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Impact penetrate 過去の歩み 2

 ーー暗闇の中でユラユラ、ユラユラと揺れている。

 此処が何処なのか ?

 否、私はそんな事を考えてはいない。只、心地良く揺られている事に満足しているのだ。ユラユラ、ユラユラと闇に身を任せ心地良く揺られている。

 このままずっと、

 永遠に揺られ続けられるのなら其れも幸せなのだと思う。この揺れはそれ程心地が良い。然れど心の中で釈然としない何かがシコリの様に残っている。

 何だろう ?

 私は自分に問いかけて見る。然れどそんな事はどうでも良くなる程、心地よい揺れが私を満たしていく。

 真っ暗な闇の中でユラユラと揺れ乍ら、何も考えず私は朽ち果てていくのだろう。


 朽ち果てるーー?


 あーー。


 と、私は闇の中でワーナスーモーガンと話をしていた事を思い出した。

 確か、

 確か、そうだ。私はワーナスに殺されたのだ。

 ワーナスは私に銃口を向けると躊躇う事無くトリガーを引いた。正確にはトリガーを引いたどころか銃声さへ聞いていない。

 覚えているのは銃口を向けられた所まで。そして、気がつけば真っ暗な闇の中でユラユラと揺れている。


 私は死んだのかーー?


 否、そうなのだろう。

 私は殺されたのだ。

 殺されたのだから生きているはずがない。

 知ってはいけない事を知ろうとした報い。

 知りたかった謎は謎のままーー。

 私は天に召されーー。

「めーー。」

 そしてストライドは目を覚ました。正確には、意識を取り戻したという方が正しいのかもしれない。見慣れない天井を見やり少し頭が混乱するが、其れでも直ぐに其れは治り体を起こすとユックリと周りを見渡した。

 見慣れぬ風景は直ぐに病院の個室だと理解できた。しかし残念な事に何処の病院かまでは分からない。が、少なからず自分が病院に搬送されたという事は理解できた。そして徐に心臓部分を押さえる。

 ガーゼの様な柔らかな感触が手に伝わってくる。しかし不思議と痛みは無かった。だからストライドは少し強めにその部分を押した。

 矢張り痛みはない。感覚が麻痺しているのだろうかとも思ったが、感覚はシッカリと押さえている事を認識しているように思える。ストライドは首を傾げながらパジャマの中を覗き込んだ。

 痛々しい包帯がグルグルと巻かれているのが見える。ガーゼの膨らみも矢張りシッカリと確認できた。

 もう一度、今度は更に強く押さえた。

 痛みはーー。

 矢張り感じられ無かった。

 何とも狐につままれた気持ちになる。

 自分は間違いなくワーナスに撃たれたはずだ。

 否、実は撃たれなかったのか ?

 否、

 否、

 断じて否。

 其れならそれ以降の記憶が無いのは余りにも不自然すぎるし、包帯をグルグルと巻く理由がない。ならばこれ以上自分達に関わるなという警告だろうか ? 否、その考えも的外れだ。損傷のない体に包帯を巻いて恐怖を煽れる何て事はない。

 だったらーー。

 否、其れよりも如何して自分は病院にいるのだ ?

 怪我をしていないのなら病院に搬送される理由が無くなるではないか。

 と、言う事は矢張り私はーー。


”もしも君の命が永遠ならーー。”


 ふと、ワーナスの言葉が脳裏に蘇る。

 永遠ーー ?

 ストライドはスッと胸を抑える。

 そして、ゾクリ。

 背筋に悪寒が走る。

 ゾクリ、ゾクリ。冷や汗がバッと吹き出してくる。


 真逆ーー。

 真逆ーー。


 そんな筈はない。


”君の耐性を信じることだ。”


 然れどワーナスの言葉が。

 そんな馬鹿な話が有るものか。と、自分に問いかけるがそう考える方が不思議と納得できる。だから、幼稚な想像だと思っていても其れを空想世界だとは思えない部分があった。

 ストライドは徐にベッドから降りるとパジャマを脱ぎ捨てる。頭の中であれこれ考えていても切りがない。要は確認すれば良いのだ。誰に聞くでも、一人で悩むでもない。

 この包帯の中に答えが有るのだ。そしてグルグルと巻かれた包帯を解くと最後に残ったガーゼを力一杯引き剥がしジロリと傷口を見やった。

 そして、ゴクリと生唾を飲んだ。

 自分の心臓があるだろう場所に銃痕があったからだ。が、次の瞬間ストライドは高らかに笑い声を上げた。。馬鹿げている。矢張り幼稚な想像は幼稚でしかなかった。

 そんな馬鹿げた話が本当に有る訳など無いのだ。

 しかし良く出来た特殊メイクだ。と、ストライドは部屋の鏡の前に立ちジッとその傷を見やると優しく傷に触れた。

 触ってまず驚かされるのは其の質感の高さだ。其れはまるで本物の様な質感だと感心させられる。しかし、その傷痕は撃たれたばかりの傷と言うよりは、寧ろ何年も昔に付けられた古傷の様に見える。

 どうせつけるならもっと生々しい方が騙せただろうに。と、ストライドはベッドの上に脱ぎ捨てたパジャマを取った。

 其れとほぼ同時にガチャリと病室のドアが開いた。

 チラリとドアを見やると、ドアの外から淡い緑のナース服を着た看護師が入って来た。そして少し間を空けワーナス~モーガンともう一人別の男が姿を現した。ストライドは右手でパジャマを握ったままワーナスを見やり、その横に並ぶ男を続けて見やる。

 何方も知っている顔だ。

 ワーナス~モーガンの横に居る男は彼と同じ共和党の議員であるリフィット~ジョンソン。彼もワーナスと同じく良くテレビに出演しているので間違うことはない。勿論、上院議員と下院議員と言う違いは有るが同じ穴のむじなである。

 そんな男が二人ーー。

 余程隠し通したい事があるらしい。

「ストライド君。先ずはおめでとう。そう言うべきかな。」

 そう言うとワーナスはパイプ椅子に腰を下ろした。

「おめでとう ?」

 そう言ってストライドは怪訝な表情を浮かべる。

「ああーー。そうだ。」

 予期せぬ彼の言葉にストライドは少し躊躇った。そんなストライドを見やりリフィットが、何も驚くことはないよ。君は只、手に入れただけなんだから。と、言ってワーナスの横にパイプ椅子を置くと同じ様に腰を下ろした。

「手に入れた ?」

「ああーー。そうだ。」

「何を ?」

「何 ? 君が知りたがっていた真実だよ。」

「真実 ?」

「ああーー。真実だ。」

「どういう事だ。俺は何も知らないし、聞かされてもいない。」

「ああ、まだ何も言っていないからな。だけど既に真実は君の中にある。」

「俺の中 ?」

 そう言うとストライドは胸の銃痕を見やり、真逆ー。ボソりと呟いた。

「御名答。そういう事だ。」

 リフィットはそう言ってニタリと笑みを浮かべる。

「そう言う事って。冗談じゃない。そんな与太話に騙されるとでもーー。」

「君を騙して何の得がある ?其れに 私達はそれほど暇ではない。」

 真面目な表情でワーナスが言う。その表情にストライドの気持ちがグラリと揺れた。言葉では信じられないと言ったことを述べているが、事実自分でも馬鹿げた発想を持ったことは確かだ。

 然れど、矢張りそんなSF的な話が本当にあるのだろうか ? 否、しかしまだ彼はそうだとハッキリと言った訳ではない。

「そう言う事だよストライド君。君はこの先未来永劫死ぬ事なく生き続けていく事になる。」

 そしてリフィットが言った。

 彼は臆することも驚くこともなく、其れは医者が表情を変える事なく告げる死の宣告のようにさらりと言ってのけた。

「未来永劫 ? な、何いってんだ。未来永劫って 其れは永遠って事か ?」

「ああーー。そうだ。」

「そうだってーー。軽いな。」

「ああーー。軽い。だが、君にとっては重い現実だ。」

「そうなんだろうな。」

「いずれ実感が湧くさ。」

「だろうな。で、そんな与太話をするのが目的か ? 」

 ブルッと体が震えた。

 突きつけられる奇想天外な言葉。信じられるのか ? そう問われれば答えはNOという以外ほかない。

 然れど、

 然れど、

「ああーー。そうだ。」

「冗談だろ ?」

「本当だ。その為に私達はここに居る。当然、君もしかりだ。」

「じょ、あ、はぁぁぁ。」

 と、ストライドは吐息をついた。

 参った。何一つ理解できない。否、受け入れられないと言うべきか。

 確かに胸の銃痕を見て真逆とは思ったが、よもやそんな幼稚な発想を間に受ける馬鹿等はいないし、よもやそんな事を本気で語られる何て思ってもみなかった。

 だからてっきり銃痕の跡をつけて脅すのだとばかり考えていた。

 其れがどうだーー。

 死なない ?

 何を言っているんだ ? しかも上院議員と下院議員が揃って幼稚で陳腐な事を言っている。そんな話を誰が信用する。と、ストライドはワーナスとリフィットを交互に見やる。矢張り何方も冗談を言っているようには思えない程真剣な表情を見せている。

 馬鹿馬鹿しいーー。そう思いながらも、もう一度銃痕に触れてみる。何度触っても痛みはない。特殊メイクなのだから当たり前だ。其れとも只単に感覚が麻痺しているだけなのだろうか ?

否、触れている感覚があるのだから痛みも感じるだろう。と、ストライドは試しに傷跡をギュッとつねった。

 痛いーー。

 シッカリと感覚はある。


 然れどーー。

 矢張りーー。


「6日だーー。」

 不意にリフィットが言った。

「6日 ?」

 そう言って漸くストライドはベッドに腰を下ろした。彼等の話に振り回され、腰を下ろす所かパジャマの上着も握ったままだった。ストライドはパジャマを着るとチラリとワーナスを見やった。

「そうだ。君が撃たれて意識を取り戻すのに掛かった日数だよ。」

「まぁ、別段特別な事じゃない。人並みといったところだ。」

「人並み ? ちょ、ちょっと待てよ。それじゃぁ何か、俺と同じ様な人間が他にもいるのか ?」

「いると言うほどいるわけじゃない。何しろ君の体内に注入したバクテリアは、地球外バクテリアだからね。だから、本来そのバクテリアに侵された人間は例外なく死に至たる。だが、君の様に上手くバクテリアと融合出来れば未知の力を手にすることが出来るというわけだ。」

「え、いや、ちょ、ちょっと待ってくれワーナス議員ーー。熱弁の途中にアレなんだがーー。さっきからその話は本気で言っているのか ?」

「本気さーー。その証拠に君は生きているじゃないか。」

「え、ま、まぁーー。本当に撃たれたってんならな。だけど、残念な事に俺はあんたに銃を向けられた以降の記憶がないんだ。」

「そうかそれは残念だ。もう一度撃つか。」

 そう言ってワーナスが拳銃を抜いた。

「え、いや。ちょ、ちょっと待てよ。」

「どうした。心配ない。君は不死身だ。」

「そ、そういう問題じゃない。撃たれるのはまっぴらだ。」

「そうか。もう一度撃てば否応無しに理解できると思ったのだが。残念だ。」

「まぁ、何にしてもだ。君は晴れてSDCのメンバーに迎え入れられたと言う事だ。」

「SDCーー。あ、て事はあんたも。」

「勿論。でなければそんな話を僕の前でするはずが無いだろう。」

「じゃぁ、其処の看護師もそうか ?」

「当然だ。」

「あ、其れと先に断っておくが不死身と言っても死なないわけじゃないからな。」

「え ?」

 ワーナスの言葉にストライドは自分の耳を疑った。

「我々もまだまだ研究段階なものでね。其れでも心臓を撃ち抜かれた程度では死ぬ事はない。が、適切な処置を怠れば死んでしまう。首を切り落とせば当然死ぬ。太陽の中に放り込めば蒸発して死んでしまうしブラックホールに吸い込まれれば、細胞レベルで粉々にされて死んでしまう。簡単な所では、ビルの屋上から飛び降りれば死ぬ。車に引かれても運が悪ければ死ぬ。しかし、体内に毒を注入しても死なない。内臓を摘出しても時間の経過と共に摘出した内臓が体内で再生していく。腕を切っても再生していく。これらは全て確認済みだ。」

「要するに生きて行く為に必要な部分はバクテリアによって日々再生されて行っていると思えば良い。」

「はぁ、て言うか如何してそんなに詳しく知っているんだ ? 人体実験でもしたってのかよ。」

「そうだ。まぁ、その話は良しとしてだ。要するにそのバクテリアのお陰で普通の人よりも君の寿命が延びるということだ。其れが何時まで続くのかは分からない。何しろ人類初の被験者は今も元気に生きているのでね。」

「要するに不慮の事故に遭わない限り生き続けると。」

「否、そうじゃない。僕が未来永劫死ぬ事がない何て大袈裟なことを言うから誤解が生じたんだが、体内のバクテリアが何らかの状況で絶滅すれば、その時点で君の細胞は日々退化していく事になる。その時の後遺症がどう出るかは確認出来ていないからなんとも言えないけどね。」

「成る程ーー。で、そのバクテリアを体内に注入した後の後遺症はどうなんだ ?」

「だから、其れはさっきから言っているだろう。」

「え、あーー。其れが後遺症か。」

「そうだ。都合の良い後遺症だ。万人に訪れる後遺症では無いけどね。」

「成る程ーー。」

 そう言うとストライドはパジャマを着乍ら首を傾げた。

 人類史上最高の謎ーー。

 それを追い求めた結果が此れか。

 

 矢張り、謎は謎のままにしておくのが一番だったのだ。


 その結果、話は大きく明後日の方向に向かって行っている。だから、ようこそSDCへ。と、言われても嬉しくないし、君の寿命が大幅に延びただの死なないなどと言われてもイマイチぱっとしない。

 それは自分が知りたかった本当の内容とは大きくかけ離れているからだ。

「さて、此れから色々と君を検査しなければいけなくなる。」

「検査 ?」

「ああ、今の所バクテリアとの共存問題は無いようだが問題が無いとは言い切れないからね。拒否反応が突然起こり死に至るケースも無きにしろ有らずだ。」


 そう、俺が知りたかった内容は地球外バクテリアでも、SDC云々でもなかった。言わばSDCはオマケ。知りたかった真実を解き明かす為に四苦八苦していた時に偶々偶然出くわした名前なだけで、その真実を知っているわけでもない。

 だからその時偶然耳にしたワーナスーモーガンの名前を頼りにワーナスにカマをかけて近づいたってだけの事。

 其れもこれもーー。

「あ、そうそう。忘れるといけないので先に言っておくが、君はもう、我々のメンバーにに加えられている。その事を忘れるな。そして、これは一番重要なことだが。」


 高校の頃、初めてその事件の事を知った。

 その時から暇さえあればその事件の事を必死に調べた。誰も解決出来なかった暗殺の真相を自分が解明してやろうとワクワクしていたからだ。

 時にはハッカーまがいな事までやらかしたこともある。流石にFBIのコンピューターに侵入した時はやばかった。そのお陰で5年程身を隠す羽目になった。

 其れで興味は尽きること無く時を増すごとに肥大していった。

 其れから20年ーー。

 その興味からジャーナリストの道を進みそして得たSDC。然れど謎の組織は謎のまま漸く掴んだ手がかりを元にーー。


 俺は不死身になったーー。


「SDCの存在は非公式だ。何があっても他言は許されない。」

「まぁ、仮に話したとしても完全にその事実は消されてしまうけどね。」


 如何してこんな事になったのだろう ? 俺はこんな結果を求めてはいなかった。


「私達は遥か先の人類の為に。」

「いいかいSDCの存在意義は全てこの言葉の中に集約されている。」

「要するに、君はこの先SDCの全てを知るだろう。そしてこの先の人類がどの道を選択するのかも知る事が出来る。」


 違うーー。

 俺が求めているのはSDCの全て何かじゃない。ましてや遥か先の人類の事など如何でも良い。

 俺が求めていたのはーー。


「所でストライド君は何をそんなに知りたかったんだい。」

 そう、俺が求めていた真実ーー。

 それはーー。

「JFK暗殺の真実ーー。」

 ストライドの思いもよらぬ返答に、え ? とワーナスは自分の耳を疑った。

「JFK暗殺の真実だって ? 君はそんな事の為にこんな危ない橋を渡ってたっていうのかい ?」

「そんな事 ? そんな事じゃない。俺はその謎を解くために20年ーー。」

「いや、分かってる。そういう意味じゃない。其れに彼の暗殺の真実は国民全員が知りたがっている内容だ。だが、其れも後4年だ。4年待てば機密資料は全て公開される。その4年が待てなかったのか ?」

「あぁぁ、そうだよ。俺は誰よりも早くその謎を解きたかったんだ。その為に20年も無駄にした。」

「成る程。」

「あぁぁ、其れがまさかこんな事になっちまうとは、未だ眉唾もんだけどよ。」

「ふん。其れで私達の存在を知ったのか。」

「ああ、そうだよ。殆どカマだったけどな。」

「成る程。まぁ、何にせよ。出会いなんてものはこんなものか。」

「そりゃそうだ。偶然に偶然が重なって出会うんだからな。」

「ならこれも必然か。正しく君の推測通りだ。」

「えーー。」

「JFK暗殺の真実だよ。我々が計画し実行した。」

「そ、そうかーー。」

「ああーー。だが我々の存在は4年後の開示でも明らかにはされない。」

「されない?」

「そうだ。我々が表舞台に立つのはまだまだ先の話だ。そうだな。人類が本当の意味で宇宙に進出するそのちょっと前ぐらいかな。」

「成る程ーー。」

「ああ。何にせよ今ので20年を無駄にせずに済んで良かったじゃないか。」

「其れにこの先の長い人生に比べたら20年なんて2時間程度のものだよ。」

 他人事のようにリフィットが言った。

 私は、

 その時の彼の表情も、ワーナスの表情も今だに覚えている。

 然れど、

 然れど、

 何が2時間程度だーー。

 私は思う。

 あれから400年。

 君達はさっさとおっ死んでしまったが私は未だに生きている。時代に合わせ職業を変え名前を変えーー。

 愛する母を遥か昔に亡くし、

 私よりも年下の彼女は私よりも早く年を取り死んでいった。楽しい事も、嬉しい事も、悲しい事も、驚きさへも其れは当たり前という枠の中に収まり移り行く時代に溜息を吐き続けてきた。

 君達の言う遥か先の人類の為にーー。

 そんな遥か先の人類の為になぜ自分が犠牲にならなければいけないのか ? 当時私は相当色々な者を恨んだ。しかし不死の生命を手に入れ、彼らの考えが次第に分かるようになった。逆に不死でないワーナス達が、自分達の人生全てを捧げている事に感心させられた。

 否、だからこそ君達は本気で言えたんだと思う。

 もしも人の命が永遠なら、

 確かにそうだ。


 ワーナスーー。


 君は言った。

 出来る事ならCandy floss strategyを発動させたくないと。しかし、残念だよ。400年経っても人は何一つ変わらなかった。

 極限の屈辱に塗れた世界の中であっても人はいがみ合い己の糧を追い求め、遥か先の人類に等目もくれず私利私欲は変わらぬままーー。

 極限の屈辱の中で気づいてくれればと願うが

 然れど、

 其れは更なる傲慢を生み出し、より汚く、よりズルく。

 気がつけば100万本の木々は切り倒され、緑が戻った大地も又砂漠に変わりーー。

 人は永遠に同じ事を繰り返す。

 もしも人の命が永遠であったなら。

 誰が宇宙で生きていきたいと願うのか ?

 否、誰も願わないだろう。それは何故私達が地球に生まれ、生き死んで行くのかを考えれば分かること。

 どれだけ宇宙に地球と同じ環境を作れる技術が有ろうとも、火星に緑を戻し空気を作れる技術が有ろうとも其れ等は決して地球ではなく似て非なるものに違いはない。

 だからこそ、遥か先の人類の為ーー。

 だから、

 もしも人の命が永遠であったなら人は100万本の木々を伐採しなかっただろう。

 中華連合帝国軍から放たれる幾本もの光の線を見やり乍らストライドは自身の長い人生の終わりを実感していた。

 本部司令室に映し出される広大な宇宙空間は、自分が宇宙に放り出されたような錯覚を覚えさせるほどリアルにその姿を映し出す。

 実際の宇宙との違いはその宇宙に様々な情報や計器類が表示されていることだ。

 地球軌道ステイション ニューセイル。

 現 SuAg軍地球機動艦隊統括総本部ニューセイル基地。

 其の名称変更を掲げる事無くこの基地は消滅する。そして私も此の基地と共に消えゆく運命である。

 400年も生きたのだ。悔いも何もない。

「ジョナサン–パナパプト提督。」

 不意に後ろの扉から声が聞こえた。ストライドは肩越しに振り返る。

「ライス大佐。皆の乗船が終了したか。」

「はい。」

「民間人は ?」

「救命ポッドに乗り損ねた民間人は鬼神丸に。それと此方の兵も若干ではありますが鬼神丸に乗船させて頂きました。」

「そうかーー。一本気大佐に礼を言っておかなければならないな。」

「はい。」

「所でライス大佐ーー。君はどの船に乗るんだ ?」

「いえ、私は提督と共に。」

「馬鹿を言っちゃあいけない。君には未だやる事がある。」

「しかしニューセイル陥落の責任は私に有ります。」

「責任 ? 君に責任はない。其れに責任を取るのは私一人で十分だよ。」

「しかしーー。」

「これも、此れも又運命。否、創命と言うべきか。」

「創命、ですか ?」

「ああ、そうだ。いつの時代も世界は巨大な力によって創造されている。」

「創世記ってやつですか。」

「否ーー。神が創造したのは此のだだっ広い宇宙だけだ。生物はその副産物に過ぎない。そして世界の成り立ちはその副産物である人が創造し作り上げてきたのだよ。創造の中で生まれ死んで行く人に、果たして運命などと言う大それたものがあるのかどうか ? あるとすれば創造の中の命、創命だろうな。」

「創命ーー。私には難しい話です。」

「敗者の戯言だよ。其れよりライス君。早く行きなさい。皆が待っている。」

「いえ、私の意志は変わりません。其れに船は既に出航準備に入っています。今更行っても間に合いませんよ。」

「後悔するぞ。」

「真逆ーー。後悔する程素晴らしい人生ではありませんでしたよ。私は常に過酷な嵐の中にいた。そんな人生でした。やっと解放されるのかと思うと嬉しくて涙が出てきそうですよ。」


 極限の屈辱ーー。


 彼も又その中で自分の人生を終えようとしている。

 人類が宇宙に上がって300年ーー。

 私がワーナスと出会ってから400年が経過した。長き年月の間いだに培われて行った技術は遥か先の人類の為に今までの人類を苦しめ続けた。

 気づけば変わっていた。

 一人一人が正せば多くの悲しみを産み落とすことなどなかった。

 然れど、

 然れど、

 人は永遠ではない。

 だからその先の事を本気でなんか考えない。考えないから自らの手で破壊していくのだ。考えないから憎しみあい啀み合うのだ。宗教がどうの国がどうのと小さな星の中で僅かな土地を奪い合い殺し合うのだ。

 しかし、其れももうじき終わる。

 極限の苦しみ、

 極限の悲しみ、

 極限の苦痛、

 極限の苦難を乗り越えて人々は理解するだろう。

 如何に自分達が愚かであったかをーー。

「ライス君ーー。人が人として生きていく上で技術は要らない。技術、其れは即ち退化の始まりであり、退化こそが進化の始まりである。」

「何ですかそれは ?」

「人が幸せに生きる為の言葉だよ。」

「そうですか。ならもっと早くに聞きたかったですね。否、私だけでなく全世界の人々に聞かせてやりたかったですよ。」

「そうだな。この戦争が終わった後にでも言ってみるか。」

 そうだ、この作戦が終了すれば人はきっとその意味を理解できるとストライドは思った。それは当時ワーナスが言った”どの国にいてもどの星にいても存在する神は一人”と言った意味が理解出来なかったように。

 結局人は何かがなければ理解できないのだ。

「ええ、あの世から言ってやりましょう。」

「ああ、そうしよう。その時なら人はこの言葉に耳を傾けるだろうからね。」

 全ては遥か先の人類のためにーー。

 長き途方も無い時間をかけて積み上げてきた嘘は極限の悲劇の中で真に変わる。

 誰が拒もうと幕は上がったのだ。君達の最後の選択をこの目で見ることが出来ないのは些か残念でならないが私の役目はこれで終わりだ。

 数多くの犠牲の中で自分だけ生き延びたいなどとそんな傲慢な考えも思いも無い。

「一本気大佐ーー。」

 ストライドは一本気陽光一等級大佐に通信回線を開き言った。

「提督ーー。未だそんな所にーー。」

「皆を頼む。」

「な、何をーー。今なら未だ間に合います。」

「間に合わんさ。私とライス大佐は此処で最後の悪あがきをしてみるよ。」

「悪あがきって今更何が出来ると。」

「一本気大佐ーー。もぅ、幕は上がったのだよ。ーーいいかい、全人類の命の重み。私一人の命とでは、到底比べようもない事ぐらい君になら分かるはずだ。後は突き進むのみ。」

「提督ーー。分かっていても辛いですね。」

 グイグイと人形兵器を駆り乍ら一本気が言う。

「人生とはそういうものだ。後は宜しく頼む。」

「了解しました。」

 そして、ストライドは通信を切った。本部司令室の宇宙がフッと消える。そしてストライドがマルチファンクショングラスを外すと、ライス大佐も同じくマルチファンクショングラスを外した。

 ガランとした本部司令室に映し出されていた宇宙が消えると、真っ白なだけの部屋が現れる。

 司令官やオペレーターが腰を下ろす椅子が寂しく置かれているだけで後は何もない。必要なボタンやスイッチ、計器類は各々の宇宙に全て表示されそれに触れれば全て賄える。

 仮想現実と現実の融合。

 それが今の主流だ。

 だからマルチファンクショングラスを外せば宇宙空間があっという間にただの部屋に変わる。その昔の人間には、近未来SFであった事が今では当たり前の事になり、その余りの技術力の高さ故、人が時代と共に退化して行っていることは否めぬ事実。

 ふぅーー。と、一息つくとストライドはメンソールを一本取り出し火を点けた。それに合わせるようにライス大佐もメンソールに火をつける。

 紫煙ががフワリ、フワリと立ち上り、天井付近で歪な分散をした。重力に影響が及んでいる証拠である。

 ストライドはそれをじっと見やる。

 長すぎる人生ーー。

 それでも思い出すのは古き良き昔の事ばかり。家族があり、彼女がいた頃の時代。その昔、彼国の皇帝は不死の力を追い求めたという。

 全く、笑ってしまう。

 実に愉快だ。

 そう、ストライドは知っている。それが無い物ねだりだと言う事を・・。

 もしも…。

 もしもその時、あなたが不死を手に入れていたのなら必ず思うはずだ。

 死にたいとね。

「パナパプト提督ーー。オススメのAVサイトがあるのですが。」

 にたりと笑みを浮かべライスが言った。

「何!それは本当かねライス君。」

「ええ、最後の見納めにどうですか。」

 そう言うとライスはマルチファンクショングラスを掛け直す。

「うむ。それは有難い。しかし、AVサイトなら私もオススメのサイトがあるのだよ。」

 答えながらストライドもマルチファンクショングラスを掛け直した。

「ほう、しかしお言葉ですが、私はホボ全てのAVサイトを制覇しているんですよ。」

「また、君は直ぐにそう言う大口を叩く。」

 そんな事を言い合乍ら二人は本部司令室に秘密の花園を映し出す。

 ガランとした空間に御伽の世界が現れ二人は夢の国に誘われていく。

 可愛らしい女子がニコリ。

 ライスがニタリ。

 萌えな女子がヒョッコリ。

 ストライドがウットリ。

 そして二人は最後の悪あがきを始める事にした。


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