7話 報告 3
「デマルテル鍛冶店に寄ってもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。カミッラちゃんも親父さんも困っている一人ですからね」
私たちが最初に依頼を受けたのは、カミッラからだ。
タイラントベアの件やら冒険者のことを協会に報告することも重要ではあるが、この一連の依頼のきっかけとなった彼女への報告は早く済ませたい。
しばらく歩き、そろそろ夕方という頃。
デマルテル鍛冶店に辿り着くと、店じまいの準備をしているカミッラと目が合った。
「おっレンゲとアキラだ、しっかり生きてたんだ」
「死んだことにしないでくださいよ」
「ははっ、半日の散歩が二〇日の旅になったって聞いて、心配してたんよ。半分くらいで戻ってきたってことは、報告も期待できるんか?」
「残念半分といったところですかね」
斯々然々と調査報告と、街道のタイラントベアを倒したことを告げると、カミッラは驚きと感心の混じり合った表情を私たちに向ける。
「そこまでの活躍は期待してなかったんだけど、二人に任せて良かったわ。そこらの木っ端冒険者だったら、餌を与えてただけだったし」
「私たちも運が良かっただけですよ」
「はは、謙虚なこって。詳しい話も聞きたいところだけど、これから冒険者協会に行くんじゃ邪魔はできんな」
「すみません。私たちの武勇伝は後日にも語りに来ますよ」
「おう。それじゃ報酬だけど、あのハルバードは無料でいいよ。頑張ってくれたみたいだし」
「いいんですか?核は発見していませんが…」
「いいよいいよ。これからの活躍に期待した投資ってことで。武器の手入れやら、武器系のマジックアイテムの買取と販売なんかで、デマルテル鍛冶店を贔屓にしてくれればそれで十分」
「商魂たくましいことで」
「はははっ、うちはデマルテル鍛冶店の会計番だからな」
カラカラと笑うカミッラは、店の扉を開いて私たちを案内してくれる。
最初は武器を手に入れるだけの予定だったのに、紆余曲折あって一〇日以上もかかってしまった。
…なんともまあ感慨深いことか。
私がハルバードに手を触れると、不思議と前回持った時よりも軽く感じる。…いや明確に軽い、木の枝を握っているような感覚だ。
「これ、前より軽くなっているんですけど」
「んー?レンゲは魔力がめちゃくちゃ少ないんだっけ?」
「はい」
「魔力って少なければ少ないほど、満タンになりやすいはずだから、そのハルバードの重量差は出にくいと思うんだけど」
「じゃあ龍気でしょうか?」
「どうじゃろう?ちと触れるぞ」
そういってアキラは私の背中に手を添えて、小さく唸る。
「龍気は備わっておるぞ?…いや待て、なんであんなに龍術を使って龍気があるんじゃ?」
「リュウキって?」
「アキラ様と私は異国の出身なので、魔力とは少し違う力を使っているんですよ。それでその龍気の一部を分け与えてもらってる状態でして」
「へぇ~」
アキラはなにやらブツブツと呟きながら考え事をしている。
そして、一旦考えがまとまったのか私に視線を向けると、頬に口付けをして精気をほんの少し吸っていく。
「アキラ様!人前で何をしてるんですか!」
「まあ待て…人の気に濁りはない、いやむしろ純度が上がっとるのか?あのほんの僅かな混じりっ気が魔力だとするなら…うむ!」
「何か分かりましたか?」
「レンゲ、お主は龍術を無理繰り使ったせいで、龍気を生み出せるようになってしまったんじゃ!かっかっか!」
「へぇー」
「そしてな!魔力を生み出せなくなっているみたいじゃぞ!」
「え?」
「魔力を生み出す源が壊れて、龍気を生み出すものと変質しとる。かっかっか、儂と同族じゃな」
喜んでいいのか分からないけど、ハルバードが更に軽くなったと喜ぼう。
「レンゲ、あんた災難だね」
「災難、ですか?」
「魔力が常に空っぽなんだろう?生活の魔導具も使えないじゃないか。生活の多くを魔導具に頼ってるのが、ドラータ共和国の基本だ。魔導具文明とかいうらしいぞ」
「レンゲ、お主は一人で湯浴みもできなくなったんじゃな。くくくっ、儂が可愛がってやるからの」
前言撤回!私の人生はめちゃくちゃじゃないか!
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「いやぁ、話は聞いていましたが災難でしたね…」
「もうなるようにしかなりませんよ…」
職員は私のことを気遣ってくれているようだ。
この人も別方面での苦労人だし、なにか感じるものがあるんだろう。
そうこうしていると、冒険者協会に辿り着く。
夕刻は報告に駆け込む冒険者が多く、いつも混んでいる。
私は、ハルバードに目を向ける。斧や槍、突起の部分に革製の鞘が被せられているものの、人の多い場所では邪魔になるだろう。
「アキラ様、ハルバードって銀蔵に蔵えます?」
「構わんぞ。………ぬ?こやつ…うぐぐぐ!なんじゃこれ!」
「駄目ですか?」
「癖の強い武器じゃと思っとったが、儂の魔力に反応して重くなるせいか、銀蔵が大きさを誤認して入らん!なんなんじゃこいつは!」
「それじゃあ、大人しく私が持っておきますね」
「すまんのう」
「いいですよ。他の人にぶつからないようにしたかっただけなので」
私たちが冒険者協会に入り、受付に向かって歩いていくと、いつぞやの元A級の老職員がおり、彼以外の職員は忙しそうにしている。
私は顔をしかめたくなった。老人への忌避感は未だに抜けないから。
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