。」

 そう言った女性は凛とした立ち振る舞いで僕を見やっている。ボディラインがはっきりと分かるピッチリトしたスーツを着こなし、髪をアップにメガネを掛けたその表情は、如何にもキャリヤ組であると言った感じだ。特に真っ赤な口紅が嫌味に見える。

「日野本工業 ?」

「はい。」

「え、でも日野本工業のエンジニアが何で海賊の隠れ家に ?」

「勿論仕事ですが、何か問題でも ?」

「え、いや…。海賊にも兵器を…。」

「勿論。我が社の兵器を何処に売ろうと法律には觝触しません。我々も売って何ぼの商売ですから。と、言ってもコレはサンプル商品ですけど。」

「サンプル ? 又か…。」

 僕は目前の兵器をジッと見やる。

「其れは安心なさい。君が乗っていた紅のコングビッチとは違います。このコングコックパンドーラは製品レベルでの完成度です。」

「コングビッチ ?」

「はい。」

「コレはコングコックパンドーラ ? 」

「はい。姫様はソフィアと命名されてましたが。開発コードネームはコングコックパンドーラです。」

「… ? ソフィアの方が良いですよね。」

「あぁぁ、貴方もネーミングセンスが無い方の人なんですね。其れよりも兵器の説明をします。先に着替えて来て下さい。」

 そう言うと花蓮は右の更衣室を指差した。僕は良く分からないまま、更衣室に行きバトルスーツを選ぶ。当然あれこれ迷っている時間も余裕もない。僕は迷わず金色のバトルスーツを選びそれを着た。袖をとうしグッと拳を握る。

 心なしか震えているのが分かる。そりゃそうだ。今から戦いに行くのだ怖く無い訳などない。其れにこれは軍の戦闘じゃない。だから、僕をルーキーとして守ってくれる人は誰もいない。

 違う…。

 守って欲しいなら此処にいれば良い。

 此れはあくまでも僕の意志だ。

 だったら命を掛けろ…。

 金色の中に日比野大尉の顔が浮かび上がる。

 一人じゃない。

 一人じゃないと僕は自分に言い聞かす。

 迷うな。

 逃げるな。

 僕は男だ。

 自分に言い聞かせ闘志を振い立たせる。

 良し、

 良し、

「行くぞ !」

 気合を入れ更衣室の扉に向かう。出口横の机に置いてあった煙草の箱を掴み一本取り出す。勿論吸った事はないが、口に咥え更衣室を出て行った。

 更衣室を出ると直ぐ花蓮の所に向かう。花蓮は僕の咥えている煙草を見やり”其れ私の煙草ですよね”と言った。

「あ…。はい。すみません。」

 ショボンと僕は頭を垂れて煙草を花蓮に返す。花蓮は怪訝な表情を浮かべ”結構です。”と、言った。

「そんな事より、如月少尉…。まず、簡単に説明しますが、その説明を聞いて乗りたくないと思えば拒否して頂いて結構です。」

「拒否 ?」

「コングコックパンドーラは普通の兵器とは違うと言う事です。」

「特殊って事ですか。」

「そう言う事です。と、言っても君が搭乗したコングビッチの様に外装がGraas鉱物で出来ているとかそう言う事では有りません。外装は見た通り、通常の兵器に使用されている特殊合金を使用しています。が、フレームにはBandGを使用しています。此れはビス、スプリングに至る全てをBandGで作られていますので熱電導率は100%と言っても過言では有りません。その為、フレーム内部に混入している粒子の…。」

「あ、あの…。其れって難しい話ですか ?」

 とても話が長くなりそうだったので途中で止めた。

「はい。専門的な話になります。」

「要点だけでお願いします。」

 専門的な話を長々とされても分かるはずなどない。

「フゥ…。此れだから兵士は嫌いなのよ。」

 何とも言えない上から目線である。花蓮はポケットから煙草を取り出すと一服つける。紫煙がふわりと舞い上がる。

「じゃぁ、簡単に言うわよ。この兵器はパイロットと完全な融合を行います。完全な融合を果たす事でパイロットが兵器その物になる。しかし、パイロットにはそれ相応の負担が掛かる。以上。」

「あ、はい。」

 とても完結的で分かりやすい。

「で、乗る ? 止める ?」

「今更…。乗ります。」

 僕は生唾を飲む。

 完全融合…。其れはパイロットに甚大な負担を掛ける。優れたパイロットでも3分が限界と言う程の代物だ。其れでも自分が決めた事だ。僕はジッとコングコックパンドーラの顔を睨めつける。

「勇敢ね。融合と聞けば殆どのパイロットが嫌がるのに。所で、君はパンドーラの意味知ってる ?」

「パンドーラ ?」

「和訳で全ての贈り物。」

「全ての贈り物 ?」

「そう。その兵器には今ある全ての技術が全て詰まってる。それに乗れば恐らく君は英雄になれるでしょう。でも、最後にやって来るのは災いよ。」

「災い…。」

「そう。だから全ての贈り物。良い事も悪い事も全て。最強の力を手にした代償は、君の脳細胞の完全破壊。それでも君は乗る ?」

 そう言って花蓮はタバコを床に捨てた。然れど、そう言われて”はい、乗ります。”と、言う人がいるのだろうか ? 僕は疑問に感じた。しかし、花蓮が言う様にそれ相応の負担が掛かるのは本当だと思う。僕はコングコックパンドーラを見やり、花蓮に視線を戻す。

「あ、あの…。」

「何 ?」

「もっと、普通の奴が良いんですけど。」 

 そう言って僕は苦笑いを浮かべた。


 ーーarchⅡ遺跡から突如飛び出してくる人形兵器程の大きさを保つ物体。ーーWOMである。その大きな5つの球体がarchⅡ遺跡の前方に現れ前面の形を変化させた。

 前面のパーツが4分割に開き中から10本の突起物が現れる。四方に広がるように配置されたその突起物の先端からプラズマの青白い光が放出された。青白い光はまるで傘を広げた様に大きく開き、敵が放つ砲弾を弾き飛ばす。

「な、何だ…。ウォームだと。」

 ムラームは思わず口走った。青白く光る傘が眼に映る。異様なまでのムカつきがムラームを襲いギュッと力強く操縦桿を握った。

「海賊がーー。海賊風情が、レーザー機銃にウォーム迄もか…。」

「ムラーム。ウォームだ。どうなってる ? 遺跡じゃなかったのか ?」

 民が言ってきた。どうなっているのか聞きたいのはこっちの方だ。だが、ムラームは総部隊長として狼狽えたるような発言はできない。

「あぁぁ。これじゃ攻め込めない。」

 笨が割って入ってくる。思いもよらぬ海賊の行動に翻弄される。

「遺跡を弄くり回しやがって。…だが、気にするな。たった5つのウォームで何が出来る。集めた所で、精々遺跡の中心部を守れる程度。分散させれば差ほどの役にも立たんだろう。このまま変わらずキャノン部隊に遺跡を攻撃させろ。そっちにウォームを集中させれば良い。」

 そうだ。いくらレーザー機銃やWOMが有ろうとも圧倒的な物量差を回避する事など出来ないのだ。ムラームはグイグイとフェネックを駆り戦場のど真ん中に突っ込んでいく。そして、圧倒的な力の差を思い知らされる。

 統率の取れた海賊部隊が民の部隊をことごとく駆逐しているのだ。ムラームはまさかの状況に自分のまなこを疑った。否、自分の思考そのものを疑った。

 何かの間違いだと思いたかった。

 然れど、

 然れど、

 悪魔の如き様相を模した兵器は盾のスパイラルでフェネックを殴り、拳で叩き潰し、頭を掴み胴体から引っこ抜く。胴体から脊髄がズッポリと抜け出る。

 archⅡから放たれるレーザー砲に、後方部隊のキャノン砲が面白いほどフェネックを撃墜していく。

「な、何なんだ。民ーー。これはどう言う事だ。」

 海賊の兵器を薙ぎ倒しながらムラームが言った。

「予想外だ。どう仕様もない。」

 此処で、訓練の甘さがモロに出た。予想外の事に対応できない。

「クソが…。笨ーー。archⅡの砲撃は中止だ。キャノン部隊は敵部隊に集中砲火。民の部隊の援護に回せ。そのまま民の部隊は一旦後方に下げる。」

 真逆の負い目。

 簡単な作戦がとんだ貧乏クジになってしまった。このままではなんともカッコのつかない結末になってしまう。ムラームは内心とても焦っていた。

 どうする…。

 そうする…。

 海賊と交戦しながら必死に頭を働かせる。然れど、目前の宇宙に表示される情報は余り良く無い内容ばかりが表示されて行く。

 無数に表示される弾道軌道。archⅡ後方部隊の砲撃の弾道にレーザー機銃の弾道だ。そして迫り来る悪魔の兵器。悪魔の攻撃を盾で受け止め剣で切りつける。スパイラルで蹴りつけ弾き飛ばす。然れど幾ら自分が頑張った所で、自分の宇宙に表示される自軍の数は減少の一途を辿る。

 こんなはずでは…。

 こんなはずではとムラームは苛立ちを募らせる。

「全軍俺に続け ! 海賊を殲滅する。」

 柄にも無くムラームは叫んだ。否、叫ぶしかなかったと言うべきか。この状況、自分が轟きを上げ海賊に立ち向かわなくては度にもならない。

 そして其処に後方から弾道軌道が表示される。自軍の戦艦である。この弾道軌道表示はその軌道上にいるなと言う事である。どうやら自軍の減少に我慢ならないのはムラームだけでは無いらしい。ムラームはグイッとフェネックを動かし軌道から逸れる。其処に戦艦から発射された砲弾が突き進んで行った。

 緑色の光を放つ砲弾が10発。独特な色を放ち飛んで行く、其れは電磁砲から発射された砲弾だとわかる。そして、更にスパンキングミサイルが敵部隊に降り注ぐ。

 放電しながら飛来する砲弾に吹き飛ばされる海賊兵器。強烈な爆風に破壊される海賊兵器。そして爆風はarchⅡにも打撃を与える。

 その攻撃に海賊の動きが鈍る。

「民ーー。今のうちに体制を立て直せ。」

 そう言うとムラームは笨の部隊を引き連れ敵本隊に特攻を掛けた。


ーー「本気で撃ってきたか。」

 チラリと周りを見やり乍オビーが呟く。敵艦から放たれた電磁砲にスパンキングミサイルは数で不利な海賊部隊に致命的な打撃を与える。そしてその攻撃は更に、更に追い討ちを掛けるが如く飛来する。第一派の攻撃から第2、第三3の追撃攻撃が、海賊団の兵器を一気に半数近くまで減少させた。

 そして、前方から新たな部隊が押し寄せる。一旦後方に下がった部隊も戦艦に戻る気配はない。恐らく体制を戻し切り込んでくる。

「ヒムエンコ、マインズ状況は ?」

「最悪ですよ。スパンキングミサイルにしてやられました。」

 ヒムエンコが答える。

「あぁぁ、あの緑の光は電磁砲の弾か ? まとめて2機も撃墜された。」

 マインズが言った。

「そろそろなりふり構ってられんと言った所か。仕方ない。両部隊の後方キャノン部隊を一つの隊に纏めろ。指揮はマインズ部隊のアイリスに取らせろ。マインズの切り込み隊はヒムエンコの部隊に。それとギルフィッテを後方に下げておけ。」

「了解。」

 そう言うとヒムエンコとマインズは即座に指令を出し各小隊を移動させる。そして、前線に躍り出てきたムラームの部隊と激突が再開された。

 ムラームが率いるCEUの部隊と海賊団の部隊が一斉に殴りあう。然れど、疲労を背負った海賊部隊と出てきたばかりのCUEの部隊とでは動きに微妙な差がで始める。民の部隊とやり合っていた時の様なキレがない。何より敵艦からの砲撃のダメージが大きかった。

 今度はいとも簡単に防衛ラインを抜けられた。

 元々数では圧倒的不利を強いられていただけに抜けられるとどうにもならない。其れでも後方部隊が抜けてきた兵器を狙い撃つが、ムラームの異様なテンションに乗せられ部下達は異様に元気に動く。

 それを阻止しようとギルフィッテがフェネックに襲いかかる。否、敵を陽動仕様としているのだ。ギルフィッテの駆る兵器は汎用兵器であるが、キャノン部隊の兵器は砲撃に特化した仕様になっている。両手のアームが持っているのは砲撃用の大型の筒。背中には大口径の電磁砲が肩から前方に伸び。両サイドには砲撃筒がこれも背中から伸びている。そして足に装備されているのはスパイラルではなくレーザー機銃である。

 そしてすねに設けられているアームが盾を装備しているが、これはあくまでも攻撃を防ぐためだけの代物である。故に近戦戦闘は想定外となっている。近づかれればキャノン部隊はとても弱い。其れだけにギルフィッテが相手を引き付けなければ瞬殺される可能性もあった。ギルフィッテが敵を引き付けそこをキャノン部隊が撃ち落とす。

 然れど、

 然れど、

 そんなに上手く行くはずがない。敵は1機、2機で攻めてこないからだ。小隊一つ。少なくとも4機編成で襲いかかって来る。其れでも途中で落とされれば数も減るが残念な事に無事に抜けて来た。其れも2小隊。そうなればキャノン部隊も固まっての行動よりも分散した行動に変わる。何より大口径の兵器が無駄に撃てなくなるのが辛い。当たれば良いが、外れればその瞬間に破壊される。だから基本は足のレーザー機銃で対抗する。其処にレーザー機銃が追撃を掛けるが入り乱れた中では牽制程度にしか撃てない。

 敵8、防衛する海賊は5。そして内4が砲撃専用である。

「姫様…。流石にチイッとキツイな。」

 オビーから通信が入った。

「うん…。」

 そう言ってマギーナはBブロック格納庫の映像を見やる。

「最終防衛ライン突破も時間の問題ですか…。」

 ロイスが言った。

「だな…。後方の部隊もそろそろ突っ込んでくるだろうからな。」

「ふぅ、やっぱり、rx250で交渉するべきだったわね。」

「いや、其れは無理でしょう。」

 ニコライチが答えた。

「やっぱり…。」

「其れよりもギルフィッテがかなり苦戦しているな。」

 ロイスが言った。

「あぁぁ…。妊婦だからな。負担が大きすぎる。」

 オビーが答える。

「出し惜しみでは勝てないか。そろそろギュネル艦長に主砲を撃って貰いますか。」

「そうね。本気でやらないと負けるわね。」

 そう言うとマギーナはギッと宇宙を見やった。

 最終防衛ラインまで10km。遠い様で障害物のない宇宙では目と鼻の先である。アイリス-ブルナがリーダーを務めるキャノン部隊は瀕死の状態で交戦し、その中でギルフィッテが必死に蠢いている。

 キレがない…。

 其れは誰の目から見ても明らかである。

「ギルフィッテーー。無理をしない。」

 アイリスが言った。

「分かってるわよ。」

「なら下がりなさい。」

「下がれるわけないでしょうが…。」

 そう言い乍も意識が飛んでいきそうになる。敵を殴ろうと殴られようと、その衝撃はダイレクトにコクピットに伝わって来る。その衝撃は身重のギルフィッテには負担が大きい。アイリスが援護に入るが砲撃専用の兵器では近戦戦闘ではどうにも出来ない。足のレーザー機銃で威嚇射撃をするのが関の山である。其れでも敵は一旦ギルフィッテから離れてはくれる。

 然れど、敵フェネックの目標が今度はアイリスに変更される。一撃二撃と剣を振り払う。それを避けながら間合いを開けようと離れるが、当然追撃される。其れを後方からギルフィッテが襲う。 

 然れど、体にかかる負担は尋常ではない。動きの鈍いギルフィッテの攻撃は容易く避けられ、其のまま敵フェネックのスパイラルが腹に突き刺さる。グイッと力強く後方に飛ばされると敵フェネックは再度アイリスを落としに掛かる。其れをアイリスはレーザー機銃で牽制し乍間合いを取るが、敵も必死に避ける。が、無数に放たれるレーザー機銃の攻撃に交わしきれなくなった敵フェネックがシールドでガードした。

 衝撃で敵フェネックが後方に弾かれる。これで、少し間合いが開いた。

「ギルフィッテ…。大丈夫 ?」

 レーザー機銃を更に乱発し乍アイリスが通信を送る。

「な、何とか…。」

「動くの ?」

「微妙…。」

「動くならarchⅡに戻りなさい。」

 と、アイリスが言った所で、体制を立て直した民の部隊がオビー達の前線に進軍し始めた。その数ザッと23機…。その状況はアイリス達後方部隊の宇宙にも緑色のマーカーで表示される。

 そして、其れに合わせるかの様に前線部隊の敵フェネック20機が一気に抜けて来た。流石にオビー達前線部隊もその行動を止められないまま民達の部隊を迎え撃つ。

「来るよ…。」

 アイリスが言った。ギルフィッテの兵器は損傷が激しく思うように動かない。然れど、敵に翻弄されアイリスはギルフィッテの援護に向かえない。否、アイリスだけではない他の団員もギルフィッテの所に向かえないでいる。が、其処に別部隊のキャノン部隊が中堅ラインから戻って来る。

「遅いーー。」

 アイリスが言った。

「すみません…。」

 キャノン部隊を率いるリリー-ルカーナはそう言い乍敵フェネックを威嚇射撃で追い払う。

「ギルフィッテを回収して。無理ならarchⅡに向かって投げればいい。」

「了解…。」

 リリーは部下に指示を出しギルフィッテの兵器をarchⅡに向かって投げさせる。リリーの合流により、敵が押し寄せる少しの間だけだが後方部隊の戦力が上がった。

「今のうちにスタイルの変更。両腕の砲撃筒をパージ、脛のシールドを両腕に装備。」

 アイリスが指示を出す。

 その指示に従いキャノン部隊は砲撃筒をパージし脛のシールドを両腕のアームに装備させる。此れで近戦戦闘が想定外の兵器も少しではあるが戦える。シールドで殴り足のレーザー機銃で敵を撃つ。

 敵8海賊団8。戦力が上がったと言ってもあくまでも不利である事には変わりない。敵フェネックは近戦戦闘でも戦闘力が低下する事はないからだ。そんな不利な状況の中で襲い来る前方の部隊20。そしてarchⅡから砲撃軌道が表示される。

 が、すでに遅い。

 敵フェネックはまさに雪崩の如く襲い掛かってきた。

 キャノン部隊はシールドを前方に構えそれを迎え撃つ。が、突きつけられる剣。振り下ろされ、叩きつけられる。足を切られ首を刎ねられ、スパイラルで突き蹴られる。それは正に成す術なく破壊されて行った。止める事も攻撃する事も出来ないまま、敵フェネックは最終防衛ラインを突破して行く。そして、敵フェネックは宇宙を漂いarchⅡに流れていくギルフィッテの兵器を横切り突き進む。

 その様子を自身の宇宙に映しギルフィッテは操縦桿を握った。だが、この中で役に立たない人形兵器にトドメを刺す者はいない。其れは武士道に反するとか、騎士道精神ではないとかそう言った事ではなく、只たんに燃料の無駄だからだ。動かなくなった兵器は宇宙の中でそれは単なる障害物にすぎない。態々貴重な燃料を使い障害物を無駄に破壊する意味がない。

 其れにこの戦闘は、海賊の撲滅でも捕縛でもない。燃料の奪取が目的なのだ。だから敵フェネックはギルフィッテの兵器には目もくれずarchⅡに突き進んでいく。

 然れど、

 然れど、

 少しでも動くのなら1機でも仕留める。これがギルフィッテの海賊道である。マトモに動かぬ兵器の体制を立て直しグイッと剣を握る。

 1機でも…。

 例え1機だけでも…。

 闘志を振るい起たせギルフィッテの兵器が敵フェネックめがけて突っ込んでいく。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ !!」

 怒涛の雄叫びを上げ目前の敵フェネックに斬りかかる。しかし、動きが極端に制限された半壊の兵器では度にもならず簡単に右腕を切り落とされる。そして別の敵フェネックに左肩から腹にかけてザックリと袈裟斬りにされた。

 其れでもギルフィッテは諦めない。何か1つでも動かそうと必死に操縦桿を弄る。然れど、動かぬ兵器。そして又別のフェネックが今度はコクピットである頭部めがけて剣を振り下ろす。

 其の剣がギルフィッテの眼に映る…。

 大きく巨大な剣。

 ギルフィッテはソッとお腹を抱きしめた。

 そして、目前が真っ白な光に包まれる。

 その光…。

 一筋の強烈な熱量とパワーを持つビームの剣。其の剣が敵フェネックの頭部を突き刺し、同時にその頭部を弾き飛ばす。ギルフィッテにトドメを刺そうとした敵フェネックは、逆に其のまま後方に弾き飛ばされて行った。

 ギルフィッテの背後…。予期せぬ兵器ソフィアがいた。

「大和の男は絶対に受けた恩は返すんだ…。」

 そう言ってソフィアに成った僕は戦場の敵を睨めつけていた。

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