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Lost in space. 海賊団の御姫様 3

「え…。あだ名だったの。」

 僕が言った。

「そうよ…。オビーが軍人だった頃の階級がそのままね。」

 マギーナはペロッと下を出した。

 僕の話で雰囲気が一寸悪くなったその間は、オビー大尉の話で何とか取り繕う事が出来た。流石は英雄オビーである。オビー大尉はその場にいなくても僕を助けてくれているのだ。

 そんな、詰まらない話を交わしながら僕達はロビーと呼ばれる場所にやって来た。ロビーと呼ばれる場所は僕が想像していたよりも簡素で、特に何があるというわけでも無かったが確かに宇宙が見えた。 

 白く塗られたその部屋には、テーブルとソファーが4組ほど置かれ自動販売機が2つ設置されている。マギーナは僕に窓際の席を案内してくれた。僕は言われるがまま席に腰を下ろすと、マギーナが”何か飲む ?”と、言ったのでコーラーと言った。マギーナは”好きね”と言ったが、先程マギーナが持ってきてくれたコーラーは一口も飲む事がないまま氷が溶けて、とても水臭くなっていたのでコッソリとオビー大尉の部屋に置いてきたのだ。

 マギーナはコーラーのカンを僕の前に置くと僕の横に腰を下ろした。

「私ね…。此処から見える地球が好き。いつか皆んなで地球に住む事をいつも考えてる。」

 宇宙を見やりマギーナが言った。

「そうなんだ…。でも、今なら火星の方が住みやすいよ。」

「火星 ?。火星は嫌い。」

「どうして ?」

「赤いから。」

「あ、そう…。」

「嘘…。火星には良く行くのよ。物資の調達とか色々とね。」

「え…。そうなの。」

「うん。私は火星のケンマリンユニバースに通っていたから。」

「火星のケンマリン…。それって、一流大学じゃないか。マギーナって凄いんだね。」

「そうよ。天才なの。でも、友達にはずっと嘘を言ってたわ。真逆お父様の仕事が海賊だなんて…。ね。口が裂けても言えないじゃない。だから、いつも孤独だった。」

 と、マギーナは俯く。

「そっか…。色々あったんだね。」

「うん…。その劣等感がねいつも自分をムシャクシャさせてたの。でもね…。友達はすごく優しくて、私に服を買ってくれたり、ご飯をおごってくれたりしたわ。偶に部屋の掃除をしてくれたり、トイレ掃除をしてくれたり。ね。」

 部屋の掃除にトイレ…。僕は首を傾げた。昔を思い出しているのだろうか、マギーナの表情がニンマリと歪んでいた。

 不敵な笑み…。

 彼女はきっと何かを隠しているのだと僕は確信した。

「そ、そうなんだ。優しい友達がいたんだね。」

「うん…。40人ぐらいはいたかな。」

「え ?」

 僕は困惑した。そんな素晴らしい友達が40人もいてマギーナは何をもって孤独というのか。確かに真実は話せないにしても十分充実した学生生活を送っていた事になると僕は思う。

「あ、姫様。こんな所に…。」

 ロビーに顔を出したギルフィッテが不意に声を掛けてきた。マギーナがギルフィッテを見やる。

「うわ、又そんな顔してる。」

 マギーナの顔を見やりギルフィッテが言った。

「何よ…。」

「まったく…。悠那。騙されたらダメよ。姫様は直ぐに男子をたぶらかすんだから。」

 ギルフィッテの言葉にマギーナはジロリとギルフィッテを睨めつける。

「失礼な…。」

「何が失礼ですか。このクソビッチが。」

「はぁ、クソビッチ ? あんた良くも御姫様に向かってそんな事が言えるわね。」

「御姫様 ? はん。何処ぞの国の御姫様が人の部屋を盗撮するんです。」

 盗撮 ? と、僕はマギーナを見やる。

「ふん。そんなもの…。男と部屋でエロい事する方が悪いのよ。」

「な…。彼氏と部屋で何をしようと私の自由でしょうが…。」

「彼氏と ? 彼氏が居ない時は一人で楽しんでいたじゃない。」

「な、な、な、な…。何を言うんです。」

 ギルフィッテの顔が真っ赤に染め上がる。

「ふふふふふ…。写真ならあるのよ。」

 不敵な笑みを浮かべマギーナが言った。

「しゃ、写真 ?。ちょ、一寸話が違うじゃないですか。約束通り京都に連れて行ってあげたじゃない。」

 京都… ?。

 成る程、そう言う事か。と、言う事は学生時代の40人も弱みを握られて半奴隷にされていたと言う事か。

 そして、当の本人であるマギーナは仕舞った…。と言う様な表情を浮かべている。

「ちょ、一寸又私を脅そうという気じゃないでしょうね。」

「な、何 ? 脅す ? 人聞きの悪いこと言わないでくれる。」

「はぁぁ、何ぶりっ子してんです。気持ちの悪い。大体人の部屋を盗撮するような人は、性格がひん曲がってるんですよ。何ですか、自分に彼氏が居ないからってひがんじゃって。大体姫様に彼氏が出来ないのは、その性格がひん曲がってるのが原因なんでしょ。いつも偉そうだし、意地悪だし、自分勝手だし、だから、いつまでたっても処女のままなのよ。」

 と、エンジンが掛かったのか、積年の恨みが爆発したのか、兎に角ギルフィッテはギャアギャアと言いたい事を言った。

「ちょ、一寸いい加減な事言わないでくれる。大体誰が処女なのよ。残念ですけど違いますからぁ。」

 顔を赤らめマギーナが言い返す。

「何言ってんですか。処女のくせに。」

「ちぃがぁいぃまぁすぅぅぅ…。」

「はん。嘘おっしゃい。」

「何よ、本当なんだからぁ。」

「へぇぇぇ。じゃぁいつ捨てたんですかぁ ? 何時何分何秒地球が何回回った時ですかぁ ?」「あ、あんた。その万年グチョグチョの割れ目蹴飛ばすよ。…!?」

 と、不意にマギーナが外を見やり表情を一変させた。

「伏せて !」

 突然のマギーナの言葉。

 何が何やらサッパリと分からない僕。それに対しギルフィッテはサッと床に伏せ、マギーナは僕を抱え床に伏せた。

 その突如…。

 archⅡに隕石がぶつかった様な衝撃が走った。

「な、何…。本当に打ってきた ?」

 ギルフィッテが言った。

「何あんた。知ってたの。」

 マギーナはギルフィッテを睨めつける。

「だから探してたんでしょ…。」

「電話があるでしょうに。」

「別に…。誰も本気で打ってくるなんて思わないじゃない。」

「確かに…。」

 そう言うとマギーナはスッと立ち上がり外を見やる。僕もマギーナの後ろにこそっと隠れ乍外を見やった。

 ドキッと心臓が高鳴る。

 外にはCUEの巡洋戦艦と思われる船が3隻。否、うち2隻は一回り小さいから巡洋艦か…。僕はマジマジとそれを見やりマギーナに視線を移した。

「ギルフィッテ…。守備は ?」

「いつでも出られますよ。私も行きます。」

「宜しく。私も管制司令室に行くわ…。」

 巡洋戦艦から出てくる人形兵器を見やり乍マギーナが言う。ギルフィッテは其のままロビーを出て行った。

「まったく…。ご大層な事ね。」

 確かに…。ゾロゾロと出てくる人形兵器の部隊は数にして40機超…。所謂1個大隊だ。ご丁寧な事に主砲もこちらを確りと捉えている。

「ふぅ…。しゃーないか。悪いけど悠那は此処でコーラーでも飲んでて。」

「え… ?」

「ごめんね。悠那の部屋はまだ用意してないのよ。」

「え、いや。そうじゃなくて。僕も…。」

 マギーナが手を翳し僕の言葉を止める。

「共和国の兵隊さんが何をするの ? 君は海賊じゃないんだよ。分かってる ? 軍にばれたら悠那は銃殺は免れない。其れに助けた兵士に助けられたとなると、私らの立つ瀬が無いのよ。」 

 そう言ってマギーナは僕の生体認証カードを差し出した。

「こ、これ…。」

「渡し損なうとあれでしょ。」

「あ、うん。」

 僕はそれを受け取り首にかけた。

「お腹がすいたら、其処の自販機で何か買って食べるといいわ。」

 そう言うとマギーナは出口に向かっていった。

 僕はちらりと外を見やる。

 仰々しい人形兵器がずらりといまにも襲いかかってきそうな勢いで待ち構えている。そして見覚えのある兵器が其処にいる。

 脳裏に蘇る最悪の戦場。

 生死も分からぬ沙也や日比野、那奈の顔が鮮明に蘇る。重なる様にオビーとマギーナ、ヒムエンコの顔が僕の胸をグッと締め付ける。


 英雄とは…。

 命を大切にしてる奴の事だと言った。

 どれだけカッコよく生きたかで決まるとも言った。


 僕にとって戦場は怖いものだ…。

 否、皆んな怖いんだよ。

 だけど戦うんだ。


 何故 ?


 だから其れは、

 生きるためだって…。


「マギーナ…。」

 僕はマギーナを呼び止める。

「どうしたの ? ひょっとして自販機の使い方知らない。」

 肩越しに振り返りマギーナが答える。

「ひつこい様だけど僕に人形兵器を貸してくれないか ?」

「冗談。」

「本気だよ。」

「ポッと出の少尉に何ができるのよ。無駄死にするだけよ。戦場ってのはそんなに甘いもんじゃないの。」

「だね。無駄死にかもしれない。でも…。でもさ、助けられて其のまま知らん顔も出来ないでしょ。其れに此処も安全かどうかも分からないし。其れに何が出来るのかじゃなく、何をするのかなんだろ。だったら僕だって…。僕だって十分戦力になる。」

「うふ、カッコイイ事言わないの。オビーに感化されすぎよ。」

 マギーナはそう言い乍胸元の生体認証カードを取り出すと親指で弄り始めた。

「だからって、僕にとってもCUEは敵だ。其れに…。其れに恩を受けたままじゃぁカッコつかないよ。」

「其れに、其れにって五月蝿い少尉さんね。…カッコ云々で命を賭けるのは海賊だけなのよ。」

 そう言って、マギーナが僕の所に戻ってくる。

「や、大和の男は受けた恩は必ず返すんだ。」

「そう。でも、無理な相談よ。」

 そう言うとマギーナは自分の生体認証カードを僕の生体認証カードにコツンと当てた。そして、何とも言えない色っぽい表情でマギーナの唇が僕の唇に触れた。

「少尉のくせにカッコイイじゃない。ちょっと濡れたよ。」

「な、何を…。」

 顔を真っ赤に染め僕が言う。マギーナはそれ以上何も言わず走ってロビーを出て行った。僕も其れ以上何も言えないまま、ふう…と、ため息をつきコーラーをゴクゴクと飲み干した。喉を突き抜ける炭酸が心地いい。然れど、その衝撃も戦闘で受けた衝撃に比べれば痛くも痒くもない。


 沙也…。


 ぼそりと呟き僕は唇をさする。

 次の瞬間に死ぬのが戦場か…。

 マギーナも覚悟を決めて戦場に立つんだろうな。と、又外を見やる。真っ暗な宇宙にCUEの艦隊が瞳に映る。その宇宙に自分の姿が窓に映る。何とも頼りない顔だと自分でも思う。と、自分の生体認証カードが光っている事に気づく。慌てて生体認証カードを手に取り画面を見やった。

 ホーム画面には受信1件…。との表示。僕は沙也かもしれないと慌てて受信ボックスを開く。だが、送信者はマギーナだった。

”マギーナ…。”

 と、先程の行動を思い出す。マギーナが僕の生体認証カードに、自分の生体認証カードを当てた事だ。僕は慌てて受信ボックスを開ける。

”こ、これ…。マギーナ。”

 そして、僕は駆け足でロビーを出て行った。


 ーー宇宙からarchⅡを見やる。過去の遺跡とはよく言った物だと感心させられる。その容姿は旧コロニーともライフカプセルとも違う大きな救命ポッドの様な箱。収容人数も高々200〜300程度だろう。

 見ても気にしても意味のない宇宙の塵である。邪魔ならば捨てれば良いとも思うが、残念乍おいそれと捨てられる大きさではない。バラして捨てれば良いのかもしれないが、そこまで無駄な労力を費やしてまでどうこうする必要もない。だから、無駄に遺跡と称して放置しているのだ。

 そんな遺跡をムラームは巡洋戦艦鳳の中から見やっている。強襲部隊の総部隊長を任されたムラームは兵器科長補佐として兵器科室の補佐官席に着座している。勿論今はバトルフィールドが展開されているので、ムラームは映像として第一艦橋に表示されている。

「素直に渡すと思うか ?」

 航海科長が言った。

「さぁ、どうでしょう。」

 航海科長補佐が答える。

「ビーム砲の脅しに屈するさ。」

 戦術科長補佐が言った。

 しかし、ムラームはそうは思わない。警告と勧告を告げ威嚇射撃をしたにも関わらず、未だarchⅡからの反応はない。暗い宇宙の中に灯りもつけず静かに漂うarchⅡはまるで無人の様でもある。此方がこれ以上の攻撃を仕掛けないと高を括っているのか、何か策を講じているのかは分からないが、相手も必要以上の黙りが通るとは思っていないだろう。

「要求が大きすぎたか ?」

 艦長が言った。

「まぁ、rX3000を10個ですからね。」

 艦長補佐が答える。

 rX3000とは戦艦や人形兵器に使用する核燃料カートリッジの事である。カートリッジの容量の大きさはrX100〜5000まである。そして、このrX3000は約3ヶ月間ライフカプセルに住む住人が何の問題もなく電力を消費し、且つライフカプセルの稼働に必要な電力を十二分に使える程の容量を持っている。

 其れでもビーム兵器主体のCUEの部隊を運用するにはrX3000を使用しても20分が限界である。否、其れも艦隊の規模でかなり左右される。鬼神丸追撃部隊の様な大掛かりな部隊では一回の戦闘で最低6つは使用する事になる。そう考えれば10個では少ない。

 其れに海賊とは元々がCUEを敵として認識している奴らの集まりだ。血の交わりを嫌い祖国の存亡を求める輩たち。そんな奴らが素直に屈するとは到底思えない。其れが弱小だろうと強大だろうとだ。

「このまま返答を待っても意味は無いと思います。あくまでも此方は物資を要求しているのです。ならば向こうは此方がこれ以上の攻撃を仕掛けてこないと考える。」

 ムラームが言った。物資を要求している以上無駄に攻撃を仕掛けると言う事は、過って物資を破壊してしまう可能性がある。勿論此方がarchⅡ遺跡の見取り図を把握しており、海賊がどこに物資を貯蔵しているのかを把握していれば話も変わるが、残念な事に此方は全く把握していない。

「其れは一理あるな。なら、どうする ?」

 艦長が答えた。

「archⅡの外壁を剥がし突入します。」

「ごりおしか…。」

「はい。彼らにかまけている程、時間に余裕があるわけではありませんから。其れに時間を与えれば相手に反撃の隙を与える事になる。」

 ムラームは険しい表情を浮かべ答える。勿論本音ではない。否、本音半分と言った所か。本当は両サイドを主砲であるビーム砲で外壁を弾け飛ばし、開いた穴の中に人形兵器を侵入させれば良いと考えている。外壁だけなら核燃料を失うこともないからだ。其れに最悪失っても無かったと報告すればいいだけの事…。

 セコい男はあくまでもセコい戦略で状況を乗り切ろうと考える。無駄に戦って死にたくない。失った汚名は次で返上すれば良い。そう考えている。

 然れど、

 然れど…。リミリッタの残念な表情を思い浮かべると、矢張り核燃料の1つや2つは持ち帰りたいと思う。

 何より無駄な間は相手に有利に働く事がある。最小限の被害で勝利を収めるには、問答無用で攻撃を仕掛けるのが一番なのだ。

「ふむ。へい兵器科長中佐はどう思われる ?」

「私もムラーム大尉の意見に賛成です。archⅡ遺跡自体からの攻撃は無いにしろ人形兵器での攻撃は十分に考えられます。」

「なら、最終通告5分後に突入開始としよう。」

「はい。私も兵器に乗って出ます。」

 そう言うとムラームは兵器科室を出て行った。

 出し惜しみの戦力よりも、一気に全てを出し切った総攻撃の方が断然有利だからだ。海賊はどこまでいっても海賊でしかない。海賊に最終通告など何の意味をも持たない事をムラームは良く知っている。まぁ、知っていると言っても祖父に聞いただけなのだが…。

 其れに自分以上にセコイ民に任せておくのも些か不安で仕様がない。なら、笨の部隊も出撃させ陣頭指揮を自分が取る。これが一番安心であると思う。其れに指揮官は前線に立つ事はない。後ろで指示を出していれば良いのだ。確かに宇宙に出て指揮を取ると言う事は、前線に出ると言う事と同じだが、巡洋戦艦にいても死なぬとは言い切れない。否、寧ろ戦艦よりも取り回しが容易な人形の方が逃げる時も容易である。そんな事を考えているムラームは矢張りセコイ男なのだ。 

 巡洋戦艦の通路を歩き人形兵器ドックに向かう。途中生体認証カードから笨に連絡を入れ出撃準備を取るように伝える。

 そうだ、攻撃は早ければ早いほど良い。軍事要塞に攻撃を仕掛けるでもなく、ライフカプセルに攻撃を仕掛けるでもないこの作戦は時間が鍵なのだ。焦って敵のトラップに掛かる程archⅡは近代的な箱ではない。あっても高々知れている。

 外壁を捲り中に侵入すれば全てが終わる。

 其れだけの事だ…。

 其れだけの…。

 ブツブツ、ブツブツと考えながら通路を歩き、やがてドックの入り口に辿り着く。扉の前でムラームは、ふぅ…。と、溜息を吐きグッと拳を握る。

 ”自分のケツか…。ムカつくヤローだ。”

 ムラームは悪態を吐きドックの扉を開けた。

 

 ーー「姫様…。やっと到着ですか。」

 マギーナを見やりロイス管制室長が言った。

「私がいなくても平気でしょう。それで ?」

 管制指令室の真ん中に設置されている豪華な椅子に腰を下しマギーナが言った。

「rX3000を10個渡せと言ってきています。」

 ニコライチが答える。

「10個 !? バカじゃないの。rX250なら10個やると言えば。」

「聞くと思いますか ?」

 ロイスが言った。

「聞かないでしょうね。で、オビー総司令官達は ?」

「既に裏側から出撃しています。」

「なら、archⅡの灯りを灯しなさい。」

「了解しました。」

 そう言うとニコライチが外壁の灯りを灯す。漆黒の宇宙に灯りがともる。archⅡの裏側で待機しているオビー達が出撃の体制を取る。

「野郎ども用意は良いか !」

 オビーが言った。その言葉に怒涛の響きがオビーのコクピットに響き渡る。この響きが戦士の本能を開花させる。ぬるい考えが弾き飛び、命と命のやり取りをする覚悟を決めさせるのだ。

「ギルフィッテ…。君は無理をしない様に。」

 ヒムエンコが言った。

「冗談。私も戦士ですよ。」

「後方援護で良い。」

 オビーが口を挟む。

「女だからって甘く見ないで下さい。」

「否、妊婦だからだよ。」

 困った表情でヒムエンコが答えた。全く勇敢というか無謀というのか…。然れど戦士とはそういう者達なのだ。

 そして…。

 管制指令室のマギーナがジッと宇宙に浮かぶCUEを睨めつける。

「問答無用。CUEは我等が敵。祖国存亡の為に…。攻撃開始 !!」 

 マギーナの号令を合図にarchⅡの裏側で待機していたオビー達が姿を表す。目前に待機している40機超の人形兵器。対するオビー達は20機弱。そして、巡洋戦艦1隻巡洋艦2隻。戦況的には余りにも不利な状況。其れでも、悪魔の様な20機の兵器は恐れる事なくCUEの部隊に攻め込んで行く。

 その姿は見るものが見ればまさに悪魔…。その悪魔的シルエットを纏った兵器は、海賊らしいと言えば余りにも海賊然とした様相である。尖った突起物が随所に埋め込まれ、ベリーダに似たフェネックの顔は、いかつい山羊を模した顔に変更されている。そして、隊長機に装備されているエネルギー供給フィンは、サタンの羽を模した物になっていた。

 そして、大きな盾は質量に任せた打撃を得意とし、右腕に持つライフルは大和製だったりUSA製だったりと様々だ。武装はどの国の物でも使う。こう言った所はなんとも海賊らしい。

 見た目で敵を威圧すると言うのは海賊の常套手段ではあるが、此処まで凝りに凝った兵器は早々お目にかかれないだろう。何よりも無駄に大きな剣。此れも切れるというよりも力任せに叩き潰ぶすと言った感じのものだ。早く言えば、剣の形をした鋼の棒である。だが、それを持っているのはオビーの兵器だけで、他の兵器は実用的な大きさの剣を装備している。

 archⅡの裏側から現れたオビーの部隊はarchⅡを背に立ち向かう。敵を分散させる為にライフルを連射する。対するCUEは正面にarchⅡがあるので無駄にライフルを乱射できない。良い様に分散させられ其処に追撃砲が放たれる。脇に大口径の砲撃筒を持った兵器が後方から撃ってきているのだ。

「敵…。人形兵器20。一気に攻め込んできます。」

 鳳のオペレータが言った。

「ふむ。先手を打たれたか。まったく、海賊のくせに…。艦首其のまま。しゅ…。」

 と、言いかけて艦長は正面に座するarchⅡを見やる。

「主砲は撃つなよ。良いか。撃つなら艦首修正してからだ。たく、良い様に振り回されおって。ラゲーテンミサイル1番〜3番発射用意。」

 艦長が指令を出す。其れを2隻の艦長が自分の船のオペレーターに指示を伝える。鳳と違い巡洋艦の第一艦橋にはバトルフィールドがない。その為、ダイレクトに指令を出す事が出来ないのだ。そして、格科長も第一艦橋にはいない。各々の部署で指令を出している。

「ミサイル発射準備完了。」

 2隻の艦長が伝える。

「いつでも打てます。」

 鳳のCICクルーが伝える。

「よし、撃て !!」

 艦長の号令とともにミサイルが放たれる。

「ふん。打ってくるかよ。ミサイル来るぞ。散開。」

 自分の宇宙に表示される弾道軌道を見やり、ヒムエンコが指令を出す。海賊の人形兵器が分散しミサイル攻撃を回避する。見事、ヒムエンコ達はミサイルの回避に成功するが、ミサイルはarch Ⅱの手前で爆発しarchⅡ側面に強烈な打撃を与えた。

 爆風の衝撃で外壁側面が弾け飛ばされ、伝わる衝撃はarchⅡの中にまでその力を振動させる。廊下を走る僕は右の壁に飛ばされ、そして床に崩れ落ちた。

”戦闘が始まったのか…。”

 グッと右肩を抑えゆっくりと立ち上がり、正面を見据える。正面には大きな扉がある。マギーナが送ってくれたarchⅡの見取り図。其れには人形兵器格納庫までの経路がナビゲートされていた。その人形兵器格納庫…。其れが目前の扉だ。

 僕は扉まで駆け足で進み扉を開ける…。

 …。

 …。

 僕は扉をグッと開ける。

 …。

 …。

 僕は力ずよく…。

 …開かない。

 僕は首を傾げながらもう一度扉を開け様とするが、矢張り鍵が掛かっているのか扉はビクともしなかった。

 開かないって、

 ここはカッコよくガラッと扉が開いて、中にカッコ良い兵器が有るもんじゃないのか。と、僕は軽く扉をノックしてみる。

 勿論返事はない。

 試しに合言葉でも行ってみるかと思うが、それは余りにも滑稽すぎる。

「生麦…。」

「空…。」

「…開け。」

 言ってみたが勿論何の返答もない。

 いやいや…。此処まで来てそれはないでしょ。と、僕はガックリと頭を垂れた。


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