3話 劇団『フロリータ』 2
私たちは、明日からの仕事の場所に向かって歩く。
依頼内容は劇団の客寄せ係。
「そんな評判の良くない仕事を選ぶとは、レンゲは物好きじゃな」
「やってみたいと思ったんです。それにEやF級の依頼なんて、アキラ様が大活躍できそうなものはありませんでしたよ」
「ダンジョンは入場自体にD級である必要があって、森での魔獣討伐はD級の依頼。最低でもE級にならなければ、刀を振るった大活躍は望めぬ。じゃろう?」
「はい」
「とはいえなぁ…」
アキラが難色を示すのにも、若干の納得ができる。
受付曰く、小さめの劇団で、あまり客足が良くないとのこと。
報酬として出せる金額も少なく、発注者の評判が他の冒険者からよくないので、掲示板の片隅に追いやられることとなったらしい。
「まあよい。何事も経験じゃろうし」
「寛大な御心、痛み入ります奥様閣下」
私が慇懃な礼をすると、アキラは不思議そうに私を見つめる。
「ちと前から思っとったんじゃが、レンゲは芸事に身を置いていたことがあるのか?」
「ありませんよ。親も先祖も畑仕事をするだけの農民です。芝居がかった口調が気になりますか?」
「うむ」
「農作物を売りに街に降りたりすることがしばしばあったんですけど、その度に浪人の学者や書士が路上で講談や語りをしているのを見かけたんです。
講談を聞く以外に、話もしたことがあるんですけど、普通の稼ぎじゃ学問を追い求めるのが難しいとかで、そういった知り得た知識を物語にして語ることで、銭を得ていたそうです。
…知らぬ何かを知れるようで、一人で話しているのに多くの人物が見えてくるような講談が楽しくって、いつからか芝居がかった口調を覚えるようにしたんです」
「ほう。芸人になりたいのか?」
「はははっ、私しゃそんな夢の大きな者にゃございませんし、芸の道なんてのは流行り廃りの水物商売。根っこの部分が硬い私には、いささか厳しい世界にございます。
分相応、身の丈にあった生き方がしたいもんですよ」
「くくっ、儂と一緒に居ては、分相応な生き方などできぬがな」
「いやはや、困ったもんでさぁ。こちとら生まれてずっと農民育ち、仙術も武器も覚えがありません。身に付くよりも先に、アキラ様に飽きが来てしまうかもしれません」
「数十年そこらで飽きるほど、儂の心は変わっておらぬよ」
「こりゃまた大きな御心で。私の見たことのあるどの湖よりも広いのかもしれませんな」
お道化た言葉でアキラと雑談をし、私たちは簡易劇場を目指す。
****
簡易劇場。そこは小汚い天幕が張られ、客入りが疎らな場所であった。
故郷で見かけた芝居小屋は、これより小さかったのに、客足はあっちの方が良かった。
「裏口から入るようにと書かれているんですけど、裏口ってどこでしょうか?」
「アレかのう?」
「ですね、行ってみましょう」
「まあ待て、この依頼は明日からじゃろう?無賃働きでもする気か?」
「いえ、客入りが悪くて、報酬払いも悪いって言われてたじゃないですか」
「そうじゃな。酔狂な姿勢だと思ったわい」
「まずは演劇を確認して、何故客入りが悪いのか、改善できる点はないのかと考えまして」
「そんなの儂らのする仕事じゃあないだろうに…」
「劇そのものが壊滅的につまらないのなら諦めますけど、それ以外に理由があるなら改善してもらって、報酬の上乗せを狙いましょうよ」
「遠回りな。それに上乗せが可能かも分からぬぞ?」
「ダメならダメで仕方がないと諦めましょう。銭に余裕はありませんが、アキラ様のおかげで時間が有り余ってしまったみたいなんで、勉強代です」
「ふっ、言うではないか」
アキラからは嬉しそうな色が見て取れる。
何かと大変な人生になってしまったが、適応できれば楽しくもなるというもの。
そういう姿勢が良かったんだろうと、私は考えることにした。
「おい、何者だ。うちの劇がつまらねえとか言ってなかったか?」
威圧的な態度を露わに話しかけてきたのは、私と背格好の近い、眼鏡をかけた女であった。
角が生えているところを見ると、リッチーのような人種だろうか。
「いえ、まだ観劇していませんので、面白いつまらないの評価はできません。…私たちは客寄せの依頼を受けた冒険者です」
「あ?あー…もう来ねえもんだと思ってたわ。んじゃあ外に立って客寄せしてくれ」
「いえ、依頼が明日からなので」
「あ?んじゃあ何で来たんだよ…」
「客足が良くなるよう、どういう演劇をしているのか、魅力はどこなのかの調査をしようと思いまして」
女は眼鏡を押し上げて私を見据える。
眉間にシワが深く刻まれ、目には隈のある一癖も二癖もありそうな女だ。
「いいだろう。うちの劇を観てけ。…規模は大きくねえが、うちには他に負けない熱がある。てめえにやれることをやってみろよ、冒険者」
「ありがとうございます」
瞳の奥に確かな炎が宿っている。
天幕の中では演劇をやっているのに、この場所にいるということは役者じゃないのかもしれない。
座長のような立場だろうか?
それはそれとして、この国での芝居が無料で見れらる。これは僥倖だ。
「客引きが上手くいったら、報酬の増額もお願いできますかね?」
「あー…それはどうだろう。うちの財布係に聞かなくちゃならん。…まずは仕事、話はそれからだ」
それもそうか。
とりあえず、この女が財布係でないことは理解できた。
私とアキラが天幕の中に入ると、落ち着いた雰囲気の演劇が視界に入る。
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