9話 外来主
「それでは事情聴取といきましょうか」
「え?なんの事情聴取ですか?」
「ハリュウご嬬妻の素性についてです」
一旦宿場町に戻るため立ち上がろうとした時、リナルドは『まだ座っているように』といった手振りを私にして、アキラを隣に座らせた。
「道中の休憩中にお話ししたと思いますが?」
「ええ、聞きましたね。ですがそれは、全てが正しいわけではないでしょう?…特にアキラ・ハリュウ、貴女の存在について多くが語られていませんでした」
「リナ翁、それって今重要?」
「重要ですよ。彼女は外来主なのですから」
バレてる!?
私が抗議の目を向けると、アキラは申し訳なさそうにしていた。
ここで嘘をついても嫌疑は向け続けられるし、嘘が露呈した際の不利益が大きすぎる。
このリナルドという老爺を騙し続けるだけの芝居は、私たちには難しいだろうね。
「一つ訂正をさせてください」
「なんですか?」
「多分ですけど、私も外来主に当たる存在だと思ってもらっていいです」
『お話ししますね?』とアキラに問うと、『仕方あるまい』と返事が返ってきた。
「ではお話しましょう、私共の真実を―――」
なんて口調で説明を始めたけど、余計な脚色や演出はせずに、私の知りうる事情を伝える。
するとどうだろう。リナルドたちの私へ向けられる視線は、不思議な物や珍獣を見るようなそれへと変化していき、最終的には三人して頭を抱えていた。
「レンゲはただの人間なのに、ドラゴンの妻になって、世界を超えてコロニアヴェルデにやってきたってこと…?」
「度胸とかそういう話ではありませんね…。狂人ですよ…」
〈もうちょっと、相手を選んだ方がいいですよ。ドラゴンといえば、魔獣というのも痴がましい、最上位の生き物ですから〉
あれ?なんだろう、話し方が悪かったのかな?
私が悪いみたいになってる。
「儂も最初はレンゲのことを、精気の吸える便利な人間じゃと思っていたんじゃが、もうこの通りメロメロでのう〜。
…まあなんじゃ、元より人に扮して生活する予定ではあったから、傍若無人に力を使ったりはせぬさ」
「…悪いことをするようには見えませんね」
「いざとなったら対処できるくらいの実力だし?」
〈私は過剰な対処は要らないと考えます。監視が必要であれば、私たちのアパルトメントに住んでもらうという選択肢もありますし〉
「あー、いいねそれ。ちょうど一部屋空いてるし」
「家賃のいくらかは冒険者協会から出しましょうか。監視のための費用ということなら通ると思います」
なんだろう。アキラはすっごい受け入れられてる。
「処罰の対象や、処分の対象ではないってことでいいんですかね…?」
「あーうん、それは大丈夫。今回の戦闘に貢献してくれたし。だよね、リナ翁」
「はい。全ての外来主を敵だとすると…政治的に不都合がございますので」
「良かった。折角、こっちでの生活に慣れてきたのに、人生がここで終わりですなんて味気なさすぎますからね」
安堵する。
私たちの風変わりな関係は露見したけれど、これからも問題なく生活ができそうだし、睨まれることはなさそうだ。
「それじゃあ宿場町に戻って、職員のお二人と合流しましょうか」
「そうだね。…すっごい疲れた、へとへとだ」
〈四人の死体はどうします?〉
「回収したいけど、アキラの空間リュージュツに入れておける?」
「何をじゃ?」
「死体」
「別に構わんが、腐敗はするから長期は嫌じゃな」
「ドーラ、氷魔法ってどれくらい保つかな?」
あれこれと話し合っている最中、私はふと思い出す。
地面に埋めた半髑髏のことを。
「あのー、私が地面に埋めた半髑髏はどうします?」
「ハンシャレコウベって…なに?」
「なんか、私たちのところに飛んできた、外殻で覆われた亡骸です。倒せなかったんで地面に埋めたんですよ」
「地面に埋めたのですか…?」
「はい。ハルバードを乗せて動けなくしてから、空間龍術で土を掘って深くに埋めちゃったんです」
見た目や動きの特徴などを伝えると、半髑髏は死霊と呼ばれる分類の存在らしく、倒すのに苦労する相手らしい。
骨と骨を繋げて動かす魔力の梁を断ち切って完全にバラバラにしたり、骨も残らないほどの火魔法で焼き殺したりする必要があるとか。
そんな相手を、私が倒せるはずもなかった。
埋めたのは正解だった気がする。
そんなこんなで私たちは宿場町に向かい、しばらく休息を取ってから調査を再開した。
これといって目ぼしい証拠などはなく、ハマハッキの脱ぎ捨てた…下半身?
それと、その弟子だとされる四人の亡骸の回収。そして、半髑髏の討伐回収をもって一旦終了となった。
『ダンジョン解放戦線』そして外来主『ハマハッキ』。
非常に面倒な相手なので、正直もう二度と顔を合わせたくないのだが、どうなることやら。
****
「いらっしゃい」
〈待ってました〉
調査依頼を終えた数日後。
私とアキラは、ビーチェとドーラの所有するアパルトメントにやってきていた。
「本当にいいんですか?格安で部屋を借りちゃって」
「いいのいいの!ドーラと会話できるのなんてほとんどいないし、近い年齢の同性なんて皆無なんだ。だから、レンゲとは気軽に会える場所に置いときたいんだよね」
「名目上は監視なんじゃろ?」
「そうだね。でもアキラは、悪いことなんてしないでしょ?」
「レンゲに愛想を尽かされたくはないからのう」
「じゃあ、形式上だけってことで」
私とアキラは生活の拠点を手に入れた。
支払いが三〇日ごとの、賃貸住宅という住居だ。
金額は五〇〇ヴェロ。
本来は九〇〇ヴェロのところを、四〇〇ヴェロ分を冒険者協会が負担してくれるらしい。
四〇〇ヴェロで、外来主であるアキラが真っ当な生活をしてくれるなら安すぎるのだとか。
全額負担してもらっても良かったが、払うものがないと変に安心してしまいそうだったので、五〇〇ヴェロは払うことにした。
なにがあろうと三〇日で五〇〇ヴェロを稼ぐ。それくらいしないと、だらけてしまいそうだから。
〈ここがお二人のお部屋となります〉
「家具なんかは用意しといたから、好きに使っていいよ」
コロニアヴェルデに来てから、様々な波乱があった。
それでも、この異世界で生きていくのは悪くないだろう。
「これが儂とレンゲの愛の巣か!悪くないのう!」
今までならアキラをぞんざいに扱っていただろうけど、今日は大目に見てやろうと思う。
あの村から出て、コロニアヴェルデでの生活を与えてくれたのはアキラなんだし。
「あのぉー…なんでベッドが一つなんです?それも結構な大きさのベッド、なんですけど」
「え?アキラが『ベッドは一つ、これは絶対条件じゃ!』って」
「儂とレンゲの愛を隔てるものなんて、あってはならんからのう〜」
「色欲魔め」
私とアキラは、このコロニアヴェルデで住居を得た。
賃貸という契約方式ではあるものの、狭っ苦しく寝るだけの場所じゃない。
ビーチェとドーラの案内で部屋を見ていけば、狭くない浴室や台所、収納などもしっかりとあって、日払いの宿とは大きく異なる。
余所者だった私たちが、コロニアヴェルデの何者かになれた気がして、私の頬は自然と綻んでいた。
「良い家ですね」
「ああ」
先に進んでいったビーチェとドーラの目を盗み、私はアキラの頬に口付けをする。
急なことでアキラは驚いており、私は勝ち誇った表情を見せつけながら、二人を追っていく。
誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。




