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生贄にされた責任を取れと龍に結婚を迫ったら、異世界までついていく羽目になりました。というかこの龍、メスなんですけど!?  作者: 野干かん


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12話 『棘の宮』 2

 ダンジョンゲートと呼ばれる場所に向かうと、そこには開け放たれた巨大な門扉が鎮座している。

 ただ不思議なことに、扉の内側には周囲とは異なる景色が映し出されており、矛盾不揃《あべこべ》な印象を受けた。


 ダンジョン『棘の宮』。

 アキラが調べてきて、行き先として決定した場所なので私は詳しく知らない。

 字を思えば、『棘《おどろ》の宮《みや》』。

 針の筵《むしろ》にでも放り込まれるんだろうか?


「どういう基準でここを選んだんですか?」

「危険度が高くない、という評価だったからじゃ。レンゲが実戦経験を積むのに良いと思ってな」

「そういうことでしたか。基本的にはアキラ様に暴れてもらって、私は援護をしたり、素材の採取に努めたいと思っているんですけど」

「儂のために強くなってくれるんじゃないのか?」

「分相応。私は私なりの速度で実力を身につけます」

「かかっ、それもそうじゃな」


 戦闘や討伐依頼、多少の訓練を経て、私は強くないし、強くなるのが大変だと理解した。

 元農民には不釣り合いな大変さだが、人一倍の時間をかければなんとかなるだろう。

 幸い、そのための時間は、アキラが用意してくれている。


「とりあえず行きましょうか」

「おう」


****


 ダンジョンとは底がなく深く広がる異界だと、講習で言われていた。

 階層という段階を下るごとに、魔獣が変化し強くなっていく。

 浅い階層であれば魔獣の排除が簡単だけども、その分、実入りが悪い。

 …なるべく稼ぎたいところだけど、深みに踏み込んでハマってしまわないようにしたい。


 第一階層。

 私たちが踏み込んだ場所は幅の広い廊下で、豪奢といった雰囲気のある意匠だ。

 ただ、壁や床に荊棘《けいきょく》が茂っており、これが棘の宮といわれる所以だろう。


「服が傷んじゃいそうな場所ですね」

「なんと呑気な感想か」

「棘《おどろ》だけに驚々(おどろおどろ)しい、なんてどうですか?」

「レンゲもそういう冗談を言うんじゃな」

「嫌ですか?」

「うーん、まあ嫌でもないがなんとも。やはり、儂を賛美する言葉こそがレンゲの至高じゃな」

「そうですか。では、アキラ様の冒険譚を始めましょうか」

「くっくっく、儂とレンゲの冒険譚じゃよ」

「大変ですね。私の人生は」


 周囲を見渡せば、第二階層に向かうための案内と、そちらに向かう冒険者の多くが見られる。

 ある程度、実力があるのならそそくさと深い階層に向かう方が合理的なんだろう。

 アキラ一人だけなら、それも選択肢に上がるんだろうけども、私がいる以上はゆっくりと進もう。


「それじゃあ、流れに逆らって第一階層を探索しましょう。端から端まで、片っ端です」

「ああ、承知した」

「まず私たちの目標なんですけど、この茂った荊棘に実る赤い果実を収集します。

 五つで二ヴェロと二束三文もいいところですけど、アキラ様の銀蔵《かねぐら》に収められることを考えれば、大量に回収することで金策にできると思います」

「あの目玉くらいの大きさをした果実か?」

「あれですね。入り口付近なのに結構実っているじゃないですか。人気ないんですかねぇ」

「魔獣を倒す方が楽じゃろ」

「そうかもしれませんね。アキラ様はどうしたいです?」


 アキラは私と通路の先、そして茂みを見比べてから腕組みをする。


「儂としては強敵と戦いたい。…しかしレンゲを危険に晒すのは、儂の思うところではない。儂もゆっくり進むさ」

「…私は私の歩みでしか進めませんが、それでも全てを肯定してもらわなくてもいいんですよ?それこそ、様子見をしながら進むことだってできますし」

「別に全てを肯定しとるわけじゃないぞ。儂は嬉しいんじゃよ、レンゲの歩みででも、儂と一緒にあろうとしてくれる心意気が―――」


 アキラは頬を綻ばせながら言葉を続ける。


「―――龍というのは我が強く、他の龍と添い遂げようなんて者はそうおらん。そういうのはだいたい変わり者じゃ。

 人間なんぞは、骨張って美味くもなければ、儂の美しさも理解できぬ小さき者共。

 けど、レンゲは違うじゃろ?」


 紫色の瞳が私を見据える。

 それは真剣そのもので、嘘をついている雰囲気はない。

 整った綺麗な顔だ。


 私の背中の傷を引け目に思っていないならそれでいいか。


「どうでしょうかね?」

「くくっ。本当に愉快じゃな。それじゃあまずは…」

「露払いといきましょうか」


 私たちの進行方向に魔獣が数匹現れた。

 第一階層ということもあって取るに足らない相手で、私とアキラでものの一瞬で制圧できた。

 この短時間でも二〇ヴェロほどを稼げたことを考えれば、果実集めなんて効率が悪いだろう。

 けれども、まずは一定の蓄えを得てから、他の冒険者たちと同じことをしたい。


 魔獣狩り、財宝やマジックアイテム回収は、同業者である冒険者との奪い合いだろうし、成果の出ない日もあるだろう。

 そういった時のために、稼げるだけ稼いでおきたいんだ。


「いいことを思いつきました」

「なんじゃ?」

「果実を取る際に、手が傷付いたりするじゃないですか?それを『癒しの小鐘』で治すんですよ。どうせ買ったんだから有効活用しないと」

「なら儂は、レンゲの治癒と周囲の警戒をするとしよう。それで手が空いたら、果実を回収する」

「地味な冒険譚の始まりですね」

「ああ」


 私は果実の採取に勤しむ。

 ただそんな中で、茂みの中を何かが動いていた気がした。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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