7話 報告 4
「あー、どうもお久しぶりです」
「貴女方は…F級の」
「ご無沙汰しております」
後ろにいる鍛冶互助組合の職員に視線を向けた老職員は、私に視線を戻してから胡乱な瞳を向けてきた。
あれこれ意味のない言葉を飾って、睨まれでもしたら骨折り損だ。単刀直入に伝えて終わらせてしまおう。
「三日ほど前に出されたという依頼『異常なタイラントベアの討伐』を達成しました。そしてその原因の調査も行ってきました」
「……。」
老職員は怪訝な顔で私を見下ろしていた。
私が順を追って説明していくと、御者の亡骸を発見したところ辺りで別室に移動するように言われ、タイラントベアも出したいと伝えたところ、大きめの一室に案内された。
室内ということもあり、床には大きなツルツルとした布が敷かれて、私は説明を再開した。
協会職員も二名ほど増え、彼らはあれこれ話し合いながら、私の説明を聞き終えるのであった。
「そしてこちらがタイラントベアとなります。アキラ様、お願いします」
「おう」
銀蔵からタイラントベアを取り出すと、協会職員たちは食い入るように観察を始め、剥がれそうな外殻を手に取り、魔導具のようなものでの調査をしている。
「偽装された死骸ではありませんし、あの冒険者の推測も、的外れとは思えませんね」
「しかし、この手口は…厄介ですね」
「予想はしていましたが、やはりこの地にも目をつけたということでしょうかね」
「焼け焦げた冒険者証をお見せください」
「どうぞ」
「これは…偽装の冒険者証ではありませんね。焚き火に残っていたとおっしゃいましたよね?」
「はい。棒で掻き回したら出てきまして」
「では、乗っ取りでしょう」
あれこれと話し合う協会職員たちは、この事態を既知のものとして扱っており、もしかしたら犯人たちを知っているのかもしれない。
とはいえ、その犯人を捕まえたり、事件を解決したりするのは私たちの仕事じゃない。
本職に任せるのが一番だろう。
「これは御者と思しき亡骸の側にあった銭入れで、あと木箱も証拠として提供します」
「ありがとうございます」
「それで討伐の報酬って、私たちはもらえるんでしょうか?受けて倒したわけではありませんし、もしかしたら別の個体がいる可能性もありますけど」
「それに関しては問題ありません。一頭につき四〇〇〇ヴェロと提示しておりますゆえ、今回は満額の四〇〇〇ヴェロに加え、死骸の回収報酬として一〇〇〇ヴェロ。…あとは、調査協力金もお渡しして問題ありませんよね、職長?」
「ええ、五〇〇ヴェロを差し上げましょう」
職長と呼ばれたのは老職員だ。
それにしても合計で五五〇〇ヴェロ!
なかなかのお金持ちじゃないか!
この金額だけでも、宿を少し良い場所にして、食事も少し良いものとして、私とアキラで一日二〇〇ヴェロほど使っても、二〇日以上の余裕がある!
それにコロニアヴェルデでの食事は同じものばかりだったから、異国ならではの色んなものを食べてみたい。
ちょっとワクワクしてきた。
精一杯、旅の疲れを癒そう!
ただ、本質は節制。
無駄遣いをし続けたら、村の老人たちみたいになっちまう。銭はしっかりと蓄えて、いつでも心に余裕をもって行動できるようにしようじゃないか。
「それじゃあ私たちは報告も終えましたし、これで帰らせてもらいます。冒険者の起こした犯罪で、その被害に遭ったのが鍛冶互助組合とフォルツァカーヴァ総合工房です。
当事者同士の穏やかな話し合いと、早めの解決をお祈りしております」
私が踵を返して歩き出すと、肩を力強く掴まれ、身体の向きを直されてしまう。
「貴女方は重要参考人です。まずは調査地への案内と、調査への協力をお願いします」
老職員は穏やかな笑みの中に、強烈な意志の力を感じ取れる。私たちを逃がす気はないらしい。
「じゃ、じゃあ…出発は三日後くらいでいかがでしょう?」
「何を言っているのですか?明日の早朝、朝一番に出発をいたしますよ」
「あ、アキラ様!私たちの休日が危険です!」
「ふむ。儂らはちと休みたいんじゃがな?」
「貴女方の目標は知りませんが、コロニアヴェルデにいる以上はダンジョンを目的としているのでしょう?冒険者協会からの直接依頼を受けるというのは、ランクを上げるのには好都合だとお教えしておきます」
「ランクアップのう…」
アキラの視線が私に向けられる。
ダンジョン。
そこがどんな場所かは分からないが、稼げる場所でありアキラの退屈しない場所なのだろう。
「では。…私たちはC級とD級が二人ずつの徒党が逃げ出すほどの相手を倒しました。…私自身の実力は未熟だとは思いますが、妻の実力は申し分ないと思います。
そして、私たちは依頼に真摯に向き合い、よりよい結果を残そうと励んでおります。それこそ、初めての依頼である『劇団の客引き』の評判を聞いてもらえれば、証拠ともなりましょう。
依頼の達成数が足りないのは重々承知しておりますが、その上で提案させてください。協力報酬としてD級へのランクアップを」
職員たちの眼差しが険しいものとなる。
当然だろう。私は冒険者協会が設けた枠組みから外れようとしているんだ、管理側からしたら厄介者でしかない。
ただ、これは交渉の材料だ。
これに難色を示すだろうから、ここから即時E級へのランクアップなどを約束してもらって―――
「良いでしょう。では調査への協力を終えた後はD級にランクアップとします」
「へっ?」
「しかし、ダンジョンへ行く前には冒険者協会の主催する講習の受講と、ダンジョン外での討伐依頼の受注を義務付けさせていただきます。貴女方の実力が足りているかの見極めということで」
「は?」
「こればかりは譲れません。貴女方の依頼達成状況は手元にあるのですが、街の中でのこぢんまりとしたものばかり。今回も野良の依頼での達成となりますので」
「いや、そうじゃなくて…。飛び級はいいの、ですか?」
「だいたいは市民権持ちで、実力と素行を保証できる方に限定していますが、貴女方であれば問題はないと私は考えております」
ゆっくりとアキラの方に向くと、口端をわずかに上げている。
やる気満々だ。
口から出した言葉は呑み込めない。
はぁ…、なってしまうのか、D級に。
心の準備もできていないのに。
私は天井を仰ぎ、小さな染みを数えて現実逃避をした。
誤字脱字がありましたらご報告いただけると助かります。




