8話 外なる者たち 10
私レンゲは、アキラたちの戦闘を茂みから眺めていた。
ハマハッキは魔力が多そうで、霜信を乗せたら動けなさそうだと判断し、実行してみたら上手くいった。
即座に動けるあたり、あの四人は強いんだと思う。
アキラの一撃でハマハッキが切り裂かれたようだけど、あれで倒せたんだろうか?
遠くて見えにくいし、何を言ってるかは分からないけど、ハマハッキはまだ生きているらしい。
皆が攻撃を再開しようとすると、ハマハッキは蜘蛛の下半身からスポンと抜け出て、少女の姿から、人の頭ほどの大きさのある大蜘蛛に変化した。
…あの大きさの蜘蛛はちょっとどころじゃなく、本気で気持ち悪い。
「え?」
大蜘蛛ハマハッキは、ものすごい勢いで駆け出して四人から逃げ始めたのだが、進路は私のいる場所だ。
もしかしたらハルバードを落としたのに気づかれていたのかもしれない!
私は大急ぎで何か、武器になりそうなものを探すと、足元に木の棒が落ちていた。
心許ないが、無いよりマシ。
「く、来るなぁ!!うわあああ!!」
木の棒をブンブンと矢鱈に振り回すと、大蜘蛛ハマハッキはまるで驚いたかのように飛び上がった。
その軌道は私の顔面へ直撃するもので、私と大蜘蛛ハマハッキの間には、矢鱈に振られている木の棒がある。
ベチッ!と嫌な音が響くと、大蜘蛛ハマハッキは明後日の方へと吹き飛んでいき、再び何処かへと駆け出していった。
「気持ち悪かったし、かなり怖かった…」
私が脱力して座り込むと、アキラが目の前に転移してきて、私を持ち上げ、怒りの形相を浮かべている。
「こんなところで何をしてるんじゃ!」
「お、怒らないでくださいよ。私だって逃げたかったんです。…でも、ずっと轟音が響き渡ってましたし、不安だったんです」
私は口をすぼめて続ける。
大声を出さないでくださいよ。
「…アキラ様たちでも倒せないんじゃないかって」
「ならばなおのこと逃げるべきじゃろ」
「分かってますって。でも私は…そういう賢明な判断ができなかったんです。だって…アキラ様がいなくなったら、嫌じゃないですか」
「嫌って…」
アキラから僅かに流れ込み始めた怒りの感情は、徐々に呆れに変わり、安堵になる。
茂みから私を引きずり出すと、アキラは私から手を離して仰向けに倒れてしまう。
「まあいいとするか。どうせ説教は、リナルドあたりがするじゃろうて」
「…じゃあ、私は一足先に宿場町に戻りますね〜」
「まあ諦めるんじゃな、かっかっか!」
私はアキラの隣に腰を下ろし、額に青筋を立てるリナルドに顔をしかめる。
分不相応の報いを受ける必要があるようだ。
けれども、誰一人欠けることなく、こうして顔を合わせられるのは、私にとって意味のあることだと思う。
「しかし随分と苦戦してましたね。元A級とB級が二人いても難しい相手だったんですか?」
「ありゃあ、この世界に来てしばらく経った存在じゃな。力を蓄えて、元の実力に近づけているんじゃと思う」
「なるほど。アキラ様が同じくらいになるにはどれくらいかかるんですか?」
「さあのう。数十数百、はたまた千年をも超えるやもしれん。儂は変化が苦手で、維持するためにレンゲの精気を貰っとる状況じゃ。
…他の奴らよりは歩みが遅いんじゃよ」
アキラにも得意不得意はある。
龍の時間がどんなもんかは知らないけど、それに私も付き合うことになる。
不満はない。
アキラの不足を補える時が、私にもくるんだろうか?
この世界には、故郷にはなかった様々な物や技術があり、相応に厄介な敵も存在する。
学ぶことは多そうだ。
「儂じゃ不満か?」
「なんでです?」
「初めて会った時のような万能の存在ではないのじゃぞ?」
「アキラ様が万能じゃなくったって…ふふっ、楽しいですよ。これからはやれることが増えると思いますし、何をしますかね」
「かかっ!儂はダンジョンに行きたい!財宝と強敵の待ち構えるダンジョンにな!」
「じゃあ、強くならないといけませんね」
「ああ」
私たちの許に歩いてくる強者たち。
あの三人や、アキラのように私もなれるだろうか?
…少し難しい気がしなくもないけど、時間はある。そして今回、命を拾った。
やれるだけのことをやっていこう。
「そういえば、レンゲたちの方へと飛んでいった一人。あれはどうしたんじゃ?」
「あー、半分髑髏の亡骸。あれ、私じゃ倒せなかったんで、地面に埋めました」
「地面に、埋めた??」
「はい。詳しい話はビーチェさんたちが来てからで。多分ですけど死んではいないんで…って、髑髏だし既に死んでいる?」
「???」
アキラは不思議そうな表情を私に向けたけど、実物を見たら納得するはず。
その後、合流したリナルドを始め、ビーチェとドーラ、そしてアキラまで混じっての説教を、私は受けることとなった。
要約すると身の丈にあった行動をするようにということだ。
私も分相応な生き方をしたい。心からそう思う。
それとは別に、ハルバードを落とした件では甚く褒められ、感謝もされた。
四人は手詰まり状態だったらしく、打開の一手があったからこそ、全員が五体満足で生き残れたのだとか。
叱られ損じゃなくて良かったと、私は思った。
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