8話 外なる者たち 8
私のハルバード『霜信』はマジックアイテムで、触れた者の魔力に応じて重量に対する感覚が変わる。
もしもあの半髑髏に魔力があって、それを糧に背中から炎を噴出させているなら、このハルバードは重く感じられるはずだ。
実際に身体は傾いていた。
だけどこれをどう活かす?
さっきの縦斬りの威力を見るに、魔力がある相手に威力が高くなるような代物ではない。
ただ、重く感じて持ち上げられないほどなら、押さえ込むには十分だ。
「…!?」
遠方で轟音が響き渡り、その後にもう一度響いた。
方角的にアキラたちのいる場所だと思う。
あっちはあっちで派手にやっているみたいだ。
二回の攻撃が敵味方のどっちから放たれたのか、それは気になるところだけど、今は集中を欠いている余裕はない。
半髑髏がこちらに走ってきて、大振りで大雑把な攻撃を繰り出してくる。
私が言えたことではないけど、素人同然の攻撃で、武術に長ける人であれば簡単に躱せるんだろう。
まあ、私は四苦八苦しているんだけど!
「うわっ!?というか、この半髑髏の近く、暑すぎるって!!」
形振り構っていられない私は、全力疾走で野を駆けて敵から逃げる。
近接戦闘の駆け引きなんて知ったこっちゃない!
誰か教えてくれ!
息も絶え絶えになりながら走っていると、轟音が響き渡った影響なのか、森の方からタイラントベアまで姿を見せていて、二つの眼で私を捉えていた。
運が悪いなんてもんじゃない。そう言いたいところだったけど、私は横への方向転換をしながら、そのタイラントベア目掛けて『圧縮』を利用し距離を縮める。
「グオオォォオン!!」
いきなり私の真横に引きずり出されたタイラントベアは、猛々しい咆哮を上げてから、圧縮の範囲から飛び出す。
そこで解放を使って元に戻し、私は全力疾走を続ける。
「関係ないところ悪いけど、強い者同士で時間を潰しててよ!」
私を追いかけるのは、半髑髏とタイラントベア。
その両者が距離を縮めると、勝手に互いが敵対し合って、戦闘をおっ始めた。
かなり危険な賭けだったけど上手くいった。
…上手くいったけど、同じことは絶対しない。私の心臓は蚤より小さいもんでね。
私は今みたいに全力疾走をしたり、熱心に鍛錬を積むような武芸者じゃない。
慣れないことをしたツケは、意外と早くに取り立てに来て、足がもつれては派手にすっ転ぶ。
「へぶっ!!」
ごろごろと地面を転がり、視界が回らなくなったかと思えば、青空が広がっている。
今日もいい天気、長閑だねぇ〜。
…殴り合う音と、何かが焦げるような臭いがしなければ、の話だけど。
身体を回転させて俯せの姿勢を取ると、半髑髏とタイラントベアが戦っている様子が確認できる。
攻撃としては、タイラントベアの方が洗練されているのかもしれないけど、単純な硬さと背中から噴き出る火柱とで、半髑髏が有利なのかもしれない。
「すぅー…はぁー…、よし」
前と比べて、空間龍術を使える回数は増えている。
魔力がなくなり龍気を生み出している影響だ。
しかし、私自身も龍気の限界というのが分からなくなってしまっている。
あと何度使える?
龍気が減ると疲労で動きが鈍くなったりする?
今その検証をしている余裕はない。使える分だけ、全部使ってでも、この状況を打開しないといけないんだ。
さっきの傾きっぷりから、半髑髏の感じている重量はかなりのものだろう。
なんせフェラルドッグが千切れ飛ぶほどの威力で攻撃したのに、それを軽々と弾き飛ばすほどの頑強さを備えているんだ。
…となれば、このハルバードを上に置ければ、それだけで動きを止められるのでは?
ただ、それだけだったら、藻掻いた拍子に落ちてしまうかもしれない。
もっと確実に動けなくするには。
何か、新たな閃きがないかと周囲を探っていると、遠方に溶けた大岩が見えた。
あれは異常なタイラントベアが、その炎で灼いた痕跡だと私は思っている。
「火を噴く山には、溶けた岩が川のように流れる。それらはいずれ冷えて固まり、再び岩となる」
実際に見たことのない、聞いただけの話。
けれども、一縷でも望みがあるなら縋ってみるのもいいかもしれない。
駄目で元々、力の差は歴然。
卑怯だろうが、コスかろうが、弱者なりに戦わせてもらうよ。
私が起き上がると、タイラントベアが焼き殺され、地面に横たわる。
私たちの戦いに勝手に巻き込んで悪かったね。
でも魔獣は駆除対象だから、恨まないでよね。
私はハルバードの前後をくるりと回し、突起を前にしてから半髑髏を引き寄せる。
そして、突起の部分が首のあたりに引っかかるようにしてから、思いっきり体重をかけてやる。
すると、半髑髏の膝がガクンと曲がってから、姿勢が崩れて仰向けに倒れちまった。
「暑っついなあ、まったく!!」
私は肉が焼けるような熱気から逃げるように距離を置いて半髑髏を確かめれば、その姿は灰吹きに載せられた亀の子。
ひっくり返って手足をばたつかせる姿は、なんともまあ情けない有様であった。
ハルバードに押し潰されている半髑髏の場所を確かめながら位置の調整を行う。
「ここでいいかな。よし、始めようじゃないか。どこの誰かは知らんけどね、冒涜されたあんたを弔ってやる。ちと苦しいだろうけど、ろくでなしに使われるよりはマシだろうよ!」
私は、半髑髏の手前にある地面を無理繰り引き寄せて、穴を開ける。
次は膝くらいまで盛り上がった土山に登って、空いた穴凹の地面を引き寄せて穴を深くする。
それを何度も繰り返し、深い穴を掘り終えた私は、その縁まで降りていき、半髑髏を引き寄せて穴に落とす。
ハルバードから解放された半髑髏は、穴から出ようと藻掻いているも、簡単に出られるような深さではない。
「これは墓石だよ。うぐ……こっちに来なってんだよ!!」
頭の血管がはち切れそうな感覚を味わいながら、街道沿いの大岩を引き寄せて、大穴に落としてやる。
すると半髑髏は大岩を破壊しようと攻撃を繰り返したり、火柱を勢いよく噴出させているようだ。
赤く黄色く白く変色していった大岩は、次第に形が曖昧になっていき、煮えたぎる液体のような姿に変わっていった。
これが灼ける岩なんだろうか。
正直、耐えきれないほどの熱気が私にも伝わってきていて、これ以上の様子見はできそうもない。
私は、盛り上げられていた土を引き寄せ、穴を埋めてやると半髑髏の動く音は聞こえなくなった。
勝ったのかどうかは分からない。
けれども、協会職員たちは逃がせたし、半髑髏の動きを止めることができた。
素人にしては十分な成果だろう。
「…どうしようかね」
私は、アキラたちのいる方へと視線を向ける。
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