12話 『棘の宮』 3
全部の果実を取りきらないよう少しずつ残しながら、採取をしていく。
小さな荊棘による細々とした傷は『癒しの小鐘』で回復できるが、痛いものは痛い。
人気のない理由が非常によくわかる。
帰り道を見失わないように歩みを進めていくと、ある場所から果実の数が減っていたり、かじられた痕跡などが見られるようになった。
ダンジョンで見られる魔獣が、この果実を食べている様子は見られない。
かじられた断面は…これといった特徴はない。
動物か人なのか、魔獣なのか、そういった判別は難しいと思う。
「どうかしたのか?」
「どうにもこのあたりは食害がありまして」
「そういう魔獣がいるということかのう?」
「分かりません。一応警戒をして進みましょうか。今までにない相手かもしれませんから」
「承知した」
一応、果実の数や食害を気にしながら進んでいくと、茂みの中で何かが動いているような気がした。
ハルバードを持って、様子を見てみようかな?
私はハルバードをしっかりと握り、距離を空けてから槍先で茂みを掻き分けてみる。
すると真っ黒な何かが飛び出してきて、私に飛び掛かってきた。
「レンゲ!」
アキラの声に意識を向けると、肩を軽く触れられ私たちは短距離の転移を行う。
「誰かと思えば、この前の外来主か」
「お主は…なんじゃ?」
「蜘蛛…?」
声を上げたのは真っ黒い蜘蛛。
大きさは手の平よりも一回りか二回りほど大きく、全身に毛がもっさりと生えた不気味な蜘蛛だ。
「僕を倒したというのにもう忘れたのかな?…なんとも小さな脳みそだ。それともシワがなく、ツルツルなのかい?」
「ハマハッキ、でしょうか?」
「せいか〜い。惨めったらしく敗走したハマハッキだ、くひひっ」
ハマハッキを自称する蜘蛛は、私の記憶にある最後の姿よりもやや小さく、蜘蛛の種類が違って見える。
というか何でダンジョンにいるんだろう?
「また何か、騒動を起こすつもりですか?」
「答える義理はないかな。逆に質問なんだけど、メイドの君が持ってる忌まわしいハルバード、それを落としたのは、君?」
「あの戦闘中ってことですよね?それなら私です」
「ふ~ん。なんか弱っちそうだけど、勝ち目もないのに馬鹿みたいに戦ってた四人よりは、見込みがありそうだ」
なんなんだろう、この蜘蛛。
ただ、これがハマハッキなら、相当危険な相手だ。逃げて応援を呼ぶべきだ。
私は半歩下がりながらアキラの袖を引くと、アキラも半歩後ろに下がる。
「まあ待ちなよ。今の僕はかなりの力を失っていてね、冒険者協会とはやり合いたくない。だから報告をしないでもらいたいんだ」
「なら儂が討ち取ってやろう」
「構わないけど、そのメイドの命が引き換えになる。その程度の実力は残っていると、思ってよね」
「…。」
半人半蜘蛛状態のハマハッキは、あの四人で挑んでも膠着状態だった。
この大きめな蜘蛛の状態でも、アキラと同等の実力があるということだろうか?
ハッタリの可能性は大いにあるけど、アキラと私が危険に晒されるのは避けたいところだ。
「お互いにお互いを見逃すということでしょうか?」
「それじゃあ報告される。今、A級B級の相手をしろと言われたら、ちょっと難しい」
ハマハッキは、私たちの口止めをしたいようだ。
「そもそも、なんでこのダンジョンにいるんですか?」
「力を蓄えるためさ。最初は雑魚い冒険者や魔獣を食べようと思っていたのだけど、ここには魔力を多分に含んだ果実が生っていてね」
「渡りに舟と食べ散らかしながら潜んでいたと」
「そんなところ」
「……あなたやダンジョン解放戦線の目的はなんなんですか?」
「ダンジョン解放戦線にも色々と思想や目的があるんだけど、僕の目的は秩序の破壊による正しい世界の構築だ。
人も動物も魔獣も、僕たちみたいな余所者も、全てが平等に扱われるべきなんだ。強い存在が勝ち、弱い存在を喰らう。
そういった美しい世界さ、くひひ」
秩序の破壊と混沌の世界。
なんというかろくでもない思想に思える。
「外来主である君たちは、元の世界に何かを思ってこっちに来たのではないのかな?僕にとっては、新天地で理想の世界を作り上げるためでね。
…というかメイドの君は、外来主でいいのかな?」
「外来の人間ですね」
「へぇ〜」
ハマハッキは身体を傾げながら私を観察している。
円な瞳がちょっと気持ち悪い。
「はっきり言って、あなたとは分かり合える気がしません」
「残念。そっちの外来主はどうかな?一時は敵対していたけれど、僕の考えに賛同してくれるのなら、仲間に加えたっていいし、そのメイドを見逃してあげてもいい」
「秩序だの平等だのには関心がない。儂は、飽きを散らしながら、妻からの賛美を受け取るために生きておる」
「獣系ね。そういう無思想な外来主は、僕も相手をしたくないかな」
双方相容れないと理解し合ったこの場で、私はどう立ち回るべきなんだろう?
アキラの長距離転移で逃げることはできるから、冒険者協会まで行って報告するのが一番なはず。
…ただ前に使った時、長距離転移には少しの時間が必要だった。
それだけの隙を晒しても大丈夫なんだろうか?
…まあ、アキラが使ってない時点で、厳しいんだろうね。
じゃあ、どう切り抜けようか。
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