13話 狭間と鉄の塔 2
「これは…第四階層に繋がる階段でしょうか?」
「ここに向かうための案内はなかったのう」
私たちは案内のなかった階段を前に、一度顔を見合わせる。
はてさてどうしたものかね。
個人的には第三階層を探索し終えてから進みたいところではあるけど、隣のアキラは瞳を輝かせている。
「行きたいですか?」
「うむ!」
「じゃあ行きましょうか」
「良いのか?」
「私も鬼ではありませんので」
「そうか!…くくっ、この先が未探索であれば財宝ががっぽがっぽと手に入るやもしれんな!」
マジックアイテムなどの収まった箱、『宝箱』と呼ばれる存在は、いつの間にか姿を現し、中身が回収されれば姿を消すらしい。
ただ、それらは深い階層に出現しやすく、浅い階層であれば稀とのこと。
ゆえに浅い階層に未探索の場所があってもおかしくない。…のかもしれない。
夢くらいは大きく持っておこうじゃないか。
私たちが階段に足を伸ばすと、壁にかかっている照明に光が点り、まるで誘われているかのような気分を味わう。
螺旋状に回った階段を降りていけば、今までの三つの階層とは異なる景色が広がっている。
そう、それは広大な野っ原で、外に出てしまったかのような気分を味わう。
私が顔を上に向けるとそこには天井がなく、振り返ってみると小屋がこぢんまりとお座りしているようだった。
「え?」
今までの階層、廊下と荊の繁茂した階層からは想像もできないほど小さな建物で、私が内を覗いてみると、不思議なことに上へと続く階段があった。
小屋の内外では、別の世界が広がっているかのような、そんな矛盾不揃だ。
「変、じゃのう?」
「変ですね」
アキラも不思議がっていてくれたおかげで、私は気が楽になる。
「えっと…進みます?」
「うむ、進む他なかろう!」
「奥様がそう仰有るのなら、同行しますとも」
改めて第四階層を眺めると、そこは膝丈より少し長い草の生い茂る大草原であり、『棘の宮』というには違和感のある場所であった。
ただ、小屋を覆う金属の網は、ところどころが棘のように尖っており、多少は棘を意識しているんだろうか。
遮蔽のない広い野っ原だ。
魔獣の姿もすぐに見つかる。
しかしそれは異様な獣だった。
鹿や馬のような身体でありながら、怪談で聞く轆轤首のように首が長く、首だけでも、身体の三倍はありそうだ。
頭は鯰のような気の抜ける間抜け面をしており、首の半分まで伸びた髭がだらんと揺れた。
首の後ろから尾の手前まで、背鰭が長く続いているが、鯰にあんな立派な背鰭はあっただろうか?
「なんかあの魔獣…不気味ですね。怪談話に出したら、不気味がってもらえそうですよ」
「体躯が大きい。突進でもされれば、痛手を負う可能性は考えておきたいな」
「なるほど。でもあの長い首は弱点になりませんかね?どんな生き物も首を落とされれば、命を落としますよ」
「そうじゃな。間抜け面じゃが、警戒して挑むぞ」
「はい」
私は周囲を探りながら、アキラの後を追っていく。
鯰頭の馬…鯰頭との距離を詰めると、アキラは私に留まるように手振りをしたので、ハルバードを手に待機をする。
するとアキラは鯰頭の上に『転移』をし、『閃耀』を繰り出した。
よくある初手。相手の視界外から攻撃を加えられるから、かなり重宝しているようだ。
「なにっ!?」
ただ鯰頭はその長い首を回し、まるでアキラが転移してくることを知っているかのように振る舞った。
アキラは咄嗟に防御をしたものの、首の振り回しを受けて吹き飛ばされ、地面を転がっていく。
鯰頭が追撃に行くようなら、アキラを回収しないといけないけど…。
私がハルバードを構えて相手を見据えると、間抜け面…いや不気味な面を私に向けてから、ジッと動かなくなる。
何なんだあいつは。
とはいえ動かないのなら好機だ。アキラの様子を窺いながら、私は鯰頭と対峙し続ける。
「……。」
「ブオララララ!!」
「ひぇっ!?」
しばらく見つめ合っていると、鯰頭は奇声を上げて私に向かって突進を始めやがった。
声が気持ち悪い!
大急ぎでアキラ付近までの空間を『圧縮』し、相手が近づくのを待ってから、一歩踏み込んで『解放』を使う。
するとものすごい速さで私の位置はアキラの隣になり、鯰頭は私を見失った。
「大丈夫ですか?」
「…抜かったが、掠り傷みたいなもんじゃよ」
「後で『癒しの小鐘』を自身に使ってくださいよ」
「おう」
「それであの魔獣はどうします?」
「次は…反撃を前提に攻撃を仕掛けてみる。レンゲの判断で必要だと思ったら、圧縮と解放を使ってくれ」
「分かりました」
アキラは鯰頭の近くに転移をしてから、その足で駆け出し打刀を振るう。
しかし、鯰頭は攻撃に合わせるように頭を振るって、攻撃を相殺していた。
首は弱点じゃない?
…いや、アキラの攻撃が相手の体表を滑っている?
それから何度か打刀と首の攻撃が交わったのだが、不思議とアキラが押されている雰囲気はない。
なんというか鯰頭の方も攻め手に欠けているといった雰囲気。
あの重そうな首を振り回して、攻撃を確実に受け流している姿をみるに、ものすごく強そうな雰囲気があったのだが、それ以上のものがないとなると、少し拍子抜けだ。
私は、圧縮と解放を使って鯰頭の後ろに回り込み、ハルバードでの一撃を加えようとしたところ、後ろ足で攻撃を防がれ、その後にもう片方の後ろ足で反撃が来てしまう。
「攻撃するだけが能じゃないって、学んだんだよ!」
ハルバードの柄で攻撃を受け止めると、強烈な衝撃でそのまま後ろに転がってしまう。
けれども、アキラとの競り合いがある都合、私へのトドメは刺せないようだ。
私は起き上がり、ハルバードの柄を長く持って、思いっきりぶん回す。
一回二回三回。それらは、まるでどこに攻撃が来るか知っているかのように、鯰頭の蹄で防がれてしまうが、こちとら金属の塊だ。
ちっとばかし硬いだけの蹄で受けきれるようなもんじゃない。
四回目の攻撃で、鯰頭の蹄、そして細長い後ろ足をぶった斬り、足の一本を潰してやる。
すると身体を支える柱が一本折れたことになり、アキラとの攻防に歪みが生まれ始めた。
「やっちゃってください!」
「おう!」
アキラは鯰頭の首を上に押し上げると、少し身体が揺らいだ隙に一歩踏み込み、打刀の刃を上に向けた。
「玻璃生式一刀術『虹橋』!」
弧を描くように振り上げられた剣閃は、鯰頭の首の付け根を綺麗に切り裂き、長く厄介だった首を完全に落としてみせた。
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