Episode 2 Strong beliefs. Lost in space 漂流 1
ニューセイルの崩壊とともに地球軌道上から弾き飛ばされた悠那は旧コロニーarchⅡの海賊部隊に保護された。其処で出会った女性マギーナ-ギフンダ。彼女の手厚い看護により徐々に体調を取り戻していく悠那。しかしそんな折CUEの部隊がarchⅡに侵入してきた。
「鶸大佐ーー。そろそろ安全地帯です。」
学は自分の宇宙に表示されるセーフティーラインを見やり言った。
「うむ。我が軍の兵は ?」
「撤退した兵は全員ラインに到達しています。」
「分かった。」
そう答えると鶸はチラリと後ろを見やる。
「気になりますか ?」
学は自分の宇宙に表示されている鶸を見やり言った。
「少しな…。君は彼等が生き残れると思うか ?」
「さぁ…。生きていても次は私が殺します。」
「うむ。君らしいな。」
と、鶸は自身の宇宙に起爆通信コードを入力する。
「まっ、生きていたらですけどね。」
「そうだな…。もしも…。彼等が最後まで生き残れていたのなら、彼等は新たなる夜明けを見る事が出来るだろう。」
「はい…。」
「何にせよ人類史上初の宇宙戦争の始まりだ。」
「ええ…。ーー大佐、そろそろ1分です。」
「そうか…。」
そう言うと鶸は起爆スイッチを押した。
其れは何の躊躇いもなく、人類史上最悪の過ちを犯す者の気概など微塵にも感じられず…。
鶸は当たり前の様に其れを押した。
そしてーー。
眩い閃光がキラリと光る。
其れはまさに一瞬の閃光のようであり、長きにわたって輝いていた様にも思えた。
パッと光る輝きは瞬く間に大きな光の塊に変わり。やがて、大きな煙と共に爆風が飛散した。
「学大尉…。私はこれで本国に戻る事になるが、君はどうする ?」
「は…。大佐は私に決定権を与えて下さるのですか ?」
「なに、褒美だよ。」
「まったく、大佐がそうやって私に甘いから、私が皆にやっかまれるのですよ。」
「やっかまれる ? そうなのか…。それは済まなかった。なら、この話は船に戻ってからにしよう。」
「いや、そう言う事ではなくてですね…。」
と、学が言った所でグラリーー。
グラリ、グラリ…。
ファイターに変形した人形兵器がグラリ、グラリと揺れる。
学はチラッと後方を見やった。
安全地帯を超えても尚巨大な爆風の力は衰えず、激しい力で揺さぶりを掛ける。
歪に分散する煙は爆風の力によって大きな羽根の如く、周囲に広がっていきやがて全てを飲み込んで行く。
そして、突然その光景は強力な磁場によって学の宇宙からプッツリと消えた。
映像が途絶えた…。
ボソリト学は呟きギュッと胸を押さえる。
何故だろうか ?
胸が痛む。
キリキリと、
キリキリと胸が痛む。
その昔…。
そう、自分が中学生の頃に習った核兵器の事を思い出した。当時の学は自分なら核爆弾を世界に投下し、一瞬で世界を掌握するだろうと考えていた。
例え其れが非人道的な兵器であっても、これほど効率の良い兵器は他に類を見ない。それは500年前に開発されてから、今に至るまで矢張りそれは最強の兵器なのだ。
だから、
自分なら何の躊躇もなく核を投下しただろうと考えていた。
しかし、
実際はどうだ、
真直に其れを見やり、肌で実感すると何故か胸がズキズキと痛む。これを何回も実践できるのか…。
学は自分に問うてみる。
問えば分かる…。
答えは勿論、
否。
其れは、この胸の痛みが伝えている。
何故…。
何故、過去の人類が核兵器を配備したにも関わらず、其れを使用しなかったのかが分った様な気がした。
世界で初めて核が投下されてから凡そ500年…。
その500年で人類の認識からは、未だ非人道的兵器として扱われている理由が痛感させられる。
嫌なものだ…。
自然と口から言葉が漏れる。
学は胸に手を添えたまま目前の宇宙を見やった。
豆粒大に映る旗艦ホーリーリング。その姿は徐々に大きくなりその姿をはっきりと学の宇宙に映し始める。
真直で見れば大きすぎて何が何やらサッパリと見当もつかない大型戦艦ではあるが、無限の広さを有する宇宙に浮かんでいるその様はまさに豆粒でしかない。
その豆粒よりも遥かに小さな人間は、どうしてこんなにも小さいのだろう…。
どうしてこんなにも無力なのだろう…。
どうしてこんなにも儚いのだろう…。
気がつけばポロリ、ポロリと涙が溢れていた。学はマスクを上げると涙を拭う。こんな姿を部下に見せるわけにはいかない。と、必死に涙を拭いマスクを戻す。
マスクを戻すと又学の目前に宇宙が広がる。
そして、ホーリーリングはあっという間に学の目前に到達し鉄の壁が覆い広がった。
「学大尉。お疲れさまです。第一格納庫に着艦誘導を行います。」
オペレーターから着艦指示が入る。
学はスッと操縦桿から手を離し、宇宙に表示される着艦経路を見やる。
「着艦誘導開始。操縦桿に手を触れないで下さい。」
「了解だ…。」
そう答えると学はもう一度後方を見やる。磁場の影響かここからでも見えた地球が、オーロラの様な光で隠されていた。
核爆弾5基の破壊力…。
到底学には想像もできない程の破壊力である。
恐らく
恐らくだが地球の大気も破壊されたに違いない。そしてニューセイルは跡形もなく消滅しただろう。
逃げ惑う兵士。
奇襲された挙句無慈悲に殺された兵士の姿が脳裏に浮かび上がる。
本当にここまでする必要があったのだろうか ?
結果を見て初めて考えさせられる。
そんなことを考えている間に景色は鉄の壁に覆われていく。やがて其れは大きな空間に変わり大勢の兵士が歓喜の声をあげ自分を出迎えていた。
彼等は…。
そう思い乍ら学はコクピットハッチを開ける。
心を痛めながらも学はヘルメットを脱ぐとそれを左脇に抱えた。
そして、私はふと考える。
この歓喜の中で私はどうすれば良いのだ…。
この胸の痛みを抱えながら私はどうすればーー。
ギュッと胸を掴み涙を零す。
駄目だ、
駄目だと思いながらも涙は止まらなかった。
そして、フト浮かび上がる男の顔。
その男は私に問いかける。
”もしも一つだけ望みが叶うとしたら君は何を望む ?”
男は言った。
跪き人生に絶望を感じていた私に言ったのだ。
思い出す…。
昔の事を。
奴隷だった日々の中で出会った男の言葉。
然れど、私はその男の事を阿呆だと思った。奴隷の私に望みなど叶うわけなどなかった。だから私は答えなかった。
「聞こえなかったかな。」
男は再度問いかける。私は確信する。矢張りこの男は阿呆だと。そうでなければ奴隷の自分をからかっているのだ。
「無視か…。まぁ、それも良い。だけどこれが最後だよ学元寸…。」
更に男は言った。
その時、確かに言った。
私の名を…。
奴隷になり名前を奪われた私の名を言ったのだ。
私はフッと顔を上げ男を見やる。
「学元寸。君と会うのは初めてだね。僕の名前はレフィン…。レフィン-ベッティ。」
そして、男はそう名乗った。私は訳がわからぬまま男を見やっていた。そして男は再度問いかける。
「最後だ。もしも一つだけ望みが叶うとしたら君は何を望む ?」
そう言うと男は私をジッと見やる。
「俺の…。望み ?」
「そうだ。何でも良い。奴隷から解放されたいでも良い。お母さんや妹を救いたいでも良い。もっと大きく上流階層の生活に戻りたいでもいい。」
ニコリと笑みを浮かべレフィンが問う。
よく考えて答えれば良い…。そんな感じで彼は私を見ていた。然れど私の望みは決まっていた。
もしも、
もしも私に力があれば私は…。
そう、私は…。
「力が欲しい…。」
ボソリト答える。
「力 ?」
「そう…。世界を変える力。世界を変える力が欲しい。」
「世界を変える ? 此れは又予想外な返答だな。」
「無理だろ…。わかってるさ。そんな事、誰にもできない。」
「ふぅん…。まぁ、無理かどうかは兎も角として、君はどうして世界を変えたいんだい ? 奴隷から解放されたいからかい。」
「そうだな…。そうかもしれない。だけど、奴隷になって初めて分かる事もある。」
「分かる ?」
「そうだよ、この世界は間違ってる。人の尊厳も価値感も狂ってる。誰かが正さなきゃいけないんだ。誰かが…。」
「それで、君が正すと…。成る程ね、その為の力か。分かった。僕が何とかしよう。」
男は何とも簡単に答えた。
冗談だろ…。
私は驚きの眼で彼を見やった。
こんな事を真に受けて何とかできる人間等いるはずがない。だが、驚く事にその日から私の生活は一転した。
しかし。
世界を変える力…。
私は確かにレフィンにそう言った。
そう言った事に対しての答えが士官学校への入学だった。何とも短絡的な答えだと思った。しかし、ことは映画のように上手くはいかない。一介の兵士が世界を変えられるはずもなく。私は疑問を彼に問いかけた。
「で、俺が兵士になって世界を変えられるのか ?」
「だから、何度も言ってるだろ。俺でなく、私といいなさいって。君はもう学家の人間ではなくレフィン家の一員なんだ。」
「そんな事は聞いてない。お…。否、だから、私が兵士になって世界は変えられるのですか ?」
「まったく…。君は本当に人を信用しないな。いいかい。私は神じゃないんだ。超人が持っているような手からビームが出たり、稲妻のような蹴りが繰り出せたりなんて必殺技を与える事なんて出来ないだろ。」
「分かってます。しかし…。」
「神は…。神は人に幸福を与えない。与えるのは常に試練だ。試練を乗り越えその先にある幸福は、試練を乗り越えた後の副産物に過ぎない。分かるかい。だから、奇跡なんて物もない。全ては成るべくしてなった結果なんだ。」
「いえ、奇跡は起こりますよ。」
「否、起こらない。奇跡とは全てにおいて確固たる覚悟から芽生える力だ。だから覚悟のない者に奇跡は起こらない。それはその人に力が芽生えないからだ。」
「確固たる覚悟 ?」
「そうだ。世界を変えたいのなら…。否、思いを遂げたいのなら覚悟を持って挑まなければ、何一つ変える事が出来ないまま君の人生は終わる。」
「成る程、で…。それと、軍人になるのとはどう言う関係があるのです ?」
「其れはきっかけさ…。私は君にきっかけを与えたんだ。それをこの先どうするかは君が決める事だ。勿論ベッティ家の名も好きな様に使っていい。」
何とも簡単にレフィンは言った。
簡単すぎるほど簡単に…。
然れど、現実を前に私の心は揺らいでいる…。
確固たる覚悟が足りない所為かーー。
そうだ、揺らぐのは私の心が弱いからだ。
変革とは。
多くの犠牲者の上に存在するのだ…。
と、学はグッと拳を握りしめ自分の覚悟を今一度心に打ち付ける。そして右腕を高らかに、天を突き破る程高らかと上げた。
その瞬間…。
歓喜の声がより大きく格納庫に響き渡った。
そうだ…。
私は世界を変える。
500年続いた最悪の歴史を変えるのだ。
と、学はコクピットから出るとグルリト周りを見やる。無数の兵士が柵を叩き、兵器を叩き音を奏でている。一人一人から聞こえる学を呼ぶ声。作戦の成功を讃える賛美の音…。
そうだ、
戦争はまだ始まったばかりなのだ。
と、学は兵器の上に立ち、決起振るう声で作戦の成功を告げた…。
その響きは、戦艦を超え無音の宇宙にまで轟く勢いで流れ出る。
そう、
暗く、
暗くドロドロとした無音の宇宙…。
その中で漂う兵器がポツリ…。
ボロボロに朽ち果てた兵器の中でフト意識を取り戻す。然れど、此処が何処なのか全く理解できない。
真っ暗な闇の中で僕はジッとその闇を見やっている。全身を激しく打ち付ける激痛に激しい嘔吐。吐きたかったが、吐くことを躊躇った。
此処は ?
ボウっと朧げな意識の中で僕は必死に思い出そうとしている。
僕は…。
僕は…。
と、僕は何かしら体を動かそうと必死に抵抗する。
然れど、腕一本、否、指先一つ動かすことを躊躇うほどに体は悲鳴を上げていた。わけが分からない。どうなって、こうなったのか…。
そんなことを考えている間に僕は又眠りに落ちていった…。




