10話 ダンジョン講習 4
昼食を終え午後、効果測定が始まる。
内容としては、協会職員が問題を読み上げて、それらが正しいかどうかの判別をし、自身の名前を書いた紙に記載していくだけ。
内容も簡単で、問題数も十五問と特に難しい要素はなかった。
ただ、昼食を共にしたビーチェとドーラから聞いた話では、市民権持ちの冒険者はしっかりとした試験を行うらしく、不合格者は修了証を貰えないらしい。
その事実を不思議に思い聞いてみれば、『無駄に市民を減らしたくないんだって』とのこと。
色々あるんだろう。
市民権。
一人当たり五万ヴェロ。
加えて、非市民とは別に納税の義務が発生する。
その代わり、ドラータ共和国での地位を確約され、働き先の選択肢も増え、制度的な保護も受けることができたりと恩恵も多い。
市民の子は市民。非市民の子は非市民。
成人である十五歳までに市民の養子になれれば、割り引いた金額で市民権を得られるらしいが、その辺りは私たちと無関係だ。
故郷にいたときよりも明確な格差を感じるが、一生農民として暮らす以外の選択肢がないというのが、あの村での生き方だ。
どっちもどっちなんだろう。
そうこうしていれば効果測定が終わる。
「効果測定は問題なさそうですか?」
「余裕じゃろ?あの程度が理解できない者なんておるのか?」
「まあ、人それぞれでしょうかね」
私も問題なかった。
『それでは実力測定に移ります。
こちらも、冒険者各位がどの程度の実力であろうと、修了証の配布には差し障りありません。ただし、素行が悪い場合は、今後のランクアップに支障が出るとお考えください。
冒険者協会職員である私たちの目に晒されながら、戦闘行為を行うわけですから。
内容に関してですが、高位の、A級B級の冒険者を試験官として模擬戦を行ってもらいます。その試験官ごとに内容を任せておりますので、担当する試験官に内容を聞いてください』
「このためにビーチェさんとドーラさんが呼ばれていたんですね」
「ちと心が躍るのう」
「倒そうとでも考えているんですか?」
「ランク上げの役に立つかもしれん」
「問題は起こさないでくださいよ。今後の活動に支障が出ても嫌なので」
「大丈夫大丈夫、儂は良識ある元龍じゃ」
私たちが移動を始めると、冒険者たちは自身の得物を手に持ち、自信満々に胸を張っている。
彼らの多くは、自信と希望に満ちた者たちなんだろう。
けれども、B級であるビーチェとドーラ、元A級であるリナルド。そしてそこにアキラを加えた四人でも勝てないハマハッキ。
上を見れば見るほどに目を焼かれ、踏み出す足が重くなる。それが、この世界だ。
なんとなくだけど、七割の人がライセンスの更新をしないというのも納得ができる気がする。
きっとダンジョンという場所は、化物の跋扈する魔境なんだ。
「私も頑張らないといけませんね」
「一緒に頑張るぞ」
「はい」
****
実力測定が始まると、自信満々な冒険者から挑んでいき、強者との実力差を学んでいく。
…納得がいかずに何度も挑もうとする冒険者もいるが、実力測定ということで断られている。
ちなみに人数が多いからか、パーティ単位での測定らしい。
アキラが一緒にいる分、掻く恥は少なくて済みそうだ。
「血っ気の多い彼ら彼女らの実力はどうなんですか?」
「素のレンゲよりは圧倒的に強いな」
「それは私が見ても分かりますよ」
「そうじゃのう。ビーチェらは比べるべくもないが、以前に模擬戦をしたC級二人がおったじゃろう?」
「あー、短剣使いと長剣使いの」
「そうそう。アレらはそれなりの実力者だったと、今まさに理解したところじゃ」
「そうなんですね」
素行は悪そうだったけど、二人がかりならアキラを苦戦させるほどの実力者だった、と。
模擬戦を眺めていれば、私たちの番となる。
ビーチェかドーラだったら気が楽だったんだけど、試験官をする冒険者は別の人だ。
「A級冒険者のヘスペリアだ。よろしくね」
「お手柔らかにお願いします」
「かかっ!一本くらい取ってやるわい」
ヘスペリアという冒険者は女性で、年齢は…ちょっと分からない。
若そうに見えるのに、少し貫禄がありそうな色が見て取れる。
短く切りそろえられた黄金色の髪に、整った中性的な顔立ち。
女性冒険者が黄色い声を上げているところを見るに、美形ということらしい。綺麗だとは思うが、少し物足りない。
…毎日アキラを見ているせいで、美的感覚が狂っているようだ。
「もう説明は要らないと思うけど、試験官である身共は防御用の魔導具を装備しているから、本気で挑んできていいよ。では、どうぞ―――!」
口火が切られた瞬間、アキラは転移でヘスペリアの後方に飛ぶ。
そして打刀を振るって、足を斬り落とそうとするのだが、ヘスペリアとの間に金属の板が現れて、攻撃を防いだ。
「驚いた。空間魔法だね。その若さで使いこなすとはね」
「流石、A級…じゃのう!」
「筋は悪くないけど、練度がイマイチ、かな。上手いけど、慣らしが終わってないような感覚だね」
ヘスペリアは片手で握った剣を振るい、アキラの刀の全てを防いでいた。
動きが最低限で、アキラの攻撃に対して余裕すら見せている。
「興が乗った。こちらからも攻撃をしてあげる―――!?」
私はハルバードを振るう。
誰もいない場所に。
そう、何度か使った先振りからの空間龍術『圧縮』の組み合わせ。
ヘスペリアがアキラに攻撃しようとしていたので、その隙を狙った一撃だ。
ガン!と金属の板にハルバードでの攻撃が防がれると、ヘスペリアは相好を崩しながら私を見ていた。
背筋を走る悪寒を感じ取り、私はいち早く『解放』を使って彼女との距離を空けて、アキラに攻撃を任せる。
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