8話 外なる者たち 6
私リナルドは、両手に手袋をはめて、軽く準備運動をする。
相手は外来主。この“どこ”から来たかも分からない女性と一緒でも、手に余る相手でしょう。
レンゲさんを未亡人にしてしまうわけにはいきませんが、ハマハッキとやらと対峙するだけで手一杯。
自分の身は自分で守ってもらいたいものです。
「齢六十七、この歳になってまで、外なる化け物と対峙しないといけないとは、ひどい人生です」
「かかっ、六〇そこらで人生を悲観するとは、大したことのない童じゃのう」
「申告上のアキラさんは、二十一歳とのことですが」
「申告上は、な」
私の長年の勘が告げています。
このアキラ・ハリュウという存在は、人種族ではないと。
…外来主の一体でしょうね。
しかし、外来主でありながら傲岸不遜でなく、明らかに人間であるレンゲさんと婚姻関係にあるという。
妻である彼女の影響か、それともこの個体が穏やかなのかは分かりませんが、人種族に敵対せず、人に埋もれて生きるのであれば、問題はありません。
せめて役に立ってください。
「僕たちの活動が、冒険者協会や共和国軍に見つかっても困る。まだ可愛い愛弟子たちの『魔導融合』の成果物すら見れていない。あの三人は始末させてもらうよ」
「させると思うか?」
「なぁに、僕が手を下すわけじゃない。弱っちそうな三人なら、十分な材料があるんだ」
不敵な笑みを浮かべたハマハッキが外套の内側で不審な動きを始めると、その身体は異常に膨れ上がり、下半身が蜘蛛のように変貌した。
外套を外せば、上半身に腕が四本。
気味の悪い化け物ですね。
ハマハッキが残った一人の人物に近寄ると、四本腕で持ち上げて、勢いよく放り投げる。
アキラさんが空中に転移し、剣での対処を試みるも、外套が破れた程度で勢いは死なず、レンゲさんたちの方へと飛んでいってしまいました。
「リナルド、状況が変わった。あの蜘蛛女をさっさと倒すぞ」
「ええ。誰一人として、死なせるわけにはいきませんから」
私の人生において、外来主との交戦は二度ありました。
一度目は戦友たちを失い。
二度目は妻と師を失った。
…今回は私の番でしょうかね。
まずは魔法陣を展開。
身体全体に強化魔法を付与して、戦闘能力の底上げを行う。
次に魔法のストック。
いくつかの魔法陣を体内に展開しておき、必要に応じて発動できるだけの備えをする。
これでも準備不足。
ルーチェリングのお二人があちらを早く片付け、こちらの応援に参じてくれることを祈りましょうか。
「では行きますよ」
「おう」
まずは私が踏み込んで、ハマハッキの上半身へと拳をねじ込む。
しかしながら、二本の腕で攻撃を受け止められ、相手の頭上に眩い光が見えました。
私が回避行動をすると、先ほどまでいた場所は地面が熱で溶けており、高威力の攻撃が繰り出されたことを悟る。
もう一度踏み込んで拳を振るうと、タイミングを計ったかのようにアキラさんが転移で姿を現し、同時攻撃を行う。
それでも、私たちの攻撃は軽々と受け止められて、次は雷撃が放たれる。
私は念のため、アキラさんに向けて防御魔法の準備を行うも、彼女はすぐさま空間魔法で移動し、次の攻撃へと移っていく。
卓越した戦闘技術も、戦闘慣れしているとも言い難いのですが、彼女には実力以上の何かがあるように思えますね。
私はアキラさんに注意を払いながらも、相手の攻撃を躱し次の攻撃を叩き込む。
二人での攻撃を繰り返しているものの、ハマハッキへの有効打は一切なく、こちらの体力が消耗していくばかり。
相手の魔法に関しても、あえて頻度を下げているかのような雰囲気すら感じ取れます。
…時間と体力を無駄に浪費するべきではありませんね。
私は保留にしていた魔法陣をいくつも組み合わせ、一つの魔法として完成させる。
「…魔法陣解放『ウラガーノボルト』!」
「複合式魔法陣と。受けてあげようじゃないか」
「アキラさんは退避を!」
「承知した!」
ストックした魔法陣の半数を使って組み上げたウラガーノボルト。本職の魔法使いには劣りますが、それでも上位魔法と同じ土台にあります。
避ける様子も防ぐ様子もないのなら、その半身はいただきます。
私の頭上に現れたのは、暴風を纏いし雷の槍。
集中力を欠けば、暴発しそうなそれをハマハッキに向かって射出する。
地面をも抉りながら突き進んだウラガーノボルトは、ハマハッキに命中しました。
「…ちっ」
そう、命中しました。直撃です。
ですが、ハマハッキは上位魔法を受けたのにもかかわらず、傷の一切を負うことなく余裕に満ちた表情で、私を見下していた。
「それでは僕の力もお見せしよう。『魔導融合』…そう、名前は『雷神槍』!」
私の顔が引きつる。
ハマハッキが何をしたのかは理解できません。
ただ、腕の一本を長く伸ばして変容させれば、それは雷と嵐の槍となっていました。
魔力炉の核のような見た目と性質をもったタイラントベア。
そしてルーチェリングの二人が対応している、橄欖石の鎧を纏ったような四人組。
なるほど…。それらの元凶は、このハマハッキだったわけですか。
「ええっと、なんだったっけ?あー『ウラガーノボルト』っ!」
変容させた腕での、ただの一突き。
そんな簡単な一撃でさえ、上位魔法と肩を並べてしまうほどの威力に達していた、外来主に私は呆けることしかできませんでした。
今まで戦った相手は、外来主の中でも弱い個体だったのだと、理解もできてしまう。
「何を呆けている童。やる気がないなら、遠い彼方にでも飛ばしてやろうか?」
「何を!?」
アキラさんが私の隣に現れると、彼女は私に触れてから転移を行う。
ハマハッキから少し離れた、彼女の後方に。
「ブンブンブン、ハエが飛ぶ。君は何者かな?」
「かっかっか!儂はアキラ・ハリュウ、龍の亜獣人じゃよ!」
「そういう、表面的な部分はどうでもいいのだけど」
「今は上っ面が全てじゃよ」
なんとも…恐れ知らずな冒険者ですね。
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