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Impact penetrate 過去の歩み 1

 ハッチを閉めると一瞬暗い闇に包まれるが其れはすぐに解消される。パッと広がる光がコクピットの中を照らす。

 照らした所で何があるというわけではない。パイロットシートと操縦桿にアクセル。固定式の計器が3つ、以上である。後は真っ白な壁に覆われた世界があるだけである。

 後はヘルメットを被り人形兵器とパイロットの意識が曖昧な接続を始める。始めると言ってもヘルメットをかぶれば直ぐに接続が完了する。

 だからヘルメットを被れば直ぐに僕の目の前には人形兵器が見ている世界が広がってくれる。そして、必要な情報も全てその世界に表示される。

 目の前に広がる世界…。

 見渡す限りの狭い格納庫。

 人のままでは広くて大きくても人形兵器に乗れば狭くて小さな箱になる。誰が考えたのか、どうしてこんなものが存在しているのか…。

 そんな事よりもどうしてこんな世界に成ったのか…。

 そんな事を考えても意味は無い。


 だが考える。


 その昔…。もっと昔。始まりは第二次世界大戦終結直後。そんな事悠那は知らない。当然知らないずっと昔の話。

 だが、そんな昔の話を知っている男が一人…。

 ジョナサン-パナパプト提督である。金色角刈りにいかつい顔は一本気とよく似ているが、一本気と違う所はジョナサンが偽名であると言う事である。ジョナサン-パナパプト、本名ストライド-ベリン。年齢はもはや覚えていない。

 はるか昔…。

 そう、はるか昔にストライドは年齢を数えるのをやめた。数えても無駄な事だと知ったからだ。しかし、誕生日は今も覚えている。だから実年齢を知ろうと思えば知ることは出来るのだが、矢張りそれは無意味だと思うので数えることはしない。

 ストライドは本部司令室に映し出す宇宙を見やり乍らメンソールに火をつける。

 フー、と紫煙を吐き出し港の映像を宇宙の片隅に表示させる。本来なら戦闘中であるため作戦司令室には多くの兵士が存在するはずである。然れど今はとても静かである。

 理由は聞くなと言いたいが、敢えて言うならば、落城が見えている以上出来るだけ多くの民間人と兵士を離脱させる為である。それに打つミサイルはとうに尽きているし、追撃レーザー砲等は勝手にオートでやってくれる。

「鬼神丸は未だ港か…。」

 ボソリと呟きメンソールを吹かす。

 殴り殴られ、光る閃光が眩しく眼を晦ます。長きにわたる計画が実行されたことを告げる始まりの戦闘は激しく、恐ろしい程ストライドの心を打ち付ける。

「ワーナス…。人類の存亡をかけた戦いがとうとう始まったよ。」

 司令室に移る宇宙を見やり言った。ストライドはメンソールを床に捨てるとギュッとそれを揉み消す。

 長き計画も其れを前にするとアッと言う間の時間だったように思う。永遠のように思われたその時間も終焉を迎え初めてもう少し生きてみたいと言う気持ちが芽生える。

 然れど…。

 然れど…。

 十分だと言えば十分すぎる。

 グラリグラリとニューセイルが揺れる。その揺れは激しくストライドの体制を崩す。ストライドはとっさに机に手をついた。

「まったくーー。鶸の奴やりすぎだろ。否、戦争だから仕様がないか。」

 と、迫り来る人形兵器を見やり、ふと昔を思い出す。

 思い出すといってもかなり昔の事だ。確か、今から400年ほど昔だったか。2035年12月23日19時30分。忘れもしない。私が全てを知った日だ。

 世界の全てーー。それはもう理と言っても過言ではない。人類の生きる其れは全て人の業。作られた世界は進むべくしてこの世界を作り上げた。

 人は人として自分を守り自分中心に生きてきた。それがこの宇宙に生きる人類の結果なのだ。世界にもう少し人を思いやる気持ちがあれば、この作戦は実行されなかっただろう。

 そう、400年前のその日、ワーナス-モーガンは言った。”この綿飴大作戦がプランのままで終わる事を”と…。

 君は確か、愛娘のクリスマスプレゼントを抱え乍ら言ったんだっけか…。

 ふと、ストライドは昔を懐かしむように笑みを浮かべる。鮮明に蘇るワーナスの表情が懐かしく昨日の様に声が耳元で聞こえた。

「やぁ、ストライド君。又君か。ほとほとご苦労な事だな。」

 怪訝な表情を浮かべながらワーナスが言った。当時ストライドはフリーのジャーナリストとして上院議員のワーナスを執拗に追いかけていた。 

「えぇぇ、貴方から真実を聞き出す迄は何度でも伺いますよ。」

 そう言うとストライドは煙草をポケットから取り出すとタバコに火を点けた。

「何度来ても同じだよ。私が君に話せる事等何も無い。」

「其れは無いでしょう。幾ら貴方がしらばっくれても調べはついているんだ。」

「調べ ? そう言えば、君はこの間も其の様な事を言っていたね。」

「えぇぇ。そうですよ。だからそろそろ聞かせて下さいよ。SDC。宇宙開発共同体の事をね。」

「SDC ? 宇宙開発共同体 ? だから何なんだね其れは。長年議員をしているがそう言った機関の事を私は聞いた事が無い。」

「いや。とぼけてもらっちゃあ困る。貴方達モーガン一族は代々其の機関のメンバーである事はもう、分かっているんだ。あんたがどうしても話せないってんなら、この情報をテレビ局に売りつける迄だ。」

「まったく。困ったな。知りもしない機関の事で脅されても困るんだよ。それにもし、もしも僕が其れを知っていたとしてだ。君は其れを知ってどうしようと言うんだい ?」

「別に。俺は只、真実を知りたいだけだ。」

「真実ーー。」

 そう言ってワーナスは夜空を見上げた。

「ストライド君。君は夜でも空は青いって事を知っていたかね。」

 そして徐にワーナスが言った。ストライドは空 ?と、言い乍ら夜空を見上げる。街のネオンが煌煌と照らす街の中は確かに漆黒の闇ではない。

 夜でも明るく街を照らしている其の光は、例外無く空をも明るく照らしている。確かにワーナスの言う通り空の青がかろうじて確認出来る。

「確かに。青いですね。で、其れが何か ?」

「昔の人は恐らく空が青いのは昼間だけだと思っていたに違いない。否、正確には太陽が沈む迄かな。そんな空を見やり其の向こうには神が住む世界が有ると信じていた。」

 そう言ってワーナスはストライドを見やる。

「だが、実際は如何だ。其処には神はおろか空気も光も無い宇宙が有るだけだった。」

「だから、其れが如何だと言うんです。」

「君は真実が知りたいと言った。其れが真実だ。人は地球で産まれそして地球の中で死んで行く。只、それだけの事だよ。それ以上の事を知った所で、君は其の時この世界にはいない。勿論僕もこの世界にはいないだろう。」

「だから、だから知る必要がないと。何十年、否、何百年かーー。世界を裏で操って来たSDCの悪行を見てみぬふりをしろと。あんたはそう言うんですね。」

「悪行 ? さて、其の機関がどう言った機関なのか私は知らないが、世界は悪行の限りで構成されているのは事実だ。まず、人類が犯した最も最大で最悪の悪行が、神の存在だといえる。否、此れはけっして神がいないと否定している訳ではないよ。だが、神を祭り上げ人を支配し、戦争をする事が悪行だと言っているだけなんだ。

 君も知っているだろうが、世界には多くの神が存在する。

 日本に置いては仏なんて物迄存在しているのだからたちが悪い。そして、其の神はいつの世も人を支配する為に扱われて来た。

 人を神に仕立て上げ祭り、人を支配し国を作り上げて来た。

 人が人を支配するには人を超えた存在に人がなる必要性があった。だが、目に見える物では効果がない。其れは目に見えぬ物で存在が無い物でなければならない。何故なら、存在が無いと言う事は自分達の良い様に其の都度事実をねじ曲げる事が出来るからだ。

 其れに、人知を超えた人が死んでも神として見えぬ存在で君臨する。此れ程人を支配出来る要素は無い。すがりたがる人の心理を巧みに利用した良い作戦だ。然う思わないか。」

「モーガンさん。あんた一体何を言ってるんだ ? 俺が聞きたいのはそんな事じゃない。あんた達が俺達に流し続けた嘘の情報の事だよ。」

「だから、僕は君の問いに答えているじゃないか。国と言う物が出来た時点で、世界は嘘で塗り固められているんだよ。そして真実を知るのは数人の限られた人間だけだ。勿論僕が知っている事も真実とは違うかもしれない。」

「違う。おいおい。SDCの創立から携わっているモーガン一族の人間が真実を知らない ? そんな都合の良い話が通用するとでも ?」

「通用するかどうかは知らないが其れが事実だ。」

「そうかい。飽く迄もしらばっくれるわけだ。地球温暖化も異常気象も地球死滅説も全てはあんた達が良い様に利用していたって事だ。」

「否、其れは本当の事だろう。太陽の寿命が凡そ60億年。太陽が其の活動を終えれば、必然的に人は絶滅する。其れに温暖化も異常気象も本当の所だ。」

「違う、違う。俺が言いたいのは其れが人の所為では無いと言う事が言いたいんだよ。」

「あぁぁ。其の通りだ。其れ等は人の所為じゃない。確かに森林伐採の所為で砂漠になった場所はある。だけど其れと温暖化や異常気象は関係ない。地球の周期の所為だ。」

「そうだ。やっと本当の事を言ったか。それで、あんたたちは其れを人の所為にして宇宙開発を急速に進めている。其の真意を俺は聞きたいんだ。」

「真意 ? さて、真意かどうかは知らないが。其れはいずれ人が住めなくなる太陽系から脱出する事に有るのじゃないか。」

「真逆ーー。たったそれだけの事でSDCを公の機関にせず、裏にひた隠す必要が有るのか。」

「さて、其の様な機関が本当に存在するのなら、ひた隠しにする理由が他に有るんだろうね。」

「理由ーー。」

「そうだね。早い話、人はそんな簡単な生き物ではないと言う事だよ。何故なら人には神がついている。此れが大きな問題になっているんだ。だから先ずは其の神の存在を拭い去らなければいけない。其れは信仰を捨てろと言う意味じゃない。神はどの国にいても、どの星にいても其の存在は一つだと言う事だよ。」

「又神かーー。神と宇宙に進出するのとが、どう関係しているんです ? 誰がどの神を崇めようと関係ないでしょう。其れに宇宙に上がるだけなら神もクソも関係ない。」

「あぁぁ、関係ない。確かに宇宙に上がるだけなら関係ない。どの国が宇宙に上がろうと好きにすれば良い事だ。」

「だったら何だ。どうしてSDCの存在を隠す必要が有る。あんた達は一体裏で何を企んでいるんだ。」

 ストライドは声を荒げ言った。ワーナスはジロリとストライドを見やり煙草に火を点ける。

「人は手にしてはいけない物を手に入れてしまったからだよ。」

「手にしてはいけないもの ?」

「あぁぁ、核と言うなの宇宙の番人だ。」

「宇宙の番人ーー。」

「そうだ。全てはあの日ーー。

 米国が日本に原子爆弾リトルボーイを投下した時から始まった。だからSDCの歴史はそんなに古い物ではないんだよ。

 その日から世界は変わった。日常の生活も戦争のあり方もね。文字通り核が世界の中心と成り世界に君臨し始めた時だ。

 だが、其れに危惧した人間がいた。世界が核の力に湧いていた時に、一人だけ其の脅威を危惧していたのさ。

 名を李筝雲と言った。

 SDCの創設者だよ。

 彼は広島に降り立ち其の惨状を嘆いた。爆風と高熱により破壊された町、大量の放射線に犯された大地。其れを見て彼はこう言ったそうだ。

 もしも人の命が永遠なら。人はこの地に原爆を投下しただろうか。と、ね。確かにそうだと思ったよ。もしも人の命が永遠なら人は核を使用しなかっただろう。

 それは、紛れも無く利便性と言うなの狂気だ。

 然れど核の力は偉大だ。其れのお陰で戦争が早期終結出来たのだからね。そして、核ミサイルが有れば他国に威嚇出来る。何より原子力発電所の普及により電力の供給が容易になった。此れだけで見れば核とは素晴らしい物の様に見える。然れど原子力発電は諸刃の剣だ。一度暴走すれば其れは核爆弾の脅威に匹敵するだろうし、核燃料の廃棄には頭を悩ます事になる。李筝雲も其の事に頭を痛めていたよ。

 地球は何れ太陽の活動停止に伴い其の役目を終えるだろう。然れど其の前に人は自らの手で地球の環境を破壊し自分達が住めなくなる環境を作り出すだろう。ってね。だから、地球死滅説を横行させ、地球温暖化や異常気象等を材料に人々を裏から良い方向に誘導しているのさ。

 そして地球軌道エレベーターの計画は、君も周知の通りSDCが関与している。此れは人が宇宙に行く事を用意にする為じゃない。核廃棄燃料を軌道エレベーターから宇宙に上げ、宇宙にあるステーションから廃棄燃料をロケットに乗せて太陽に打ち込む為さ。

 幸いな事に太陽から発生している放射線は我々人類が作り出す其れを遥かに上回っているからね。打ち込んだ所でどうってことは無い。

 そして、極めつけは火星採掘計画。

 此れは何十年も昔から計画されているんだ。其の真意は核融合炉を作る為の鉱物の採取が目的だ。核融合炉は一応科学的には原子力発電よりも安全性が高いと期待されているからね。」

「成る程ーー。其の全てにSDCが裏で関与していると。其れでも未だ納得出来ないね。」

「何がだい。」

「秘密裏にしている事がさ。」

「だから、其れは始めに言ったろう。SDCは言わば神なんだよ。其の存在が見えないから人は崇高するのさ。見えないから其の力に縋るのさ。見えれば効力は半減以下になるだろうし、世論の反発に態々対応しなければいけない。そんな事をしていたら地球はアッと言う間に駄目になってしまう。

 そして、此れも一緒だがSDCの目的は人類を導く為に存在しているのではいと言う事だ。」

「なら、其の存在理由は何だと ?」

「神を利用する権力者と一緒さ。」

「一緒 ?」

「そう、僕達の役目は人類を騙し続ける事。最後のその日が訪れる迄ね。だから、後の人類は僕達を怨むだろう。どうして世界をこんな風にしたのかってね。だけど其れは人類が選んだ最終結論であって僕達の所為じゃない。」

「人類が選んだ最終結論 ? 何を言ってるんだ。裏で情報を操作しているのはあんた達だろうが。だったら其の先に有るのはあんた達が作り上げたシナリオの結果じゃないのか ?」

「其れは違う。先程も言ったと思うが、我々は良い方向に進む様に努力はしているが、其れでも結論を出すのは、その人個人の問題だ。だから僕達は、来たるべき日の為に行動しているだけだ。だから私達は切に願っている。この綿飴大作戦がプランのままで終わる事をね。」

「わ……….。何だよその綿飴大作戦って。」

「さてさて、それ以上は言えないよ。もとい、君がこの話を公にすると言うのなら、君は明日のクリスマスを楽しむ事が出来なくなるがね。」

 そう言ってワーナスは懐から拳銃を抜いた。

「うーー。モーガンさん。」

「もしも、そうだね。もしも君の命が永遠なら。其の先の人類の選んだ道を見てみるのも良いのかもしれないね。」

「永遠ーー。ふっ、其れはあんたにも俺にも叶わない話だ。」

「僕には叶わない話だけど、君は如何かな ?」

 そう言うとワーナスは拳銃をストライドに向けた。

「おいおい、其れは何の冗談だよ。」

「後の人類の語り部になれるか否かーー。知る必要の無い真実を執拗に追い求めた君の結果だよ。永遠か死かーー。君の耐性を信じる事だ。」

「永遠か死ーー。な」

 と言った所でストライドの視界は暗闇に閉ざされた。

 サイレンサーを装着した拳銃からはユラユラと煙が立ち上りワーナスの煙草の紫煙と重なり合う。ワーナスは熊の縫いぐるみを地面に置き煙草を捨てると拳銃をホルスターに閉まった。

 そして又熊の縫いぐるみを抱きかかえる。

「遥か先の人類かーー。400年後の世界に生きる人達は何を考え生きているんだろうな。ーー僕も曾祖父の様に世界に100万本の木々でも植えるかな。」

 ボソリと呟き乍らもう一度夜空を見やる。

 今宵は久しぶりに見る満月。

 其の中をユラリ。

 ユラリ、ユラリと雪が降り始めていた。


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