2話 異世界の地 3
「そうそう、私はレンゲ・ハリュウ。こちらで刀を握るお方がアキラ・ハリュウと言いまして、同性ながら生涯の伴侶となっております」
さて、これはどうだろうか?
同性での婚姻がダメなら、違う関係を考える必要があるんだけども。
「へぇ、珍しい」
「ただ、そういった関係は、上等な市民様にはあることらしいぞ?」
「へぇ〜」
どうやら当たりが厳しいというわけではないようだ。
アキラがメス、いや今は女か。
それを知った時は驚いたけども、男でも女でも大差はないだろうね。…それも、これからの生活次第か。
「それで、お兄さん方のお名前を伺ってもよろしいですか?」
「ああ、名乗りがまだだったな。俺はD級冒険者のブルーノ、こっちは同じくD級のリッチーで、最後にE級のブリタニー」
恰幅のいい男がブルーノ。
牛の角の男がリッチー。
紅一点で女のブリタニーと。
馴染みが無さすぎるせいで、右から左に抜けちまいそうだけど、どうにか頭に留められるよう名前を反復する。
「……ブルーノさん、リッチーさん、ブリタニーさんですね。こうして出会えたのも何かの縁、こちらをどうぞ」
「食料か?」
「旅をしているのに、いいのかい?」
「構いませんよね、アキラ様?」
「ああ、問題ないぞ」
睨みを利かせているアキラは、キリッとした表情を露わにしている。
私は三人に饅頭を一つずつ渡してから、言葉を続けた。
「それじゃあ一つ尋ねたいのですがね、ここは一体どこなんでしょうか?」
「ここはドラータ共和国の端の方で」
「ボスコヴェルデ地方です。まだまだ未開の土地が多く、それらの探索や魔獣の退治に、私たち冒険者が必要でして」
「下手こいてタイラントベアに追いかけられてたってわけだ」
私がアキラに視線を向けると、小さな頷きが返ってくる。
冒険者というのが、アキラの言っていたやりたい事なんだろう。
あまり良い仕事とは思えないんだけどね。
「あんまり詮索をするべきじゃないと思うんだけど、若い女の子二人でこんな僻地までって、大丈夫なのかい?」
「必要がありゃ冒険者を頼ってくれてもいい。…まあ、金はいくらか必要になるけども」
「気を悪くされないのなら、事情を伺っても?」
三人の視線は私たちを心配するものへ変わっていった。
あまり深く詮索されてボロを出すわけにもいかない。
タイラントベアとやらから助けた恩と、振る舞った饅頭が無駄になっちまう。
「そうですね、まあ長く逃げた身にございますゆえ、そろそろ語って問題のない頃合いでしょう。アキラ様、この方々は大丈夫だと思います」
「そうか」
あえてアキラに警戒させていた仕込みはここで回収する。少し真剣な雰囲気が欲しかっただけだが、仕込みとしては十分だったと思う。
さて、私は居住まいを正しながら周囲を探る。
手頃な丈の草を束でもぎ取り、それをくるりと折って手で叩けば、パシャンパシャンと音が鳴る。
これでいいか。賑やかしの音があった方が雰囲気が出る。
「これは聞くも涙、語るも涙の物語にございます。…私しゃ、遠く彼方にある龍と人間の住まう土地に生まれ落ちました。
特別恵まれた生まれということもなく、平々凡々な農家の生まれに、冴えない顔立ちと良いとは言えない器量。これといって咲かせる花もなく、ただ萎れるだけの人生だったのだと思います。
ただ!人生とは分からぬもの、地域を管理する悪名高い代官に目をつけられてしまった私めは、なんとなんとでっぷりと肥り、脂ぎった五〇代後半の男に嫁がされてしまったのです」
「まぁ…なんてひどいっ!」
私は、よよよと泣くような仕草を見せながら、三人の様子を窺う。
同じ女性のブリタニーは憤りを露わにし、ブルーノとリッチーは険しい表情をしている。
「その悪代官、管理している地域の女子を見初めては嫁がせて、飽きては捨てるを繰り返すような女の敵で、泣かされた人は数知れず。…酷いときには、矢の的にして射抜いているなんて噂もあるほどなのです。
私の人生も終わったと思い、さめざめと涙で頬を濡らす日々を過ごしていると、部屋から逃げられぬよう鎖で繋がれてしまいました。
さてさて!そこで登場するのがこのお方、アキラ様にございます!
旅をしていた彼女は、悪代官の話を聞きつけ単身で屋敷に飛び込み、千切っては投げ千切っては投げの大立ち回り!
悪代官に襲われそうになっている私の許まで駆けつけると、えいや!っと刀を振り下ろし、粗末なチンポコを切り落としてしまったのです!」
「うっ!」
「うわっ…」
男衆は股間を押さえて、顔を青くしている。
「それから私を連れ出してもらったのまでは良かったのですが、二人揃ってお尋ね者になってしまったうえ、悪代官の屋敷で幾日も幽閉されていたこともあり、純潔の証明もできません。村に帰ることもできなければ、嫁のもらい手もいなくなりました。
…それを不憫に思い、私を生涯の伴侶としてくださったのがアキラ様なのです」
私は立ち上がり、アキラの隣に並んでから、腕を絡めて笑みを浮かべる。
「これが今までの人生です。覚えていてくださいね、頼りになる奥様」
「承知じゃ」
今この瞬間、私たちは実在する人になった。
その上で同情を買えればいいんだけど…。
「ブルーノぉ!リッチぃぃ!レンゲさんとアキラさんの力になってあげましょうよぉぉ〜…!」
ブリタニーがボロボロと涙を零している…。そこまでの話ではなかったはずなんだけど…。
ここまでの反応をされるとちょっと怖いし、必要以上に絡まれてボロを出しても困る。
「ああ、そうだな。…すまない、ブリタニーはこういう話に弱いんだ」
ブルーノはブリタニーの面倒を見始めて、入れ替わるようにリッチーが口を開く。
「ところで、ここ最近で追手を見かけたことは?」
「え、あー、ここ最近は見かけていませんね。諦めてもらえたのならいいのですが。……それと、今日出会ったばかりの人のお手を煩わせるわけには…」
「遠慮しないでくれ。…僕たちにできることなんて、冒険者協会に口利きしてあげるくらいだけど、それでも新しい身分を用意するには困らないはずだ」
「そうですよぉ…。ドラータ共和国のことも詳しくないんですよね?分からないことは何でも答えてあげますから、気兼ねなく聞いてくださいね…うぅ」
アキラに視線を向ければ、感心の色の濃い瞳が向けられている。
あー…アキラのやりたいことを、できるようにしてしまったんだ、私は。
私は学んだ。
口は禍の門なんだと。
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