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生贄にされた責任を取れと龍に結婚を迫ったら、異世界までついていく羽目になりました。というかこの龍、メスなんですけど!?  作者: 野干かん


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8話 外なる者たち 9

 私は街道の方へと視線を向けて、協会職員と商人らしき人たちの一団を探すも、既に姿はなく逃げ果せたのだと理解する。

 この後するべきことは、彼らを追って宿場町まで戻り、安全を確保することだろう。

 うん、絶対にそうだ!


「はぁ…」


 私は、轟音の響く戦場に身体を向けており、今にも足が動いてしまいそうだ。

 はっきり言って足手まとい。その自覚はあるし、折角生き残ったというのに死地に向かうような真似はしたくない。

 けれども、あの強そうな四人をして倒しきれていないと考えると、私も何かしなくちゃいけない気がする。


「こういう考えは絶対に良くないんだよ。分不相応だ」


 死にたくないのにもかかわらず、私の足は自然と動いてしまっていた。

 アキラたちの方へ。


****


 私が低木に身を隠してアキラたちを観察すると、四人ともが満身創痍な状態で、人と蜘蛛の合わさった化け物と戦っていた。

 あれは…導師ハマハッキとか呼ばれていた少女だろうか?

 アキラが龍から人に姿を変えたけど、逆に人から化け物へと変化することもできる存在とか?

 …よく分からないが、あのハマハッキという存在は、四人をしても苦戦する相手らしい。


 そういえばビーチェとドーラは、四人組と戦ってるはずなんだけど。

 うわぁ…。

 私の視線の先には、バラバラに斬り裂かれて転がる亡骸があった。

 つまり私たちが逃げて、私が半髑髏と戦っている間に、ビーチェたちは四人を仕留めたわけか。

 なんというか、格の違いを思い知らされる。


 改めて戦闘の方を確認すると、ハマハッキはドンと構えた状態で四人の攻撃を防いで、魔法のような攻撃で反撃をしている。

 アキラたちの攻撃は…私の目で追って理解できる範疇にはない。


 というかアキラ以外の三人は、殴ったり武器で攻撃しながら魔法も使っている。

 器用というか、なんというか。

 魔力がない私にはできないから、もしあの戦い方が普通なのであれば、それ以外の方面で実力を伸ばさないといけない。

 大変だ。


 しかしどうだろう。アキラたちに対して、ハマハッキは随分と余裕そうに戦っている。

 このまま戦い続けて誰かが倒れたら、状況が一気に不利になってしまう気がする。


 賢明な判断をするんなら、大人しく逃げるべきだ。

 今回の役割は果たしたし、あそこにいる四人ならハマハッキを倒せるかもしれない。

 分不相応なことをするべきじゃない。


「やんなっちゃうね、本当」


 私は空間龍術『圧縮』を使う。


****


 儂アキラは焦りを感じていた。

 長引いた戦闘を終わらせるだけの光明が見えぬからじゃ。


 こんな蜘蛛の化物《もののけ》なぞ、龍の姿であれば一瞬だったはず。

 もどかしい感覚は心の内より広がり、汗となって噴き出してくる。


「…くぅ」


 ハマハッキの攻撃が炸裂する。

 こやつは多種多様な魔法を繰り出す、上位の魔法使いなんじゃろう。その上で、儂ら四人の攻撃を、四本腕で的確に防いでいる。


 人に変化するためでもあったが、そもそも世界の壁の穴を抜けるのには、力と身体を削ぎ落とす必要があった。

 それはハマハッキも同じじゃろうに、なぜこうも力を付けられておる?

 事情に詳しそうなリナルドに聞くべきなんじゃろうが、こやつが生き残れる可能性は…五分五分とも言えん。


 それに、レンゲは逃げられたかのう。

 ハマハッキが投げ飛ばした外套の一人を、振り切っておるといいんじゃがな。


 …儂も変わったのう。

 このような闘争の場面、以前なら嬉々として戦い、飽きを散らす糧としていたのに、今では妻を心配し自分が生き残れるかを考えておる。


 飽きから逃れたい。その本能は変わらない。

 けど、少しずつレンゲの影響を受けているんじゃと、儂は思う。

 闘いを楽しむにも、隣に立つレンゲがおらんとのう。


 儂以外の三人が同時に攻撃を仕掛ける最中、儂は攻撃のタイミングをワンテンポ遅らせる。

 狙うは首筋。転移と同時に斬り込んでみるも、腕によって防がれてしまう。

 …本当に厄介じゃ。攻撃を受け止める瞬間だけ、腕の表面には硬い装甲が現れる。

 それに加えて、転移しようが気を紛らわせようが、何かを感知して確実に対応してくる。


「そろそろ諦めたらどうかな?僕と君たちじゃ、実力に大きな開きがある。それを今から埋めるのは…多大な被害を出したとて不可能。苦しまずに死ねるほうがいいと思うのだけどね」

「余計なお世話というやつじゃよ」

「では余計なお世話ついでに教えてあげる。僕が君たちの攻撃を防げているのは、目には見えない魔力の糸を張り巡らせて、その魔力を感知しているからだよ。

 どんな生き物にも魔力はある。だから素早く動こうが瞬間移動しようが動きは筒抜け、後は攻撃を防いでしまえば…イージーウィンということ」

「なるほどのう…」


 厄介な相手じゃな。

 こちらの行動は感知されている。

 そして、その元凶たる魔力の糸というものは…儂らには見えない。

 ハマハッキからすれば簡単な戦いじゃろうて。


 リナルドとビーチェ、ドーラに視線を向けると、表情が曇り始めている。

 士気が下がった、というやつじゃろう。

 考えたくないが詰みか。


 儂一人であれば、コロニアヴェルデ近郊の杭に長距離転移をすれば助かる。

 しかしそうすれば、こやつはレンゲを追っていくじゃろうし、三人を見捨てた儂に…どういう瞳を向けるかは分からない。

 レンゲの瞳に軽蔑が宿ったら、儂はどうなるんじゃろうな。


 刀を構えよう。

 刀を構える以外、明日を勝ち取る手段はない。


「……?」


 腹を括って、相打ち覚悟で挑もうとした瞬間、上空から何かが落ちてくる。

 あれは……『霜信』!?

 待て、なんでレンゲのハルバードがここにあるんじゃ。

 もしやレンゲが、この周辺に。


「いくら戦ったとて周囲には人っ子一人、増援などいない―――ぐあぁっ!?この重さは何が!?」


 上空から落下してきた霜信は、コツンと軽い音を立ててハマハッキの蜘蛛の下半身に命中する。

 威力自体はハルバードが落ちてきた程度の衝撃で、ハマハッキの装甲なら傷一つ付かない。

 じゃが、あやつの有する魔力に反応して、強烈な重さを与えている。


 ハマハッキの八本ある足は、霜信の与える重量に耐えきれず徐々に開いていき、腹を地面に着けるほどとなった。

 四本腕で持ち上げようにも、あれを持ち上げるには魔力が多すぎるらしく、微塵も動く気配がない。


「くくっ、かかっ!玻璃生式一刀術―――」


 儂が転移をすると、リナルドらも動き出す。

 愛する奥様が作り出した千載一遇の好機を活かすため。


「―――『閃耀』!!」

「くぅ!喧しい!!」


 ハマハッキは必死の形相で魔法を展開して迎撃しようとするが、儂への攻撃はリナルドの魔法によって防がれた。

 項を狙った振り下ろし、その軌道上に腕が現れる。


 かかっ、そんなのは予想通りじゃ。

 切り札は隠しておかないとなあ!?


 振り下ろしている打刀の『霽月《せいげつ》』を足の下に転移させる。

 すると攻撃が腕で止められると思っていたハマハッキは、素っ頓狂な表情になっていた。


 …空間龍術の改《アラタ》メ『固定』。足の下に転移させた霽月を、空中に固定して足場とする。

 よし、踏み込める!


「秘蔵の一振り『光風《こうふう》』!」

「飛び回るだけのハエ風情!」


 空中に留まった儂に対して、ハマハッキは四本腕で掴みかかろうとした瞬間、ビーチェが姿を見せる。

 ビーチェはハマハッキの首を狙って斬撃を繰り出すも、首に装甲を展開されて、短剣は弾かれてしまった。


「あたしは陽動〜、お疲れちゃん」

「……。」


 どこからともなく現れたドーラは、儂を掴もうとしている四本腕を全て切り落とし、期待に満ちた表情を儂に向けてきた。

 良かろう、見せてやるわい。


「玻璃生式一刀術『虹橋《こうきょう》』!」


 虹の弧のように刀を振り上げれば、ハマハッキの脇腹から入った刃が肩に抜ける。

誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。

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