8話 外なる者たち 9
私は街道の方へと視線を向けて、協会職員と商人らしき人たちの一団を探すも、既に姿はなく逃げ果せたのだと理解する。
この後するべきことは、彼らを追って宿場町まで戻り、安全を確保することだろう。
うん、絶対にそうだ!
「はぁ…」
私は、轟音の響く戦場に身体を向けており、今にも足が動いてしまいそうだ。
はっきり言って足手まとい。その自覚はあるし、折角生き残ったというのに死地に向かうような真似はしたくない。
けれども、あの強そうな四人をして倒しきれていないと考えると、私も何かしなくちゃいけない気がする。
「こういう考えは絶対に良くないんだよ。分不相応だ」
死にたくないのにもかかわらず、私の足は自然と動いてしまっていた。
アキラたちの方へ。
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私が低木に身を隠してアキラたちを観察すると、四人ともが満身創痍な状態で、人と蜘蛛の合わさった化け物と戦っていた。
あれは…導師ハマハッキとか呼ばれていた少女だろうか?
アキラが龍から人に姿を変えたけど、逆に人から化け物へと変化することもできる存在とか?
…よく分からないが、あのハマハッキという存在は、四人をしても苦戦する相手らしい。
そういえばビーチェとドーラは、四人組と戦ってるはずなんだけど。
うわぁ…。
私の視線の先には、バラバラに斬り裂かれて転がる亡骸があった。
つまり私たちが逃げて、私が半髑髏と戦っている間に、ビーチェたちは四人を仕留めたわけか。
なんというか、格の違いを思い知らされる。
改めて戦闘の方を確認すると、ハマハッキはドンと構えた状態で四人の攻撃を防いで、魔法のような攻撃で反撃をしている。
アキラたちの攻撃は…私の目で追って理解できる範疇にはない。
というかアキラ以外の三人は、殴ったり武器で攻撃しながら魔法も使っている。
器用というか、なんというか。
魔力がない私にはできないから、もしあの戦い方が普通なのであれば、それ以外の方面で実力を伸ばさないといけない。
大変だ。
しかしどうだろう。アキラたちに対して、ハマハッキは随分と余裕そうに戦っている。
このまま戦い続けて誰かが倒れたら、状況が一気に不利になってしまう気がする。
賢明な判断をするんなら、大人しく逃げるべきだ。
今回の役割は果たしたし、あそこにいる四人ならハマハッキを倒せるかもしれない。
分不相応なことをするべきじゃない。
「やんなっちゃうね、本当」
私は空間龍術『圧縮』を使う。
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儂アキラは焦りを感じていた。
長引いた戦闘を終わらせるだけの光明が見えぬからじゃ。
こんな蜘蛛の化物なぞ、龍の姿であれば一瞬だったはず。
もどかしい感覚は心の内より広がり、汗となって噴き出してくる。
「…くぅ」
ハマハッキの攻撃が炸裂する。
こやつは多種多様な魔法を繰り出す、上位の魔法使いなんじゃろう。その上で、儂ら四人の攻撃を、四本腕で的確に防いでいる。
人に変化するためでもあったが、そもそも世界の壁の穴を抜けるのには、力と身体を削ぎ落とす必要があった。
それはハマハッキも同じじゃろうに、なぜこうも力を付けられておる?
事情に詳しそうなリナルドに聞くべきなんじゃろうが、こやつが生き残れる可能性は…五分五分とも言えん。
それに、レンゲは逃げられたかのう。
ハマハッキが投げ飛ばした外套の一人を、振り切っておるといいんじゃがな。
…儂も変わったのう。
このような闘争の場面、以前なら嬉々として戦い、飽きを散らす糧としていたのに、今では妻を心配し自分が生き残れるかを考えておる。
飽きから逃れたい。その本能は変わらない。
けど、少しずつレンゲの影響を受けているんじゃと、儂は思う。
闘いを楽しむにも、隣に立つレンゲがおらんとのう。
儂以外の三人が同時に攻撃を仕掛ける最中、儂は攻撃のタイミングをワンテンポ遅らせる。
狙うは首筋。転移と同時に斬り込んでみるも、腕によって防がれてしまう。
…本当に厄介じゃ。攻撃を受け止める瞬間だけ、腕の表面には硬い装甲が現れる。
それに加えて、転移しようが気を紛らわせようが、何かを感知して確実に対応してくる。
「そろそろ諦めたらどうかな?僕と君たちじゃ、実力に大きな開きがある。それを今から埋めるのは…多大な被害を出したとて不可能。苦しまずに死ねるほうがいいと思うのだけどね」
「余計なお世話というやつじゃよ」
「では余計なお世話ついでに教えてあげる。僕が君たちの攻撃を防げているのは、目には見えない魔力の糸を張り巡らせて、その魔力を感知しているからだよ。
どんな生き物にも魔力はある。だから素早く動こうが瞬間移動しようが動きは筒抜け、後は攻撃を防いでしまえば…イージーウィンということ」
「なるほどのう…」
厄介な相手じゃな。
こちらの行動は感知されている。
そして、その元凶たる魔力の糸というものは…儂らには見えない。
ハマハッキからすれば簡単な戦いじゃろうて。
リナルドとビーチェ、ドーラに視線を向けると、表情が曇り始めている。
士気が下がった、というやつじゃろう。
考えたくないが詰みか。
儂一人であれば、コロニアヴェルデ近郊の杭に長距離転移をすれば助かる。
しかしそうすれば、こやつはレンゲを追っていくじゃろうし、三人を見捨てた儂に…どういう瞳を向けるかは分からない。
レンゲの瞳に軽蔑が宿ったら、儂はどうなるんじゃろうな。
刀を構えよう。
刀を構える以外、明日を勝ち取る手段はない。
「……?」
腹を括って、相打ち覚悟で挑もうとした瞬間、上空から何かが落ちてくる。
あれは……『霜信』!?
待て、なんでレンゲのハルバードがここにあるんじゃ。
もしやレンゲが、この周辺に。
「いくら戦ったとて周囲には人っ子一人、増援などいない―――ぐあぁっ!?この重さは何が!?」
上空から落下してきた霜信は、コツンと軽い音を立ててハマハッキの蜘蛛の下半身に命中する。
威力自体はハルバードが落ちてきた程度の衝撃で、ハマハッキの装甲なら傷一つ付かない。
じゃが、あやつの有する魔力に反応して、強烈な重さを与えている。
ハマハッキの八本ある足は、霜信の与える重量に耐えきれず徐々に開いていき、腹を地面に着けるほどとなった。
四本腕で持ち上げようにも、あれを持ち上げるには魔力が多すぎるらしく、微塵も動く気配がない。
「くくっ、かかっ!玻璃生式一刀術―――」
儂が転移をすると、リナルドらも動き出す。
愛する奥様が作り出した千載一遇の好機を活かすため。
「―――『閃耀』!!」
「くぅ!喧しい!!」
ハマハッキは必死の形相で魔法を展開して迎撃しようとするが、儂への攻撃はリナルドの魔法によって防がれた。
項を狙った振り下ろし、その軌道上に腕が現れる。
かかっ、そんなのは予想通りじゃ。
切り札は隠しておかないとなあ!?
振り下ろしている打刀の『霽月』を足の下に転移させる。
すると攻撃が腕で止められると思っていたハマハッキは、素っ頓狂な表情になっていた。
…空間龍術の改メ『固定』。足の下に転移させた霽月を、空中に固定して足場とする。
よし、踏み込める!
「秘蔵の一振り『光風』!」
「飛び回るだけのハエ風情!」
空中に留まった儂に対して、ハマハッキは四本腕で掴みかかろうとした瞬間、ビーチェが姿を見せる。
ビーチェはハマハッキの首を狙って斬撃を繰り出すも、首に装甲を展開されて、短剣は弾かれてしまった。
「あたしは陽動〜、お疲れちゃん」
「……。」
どこからともなく現れたドーラは、儂を掴もうとしている四本腕を全て切り落とし、期待に満ちた表情を儂に向けてきた。
良かろう、見せてやるわい。
「玻璃生式一刀術『虹橋』!」
虹の弧のように刀を振り上げれば、ハマハッキの脇腹から入った刃が肩に抜ける。
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