8話 外なる者たち 3
幌付きの馬車は二台。
雇われの御者が二名に、冒険者協会の職員がリナルドを含めて三人。
冒険者は『ルーチェリング』のビーチェとドーラ、そして私とアキラ。
総勢九人の大所帯で移動を開始する。
道中の街道では、フェラルドッグのような魔獣が姿を現していたのだが、ルーチェリングの二人や、アキラが即座に対応しているせいか、これといった脅威はない。
何もない時は、馬車の荷台でドーラと話をしながら過ごしていたりと、気楽な旅といって差し支えないと思う。
馬車は一刻弱ほど進む度、歩き続けた馬を休憩させる必要がある。
そんな休憩時間に、私は戦闘に駆り出されることとなる。
「私も戦うんですか?」
「うん。レンゲの実力も見とかないと、大規模な戦闘になった際の立ち位置を考えられないから。リナ翁ー、あたしが戦闘関連のリーダーってことでいいですよね?」
「はい。現役のベアトリーチェさんにお任せします」
ビーチェの本名はベアトリーチェで、ドーラの本名はイサドーラというらしい。
短くて楽だし、これからも愛称で呼ばせてもらおう。
「予防線を張らせてもらいますが、戦闘なんてしたことがないド素人です。…アキラ様に近くにいてもらってもいいですか?」
「それくらいなら問題ないよ」
「それじゃアキラ様、行きましょうか」
「何かあったら、儂が助けてやる。ドンと構えて挑むがいい」
私はハルバード、霜信の柄を握りながら、おっかなびっくり馬車を離れて、遠くに見えるフェラルドッグに向けて足を進める。
さて、私はどうやって戦うべきなんだろうか。
武術を習ったことなんてないし、訓練所でやってた訓練なんて、木のハルバードで素振りをしていただけ。
アキラの使う刀や、ルーチェリングの二人が使う短剣と比べれば、私のハルバードは武器自体が長く、比較的安全に立ち回れるんだけど。
怖いものは怖い。
私が挑むべきフェラルドッグは二匹。
単身で突撃して対処できるかと聞かれたら、不安が残る。
…ちょっとこすい手を使おうかな。
「ふぅ…」
フェラルドッグはこちらに気が付き、警戒を露わにしながらも、こちらに向かってくる意志を見せた。
私は腰を落とし、重心を低くしてからハルバードを構え、まるで目の前に敵がいるかのように、何もいない場所に向かって振りかぶる。
ハルバードを振っている最中、私はフェラルドッグ一匹を目標に空間龍術『圧縮』を使って、ハルバードの軌道上に引き寄せ、そのまま攻撃を受けてもらう。
羽根のように軽いハルバード。
しかし実際は、それなりの重量のある長物武器。
全力で振られたハルバードに命中したフェラルドッグは、頭を吹き飛ばされて絶命した。
「おぉ、上手くいった…」
「圧縮を用いた攻撃か。知らなければ絶対に躱せない技じゃな」
「良くないですか?」
「うむ、いいと思うぞ。レンゲの龍気が鍛えることで増えるかはまだ分からんが、使うことで馴染むことや、根が深くなることは十分にありえるじゃろう。何事も挑戦じゃな!」
カラカラと笑うアキラの声を背に受けながら、残り一匹のフェラルドッグと対峙する。
本来なら槍先に斧の付いているこの武器は、重心の位置から扱いが難しいとされている。
けれど、魔力がなくなった影響で、このハルバードは羽根のように軽く感じられる私からしたら関係がない。
槍先をフェラルドッグに向け、その構えを維持しながらフェラルドッグの接近を待つ。
フェラルドッグは、他の冒険者からしたら大したことのない相手なのかもしれないけど、私からすれば汗が滲むほどの強敵だ。
真っ直ぐにこっちに駆けてきたフェラルドッグに対し、私はハルバードで突きをお見舞いする。
「バウ!」
「なっ!」
私の繰り出した突きは、フェラルドッグによって軽々と躱され、懐に入られそうになる。
咄嗟の判断で後ろに飛び退いた私は、ハルバードを引き戻してから振り回す。
「う、わぁああっ!!」
無闇矢鱈に振り回したハルバードに、フェラルドッグは慄いたのか、一旦様子見することにしたようだ。
乱れる息を整えながらハルバードを構え直し、突きを入れられるだけの距離までにじり寄る。
「こ、ここで退くのなら大目に見てあげますよ!」
「グルル…」
「魔獣相手に話しかけたとて意味はないじゃろう…」
「わわ、わかってますって!」
「儂が対処してやろうか?」
「邪魔、しないでください」
「かかっ、レンゲはそうでないとのう!」
こんな相手、アキラなら一捻りだ。
もしも私が守られるだけの妻で、その立場に甘んじ続けるなら、任せてしまうのが一番だ。
だけども、それは私の欲する路なんかじゃない。
私はハルバードの柄を固く握り、フェラルドッグに向かって走り出す。
さっきは龍術を使った戦い方。奇襲という点では優秀だったし、私の中では大成功だ。
今回は龍術に頼らずに挑む。
常に龍術が使えるとも限らないからだ。
刺突の届く範囲にフェラルドッグを捉えてから、私はハルバードを突き出す。
しかし、動きの速いフェラルドッグは、攻撃を軽々と躱して私の懐に入ろうとする。
長物武器の弱点はきっと…間合いとかいう範囲の内側に入られてしまうことなんだと思う。
槍と斧、そして突起。それらでは対処できない内側に入られれば、柄で殴るだけの扱い辛い棒でしかない。
私は無理繰りハルバードを引き寄せ、斧の付近を握ってから、近づいてきたフェラルドッグ目掛けて振り被れば、斧先が胴体に命中して相手が吹き飛んでいく。
まるで鬼の怪力をも思わせるような、豪快な吹き飛びっぷりだ。
地面を転がったフェラルドッグは、全身がボロ雑巾かと思うほどに損傷したうえで、ハルバードによる傷からの出血で絶命した。
「ふぅ…はぁ…」
私は無事に敵を倒せたことを安堵しながら深呼吸をし、しゃがみ込んだ。
「お疲れ様じゃ。戦いの感覚は掴めたか?」
「必死すぎて、それどころじゃなかったですよ…」
まだまだ並の冒険者になるには、道程が長そうだ。
誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。




