8話 外なる者たち 5
数日して私たちは大岩に辿り着き、先へと進む。
馬車と御者は宿場町で待機し、リナルドを含む協会職員三名と、私たち冒険者四人での行動となっている。
しばらく進むと、御者と思しき亡骸があった場所なのだが、その場所には何もなく、ほんのりと鼻腔を刺激する嫌な臭いが漂うのみであった。
「腐敗臭の残留があるし、ここに死体があったのは確かだと思うんだけどなー…」
動物の食害といっても限度がある。
こんな綺麗になくなるのは、人為的なものだろう。
誰かが亡骸を弔うために回収したか、はたまたそれ以外の何かか。
私は周囲を観察しながら、足を進める。
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「うーわ、先客。嫌な予感しかしないよ。リナ翁、相手の生き死にはどうしますー?」
「全員生きた状態が好ましいです」
「はーい」
馬車の残骸やら馬の骨やらがあった野営地。
そこにはパッと見ただけで六人の人影があり、それらは外套をまとって、頭巾のように深く被っていた。
そんな様子を見たビーチェとドーラは、いつでも戦えるよう短剣を両手に構え、短剣に着けられている鈴がチリンと鳴る。
「異常なタイラントベアの依頼を出したんですよね?その討伐に来た冒険者ってことは?」
「その可能性は否定できませんが、痕跡のある場所に都合よく怪し気な人物がいると思いますか?」
「それはそうですが…」
「警戒は最も簡単な自衛手段ですよ」
リナルドの言葉に頷き、私は一歩下がって協会職員たちと並ぶ。
私の扱いは非戦闘員の冒険者ということらしい。
「おーい、そこの不審者。武装解除するなら痛い目に遭わないで済むが、どうする?」
ビーチェが威圧的に声をかけると、四人が武器を構え始め、一人が一歩退く。そして、残った一人は、ゆらゆらと揺れるばかりで、これといった動きはない。
「一応伝えておくけどー、こっちは冒険者で、とある事件を追っている。下手に動けば命はないと思うように」
外套の一団、武器を構えた四人は怯む様子もなく駆け出し、ビーチェに襲いかかる。
チリン。と鈴の音が鳴ったかと思えば、ビーチェが握っていた短剣は投げられており、先頭を走っていた一人の足に突き刺さっていた。
私が驚きを露わにしていると、既にビーチェの姿はなく、次の相手へと距離を詰めている。
「速い…」
ただ、外套たちも反応はしたようで、ビーチェに対し三人で対処をするのだが、刃が空を斬る音が響く。
「……。」
ビーチェを狙った者たちの一人の足を、ドーラが斬り裂いていたのだ。
飛び散る鮮血を躱すように走り去り、両手の短剣を投擲すると、それらは残り二人の足に突き刺さり、彼らは足を止めてしまう。
チリン。と鈴の音が鳴り意識がそちらに向かった瞬間、ビーチェは近くにいた一人の顔面を蹴飛ばし、武器を握る腕の腱を斬り裂いて武装解除させた。
「無駄な抵抗は、無駄な痛みを生むだけだよ」
ルーチェリングの二人が僅かな間に制圧しきると、アキラは少し引いた表情をしていた。
「ありゃ手慣れておるな」
「冒険者の仕事というのは多種多様ですから。まあ、本職の狩人に比べれば温いですが」
追われることのない生活をしよう。
さて、外套の一団のうち四人は制圧され、残りは戦闘に参加していない二人のみ。
けれど、逃げる様子も狼狽える様子もなく、ゆらゆらと揺れる一人は、覚束ない足取りでその場を動くのみである。
「弱くない、手堅い人選だと思ったんだけど、相手が高ランクの冒険者となると話は別かな」
一歩退いたきり動かなかった外套の一人は、やれやれと肩をすくめるような動きを見せてから、頭に被っていた布を下ろす。
その顔は異形というのに相応しいもので、人の顔でありながら、額に二つの目がある四つ目の少女で、余裕のある笑みを浮かべながら、二本の牙を見せつけている。
「やはり外来主ですか。出向いて正解でしたね」
「アレが外来主、ですか。ドーラ、下がるよ」
「…。」
ビーチェとドーラは短剣を回収して、こちらに戻ってくる。
あの少女は、それだけの存在なんだろうか。
「ヴィジターとはなんじゃ?」
「外なる世界から来訪した、強大な力を有した存在です。歴史上を漁れば何度か名前を見かけることのできる、世界の癌ともなり得る存在ですよ」
「くひっ、嫌な言い方。僕たちは正しい手順を踏んで、この穴だらけの世界にやってきているんだよ。…そもそも、一纏めにされるのも不愉快なんだけど」
異なる世界から現れた存在。
それには覚えがある。アキラと私だ。
「あーあ、愛弟子たちの実習成果を見に来たというのに、こんな面倒なお犬さんたちに出会ってしまうなんて運がない。
可愛い愛弟子ちゃん、僕の与えた力を使っていいから、そっちのウサギ二匹をお願い。僕はこっちの、老いた人間を狩るから」
「はっ!導師ハマハッキの命とあれば!」
「正しき平等なる理想のため、我らは導師のために戦います!」
「よろしい。僕たちが目指すのは平等なる世界、討ち滅ぼすのは不平等の番犬たち。くひひっ、さあ、狩りの時間だよ」
足を斬られ、地面に伏せていた者たちが立ち上がると、背中から炎を噴き出して外套を燃やす。
燃え尽きた外套の内より現れたのは、渋い緑色の外殻を纏った人間で、その外殻は範囲が広がり、全身を覆っていった。
しかしその姿は、ただの外殻に覆われた人間ではなく、精緻な鎧を身に纏った戦士に近いだろうか。
タイラントベアと比べて…完成度が高いと、私は思った。
「ルーチェリングの二人は、鎧を纏った四人の対処を」
「はい」
「…。」
ドーラは頷く。
「私と…アキラさんであの化け物の対処をします」
「儂もか?」
「私一人では死にに行くようなものです。…貴女が生き残れる保証はありませんが」
「…はぁ、仕方あるまい。報酬を弾むようにな」
最後に、リナルドの視線が私と職員たちに向く。
「レンゲさんは職員二人を護衛して宿場町まで戻ってください。二人は到着し次第、冒険者協会へ連絡し、緊急事態への対応をマニュアル通りにお願いします」
「は、はい」
「承知しました」
「ご武運を」
私は役立たずだろうから、この場を離れられるのは助かる。
けれども、アキラと離れてしまうのが気がかりだ。
「アキラ様、絶対に死なないでください。私も一人になったら…飽きで死んでしまいそうですし」
「くくっ、分かっとるわい」
私は職員たちと足並みを揃えて戦場を離れる。
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