8話 外なる者たち 7
私レンゲは、街道まで一直線になる位置取りをしてから、空間龍術『圧縮』を使って協会職員と一緒に短時間で移動する。
街道付近で周囲を見回すと、荷馬車の商人風の男と、冒険者が二人ほど歩いている。
これは好機と圧縮をしようとしたのだが、後方で響く轟音に中断をせざるを得なかった。
「何が…?」
「外套の一人が、来ているようです」
「え?かなりの距離を一瞬で移動したんですけど!?」
これは拙いと、私の本能が告げている。
振り返った先にいるのは、外套が斬り裂かれ、なにやら緑色の何か、多分緑色の外殻が露出した人型の何かだった。
私一人逃げるだけだったら、圧縮と解放を繰り返すだけで速度と距離を稼げる。
けれど、この二人と一緒にとなると、若干手間取ってしまう。
相手次第ではあるけど、逃げ切るのは難しいかもしれない。
考えが一つ頭をよぎる。
馬鹿げてて自惚れた考えだ。
だけど私一人が逃げたところで、勝手が分からないんだ。博打を打つなら分の良い方に賭けたい。
「私が殿を務めます。お二人を飛ばすので、あの商人っぽい人たちと一緒に逃げてください」
「レンゲさんはまだ…」
「分かっています!これが蛮勇だって!でも、よく分かんないですけど、緊急事態なんですよね!?じゃあやることをやんなくちゃ、取り返しの付かないことになるんですよ!」
私は商人の近くの空間に圧縮を使い、協会職員たちをそこに押し込む。
「私に何かあったら、アキラ様に伝えてください。貴女の妻は阿呆だったと、あと…短い間でしたが悪くない生活でしたと」
小っ恥ずかしくなった私は、協会職員たちの返事を聞かずに解放を使う。
本当に馬鹿げてる!私は死にたくなんかないし、強敵と戦いたいなんて願望も一切ない!
誰かのために、何でもない赤の他人のために命を投げ出すなんて、正気の沙汰じゃないのに!
「うぅ〜、なんでこんなことをぉ…」
泣き出したい、地団駄を踏みたい。
けれど私は、外套の人型を睨めつけながら、ハルバードを構える。
「私は、死にたくない!」
大声を上げて相手を威嚇してみるも、外套の人型はこれといった変化がなく、ゆっくりと歩き出した。
「な、なんか言ったらどうなんですか!?こっちは…武器!そう、ハルバードを持っているんですよ!?」
「…。」
何だコイツ、全く反応しない?
話が通じるなら、まだ交渉とかの余地があったかもしれないのに。
聞かん坊め!
私は心の内で悪態をつきながら、何もない場所にハルバードを振るい、軌道上に相手を引き寄せる。
力一杯に振るったハルバードは、普通の人間なら上半身と下半身がおさらばだ。
人斬りになりたかないけど、こちとら死ぬわけにはいかないんだ。あんたには死んでもらう―――
「―――え?」
全身全霊でハルバードを振った。
私の予想では、緑色の外殻ごと胴体を断ち切って、この場を収められる気でいた。
だけども予想に反して相手は硬く、振るった力の分だけ衝撃が私に返ってきてしまい、私自身が吹き飛ばされる結果となった。
ごろごろと地面を転がり、もらったメイド服を土と草だらけにしていると、外殻の人型、その背中からは火柱が立ち上がって外套を燃やしていった。
「な、何あれ…?」
驚きを他所に、私はすぐさま理解できた。
あれは姿を消した御者の亡骸だ。
身体の多くが骨になり、ところどころに肉が残ったような。
しかしながら、その全身は緑色の外殻で覆われており、外殻で鍍金された亡骸とでもいうべきだろうか。
ヴィジターだか、ダンジョン解放戦線だか知らないけど、人の死をも冒涜するとはろくでもない輩だね。
しかし―――
「―――なな、なんで亡骸が動くんだよ!半分髑髏みたいなもんじゃないか!」
「…。」
話が通じないわけだ!
あーもう、あんな硬い相手を私はどうしたらいいんだ!?
人でないこと、人斬りにならないことは喜ぶべきではあるけども…。
ゆらゆらと歩いていた半髑髏は、眼球の収まっていない眼窩で私を見つめると、身体を屈めてから一気に駆け出してくる。
速度としてはフェラルドッグ未満だけど、それでも私が対処するには困るほどの速さ。
私は立ち上がりながら圧縮を使い、半髑髏の斜め後方に移動する。
すると半髑髏は、私を見失ったようで周りをゆっくりと見回している。
緑色の強固な外殻で覆われた骨と腐肉。
アキラと協力して倒したタイラントベアと同じように倒せるなら、それが一番。だけど、既に死んでいる相手をどうやって倒したらいいんだろうか?
骨を全て砕く?
それとも火葬する?
いや、背中から火柱が立っているところを見るに、火は効かなそう。
全身を砕くには、私の膂力は足りていない。
犬や熊なら、知っている生き物の延長だけど、動く髑髏なんてどうしたらいいか分からない。
とりあえず…協会職員たちが逃げ切れて、この半髑髏を動けなくすることを優先しよう。
私にできることは、ハルバード『霜信』を振るうことと、空間龍術『圧縮』と『解放』。
まずはもう一度、半髑髏がこちらに気がついてない内に、ハルバードでぶっ叩いてしまおう。
私が頭上高くにハルバードを振り上げ、半髑髏の頭部目掛けて振り下ろすと、鈍い音と共に振動が私の身体を伝わる。
頭蓋骨を砕くことはできず、頭蓋の表面を伝って滑った刃が相手の肩に命中すると、斧の部分が当たっている方へと身体が傾いていた。
「なる、ほど?」
背中にある突起から炎が噴き出した瞬間、私は後ろに飛び退いて作戦を練る。
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