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生贄にされた責任を取れと龍に結婚を迫ったら、異世界までついていく羽目になりました。というかこの龍、メスなんですけど!?  作者: 野干かん


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2話 異世界の地 2

「おい、そこの嬢ちゃんたち!さっさと逃げろ!後ろにいるのはタイラントベアだぞ!?」


 大熊、いやタイラントベアとやらから逃げる三人組。

 その中の男は大声を放ちながら、こちらに走ってくる。


 危険だというのなら、違う方向に逃げてほしいんだけども…。


「安心せい!ただの巨大な熊じゃろう?儂の敵ではないのう」

「武器を持ってるだけで敵う相手じゃないっての!!」

「かっかっか!」


 三人組も武器を所持しているのにもかかわらず逃げているということは、三人がかりで戦っても敵わない相手だということ。

 もしくは……多くの被害を出してしまうか。


 どくんと胸の音が響く。

 何故か私の胸は高鳴り、気持ちが昂ぶっていく。


「これは…アキラ様の昂り?」


 不思議な感覚だけども、アキラの感情の一部が私に伝播しているようだ。

 私の身体に渦巻くアキラの吐息。口付けの際に入り込んだ何かは、身体の中で渦巻いて気持ちを昂らせている。


「アキラ様!私たちの旅路を終わらせないでくださいよ!」

「くっくっく、分かっとる!儂が云百年もかけて考えた最強の戦い方、その初戦をとくと見るがいい!玻璃生式はりゅうしき一刀術いっとうじゅつ閃耀せんよう』!!」

「初戦…?」


 アキラは龍だったわけだから、人間として戦うのは初めてなんじゃ!?


 なんて不安を元に焦っていると、アキラは瞬く間に姿を消した。

 まるで最初からいなかったかのように。


 周囲を見回してアキラを探すと、駆けてくるタイラントベアの真上に姿を現して、刀を振るった。

 その太刀筋は一切の歪みがないほどに整った弧線で、刃がタイラントベアに届くと、障害など何もないかのように斬り裂いていく。


 アキラが斬ったのは、タイラントベアの背中。

 いや、背骨だろうか?

 攻撃を受けたタイラントベアは足がもつれて、地面を滑るようにして転倒し、前足だけで藻掻いている。


「…は?」

「…え?」

「…なにが?」

「おぉー」


 三人組が困惑する中で、私は感心しながら拍手をすることにした。

 賛美を好むアキラへの気遣いという側面もあるけども、あれほど綺麗な剣術というのは初めて見たので、その称賛の意味もある。


「安らかに眠るがよい」


 そっと目を閉じたアキラは、刀を振り下ろしてタイラントベアを介錯した。


****


「レンゲ、お主から見て儂の刀捌きはどうじゃった?」

「曇り空、その雲の切れ目から差し込む一条の光のようであり、何かを打開するのに相応しい技だったと思いますよ。とても綺麗な太刀筋でした」

「うむうむ、そうじゃろう!」

「ところで、どこからともなく衣装や刀を出したり、アキラ様が一瞬で消えたりと、それはどういった力なんですか?」


 アキラは大層嬉しそうな表情を浮かべた後、地面に倒れ込んでいる三人組に視線を向けてから、私の耳元に口を寄せて、ひそひそと話す。


「力のほとんどは失われたが、一部は残っておってのう。儂は空間に作用する力が使えるんじゃよ」

「なんで声を潜めているんですか?」

「あくまで儂は人になった。龍であることを知られても面白くないじゃろう。過去を知るのはお主だけで良い」


 ここがどういった場所かは分からないけども、元々は龍だったなどと宣ったところで、白い目で見られるのが関の山。

 やっぱり、意外と理性的なんだよなぁ。


 さて、私には疑問が一つある。

 ここは異世界とかいう遠い異国の地だ。

 なのにもかかわらず、この三人組の言葉の意味が理解できる。

 そして何より、私たちの口から、彼らに向けて発せられる言葉が、自然と似たような言葉になっていた。


「アキラ様、私の知らない言葉が口から吐き出されていることがあるんですけど、これもアキラ様の力です?」

「そうじゃ。お主と口付けをした時に力の一部を与えた。儂に何かあっても、レンゲだけで何とかできるようにな」

「…。アキラ様は心優しい奥様ですね」

「ふふん!」

「ではここからは私が請け負いますんで、アキラ様は警戒する素振りだけ見せてください」

「ん?ああ、分からんが分かった」


 私は三人組を見つめてから、彼らの息が整うのを待つ。

 三〇歳くらいの男が二人と、同じ年ごろの女が一人。

 彫りが深く、鼻の高い顔立ちは、村の近くでは見ない容姿だ。

 そして何より、男の一人は側頭部の辺りから牛のような角が生えて、長く垂れた耳をしている。

 これは人間なんだろうか?


「いやぁ、お兄さんお姉さん方、ちっとばっかし伺いたいことがあるんですけども、問題ありませんかね?」

「あ、ああ、すまない。礼もまだだったな」

「礼には及びませんよ。こちらが勝手にやったことに過ぎませんから」

「…そうか?…んー、だが助かったよ、ありがとう」


 どうやら礼儀正しいようだ。

 野盗や山賊と言った類ではないと思いたい。


「単刀直入にお聞きするんですけどね、ここは…どこの国で何という場所なんでしょうか?」

「は?」

「いやねぇ、私たちゃ、ちとばっかし事情のある身の上にございまして、“追手”の目を掻い潜ってここまで逃げてきたんです。

 あぁ、安心してください。物取り人斬りにゃあございません。ただの農民と、旅のお侍さんなんですから」

「オサムライさんってのは?」

「武器を持つことの許されたお人です」

「なるほど、冒険者のようなものか」


 冒険者、という仕事もあると。

 私は情報を聞き出すべく、会話を続けることにした。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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