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Impact penetrate 崩壊3

 ーー河野は爪をカリッと噛む。

 イライラとジレンマが苛立ちを誘う。

 世間ではやれ鬼神丸の船長だ、優秀な軍人だと言われても、肝心な時に肝心のこれが動かなければ何の意味もない。

 敵の攻撃に対しても自力で回避することもできず。如何に次世代の兵器を搭載していてもメインエンジンが始動していなければ撃つ事もままならない。

 これではただの棺桶である。

 何もできず只座して死を待つのみ。

 まったく、軍人としてこれ程情けない事はない。

 第一艦橋に映し出される宇宙には、お世辞にもこちらが有利な状況とは言えない戦況が映し出され、この大型戦艦ふねが沈んでいないのが奇跡と言える状況が悲痛な叫びをあげながら河野に襲いかかる。

 イライラ、イライラと

 イライラ、イライラと苛立ちが

 ガリガリ、ガリガリと河野は爪を噛む。

 歯痒いまでの光の筋は、ニューセイルの外壁を貫き、振り下ろされる其れは兵器を瞬く間に破壊する。

 ビームの剣を警戒し乍らも必死に応戦する兵器に勇気を与えられるが、此れでは正義のヒーローに守られる弱者である。

 然れどいくら扱いに長けていても光の線が一度降り注げば兵器は一瞬にして貫かれる。相手の振り下ろす剣を交わし、蹴りを蹴りで防ぎ相手の隙を見計らい、攻撃を仕掛けても流れてくる一瞬の煌きが全てを終わらすのだ。

 どうにもならぬ状況…。

 然れど…。

 あれ程のエネルギー量を持つ兵器をいつまで使用できるのか ? 

 頭の中にある疑問。

 そうだ。いくら隊長機や戦艦からエネルギーを供給できるとしても限りがある。其れに自軍の戦艦から大きく離れている敵部隊が自軍の戦艦からエネルギーを供給出来ているとはとてもじゃないが思えない。

 其れにーー。

 隊長機もそれほどまでに燃料を積んでいる様には見えない。

 河野は映し出される宇宙を見やりあれやこれやと考えを張り巡らせる。敵がビーム兵器に武装を交換して凡そ5分…。

「長いな…。」

 ボソリト河野が言った。

「何か ?」

 艦長補佐の吉田繁が答えた。

「ビーム兵器のもちがな。長く持つものだと思ってな。」

「はい。確かに長いです。ビーム兵器に換装してから凡そ5分。人形兵器の稼働時間が15分ですから十分すぎるほどのパフォーマンスです。」

「だよな…。て事は相手はどこかからエネルギーを調達していると言う事になる。そうなるとあいつらはどこからエネルギーを調達しているんだ。」

「私もそれをずっと考えていました。」

 大型戦艦鬼神丸艦長1等級大佐河野純一よりも30歳程若い鬼神丸艦長補佐1等級大尉吉田繁は歳の割には広い額をポリっと掻いた。

「うむ…。まったく腹たつが奪われていると言う事か。」

「奪われる ? 真逆。こちらのエネルギーを奪うにはEolのコードが必要になりますよ。」

「コード ? コード何てものは所詮コンピューターで管理しているものだ。その気になれば幾らでも奪える。」

「確かにーー。」

 と、言った所で一本気から通信が入った。

「河野艦長 !」

 艦橋に禍々しい一本気の姿が映し出される。バトルスーツで身を包み、ヘルメットをかぶっているお陰であの狂気じみた表情を見なくて良いのは心なしホットさせられるが、人を威圧する声とオーラはバトルスーツ越しからでも変わらない。

「はい。今しております。」

 どうせ催促の通信だと河野は言われるよりも先に答える。

「そうか、流石は河野艦長。心強い。」

「は ?」

 予想せぬ言葉に河野は自分の耳を疑った。

「何だ。」

「いえ。思いもよらぬお言葉だったもので、つい。」

「何を言っている。先手を打ってのEol停止なのだろう。」

「え…。いや、其れは…。」

「其れは ? まだなのか…。」

「え、あ…。はい。其れは今から…。」

「あん…。今からだぁ。だったら、遅いだろうが !」

 第一艦橋内に一本気の罵声が響き渡る。河野は思わず目を反らす。それを見ていた吉田はチラリと河野を見やり、情けない人だ…。と、思うがその反面、艦長としての実績は素晴らしいとも思っている。だから、一本気に対しての態度が残念でならないと常ずね思っている。

「え、いや…。ですから、其れは…。」

 と、河野が一本気に威圧される中更に通信が入る。

「どうした。」

 平静を装いながら河野が通信に出る。

 この白々しさも又残念でならないと吉田は思う。

「鬼神丸出港準備完了です。艦長ご指示を。」

 そう言って来たのは航海長の唯野久志航海長中佐である。

「そうか。ご苦労。ーーだそうです。」

 と、河野は一本気にその内容を振る。

「分かった。後は頼んだぞ。」

 と、一本気大佐の返答からも分かる様に、河野艦長の信頼はかなり厚い。其れは一本気大佐だけでなく部下からの信頼も同じだけ厚い。


 なのにこの人は…。


 と、河野を見やるとオドオドしていた表情が、一転して頼り甲斐のある表情に変わっている。獲物を狩る狼のような鋭い目に覚悟を決めた表情。

 これだ…。此れこそが男の顔だ。と、吉田の表情には、自然とニンマリとした笑みが浮かび上がる。

「了解しました。」

 そう言うと河野はCICに通信を入れる。

「杉野司令長ーー。」

「はい。」

 大型戦艦鬼神丸砲撃科司令長1等級中佐杉野蓮二が答える。

「WOMの状況とグリッド砲の状況は ?」

「WOMとの接続は完了しておりますが、グリッド砲の使用にはエネルギーが足りません。」

「うむ。他の兵器はどうだ ?」

「ミサイル、電磁砲、レーザー砲、ビーム砲共に問題ありません。」

「グリッド砲以外か…。ま、十分だな。」

「ええ。十分です。」

「良し。それでは総員コンベリーA。フィールドをバトルフィールドに移行後WOMを艦首前方に配置展開。展開3秒後に鬼神丸微速前進。」

 河野の号令にオペレーターが指令を伝えると、同時に艦内にはけたたましい音が鳴り響いた。

 そして…。

 第一艦橋メインブリッジに映し出されている宇宙には、CICほうげきかルームと兵器科室、航海科室が姿を表す。これで離れた場所にある互いの部署が一堂に会する事が出来る様になる。

 本来なら第一艦橋には兵器長中佐、航海長中佐、砲撃科司令長補佐大尉が艦長席を取り巻く席に着座するのだが、人員が不足している現状では各長が直々に指令を出すために各室に赴いている。其の為、此処に着座しているのは艦長補佐の吉田だけである。 

 何とも寂しい出港だが仕様がない。其れでも、こんな踏んだり蹴ったりな状況の中で船を出せるのだ贅沢は言っていられない。

 河野はグッと前を見据え、実際の外の様子を映し出している景色を見やる。先程まで外の宇宙を映し出していたので、中の様子は見ていなかったが中は散々なものだ。

 散乱するがれきに骸…。

 何より態々外の宇宙を映さずとも宇宙を見やる事が出来る程朽ち果てた外壁。

 改めて、よく無事だったと思う。

 これもそれも、全ては前線で戦う兵士のお陰ーー。

 然れど、我々は英雄を待つ弱者ではない。言うなれば自分達が英雄なのだ。と、河野はニンマリと笑みを浮かべ周りを見やり柏手を一つ。

  

 さぁ、反撃開始だ。


 そして、それに合わせるように、砲撃科司令長中佐杉野がCICクルーに指令を出す。

「艦首10にWOM射出展開と同時に全砲門開け。」

 砲撃科司令長補佐真田大毅1等級大尉が其れを復唱すると、各オペレーターが作業に移る。

「WOM接続確認。艦首10にWOM射出。」

「鬼神丸全砲門展開。」

「鬼神丸、全砲門との接続開始。接続完了まで3、2、1。接続完了。電磁砲1門から10門、レーザー機銃1門から15門、ビーム砲1門から6門、自動追跡機銃1門から30門展開確認。各銃座にコントロールを譲渡完了。」

「WOM艦首10に射出完了。展開開始。」

「WOM展開完了確認。」

「ようし、鬼神丸微速前進。WOMの外壁到達と同時に傘を広げろ。」

 河野の号令と共に鬼神丸がゆっくりと浮上し始める。そして鬼神丸の前方10メートルに配置されたWOMがその力を出す瞬間を待ちわびる。


「あれは…。WOMか。」


 港の中にチラリと見えるWOMを見やり一本気が呟いた。

 ふぅ…。と、少し肩の荷が降りる。これで無駄に鬼神丸を守る必要が無くなった。と、一本気は通信回線を開く。


 そして…。


 何か言い知れぬ、違和感を感じた。

 敵の攻撃は相変わず、其れは嵐の中に放り出された様に稲妻が降り注ぎ、光の剣を振りかざした兵器はギリシャ神話の英雄の如く誇りと名誉を掛けた戦いを挑んで来る。

 然れど、やはり何か不自然…。

 Eolの供給を停止したからか ?

 否、肩の荷が下りたおかげで、少し平静を取り戻せたお陰と言うべきか。

 ふむ…。少なからず其れはあるだろう。

 降り注ぐ稲妻を交わし襲い来る兵器を受け流し、敵の攻撃は緩やかになることはない。それでも間違いなく彼らはーー。と、一本気が伝達を通信兵に送る前に伊藤咲中尉から通信が送られてきた。

「どうした ?」

「一本気大佐。自分は西エルドラ宙域防衛艦隊第987中隊所属日比野英雄部隊小隊長伊藤咲中尉であります。」

「日比野…。」

「はい。日比野英雄部隊小隊長伊藤咲中尉であります。」

「日比野英雄部隊だぁ… ?」

「はい。」

「そのネーミングは恥ずかしくないのか ?」

「恥ずかしいです。しかし自分の一存では変更できません。」

「まったく。あれは相変わらず馬鹿だな。それで、何があった。」

「はい。敵の部隊が後退を始めています。」

 伊藤の言葉に一本気の頬がピクリと動く。

「矢張りそうか。」

「はい。しかし何か変なんです。」

「ほぅ…。君も違和感を感じるか。」

「大佐もですか。」

 驚いた口調で伊藤が答える。

「ああ…。後退しているくせに其れを思わせない戦略とでも言うのか…。前戦の兵はまるで第二次世界大戦中の特攻隊の様に突っ込んでくる。しかし、其れに相反して本体は徐々に後退している様に見える。」

「しかも、それをする必要のない状況でです。」

「其れだよ。それが違和感の正体だ。こいつら、まだ何かするつもりだ。」

 と、一本気は迫り来る敵兵器と交戦しながら必死に考えを張り巡らせる。然れど、襲いかかる敵兵器が邪魔で思うように考えが纏まらない。

 剣撃をするりと交わし、盾のスパイラルでガツガツドツク。

 右左…。

 両腕のアームに掴ませているシールドで兵器がボロクソになるまでドツク。その合間に表示される弾道軌道と危険の文字。

 まったく、おいそれとドツク事も出来ないのか。と、一本気は体制を変えると煌めく閃光をするりと避ける。

 そして直ぐさま別の攻撃が一本気に向けられる。

 これだ…。

 この攻撃が敵が後退している事に気付かせないのだ。 

 と、不意に映る敵兵器の姿…。

 攻撃を仕掛けて来る兵器に紛れてニューセイルの外壁に降り立つ1体の不審な兵器…。

 

 真逆ーー。

 

 ゾクリと悪寒が走る。

「…伊藤中尉、日比野に報告はしたのか ?」

「いえ、これからです。」

 当然伊藤も敵兵器と交戦し乍らの返答だ。其れは通信から送られてくる映像からも見て取れる。その中で、彼女はこの事実に気づいた。

 何とも、鋭い洞察力だ…。

 と、一本気は伊藤を見やる。

「そうか…。なら日比野にいつでも離脱できる様に伝えてくれ。他の兵には私が伝達する。」

「離脱ですか ?」

「そうだ。奴等の狙いは我々の目を反らす事にある。この異様なまでの攻撃も後退も全ては我々の目をそちらに向けるためだ。悔しいが我々はニューセイルを放棄する。」

「分かりました。」

「うむ。君もすぐに離脱できるようにしておけ。」

「了解しました。」

 そう言うと伊藤は直ぐさま日比野に通信を切り替える。

「日比野大尉…。」

 と、伊藤が日比野のコクピットに通信を送ると、日比野のコクピットからギャンギャンと五月蝿い声が伊藤のコクピットに伝わって来た。

「@#$%^&*」

 五月蠅過ぎて何を言っているのか分からない。伊藤は再度、日比野大尉 !と、呼びかける。

「あぁぁぁ、五月蝿い ! お前は少し黙ってろ !」

 そう言うと日比野は沙也の通信を無理矢理に切ると、伊藤中尉、どうした。と、答えた。

「日比野大尉…。何かあったんですか ?」

「いや、何もない。」

 と、答える日比野の通信に沙也が、伊藤中尉、聞いてくださいよ。日比野大尉が私のーー。と、又しても割って入る。

「だから五月蝿いんだよ ! お前は少し黙ってろ !」

 と、再度日比野が通信を遮断する。

「あ…。」

「両方切っちゃいましたね。」

 日比野大尉と沙也のつまらぬ言い合いを聞きながら僕が言った。

「だな。」

「日比野大尉が馬鹿な事するからですよ。」

「そうそう。勇が悪い。」

 と、那奈が言った所で、そろそろ良いか。と、鶸が言ってきた。

「律儀に待ってもらって悪かったな。」

「ふん。私とてあの五月蝿い中で戦いたくはない。」

「日比野大尉。」

 と、再度伊藤から通信が入る。

「おお、伊藤中尉かすまんすまん。切っちまったよ。」

 と、日比野が答える中、僕はふと周りを見やり、何だこの仄々(ほのぼの)とした感じは…。と、自分の置かれている立場を少し疑った。

 軽く見ても外壁の周辺には、鶸の兵器と他4機の敵兵器、頭上には夥しい兵器が戦闘を行っている。

 日比野大尉の所為でプンプン怒っている沙也と那奈さんは、少し離れたところで必死に応戦中。その中でよくもあれだけ文句が言えるものだと感心させられるが、状況は最悪に違いない。

 そして、伊藤中尉から聞かされる内容に更に僕達は耳を疑った。

「撤退している ?」

「はい。すでに我が軍も一本気大佐が離脱命令を出しています。」

「離脱命令…。」

 と、日比野大尉と僕は鶸を見やる。

 そうだ、撤退も何も敵の総大将は未だ此処にいる。真逆の真逆。敵が自分達の総大将を置いて撤退等ありえない話…。

「ほぅ…。流石は情報分析官の伊藤中尉だな。其れとも此れは一本気の考えか ?」

 それを聞いていた鶸が感心した様に言った。

「え…。どうして私の名前をーー。」

 驚いた口調で伊藤が尋ねる。

「さっき彼等が話していたのでね。」

「そうですか。それであなたは ?」

「敵の総大将だ。」

 日比野が答える。

「敵の…。総大将 ? 日比野大尉は今何処に ?」

「ニューセイルの外壁だよ。港からは離れてるけどな。」

「真逆ーー。」

「その真逆…。と言う事になるか。素晴らしい分析の後に、君は未だ敵の総大将がニューセイルの外壁に居る事を知る。そして、自分の分析に誤りがあったのではないかと不安になっている…。だが、気に病む必要はない。君の分析は当たっている。」

 冷めた口調で鶸が言った。

「え…。」

「だが、当たっているからと言って今更どうこう出来る代物ではない。否、今更遅いと言うべきか…。」

「何が言いたいーー。」

 日比野が問う。

「真逆…。私が無駄に長々と君達の相手をしていたと思うのか ?」

「何…。」

「君が私の相手をしていると言う事は、それ以上に兵が増える事が無いと読む。この作戦。私はどうしても撃たれるわけにはいかなかったのでね。実際は1機増えたがルーキーでは何の問題もない。だから私は君達と対峙しながら時を待った。こうやって無駄な話に付き合っているのも其れだ。」

「何をごちゃごちゃとーー。」

「そうだ。ごちゃごちゃと無駄な話をしている。そして、無駄に殴り合い。無駄な時間を過ごす。しかしそれはあくまでも君達にとっての場合であり、私達にとっては必要な時間。其れ即ち7機の兵器がニューセイルの外壁に到達するまでの時間稼。」

「7機の兵器 ?」

「それ以上は何も言うまい。ーー王、燕、イリフィン、ダナナワンお前達もエリンを連れてそろそろ離脱しろ。」 

 そう言うと鶸は両手に持つ柄からビームの刃を成形させる。そしてグッとフェネックの腰を落とし攻撃態勢をとった。

「はっ!それでは、後ほど。」

 そう言うと4機のフェネックが外壁を離れていく。

「ふん…。余裕だな。たく。ーー伊藤、那奈、沙也。聞いた通りだ。悠那を連れてお前達はこの場を離脱しろ。」

「え…。離脱。」

「だよ。お前がいても何の役にも立たんだろう。」

 ゲロにまみれた僕を見やりながら日比野大尉が言った。

「でも…。」

 確かに、胃の中は空っぽだし、体もボロボロだった。日比野大尉の言う様に僕がいても何の役にも立たないかもしれない。だけど僕だって…。そう思った。

「でもじゃない。良いか。お前達が逃げてくれないと、俺が逃げられないんだよ。隊長ってのはそう言うもんなんだよ。だからよ、お前達が逃げ切れたらその後に俺が行く。だからよ…。早く行け。」

 そう言うと日比野は、ボロボロになったテスト機を奮い立たせフェネックと同じようにビームの刃を形成した。

「ぼくぅ…。行くよ。」

 そして、悲しげな声で那奈さんが言った。

 まるで今生の別れを思わせる程の淋しげな声。

 那奈さんの寂しげな声を聞いて、場の空気が一転している事に僕はやっと気づいた。場馴れしていない僕は、そんな事にも気づかないまま仄々とした空気の中にいつまでもいている様な気になっていた。

 だけど、この緊張感は先程までの戦闘とは全く違うように思えた。

 そして、日比野大尉がテスト機を一気に前に出す。

「行け ! 悠那。」

「ふ、心配するな。ルーキーは見逃してやるさ。」

 そう言うと鶸も一気に間合いを詰める。そして、鶸のフェネックと日比野のテスト機が互いの攻撃を受け止める。

 そして、

 僕は、 

 何も出来ないまま、

 沙也達の居る所に向かった。

「相変わらず、余裕だな。」

「なに、楽しませてもらった礼だよ。どの道全員死ぬ事に変わりはないが。」

 そう言うと受け止める剣を弾き飛ばし、一撃二撃と剣を振り下ろし、振り下ろした剣をそのまま振り上げる。

 其の疾風の如き速さは、避け切れる事なくボディをかすめビーム刃の衝撃でテスト機が大きく体制を崩す。

 ビームの威力も先程までと違い、パワーを上げてきているのがその衝撃から伝わって来る。

「ほぅ、今のをテスト機ごときで交わすか。全く楽しませてくれる。」

 確かに、鶸の言ったように言い訳を言えば、テスト機なのだから仕様がないと言えるのかもしれない。然れどここは戦場だ。言い訳をした所で誰も手を抜いてはくれない。

 テスト機だからと、言い訳をするぐらいなら、初めからテスト機なんぞで出てくるなと言われるだけだ。

 だから、そんな言い訳など毛頭する気はないし、もとい負ける気等サラサラない。

 だが体制を大きく崩したテスト機は、無残にもそのまま外壁に仰向けのまま崩れ落ちる。その衝撃がコクピットに激しく伝わり日比野はグッと歯をくいしばる。

 そしてフェネックが地面に剣を突き刺すように…。

 ビームの剣を突き下ろす。日比野は咄嗟にスラスターを全開で吹かし、外壁の側面を這うように飛んで行く。フェネックはそのテスト機の残像を串刺しにするが、すかさずテスト機を追うと更に攻撃を仕掛けに行く。

 先ほどの戦いの様に手を抜く事が無いだけに、何一つ自分の思うように動かせてくれない。

 だから、体制を戻したくとも戻せない。

 テスト機は未だ寝そべったままだ。

 予想以上の性能…。

 異常なまでの速さ…。

 瞬時に追いつき攻撃態勢に入っている運動性。

 日比野はテスト機にガードポジションを取らせフェネックの攻撃に対抗する。

「流石部下を先に逃がすだけの事はある。勝てぬと分かっていてもしんは折れぬか。」

「ふん。誰が負けるかよ。」

 ビームの剣を振り回し相手を牽制する。そして体制を立て直し一撃、二撃と剣を振る。鶸は一撃目を避けると二撃目を左の手に持つビームの剣で受け止める。

 コクピットに衝撃が突き抜ける。

 二度三度と体感したくない衝撃は体芯から全てを破壊していく。其れでも鶸は右腕を動かし攻撃を仕掛けてくる。

 日比野は一旦後方に下がり次の攻撃を仕掛けに行く。水平に振られるビームの刃。然れど鶸は又してもビームの剣でそれを受け止める。鍔迫り合いをしていては身が持たぬと剣を離し蹴りを入れる。それは足でガードされそのまま鶸は剣を振り下ろす。

 微かに切っ先がボディを掠めた。

 その衝撃でテスト機の体制が崩れる。そこにフェネックの蹴りが腹に入り、テスト機はゴロゴロと外壁を転がっていく。そして其れをフェネックが追う。

「残念だが君は英雄にはなれない。」

 剣を構えるフェネックがテスト機の前に立ち塞がる。

「そんなのは、はなから求めてねぇよ…。」

 日比野はシート下部をまさぐる。グッタリと疲れきった体は心なしか震えている。ビーム兵器がもたらす弊害は予想以上の物がある様だ。日比野は震える指先でシート下部のトレイを開けた。

「なら、上官としての責任か。」

「そんなとこだ…。」

 日比野はトレイの中から小さなケースを取り出すと蓋を開ける。中には注射器が入っている。震える手でそれを取り出すと日比野は自分の肩にそれを打った。

「アドレナリンと5つの成分 兵士用か…。ふん。往生際が悪い。」

「なんとでも言え。俺はまだ死にたくないんだよ !」

 注射器の薬剤を体内に注入し終わると瞳孔がギララリと開く。体の震えがピタリと止まり力がみなぎってくる。日比野は操縦桿を力一杯握りテスト機のアクセルを踏み込む。

「まだまだ、これからだ。」

 そう言うと体制を立て直しブンブンとビームの剣を振るまくり、連続して蹴りを叩き込む。その動きは、先ほどまで瀕死だった兵士の動きとはうって変わり、軽快で兵器の性能を十二分に引き出している。

 臆することも、怯えもない。ビームとビームが交じり合う地獄の衝撃も受け入れる勇気を持った最強の戦士。それを相手に鶸の動きが変化する。攻め一辺倒だった鶸の攻撃が防御に回り始めたのだ。

 アドレナリンと5つの成分兵士用を投与した日比野がその衝撃を感じているのかどうかは分からないが、鶸はその衝撃を骨の髄まで味合わされている。流石に幾度も幾度もその衝撃を受ければ交わるのをさせけるのは仕方のないことである。

 その行動が日比野に攻め入る隙を与えている事は明らかである。その攻撃はシダに深く、相手の中に切り込んでいく。当たらなかった蹴りが剣撃が鶸を苦しめ始めた。

 蹴りの衝撃が、ビームの衝撃が鶸を苦しめ始める。

「アドレナリンと5つの成分兵士用…。これ程までとはな。」

 日比野の攻撃に苦しみながら必死に回避行動を取る。

 然れど、

 然れど、

 日比野の攻撃は激しさを増していく。チラリと見やる時間。右上に表示された時間が時を刻む。作戦終了までの時間が刻一刻と迫っている。そして、エネルギー残量が瞬く間に減っていっている事を知る。”Eolのコードを変更したのか…。”と、流石の鶸も、やっと気付いたのか…。何て余裕はない。予想外の反撃にエネルギー残量の低下は痛い。

 鶸は自身の宇宙に緊急モードを表示させる。

「切り札は誰にでもある。」

 体に優しいアドレナリンと5つの成分カロリー0兵士用をタップする。ヘルメットの中に体に優しいアドレナリンと5つの成分カロリー0が散布される。日比野が投与したものと違いこれは気体である。

 鶸の瞳孔がギラリと開く。

「真逆私がこれを使う事になるとはな。」

 闘争本能が剥き出しになる体に優しいアドレナリンと5つの成分カロリー0は鶸の抑えていた力を解放させる。

 日比野が繰り出す剣撃を臆することなく受け止め日比野が繰り出す足技を足で受け止める。交わるプラズマが雷鳴のごとく弾け飛んでいく。それはお互いの兵器を傷つけ外装を弾き飛ばす。コクピットには尋常ではない衝撃が走り、パイロットには地獄の苦痛が与えられる。然れど、二人は何ともない表情で鬩ぎ合う。

 最早言葉はない。闘争本能だけでど突き合う二人には理性というものが飛んでいるのだろう。兵器の状態も何もかもが必要のない飾りとなりどこが潰れようと吹っ飛んで行こうとその行動を止める事はない。

 マックスのパワーでお互いを蹴り合う足は悲鳴を上げ始め、やがてテスト機の右足がその衝撃に耐えられず外壁を転がっていく。体制を崩し外壁に体を落とす。その瞬間をフェネックが狙う。然れど剣を振り回し体制を戻す。 バーニアとスラスターで体を起こすが、フラフラと維持できない。其処をフェネックがビームの剣で斬りかかる。狙い通り日比野はビームの剣で受け止めるが片足ではその衝撃を受け止める事が出来ず、再度後方に弾き倒される。そして、そのまま残る左足も切り落とすと、鶸はテスト機の両腕を両足で踏みつけた。

「矢張り、ベースグレードとテスト機では話にならんな。日比野…。勇だったか。せめてその名前だけでもこの胸に刻ませてもらおう。」

「おぅ…。一生忘れんじゃねぇぞ。」

 日比野の言葉に鶸がニンマリと笑みを浮かべる。

 そして…。

 フェネックが剣を大きく振り上げる。

 キラキラと眩い光が日比野の目前で光り、その後ろにもう一つきらきらと輝く光が一つ。

「後ろ…。ルーキーか。」

「ま、真逆。悠那。」

 そして、その光は鶸のフェネック目掛けて振り下ろされた。


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