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Impact penetrate. Last chapter.

 伊藤中尉は敵が撤退していると言った。

 でも、其れは嘘だったーー。

 敵の攻撃は緩やかになっている所かさらに激しさを増し、ニューセイルに激しい攻撃を仕掛けている。

 降り注ぐ光はうねる様に舞い降りその衝撃が外壁を吹き飛ばす。その凄まじさは想像を越え、僕に恐怖を抱かせる。

 必死に応戦しようとも、敵はそれを物ともせずこちらの兵器を弾き飛ばす。僕は不思議だった。鶸と戦闘していた場所は不思議な事にこれほどまでに凄まじい戦闘は行われていなかったからだ。 

 飛び交う閃光に沈んでいく船…。そして弾き飛ばされる外壁。この中をズタボロの僕が突破できるのだろうか ? 体は最早グチャグチャだし、胃は空っぽである。正直こんな僕がこの戦闘の中に入れば那奈さんや沙也の足手まといになる事は誰にでも分かる事…。だからと言って戻っても何もできない。 

「ボクゥ…。ぼっとしない。」

 那奈さんの声が僕のコクピットに響く。フト前方を見やると那奈さんと沙也の兵器が此方に向かって来ていた。

「那奈さん。沙也…。」

「迎えに来てあげたのよ。感謝しなさい。」

 那奈が言った。

「あ、はい…。」

 と、僕は目を反らす。

「悠那、このまま鬼神丸まで行くよ。」

 沙也が言う。

「鬼神丸に ?」

「此処からだと鬼神丸が一番近いのよ。」

 そう言って那奈が鬼神丸までのルートを送ってきた。

「そのルート通りに行けるかどうかは保証しないけどね。兎に角ついてらっしゃい。」

 降り注ぐ閃光を避けながら那奈が言う。その声は先ほどと違い気丈であった。頼りになるお姉さんと言った感じだ。

 然れどその気丈な振る舞いが僕を惨めにさせる。日比野大尉に守られ、今度は那奈に守られ様としているからだ。

 体を捻り後ろを見やる。

 軽く捻るだけでも体には激痛が走る。この状態で鬼神丸までいけるのか ? 恐怖が僕に疑問を投げかける。

 行けるわけがない…。

 思うように動かせないこの体では、複雑な動きをする兵器の挙動に耐える事など出来ないし。攻撃を繰り出す事なんてのはもってのほかだ。行けば沙也が、那奈が僕を守るだろう。

 僕を守り日比野大尉の様に…。

 鶸と戦闘を繰り広げている日比野の姿をジッと見やる。

「ボク、行くわよ。」

 那奈が言う。

「悠那。行こう。」

 沙也が言う。

 僕は返答に戸惑った。

「悠那…。どうしたの ?」

「何してるの。死んじゃうわよ。」

「は、はい。」

 前を見やり答える。

「まったく、落ち込むのは帰還してからにしなさいよ。これだからルーキーは嫌なのよ。」

「もぅ、姉さん。きついです。」

「馬鹿言ってんじゃないわよ。生き死にがかかってんのよ。あんた達が死んだら勇の…。勇の行動が無駄になるでしょ。」

 言葉を詰まらせ乍ら那奈が言った。僕は体を捻らせもう一度後方を見やる。英雄に成りたい僕は英雄に守られている弱者であることを痛感させられる。

 僕は逃がされ、真の英雄は僕達を守るために戦っている…。

 これが現実。

 現実の世界を知らされ、僕の体はボロボロに打ちのめされた。そして、尻尾を振って逃げ出した。

「ボク ! 行くわよ。」

「あ…。はい。」

 全身に走る激痛に耐えながら操縦桿を握る。正直操縦桿を握るのもアクセルを踏み込む事さへ苦痛に思えた。

 このままじゃぁ…。

「悠那行ける…?。」

 そんな僕を見やり沙也が言った。

「体が…。」

「体 ?」

 と、那奈が言った所で閃光が外壁を貫いた。周囲の鉄材が弾け飛ぶ。僕は慌てて周囲を見やる。戦闘が此方まで広がってきている。

「シートの下にアドレナリンと5つの成分兵士用があるはずよ。体動かないならそれを打ちなさい。」

 グインっと兵器を動かし那奈が言った。僕は慌ててシート下部のトレイを探した。手探りではあったがそれは直ぐに見つかった。トレイを開け中から小さなケースを取り出す。

 中には”愛と勇気のアドレナリン無調整兵士用ーー保証無し”が入っていた。

「那奈さん…。」

「何よ。」

「ありましたけど。保証無しって書いてあります。」

「何 ?」

 敵を陽動しながら那奈が言う。

「だから、保証無しって…。」

「保証 ? あんた何言ってんのよ。生きてる保証もないんだから打ちなさいよ。て、言うか止まってないで動け !」

「あ、はい。すみません。」

 僕は兵器をグイっと動かす。その瞬間後方から衝撃が体を突き抜ける。止まっていた僕の兵器に後方から蹴りを入れられた。ゴロゴロと兵器が外壁を転げる。その衝撃で僕は注射器を床に落とした。

 吐いたゲロの上に注射器が落ちる。

「悠那 !」

 沙也がビームを打ち敵を牽制してくれる。

「大丈夫。僕は大丈夫だから。」

 兵器を立たせビームの剣を作る。体がブルッと震えた。注射を打つ暇はない。兎に角この場を切り抜けなければ僕達は助からない。

 然れど、ビームの恐怖は体が一番覚えている。

 ブルブルと体が震える。

 其れでも…。

 僕は歯を食いしばりながらビームの剣を振りかざし攻撃を仕掛けた。振り下ろすその剣を敵はビームの剣で受け止める。ビームとビームが交わる閃光が激しく飛散する。

 然れど、敵はエリンの様に根性だめしはしてこない。其のままビームの威力に敵の右腕が後方に弾かれる。お陰で地獄の苦痛は一瞬で済んだ。僕はすかさず水平に剣を払い敵の兵器を真っ二つに切り裂いた。

 そしてすかさずゲロの上の注射器を取り肩に刺し僕は指を止めた。

 僕の目に映る衝撃の映像…。

 日比野大尉と鶸の攻防である。激しく打ち合う両機の消耗は激しくお互いの外装を弾き飛ばす。地獄の衝撃も気にする事なく打ち合い殴りあう。其の様相はまるで鬼と鬼が殺し合いをしている様に見えた。

 然れどその攻撃も日比野の右足が吹き飛ばされ一変した。

「大尉…。」

「勇。」

 那奈が言った。僕は思わず那奈さんを見やる。一瞬にして那奈の動きが鈍った。その動きは明らかに動揺したものだ。敵はその瞬間を見過ごさない。ビームの剣を振りかざし那奈のテスト機に襲いかかる。僕は注射器を抜き那奈さんの援護に向かう。然れど、那奈はその隙を突かれ左腕を吹き飛ばされた。

「姉さん !」

 沙也が声を掛ける。

「大丈夫…。左腕が吹き飛んだだけだから。」

 そう答えた那奈さんは泣いていた。

 僕は、

 僕は無我夢中で、必死にビームを撃ち放った。

 少しでもーー。

 少しでも、那奈さんから敵が離れるように。


 情けないほど何も出来ない僕は、

 やっぱりかっこ悪い…。

 こんなんだからルーキーって言われるんだ。


 其れでも僕は必死に…。

 無我夢中で…。

 必死にビームを撃ちまくる。

「ボクゥ。私は大丈夫だから。無駄に乱射しない。」

 那奈が言った。

「那奈さん…。」

「何弱気な声出してんのよ。男でしょ。しっかりなさい。」

 惨めだった。何も出来ず。助けられて、助けられて励まされて。悔しくて、情けなくて、自分が嫌いになりそうになる。

 僕がいなければ、

 僕がいなければきっと那奈さんは助けに行っただろう。否、僕がいなければ一緒に戦っていたかもしれない。

 僕がいたばかりに…。

 僕が弱い所為で…。

 助けに行きたいくせに。

 本当は助けに行きたいくせに…。

 分かってる。

 分かってる。僕がもう少し強ければ。

 否、僕に勇気があれば…。

 何が英雄だ…。


 僕は力一杯操縦桿を握る。


 何が沙也を守るだ。


 結局僕は逃げただけじゃないか…。


 助けられて、

 逃げ出して…。

 自分に都合の良い言い訳を作って安全な場所を求めているだけだ。


 僕は、

 僕は…。


「那奈さん。ゴメンなさい。沙也もゴメン。」

「ボク…。」

「悠那…。」

「僕は…。ごめん。約束、守れそうにない。」

 僕は、

 僕は…。

 英雄なんかじゃない。

 そして英雄にはなれない…。


 だけど、


 僕は、

 

 男の子だ。


 僕は注射針を肩に刺し愛と勇気のアドレナリン無調整兵士用保証無しを体内に注入した。瞬間グニャリと世界が歪み瞳孔がギラリと開く。

 先程まで悲鳴を上げていた体が急に楽になり、全身の痛みが嘘のように消え去る。沸き起こる闘志は揺るぎない力を与え錯覚の自信と勇気を僕に持たせてくれた。

「さぁ、再戦だ。」

 ニヤリと笑みを浮かべグッと操縦桿を握る。アクセルはもちろん全開だ。

「ゆ、悠那。何処に…。」

「真逆ーー。ボク。…沙也、勇の所に戻るよ。」

 そう言って那奈はテスト機の方向をクルリと変えた。

「ちょ、ちょっと姉さん…。」

 と、沙也は左腕を吹き飛ばされた那奈のテスト機を見やる。

「ごちゃごちゃ言わない。ボクを見殺しに出来ないでしょ。あの子アドレナリン打って飛んじゃったのよ。」

「と…。もぅ、可愛いんだから。」

惚気のろけてる場合じゃないでしょ。」

 そして二人も悠那を追う様に元に向かうが、然れど悠那の無駄な砲撃が無くなった所為で敵の攻撃が那奈達に再び襲いかかる。此れで悠那との距離が一瞬にして離された。

「姉さん…。」

 敵の攻撃に応戦し乍も沙也は悠那の事が気になって仕様がない。

「私は大丈夫よ。沙也ちゃん行って。」

「でも、」

「ふん…。伊達にプリティアマゾネスの小隊長努めてないわよ。」

「え ? プリティ…。何それ ?。」

「いいから、勇とボクを守ってやって。」

「う、うん。」

 那奈が援護に回り、沙也が悠那の元に向かってファイターを走らせた。


 そして、眩い光を背後に鶸がチラリと後ろを見やる。

「後ろ…。ルーキーか…。」

「ま、真逆。悠那。」

「僕は、男だ !」

 そして僕は力一杯ビームの剣を降り下ろした。

 然れど鶸は振り上げる剣の向きをクルリと変えると、その攻撃を容易く受け止める。弾き飛ぶ閃光、襲いかかる衝撃…。

 然れどその衝撃は苦痛よりも寧ろ快楽に感じる。痛みも恐怖も無い。あるのは有り余る闘志と湧き上がる力のみ。

「あっぱれだ少年。この状況でその無謀さとその言葉。賞賛に価する。が、私に挑むには時期尚早。」

 と、鶸はフェネックをグッと後退させ背後のコンセプト機に体当たりをかます。

 グラリト体制を崩すコンセプト機に後ろ蹴りをすかさず繰り出し、その直後にフェネックは体制を整える。然れど、それよりも早くコンセプト機は体制を立て直し攻撃を仕掛ける。一撃、二撃と剣を振り下ろす。それを剣で弾き蹴りを繰り出す。その蹴りが腹に入るが尚もコンセプト機は揺るぐ事なく攻め込んでくる。

「ふん。貴様もアドレナリンを打ったのか…。」

 ビームの衝撃を物ともせず、臆することなく突っ込んでくる行動を見やれば嫌でも分かる。鶸の宇宙に表示されている時間が刻一刻と時を刻む。

「まったく…。厄介な奴等だ。」

 鶸は剣で牽制し蹴りを入れてくる。ボコボコに蹴られ乍もコンセプト機は尚も鶸の攻撃に立ち向かう。

「厄介上等だ。僕は、僕は負けない。」

「其れは無理だよ。少年…。」

 アドレナリンを打っても操縦技術は変わらない。そして僕は鶸がアドレナリンを投与した事実を知らない。そうなのだ。条件は何も変わっていない。恐怖も痛みもぼやけているのは同じなのだ。だから何度果敢に攻めても一発も当たらない。

「悠那…。無理はするな。」

 日比野が言う。

「僕は負けません !」

 其れでも、恐怖がない僕に無理という言葉は無い。

「クソ ! 彼奴飛んでやがる。」

 日比野はズタボロになったテスト機のバーニアをふかす。然れど両足を失ったテスト機は不安定に浮かび外壁に落ちる。

「驕るなよ少年…。」

 薄ら笑いを浮かべ乍言いそうなセリフだ。ヘルメットのマスクで表情は分からない。然れど僕をせせら笑う様に鶸は僕の繰り出す蹴りを足で弾き、すかさず顔面に蹴りを入れる。グラリト揺れるコンセプト機…。

 流石に頭部のコクピットを強打されると衝撃で脳が揺れる。其処にフェネックが一気に詰め寄り剣を振りかざす。

 しまった…。

 ボソリト呟く。

 先程と違いフェネックに待つといった間がない。だから其の行動は恐ろしいほど早い。テスト機で援護に向かおうとするも矢張りゆう事をきかない。そんな日比野の宇宙に沙也のファイターが映る。然れど沙也の位置からではコンセプト機が立ち塞がりフェネックを狙えない。沙也はとっさに方向を変えるが、振り下ろす鶸の剣撃の早さには対応できない。

 だ、駄目だ…。殺られる。

 振り下ろされるビームの剣が目前に迫る。

「鶸止めろ !。お前の相手は俺だろうが。」

 日比野の叫び声がコクピットに響く。然れどそれを嘲笑あざわらうかの様に鶸の振りかざす剣が僕のコンセプト機に振り下ろされた。

「悠那 !」

「ゆ、ゆう…。」

 2人の目前で振り下ろされる光の刃。その凄まじい衝撃により悠那のコンセプト機は弾き飛ばされ、そのまま外壁に崩れ落ちた。

 それは、悠那の援護に向かった沙也の目前で、

 鶸の振りかざすビームの剣が悠那の兵器に振り下ろされる。

 沙也の目にはその瞬間、

 ユックリと、

 驚くほど鮮明に、

 その瞬間がはっきりと自分の目に映りこんでくる。

 夢であります様に、

 沙也は願った。

 これは夢だと、

 沙也は自分に言い聞かせた。

 出会ってから未だ何時間も経ってはいない。

 其れでも運命の神様に沙也は何度もお礼を言った。

 ありがとう、

 ありがとう…。

 出会ってから未だ何時間も経ってはいない。

 其れでも沙也には分かっていた。

 ニューセイルの港で彼の後ろ姿を見やった時から感じていた…。

 軍人のくせに小さな背中。

 臆病で、

 泣き虫で、

 其れでも必死に前を見て、

 強くなろうとして…。

 沙也には分かっていた。

 どんなに弱くても悠那は私の…。

 私の…。

 其れが、今一瞬にして奪われた。

「い、いやぁぁぁぁぁ !」

 そして、沙也の錯乱した叫びがコクピットに響きわたる。

「悠那、悠那…。いやだ、いやだよ。悠那、悠那。」

「沙也、沙也 ! どうしたの。どうしたのよ沙也ちゃん。」

 沙也の悲鳴を聞いて、懸命に那奈が呼びかける。

「返して…。返してよ…。悠那を返してよ !」

 然れどその言葉は沙也の耳には届かない。

「まったく。うるさい子供だ。」

 そう言うと鶸はジロリと沙也のファイターを見やる。手負いの兵器にファイターか…。そろそろ時間だ。お前達は死ね。そう言うと鶸はグンっとファイターに向かってフェネックを走らせる。 

「お前なんか、お前なんか !」

 そして沙也も鶸のフェネックに突っ込んでいく。

「沙也 !」

 と、日比野は両足のないテスト機を必死に動かすが、バーニアの力だけではフラフラと頼りなくニューセイルの重力に振り回されるだけである。

「沙也ちゃん…。」

「那奈…。沙也を止めろ。」

 日比野が言う。それに応えるように那奈がテスト機を走らせる。然れど、ビーム砲を撃ちながら突進していく沙也のファイターとの距離は縮まらない。そして鶸はその攻撃を避けながら間合いを詰めていく。

 その距離は

 瞬く間に

 狭まっていく。

「何を…。血迷って特攻か。」

「お前は絶対に殺す !!。殺す、殺す ! 殺してやる !」

 怒りに任せた沙也のファイターが躊躇ためらうことなく鶸のフェネックに突っ込んでいく。 

 然れど、沙也は躊躇わぬが、沙也の駆るファイターは大いに躊躇っている。 

 沙也の宇宙に表示される危険の文字。

 其れは次第に大きく激しく点滅し始める。


 そして、

 

 危険。

 衝突まで0.4秒。

 危険。

 ファイターモード強制解除。


 沙也の宇宙にファイターモード強制解除の文字が表示された。が、沙也にその文字は見えていない。

 沙也の目に映る物は憎っくき鶸の駆るフェネックのみ。

 そして、沙也…。駄目だーー。今際の際に聞こえる悠那の声。

「悠那…。」

 チラリと沙也はコンセプト機を見やる。

 鶸はビームの剣を振りかざす。


 そして…。


「な、何だ。」

 鶸が言った。

 否、鶸だけではない。


 日比野も、

 那奈も、


 その異様な光景に我が目を疑った。

「へ、変形だと。」

 思わず鶸の動きが止まる。そして、何がどうなったのかわからぬ沙也はそのまま鶸のフェネックに激突した。

 共にブレーキ制動を掛けていなかった為、2機の兵器はそのまま物凄い勢いで外壁を跳ねて、跳ねて、転がっていく。

「沙也ちゃん !」

「さ、沙也…。」

 悠那が言った。

「悠那…。無事だったのか。」

 悠那の声を聞いて日比野が安堵の声で言った。

「え、あ…。はい…。。」

「兵器の損傷は ?」

「え…。」

 と、悠那は自分の宇宙に損害状況を出す。が、それと言った損傷は見当たらない。見当たらない所か、突然暗闇に襲われ、それ前後の記憶がない。

「僕は ?」

「覚えていないのか。」

「はい。」

「そうか。お前は鶸に切られたんだよ。」

「鶸に…。」

 と、僕の脳裏に記憶が蘇る。

 鶸の繰り出す蹴り、そして振り上げる剣。

 そうだ、僕は日比野大尉を助けに来て逆に切られたんだ。


 切られた ?


 そう、切られたんだ。切られたのにどうして…。

「Graas鉱物か…。」

 ノッソリト兵器を立ち上がらせ乍ら鶸が言った。

「Graas鉱物 ?」

 日比野が答える。

「核融合炉に使用している世界で最も貴重な火星鉱物。その淡いピンク色、動きの硬さ、真逆とは思っていたが矢張りそうか。」

「だから…。僕は。」

「兵器の強度に感謝する事だな。最も、今死ぬか、少し後で消滅するかの違いだが。」

 そう言うと鶸は外壁の中央部に向かってフェネックをユックリと進ませ始めた。そして悠那は沙也の兵器を見やる。

「沙也…。」

「悠那…。ばかぁ、死んだかと思ったじゃない。」

 那奈の兵器に抱きかかえられながら沙也が言った。

「ごめん…。」

「もぅ。無茶しすぎだよ。」

「まぁ、無事で何よりよ。それにしても変形するなんてね。」

 那奈が言う。

「まったく、俺たち将校を馬鹿にしたような兵器だな。其れより、何処に行く気だよ。」

 沙也の兵器を見やり、鶸に視線を戻し日比野が言った。

「興醒めだ。私は任務を遂行させてもらう。」

「任務だと ?」

「言ったろう。時間稼ぎだと。」

「ま、待てよ…。僕はまだ。」

 そう言いながら兵器を立ち上がらせる。

「少年。ラッキーは大切にする物だ。それに君では話にならんよ。」

「そうだ悠那。無茶はよせ。」

「僕は…。其れでもーー。」

 と、コンセプト機をぐいっと動かした。然れど、その勇気を揶揄する様に眩い閃光が僕の目前に舞い降りる。

「学か…。」

 ジロリと宇宙を見やり鶸が言った。

「鶸大佐、時間です。」

 そう言うと学はフェネックを外壁に着地させる。

「新手…。」

 グッと悠那は操縦桿を握る。

「心配しなくても、私は君の相手などしない。」

「な、何を…。」

「頑丈な兵器のお陰で命拾いしたパイロットに、興味などないと言っている。それよりもさっさと此のニューセイルから離れる事をお勧めするよ。」

「え…。」

「ふむ。君はいつからそんなに優しい青年になったんだ。」

「優しくなどありませんよ。只…。」

「只 ?」

「彼の勇気に敬意を表しただけです。」

 そう言うと学も又外壁の中央部分に向かった。そんな学の言葉に鶸は高らかな笑い声を上げ、勇気 ? 勇気だと。君はあれを勇気というのか。と言った。

「勝てぬ相手に命を掛けて戦いを挑む。それを勇気と言わずして何というのです。」

「無謀さ。…ひょっとして、君は誰かの面影と重ねているのではないか。」

「誰か…。」

 と、学は脳裏に古き友である劉經英りゅうけいえいの面影を思い浮かべた。

「そうですね。そうかも知れません。」

 そう言いながら学は、自分の宇宙にシークレットコードを表示させると、手際よくパスコードを入力する。

 鶸も又自分の宇宙に同じくシークレットコードを表示させた。 

「何をするつもりだ ?」

 2機の不可解な行動を見やりながら日比野が言った。

「分かりません。だけど…。」

「沙也ちゃん…。それファイターに戻せる ?」

 そして、那奈がぼそりと言った。

「う、うん。多分…。」

 と、沙也は自分の宇宙にマニュアルを表示させ、パラパラとページを捲る。

「姉さん…。なんとか戻せそうです。」

「そぅ…。だったらすぐにファイターに戻して。」

「え、えぇぇ…。でも、どうして ?」

「敵兵が言ったでしょ。さっさと逃げろって。でも、近くに船はない。船がなけりゃ兵器だけのスピードじゃどうにもならないわ。」

「そ、そうか…。」

「そう言う事。少しでもスピードに特化したもので逃げる。しかも兵器3機分のブースター付きだったら何とかなるかもしれないでしょ。」

 と、那奈が言うと沙也は直ぐさまマニュアルに書いてある通りに操作を行う。すると沙也の兵器が瞬く間にファイターに変形した。

「姉さん。出来ました。」

「うん。沙也ちゃん偉い。」

 と、那奈はチラリと敵兵器を見やり、大きな目をパチクリした。

「ひ、日比野大尉。」

「お、おう。」

「へ、兵器が上下で分離しましたよ。」

 鶸と学の兵器が腰の部分で上下に分離しているのが見える。

「お、おう。ーーうん ?」

 と、敵兵器の下半身に何か付いているのが見えた。日比野はその部分を拡大表示させる。

「あ、あれは…。」

 と、言う日比野に僕が、核ミサイルだ !。と、声を荒げた。

「え、核。」

 と、沙也が敵の兵器を見やる。 

「彼奴ら…。あんな物を腹の中に隠していたのか。」

 ボソリト日比野が言う。

「腹、腹… ?。」

 と沙也が那奈の腹を思い浮かべる。

「彼奴ら…。ニューセイルを消滅させる気だ。」

 と、日比野が慌てて緊急離脱信号を全艦、全兵器に送った。

「日比野勇、そして少年…。悠那と言ったか。それと沙也に那奈かな…。君達の無謀…。否、勇気に免じて1分だ。」

 唐突に鶸が言った。

「1分 ?」

 僕が答える。

「ああ。我々がセーフティゾーンに到達してから後1分の猶予をやる。有効に使え。そして生きていたら又挑いどんで来い少年。」

 そう言うと鶸と学のフェネックの上半身がファイターに変形し、ニューセイルの外壁から飛び立って行った。

 あれもファイターになるのか…。

 僕は飛び立って行くファイターを見やりボソリト言った。

「日比野ーー。」

 日比野のコクピットに禍々しい声が響き渡る。

「た、大佐…。」

「緊急離脱信号だ。何があった。」

「鶸が核ミサイルを置いて行きました。」

「な…。鶸がだぁ。」

「はい。それで、鬼神丸は ?」

「うむ。無事だ。それよりも…。」

「私達はこちらで那奈達と離脱行動を取ります。」

「分かった。頼んだぞ。」

 そう言うと一本気が通信を切る。

「向井、滝野、伊藤ーー。聞こえるか。」

 そして日比野は向井、滝野、伊藤に通信を送る。

「はい。聞こえます。」

「状況は ?」

「敵が完全に撤退を始めたので、各自帰還して行ってます。それより隊長は…。」

「俺の事は良い。それよりも直ぐに此処から離脱しろ。彼奴ら核ミサイルを置いて行きやがった。」

 と、通信を行っている日比野のテスト機を那奈のテスト機がヒョイっと持ち上げ、沙也のファイターにしがみつかせる。

「核ミサイル…。真逆。」

「良いか。呑気に帰還なんぞしている暇はない。直ぐに離脱だ。近くに船がなければ一塊になって飛べ。多ければ多いほどスピードが増す。うまくいけば逃げ切れる。」

「隊長は ?」

「俺はコッチで那奈達と離脱する。」

「分かりました。直ぐ行動に移ります。」

 そう言うと伊藤達は直ぐにそれを部下に伝え始めた。

 そして、悠那早くおいで。と、沙也が言った。

「うん…。」

 そして僕も那奈達と同じ様に沙也のファイターにしがみつく。

「それじゃぁ、行きます。」

 そう言うと沙也がグイッとアクセルを踏み込むと、けたたましい音を立てながらメインバーニアが一気に膨れ上がった。


 ーー「艦長 !」

 第一艦橋内に一本気の禍々しい声が再び響き渡る。

「確認済みです。至急帰還して下さい。」

 河野が答える。

「アホ抜かせ。まだ他の兵が帰還しておらんだろうが。」

「そんなもん待ってられんでしょう。」

「貴様は何を言うか !。」

「何を言ってるんです。此処で鬼神丸が沈んだら、鬼神丸を守って死んだ兵は無駄死にでしょうが。」

「んなもんは分かっておる。お前たちはサッサと離脱しろ。」

「大佐こそ何言ってるんです。今此処であなたが無駄死にしてどうするんです。良いから帰還して下さい。」

 力強く河野が言った。

 その言葉に吉田は、この人は、言う時には言える人なのだと少し感心した。

「分かった…。帰還する。」

 怪訝な表情を浮かべ一本気が答えた。

 そして周囲の兵達も帰還行動を止め一塊となって離脱し始めた。

 巡洋艦、巡洋戦艦も緊急離脱行動を始め、船付近にいた兵器は船にしがみつきその場を離れていった。

 そして悠那達も又その強烈なスピードの中にいた。

 機動力に長けたファイターのバーニアと兵器の力強いバーニアの力が加わり、コクピットには想定外の強い負荷がかかる。アドレナリンの効力が和らいできているのか体を襲う衝撃が体を突き抜ける。

 初めて体感する3G以上の負荷は少々きつい。

 その衝撃と蓄積された疲労に負けそうになるが、それでも悠那は必死にアクセルを踏み込む。然れど意識が吹っ飛びそうになる。

 内臓が飛び出しそうになる程の衝撃…。

 息苦しい程の激しい力…。

 まったく、衝撃に次ぐ衝撃が体を襲う。

「悠那…。負けるなよ。負けたら飲み込まれる。」

 日比野が言った。

「は…。はい。」

 グニャグニャと歪む世界、その中で吐きそうになり乍ら悠那が答える。対G軽減コクピットも衝撃吸収素材で作られているバトルスーツも想定外の力を吸収できないのかその力は凄まじかった。

 それでも、ただ苦しいだけじゃない。

 後ろに見えるニューセイルが瞬く間に小さくなっていく。

 ボウっと茫然自失の中で悠那はニューセイルを見やっている。


 やがて…。


 パッと閃光が光った。

「あ…。」

 暗闇に包まれていく意識の中で、悠那は後方で光る光を見た様な気がした。

「来るぞーー。」

 日比野が言う。

「うん。」

 そう言って沙也と那奈が歯を食い縛る。

 悠那はユラユラと暗闇の中で揺れている。


 そして、


 突き抜ける衝撃と共に悠那は意識を取り戻した。

「な、なんだ !」

 訳がわからない程の力、

 兵器を吹き飛ばして行く様な衝撃が、

 押し寄せる磁場が通信を遮断する。

 何が起こったのか周りを見やるが、磁場の所為か映像も機能していない。

 只、訳わからぬまま。

 真っ暗な暗闇の中で、

 只一つ言える事は、この突き抜ける様な衝撃は、僕に考える余裕なんて与えてくれなかったと言う事だ…。


 だから、

 僕は必死にアクセル踏み込んでいた。

 生きたい…。

 生きるんだ…。

 只それだけを祈って。


「提督…。」

 人形兵器格納庫の中で一本気は敬礼していた。

 全く、何も出ぬままニューセイルを失い。提督まで死に追いやってしまった歯痒さが堪らなく腹立たしかった。

 一本気は悔しい気持ちを胸にしまいグッと歯を食いしばる。

 必ずや、

 必ずや、勝利をこの手に…。

 ニューセイルと共に散った提督に改めて一本気は誓った。

 然れど、

 その誓いはストライドには届かない。


 何故なら、


 彼は秘密の花園で、

 ギャル達と戯れている最中だから…。

挿絵(By みてみん)

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