10話 ダンジョン講習 6
「はぁ〜悔しいのう」
「いやぁ、相手が悪すぎますって」
「んー、七代目『金匱』のヘスペリアと遊べたなら、結構いい感じなんじゃないの?」
「ありゃ滅っ茶苦茶に手加減をしておった!悔しぃー!」
アキラはヘスペリアに負けたことを非常に悔しがっている。
手も足も出なかったのだから、その悔しさも理解できなくはないが、相手との差が大きすぎて悔しいとも思えないのが、私の実情だ。
「まあ、その悔しさをバネに頑張りなよー」
「ああ。暇な時でいいから色々と教えとくれ。まずは魔法を覚えて手数を増やすぞ」
「りょうかーい」
やる気に燃えるアキラだ。
「ところで、七代目なんたらっていうのは、なんですか?」
「『金匱』ヘスペリア。これは襲名制の名前で、今代で七人目ってことだよ。初代はドラータ共和国建国の時に暗君を討ったとされる騎士の一人なんだって」
〈建国後、政治の舞台に一切上がってない珍しい方でして、冒険者協会の前身を立ち上げた方でもあるんです〉
「とんでもない有名人のご子孫なんですね」
フロリータの劇の中にも、その役はあったのだろうか?
私たちは帰路の途中で食材を購入し、私とドーラで調理を行って四人で食事をした。
****
「修了証は手に入りましたし、明日からはダンジョンに向かうんですか?」
私とアキラは、湯船に浸かりながら明日からの予定を考える。
「ビーチェは仕事で数日いないみたいじゃし、様子見がてら行ってみるのもありじゃな」
「コロニアヴェルデには三つのダンジョンって話ですけど、どうしましょうか」
「…ビーチェたちに聞いとけば良かったのう」
「ですね…」
二人で浸かるには狭い湯船。
だけど魔力さえあれば気軽に湯に浸かれるなんて、故郷じゃ考えられない贅沢だ。
アキラ様々だ。
「ふむ…」
「どうかしました?」
「いやなに、レンゲの果実が最近よく実っていると思ってな」
「…。」
視線を下に向けると、成長しつつある私の乳房がある。
アキラのと比べると大きく、よく実っているといっても過言ではないか。
「相も変わらず破廉恥ですね」
「仕方なかろう。儂はお主に恋してるんじゃから、そういった下心も満載なんじゃ。…ちょっと、ちょっとだけ触らせてくれ!頼む!」
私の賛美と精気なら分からなくもないけど、身体をも求められるのは不思議な感覚だ。
この私のどこがいいんだろう?
「情けは受けないんじゃなかったんですか?」
「むっ!くっ…、ぐぬぬっ!」
「うわ、すっごい葛藤っぷりですね」
「いやぁ、儂もほらそういう愛情表現に興味があってのぅ〜」
「さっき思いっきり下心とか言ってましたけどね…」
「…。」
アキラの目が泳いでいる。
「ちょっとだけですよ、ちょっとだけ!揉んだりしたら外に放り出しますから!」
「おう!」
結局アキラは、私の胸を揉んだ。
ただ、外に放り出す気は起きなかったので、湯船に沈めてから湯浴みを終えるのであった。
****
私リナルドの目の前には、お酒を片手に寛いでいるヘスペリア様がいる。
外来主であるハリュウご嬬妻を確かめるため、遠路はるばるお越しになりました。
「して、あの二人はいかがでしたか?」
「危険性はないよ」
「では…ヘスペリア様側、秩序の者たちであると?」
「ん〜、それはどうかな。剣士の方、名前は…」
「アキラ・ハリュウにございます」
「アキラ・ハリュウ。あれの本質は獣だね。秩序に従うでも、秩序を破壊するでもなく、ただ我儘に振る舞う獣の存在だよ」
「そうは見えませんでしたが…」
「番のメイドの影響だろう。あちらは外来主のおまけで、異なる世界の人類に過ぎないし、小市民的な性質だ。
手綱を握っているというには語弊があれど、あの元ドラゴンはメイドに執着し、メイドを基準に生きているみたいだ」
かなりの愛妻家といった雰囲気ではありました。
ドラゴンに愛される人間。それだけ特異な存在なのでしょうかね。
「いつでも対処できるだけの相手だから、泳がせていても問題ないよ。強いていうなら、外来主のような存在が執着する存在が傷つくと、破滅のきっかけになる。
未来を憂うなら、メイドの寿命が尽きるまでは、安全を見守るだけの監視を付けたほうがいいね」
「……。レンゲさんは、寿命をアキラさんと共にしていると伺いました」
「うーわ…面倒なパターンだ」
言葉とは裏腹に、ヘスペリア様は相好を崩しており、どこか楽し気に見える。
「不思議だと思っている顔だね」
「はい」
「身共が翼をもがれ、この穴だらけの世界に追放されたのも、たった一人の相手を愛したことがきっかけでね。それを思い出していたんだ。
結果的に悲愛に終わったけど、彼の教えてくれたことは非常に多く、美しかった」
『ヘスペリア』。
この国の民を愛し、守護する外来主。
暗君を討つべく動いたのもヘスペリア様だが、王政ドラータの礎を授けたのもヘスペリア様とのこと。
この方の愛はどこから来て、なぜにこの国に注がれるかは分かりません。
それでも、我々人類は何でも利用して生き抜かねばなりません。
ハリュウご嬬妻。
彼女たちが人類の敵にならないことを祈りましょう。
…レンゲさんがいる限り大丈夫そうではありますが。
「あぁ、そうそう。メイドの方は放っておいたらいつか死んじゃうだろうし、面倒見てあげてよ。鍛えたほうがいいよ、あの子」
「承知しました」
「それじゃ、身共はダンジョン解放戦線の…なんだっけ?あー、なんか蜘蛛の外来主を探しに行くから、頑張ってね」
「ご武運を」
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