13話 狭間と鉄の塔 1
ハマハッキと遭遇してから数日が経った。
あれから彼女…?まあ人の形状は少女っぽさがあったから女と仮定しよう。とりあえずハマハッキは、あれから姿を見せていない。
まあ危害を加えてこないんなら、いてもいなくても同じだ。
私は硬いベッドから身を起こし、小机に置いた走り書きを見直す。
第一階層で行ける場所は全て行ったし、目に付く果実の多くは回収して売りに出した。
あの赤い果実は『スピネッラ』と呼ばれるらしく、魔力の回復力を高める薬に使われるそうで、ダンジョン内にのみ繁茂するとのこと。
ただ、D級にもなって安価な果実の採取をする者は少なく、需要に対して供給が多くないのだとか。
買い取りの値段を上げればいいと思うのだが、簡単にそうできない理由があるんだろう。
「第一階層の探索をし終えたし、次の階層に下ってみるかのう?」
「そうしましょう。魔獣との戦闘も問題なさそうですし、ちょっと足を伸ばしてみるのもありですね」
「それもいいが、どうせなら第二階層の地図も作ったらどうじゃ?」
「時間がかかりますよ?」
「別に構わんし、掘り出し物があるやもしれん」
「浅い階層じゃあそういった品は難しそうですけどね」
「かかかっ、調べてみんことには分からんじゃろう」
「足跡まみれの階層ですけど、始めてしまったことですからね」
「ああ、しっかりやらんと気持ち悪いじゃろ?」
「ええ、そうですね」
私たちは今日もダンジョンへ向かう。
****
階段を下った先にある第二階層。
ただ、これといった変化はなく、相変わらずスピネッラは手付かずで実っている。
「まあ魔獣も変わりませんよね」
「うむ。変わったところといえば、第一階層より人は少ないところじゃろうか」
「あー、そうですね。…そのままもっと下に向かってる…っぽいですね」
「まあ魔獣も景色も変わらないなら、さっさと下った方が無難じゃろうな」
「ふふん、私たちは端から端まで探索するんですけどね。階段の付近は人も多いですし、とりあえず歩きましょうか」
「じゃな」
しばらく移動しスピネッラの回収を始めると、通路の奥から手の平に収まりそうな大きさの蜘蛛が歩いてくる。
「やあ、ハリュウの二人。ゆっくりな歩みだね」
「やっぱりハマハッキさんですか。なんか、一段と小さくなりましたね」
「蓄えた魔力でサイズを調整していてね。目立たずに行動したり、君たちに同行できるだけの大きさだよ」
「小さくなって不利益はないんですか?弱くなったり、脆くなったりとか」
「僕くらいになると大きさで強さのどうこうを語れるステージにいないよ。隙を狙って倒す気でいたのかな?」
「わざわざそんなことはしませんよ。取引と契約をした以上は、こちらから反故にする気はないですし」
「律儀な奴」
「可愛い妻じゃろう?手を出したらどこまでも追いかけて、確実に息の根を止めるから覚えておけ」
「おぉ怖い怖い」
ハマハッキは、お道化た仕草で言葉を返してくる。
「というか、二人に付けた追跡用の糸で動向は探ってたけど、第一階層なんかで何をしていたの?」
「練り歩いてスピネッラを集めたんですよ。そのついでに覚書程度の地図の製作もしました」
「第一階層で?」
「はい」
「あはっ、あはははっ、忠実忠実しい奴だ!」
「前も言った通り寿命が長いもので、ゆっくりとやらせてもらってるんです」
「それなら僕の準備ももっとゆっくりとやればよかったな」
「何かしてたんですか?」
「ほら、身体を小さくしていたんだよ。大きめなサイズだと、ダンジョンゲートを通りにくいからね?」
そもそもどうやって入ったんだろう?
「ゆっくりと進むってのは、レンゲ・ハリュウの提案なのかい?」
「はい、そうです。見ての通り弱いので、身の丈にあった稼ぎをしつつ、確実に実力を付けていきたいと思いまして」
「アキラ・ハリュウはよくもまあ、こんな亀の歩みの女を連れて、飽きないものだね」
「惚気でも聞きたいのか?」
「…うん、遠慮しておくよ。好事家の嬬妻の惚気話なんて、胸焼けしちゃいそうだ」
なんとなく、ハマハッキは気さくな雰囲気がある。
無差別攻撃なんかをする組織の一員と考えると、あんまり和気藹々とするべきじゃないんだけども、数奇な巡り合わせを否定して、険悪な空気を作り続けるのも面倒だ。
何より、あんな強い相手とはあまり敵対したくない。
胡麻を擂るわけじゃないけども、多少は取り入って損はないだろう。
この関係が露呈したら、冒険者協会から追われる可能性はあるけど、ハマハッキはそこまで愚かではないだろう。
加えて、私たちは契約で口外できない。
万全とは言わないながら、そこまでの警戒は必要ないはず。
「そういうわけで、私たちはこれからものんびりとダンジョンの探索をします」
「理解したよ。浅い階層の間は気が向いたときだけ顔を出すとする」
「承知しました」
私が一礼をすると、ハマハッキはそそくさと通路を進んでいった。
「それでは私たちも稼ぎましょうか」
「そうじゃな」
それからまたしばらくが経ち、第三階層の探索を進めていると、道順を示されていない場所に、不可解な階段を見つけた。
今までは、次の階層に向かうための道が、先駆者たちによって示されており、探索をしなくても深みに向かえた。
ならこの階段は何なのだろう、と私とアキラは顔を見合わせる。
誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。




